弁理士試験の予備校合格体験記を書き終えましたが、予備試験・司法試験との比較という視点から、弁理士試験対策を論じてみます。

 

 弁理士試験を最後まで受け終えて、法律系資格試験という点で共通する予備試験・司法試験との比較をしてみようかと。両方受かった上でブログにおいて比較評論をする酔狂な人も稀でしょう。

 

 

1 短答は明らかに弁理士の方が難しい

 

 予備試験の短答7科目に対し、弁理士試験は特許法・実用新案法、意匠法、商標法、条約、著作権法、不正競争防止法で、分野の数的にそれほど見劣りしません。

 知識の分量で比較すると、それなりの差がありました。私が受験対策に作った、過去問や予備校の短答用答練・模試で一度でも誤答した肢を正解肢に修正して体系順に並べたメモで比較すると、予備・司法で513ページなのに対し、弁理士で220ページでした。

 単純な知識の分量だけなら、予備・司法の方が大変そうなのですが、予備・司法は適用場面や体系さえ意識してしまえば、一般教養込みでも合格点に届くだけならそれほど難しくなく、また、過去問を見る限り、受験生のミスを誘発する意図的なひっかけは稀です。謂わば、勉強すればしただけ点が伸びます。他方、弁理士の方は、一見して簡単に正誤判断ができそうな肢でありながあら、主語を入れ替えたり、条文に規定された複数個の文言を列挙しつつ意図的に1つだけ抜けていたり、正しい又は誤りの肢の個数を答えさせる問題が半分近く出題されたりと、結構シビアです。作問者のクセを見抜いて、トラップに引っかからないように気を付ける訓練が必要です。

 極端に言えば、予備短答は、ちょっと油断しても簡単に合格できるのに対し、逆に、弁理士短答は、油断したら簡単に落ちます

 

 短答難易度を比較するに、予備・司法を10とすれば、弁理士20くらいでしょう。

 

 

2 論文は、当然、予備・司法の方が難しい

 

 法的三段論法の流れの良さ、覚えるべき趣旨・規範の分量、当てはめで着目すべき要素、使いこなすべき条文の数(それは同時に出題パターンの数でもある)について、予備・司法は弁理士のそれを圧倒します。

 

 確かに、予備・司法も弁理士も、短答知識を正確に答案上に表現できれば合格できるのですが、予備・司法の場合、論文式答案を書くためのスキルや知識をマスターするための勉強時間が圧倒的に多いのです。それだけに、予備論文合格の時点で、司法試験合格のための能力の殆どをマスターしたといえます。逆に、弁理士は、短答知識が正確でさえあれば、論文に落ちることはないでしょう。

 

 ちなみに、弁理士で記憶すべき論証の分量は、司法の労働法のそれよりも圧倒的に少ないです。覚えるべきフレーズや流れでいえば、ざっくり30分の1くらいでしょうか。労働法に比べて少ない司法試験知的財産法の論証もそれなりにあるのですが、弁理士論文は更に少ないのです。要は、凄く楽です。

 予備校で弁理士論文対策に色々講座を受けようかと迷いましたが、LEC渋谷の支店長によれば、司法試験合格者なら全く不要、とのことでした。合格できた結果から振り返っても、不要でした。確かに、弁理士論文は、司法試験の選択科目を予備合格者が4~5ヶ月で完成させることを思えば、大して難しくないのでしょう。

 

 私自身、予備・司法は直前期に空き時間に必死で論証の確認をしましたが、弁理士の場合、試験日1週間前になって怠け始め、木曜日に再び勉強をし始めても合格したので、短答知識が普通にあり、落ち着いて論文答案を書けるのなら、合格はさほど難しくありません。

 

 敢えて弁理士の方が難しいところを挙げれば、青本という、どこまで読み込むべきか悩ましく説明が不十分な逐条解説書を読み込まないといけないというプレッシャーがあることくらいですが、合否を分けるのは青本知識ではなく、短答レベルの知識を条文に沿って正確に処理することなので、そこまで気にすることはありません。

 

 論文難易度を比較するに、司法を100とする、予備は75、弁理士は25くらいでしょう(体感的には弁理士は15くらいですが、客観的な論文答案作成能力を加味すればこれくらかと)。なお、司法の100と予備の75の差は、司法試験では答案構成と論述のためのスピードを上げないといけないしんどさ、法律7科目の実力を維持乃至向上させつつ選択科目対策を並行して完成させるしんどさが受験生にのしかかるからです。

 

 

3 口述は、弁理士の方が気楽

 

 予備試験は、口述に落ちれば、論文合格が水の泡です。

 他方、弁理士試験は、口述に落ちても翌年と翌々年の論文が免除です。プレシャーは予備の方が凄まじいものがあります。

 

 出題範囲の広さは、予備の方が広く、特に口述で執行・保全からほぼ確実に出題されるのでこれを放置できず、勉強時間がいくらあっても足りません。10月スタートのドラマを見るのを我慢して勉強しました。

 他方、弁理士では、口述対策の予備校教材を見るに、一定程度絞られています。条文数自体が予備より少ないですし、繰り返し予想問題を解けば対策はほぼ万全となります。10月スタートのドラマを見る余裕がありました。というか、論文合格発表後に530ページほどのランダル=レイ・著、島倉原・鈴木正徳・訳「MMT 現代貨幣理論入門」を読み終えるくらいの余裕すらありました。流石に、口述直前2週間前からは必死になりましたが。

 

 あと、弁理士口述の場合、喫茶店に通って予備校の口述対策教材を読みながらパフェ食べて(渋谷の東シネビル2階にある)、映画見て、と適当に息抜きしていても大丈夫でした。予備口述でこれをやる勇気はありません、もとい無茶はできません。

 

 敢えて弁理士の方が難しいところを挙げると、弁理士は条文通りに答えないといけない出題があるということです。確かに、最近は条文暗唱の出題が殆どなく、手元の試験用法文を見ながら答えることもできるものの、条文の文言ベースで諳んじるように解答できれば主査がスムーズに次の問題に進んでくれるので、丸暗記で対応できる出題を手堅く正解できるよう、条文暗唱による勉強は今後も有効でしょう。

 また、主査の方針にもよるのでしょうが、予備試験の方が正解への誘導をしてくれる印象です。

 

 短答や論文と同様に難易度を比較するに、予備は75~80、弁理士は30くらいでしょうか。ただ、それでも、予備口述直前に体調の異変がなかったのに対し、弁理士では試験当日の直前5日間は食欲がなくなり当日は下痢が頻発し、どうにもしんどかったです。難易度と心労は一致しないということでしょう。

 

 

4 司法試験合格者が弁理士試験を受けると

 

 以上のように、予備・司法の方が弁理士よりも難しいように論じておきながらですね…。

 

 私は司法試験合格者資格で論文選択科目民法を免除されたのですが、同様の免除資格の受験者に着目すると、この5年間で33人中5人しか短答に受からない一方で、6人中2人が論文に受かりました。流石に、口述は2人中2人合格でした。

 なお、平成30年と令和元年のみ短答合格者がいて、それ以外の3年間は短答全落ちです。平成30年も令和元年も、司法試験合格者は3人受けて1人が論文に合格しています。

 

 司法試験合格者なら論文で落ちないだろうと思いきや、これは意外な結果です。本業が忙しいからなのか、弁護士は弁理士業務をし得るので試験に受かる必要がないから本気度が低いからなのか。おそらく後者でしょう。弁護士が知財絡みで訴訟代理人をするための勉強として受けた、ってことでしょう。

 

 個人的には、短答に合格すれば、司法試験合格者なら弁理士論文に落ちることはないと思いますが。

 

 いずれにせよ、弁理士試験に比べたら、予備・司法の方がよっぽど労力が要りますね。