回路を設計する人でも適切なオペアンプを選択できている人はあまり多くないように見えることがあります。回路を理解してディスクリートアンプを設計する人は絶対にしないような選択をする人も散見します。どのような性能に仕上げたいかで選択する部品は変わりますが、基本的な選び方は同じだと思います。
・電源電圧
電源電圧がICの上限を超えていると壊れますので、絶対に超えないようにします。
また電源電圧が足りない状態でオペアンプを動かすと、音が出たとしても歪率が増加したり不安定な動作になることがあります。
これはLF353の等価回路です。(LF353データシートより引用)
ベースは比較的簡単な構造のオペアンプですがこれでも定電流源や定電圧源がいくつも入っています。これだけ複雑だと電源電圧が足りないと正常に動かない部位が出てくるのは想像できると思います。
これはAD847の等価回路です。(AD847データシートより引用)
これだとフォールデッドカスコードなので二段目(折り返し段)のベース電位が極めて重要になります。電圧だけでなく電源の雑音も気にしたくなりますね。
こういった理由からデータシートの値より低い電源電圧で使用することはおすすめしませんが、売り物の場合は全数測定してから出荷してあれば問題ないような気はします。個人で使うときは自己責任です。
・入力範囲・出力範囲
オペアンプには入力できる範囲と出力できる範囲があります。出力範囲は出力したい最大電圧を満たせるような品種を選びます。入力範囲はゲインと出力したい最大電圧を考慮して必要な範囲に収まっている品種を選びます。OPA627のように入力部がカスコード・ブートストラップされていると一般的に入力範囲は狭くなります。
出力範囲は足りなければ音が割れるので気づきますが、入力範囲を無視している設計をよく見かけます。これも電源電圧と同じく特性が悪化する場合があります。ただしこの値はメーカーごとに余裕の持たせ方が違うようで、著しく逸脱した値で測定しても特性がほとんど悪化しないものもありました。
なおZweiFlugelと同じオペアンプを使用しても定数によっては同じ出力は得られません。構成次第では大きめのオフセット電圧が生じることもあるでしょう。こういう部分や歪率を犠牲にすればホワイトノイズをもっと減らせるのですが、なんとか犠牲にせずにすべてクリアしたいものです。
・GB積
必要な帯域幅が得られる品種を選びます。GB積が大きなオペアンプをいまいちな設計で使用すると発振します。設計者は先に部品を選んでそれに合うように設計しているでしょうから、どうやっても止まらないような発振に見舞われることは多くないと思います。今のオペアンプはよくできていますしね。
・入力バイアス電流や入力オフセット電流
見落とされがちですが入力オフセット電圧は入力インピーダンスの高いアンプでは無視できません。バイアス抵抗に電流が流れオフセット電圧が生じます。またバイアス電流が大きな品種は電流雑音も大きい傾向がありますので注意が必要です。
・それ以外も重要なのでデータシートは全部読む必要があります
データシートから算出した理論値と実測値を比較しないと正常に動作しているか異常かの判断も難しいように思います。測定結果が何ひとつないような機器や参考値を問い合わせてもお答えいただけない機器は避けたほうが良いと思います。
オペアンプを交換して「音が出ました!」というのは非常に危険だと思います。それが動くように設計されているならいいのですが、そうでないならばその個体でのみ得られる結果である可能性は払拭できません。「動くように設計したので確認しました」と「動きました」では大きく意味が異なります。
ただし個人的に自己責任で行うならば、発振していても音が気に入ればそれで良いのかもしれません。しかしオペアンプやイヤホンと違い耳は売っていませんからご自愛ください。