入り口から彼の能面のような顔が入ってきて、伸介の
前で立ち止まった。
「やあ、どうもどうも」
「いや、どうも」
「お待たせしまして」
「いやいや」
いつも通りの挨拶を交わしながら、交差点の方に行っ
た。自分たちもこのサラダボールの中にかき混ぜられ
るように入っていった。
しばらく人に揉まれながら交差点から高いビルの蔭
に回り、喫茶店に入っていった。喫茶店に入っても相
変わらず健太がしゃべ喋りっぱなしだった。
「ところで、渡辺さん、同窓会はどうしても出席でき
ないでしょうか」
「ええ、それはもうお断りしたはずですが」
「そこをなんとか」
「そう言われてもねえ…」
「実は先生から、ぜひ渡辺君も来て欲しいとことづ
かっているんですが」
「先生から?あの担任の古谷先生?」
「そうなんですよ。昨年癌の手術をされたんだけど、
手術は上手くいったんだけど、すっかり弱気になられ
て」
「それでみんなの顔を見せて、元気になってもらおう
と考えたわけです」
「そうですか、癌の手術ねえ…」
「だから、ぜひ出席してくださいよ」
「でもね、それとこれは別の問題だし」
「そうじゃないんですよ。先生直々に君の出席依頼
があったんでね」
(おや、いつの間に「君」と呼ぶようjになったんだろ
うか…)
伸介があまり乗り気でないので、健太も少しいらつ
き始めていた。これは面白いこととになってきた。
昔のようにすぐ頭に血が上って飛びかからない代わ
りに、じっくり相手を観察しながら焦らすにもいい作戦
だと思った。
健太は身長180センチぐらいあり、肩幅が広くてがっ
ちりした体格である。髪はオールバックにし、ポマード
頭ががテカテカと光っている。
色白だが、太い眉の間から鷲鼻が中央にデーんと
構え、落窪んだ眼から鋭い眼光を放っている。唇は太
目で喋るたびに上下によく動く。
並んで歩くとちょっとヤーさん風で、一種異様な雰囲
気があるらしく、すれ違う人は一様に道を譲ってくれる。
伸介も175センチ以上あるので、二人が歩く姿は威圧
感があるのかも知れない。
喫茶店で、健太が伸介にこのように面と向かって話
していると、確かに他人が近寄りがたいのであろう。
「本当、お願いしますよ」
「そうおっしゃってもねえ」
「これだけ頼んでいるのにダメですか」
「すみません」
彼の眉間の皴が一層深くなり、苦渋の気持ちが表情
に浮かび上がってきた。彼は一考を案じるように目を閉
じてしばらく考えた。
→「第9章 深夜の雪遊び6」につづく
