③ ダラツムマブ(ダラキューロ)
これが今年のセミナーのメインテーマであり、今後のALアミロイドーシス治療の第1選択肢として推奨されている治療です。
ダラツムマブは、多発性骨髄腫の治療薬として、一足先に承認されましたが、点滴薬でした。それが、ALアミロイドーシスにおけるダラツムマブの有効性を調べるために実施された第3相治験では、皮下注射の形で行われ、高い有効性が示され、昨年秋に承認に至りました。
その後、ダラツムマブ皮下注射剤は「ダラキューロ」と命名され、新規に診断された患者さんたちの第1選択肢として投与が始まっています。
セミナー動画でも第2021年7月にイングランドジャーナルに掲載された治験結果とともに説明されています。
ダラツムマブの第3相治験では、「CyberD」 だけで治療するグループと「CyborDにダラツムマブを加えて治療をするグループ」の比較をするということで、ダラツムマブの有効性をみるというものでしたが、
その結果、ダラツムマブを加えたグループに早期からフリーライトチェーンの減少が認められたことから、この治療が効果的であることが示されました。
それを臓器効果でみると、
・心臓についている患者さんでは、ステージが悪くなるほどダラキューロを加えた方が効果が高かったという結果になり、
・腎臓の方では、ステージ1と2(比較的軽度の障害)では効果が認められたのに、
ステージ3(腎機能低下の低下がある程度進んでしまっている)になってしまうと逆に効果は弱くなってしまうという結果になりました。
また、それを遺伝子異常別にみると
・t(11;14)という遺伝子異常のある患者さんには非常に良い
ということで期待を満足させる結果が出ています。
ちなみに、t(11;14)以外の遺伝子異常についても、調べてみたどのタイプの異常についても、ダラツムマブを加えた方が、加えなかった場合に比べて良いという結果が出ています。(だからt(11;14)のない人にも使っているのですね)
そして、最後に鈴木先生は、アミロイドーシス研究の第1人者メルリーニ先生の治療指針(治療アルゴニズム)を示されています。(動画の59分あたりです)
🌠メルリーニ先生とは:
イタリアのパヴィア大学の全身性アミロイドーシス研究治験センターの所長で、長い間、アミロイドーシスの研究に生涯を捧げてきたようなスペシャリスト。自らも難病を患いながらも、アミロイドーシスの研究に携わってこられました。
✳️ メルリーニ先生の考えるこれからの治療 ✳️
<移植の適用(移植治療が可能な患者さん)の治療>
新しくALと診断されたら、とりあえず DcyborD (ダラキューロ、シクロフォスファミド、ベルケイド、デキサメタゾン)を4サイクルやりなさい。
それで効果が見られたら(寛解したら)もう移植は考えなくて良いのではないか。
<年齢、臓器の状態で、移植ができない患者さんの治療>
D cyborD, またはBMD(ベルケイドとMD)、またはCyborD、またはMD
(最初のDはダラキューロ、Bはベルケイド、Mはメルファラン、最後のDはデキサメタゾンです。それぞれの臓器の状態や相性、効果の出方などを見ながら使っていくということ。)
<再発した患者さんの治療>
臨床試験中の治療薬、または他のCD38抗体薬(ダラツムマブもCD38抗体薬ですが、そのほかにもCD38抗体薬があります)Ixazomib(プロテアソーム阻害薬)、ベネトクラクス(BCL-2阻害薬で、急性骨髄性白血病や慢性リンパ性白血病ですでに使われている治療薬。特に高齢患者において良いと言われている)、ポマリドマイド(免疫調整剤で多発性骨髄腫でも使われている)、ベンダムスチン(これはヨーロッパで使われているハイブリッドなアルキル化剤です)など、
それぞれ患者に合わせた抗腫瘍作用のある新規薬剤を使っていくのが良いのではないかということです。
🐻 ただし、治療には必ず副作用もつきもの。
一押し治療のD-CyborD(ダラツムマブ + シクロフォスファミド + ベルケイド + デキサメタゾン) ではあるが、副作用もあるので、注意が必要。
ダラツムマブの副作用で一番多いのが、感染症。好中球減少。特に肺炎に注意。
また、ベルケイドには若干、心毒性(心臓への負担)があるので、いきなりダラキューロとベルケイドとを一緒に使うのではなく、最初はダラキューロだけ、単独で始め、徐々にベルケイドを加える方向で行った方が良い場合があるかもしれない・・ということも鈴木先生は言われていましたね。
(やはりどの薬も実際に使い始めてみると、いろいろな副作用が出るようです)
・・ということで、もう「移植できる人は、移植」という時代が幕を下ろそうとしています。以前、ベルケイドの出現でベルケイドが移植にとって変わるかに見えた時期がありましたが、やはり長期的にみると、ベルケイドは即効性があり、骨髄腫には良くても、臓器障害のあるアミロイドーシス患者には副作用が強く出て、長期的には良いとも言えないところもわかってきて、やはり自家移植ができる人は移植というのは推奨されてきました。
でも、もうこれからは必ずしも移植は必要ではないという時代に急に変わってしまって、本当にびっくりです。
そして、治療の進歩とともに、治療スタイルも入院から外来へとシフトしています。本当に時代が変わったのだなと思います。
ただし、どんなに良い治療が開発され、それを使うことができる様になったとしても、診断が遅くなり臓器が弱ってしまってからでは、治療が難しくなりますので、やはり早期発見、早期の「適切な治療」が何よりも大切。
ということで、今年も動画の第一声が、「この病気は、早期診断、早期治療が何よりも大切」から始まっています。
何しろかなり病気が進むまでは、一般の検査では全く健康そのものという場合もあったり、他の病気と間違えられて診断されている場合も多いですしね。たまたま手術をして見つかったり、尿タンパクが早いうちから出て、わかったりという方は本当にラッキーな方だと思います。
昔に比べたら、診断の治療もものすごい進歩なのですが、これから、さらにこの病気の研究が進み、患者さん一人一人にあった最善の治療、処置がなされるように願ってやみません。