「これって、単なる連鎖反応じゃないね」
「そうだな。偶然や自然発生的なものではなく、誰かの意図を感じる」
「JJJ。京極明良、だろうな」
「ああ、たぶん。だが、どれだけ犯人を追いつめても、京極の関与は証明できないんだ。会員になって、禊神社に行っても、京極本人に会ったという者は皆無なんだ」
「総監。洗脳するのに面と向かわなきゃならないって思い込んでない?」
「ん? ・・・違うのか?」
「違うね。そうだ、実験というか証明して見せようか」
ということで、僕は岸田を梅ヶ丘のマンションに連れて行った。
「じゃあ、総監はここにいて。どんな格好しててもいいけど、何か感じたらそのノートに書き留めてね」
「わかった。何が始まるのか知らんが、私もこれでも忙しいんだ。2,3時間に収めてくれよ」
「うん。30分あれば十分だと思うけど」
僕は総監を12階の道場に一人残した。それからペントハウスに行き、待ち受けていた莉実の部屋に入る。
「やあ、お待たせ。準備いいかい?」
「ええ。でもこれ、なんなの? 相手は小学生?」
「僕だって小学生だぜ。世の中の組織のトップだって、小学生より程度の低いのはごまんといるさ」
僕は来る途中で莉実に電話して、三角とか丸とかの単純な図形や、ESPカードで使う記号なんかをあらかじめスケッチブックに描いてもらっておいた。
「最初のページから順番でいいよ。開けて出てきた図形や記号を下の道場にいるおっさんの頭の中に送り込むんだ。イメージしづらいだろうから、僕が最初の触手を出す。莉実はいつも僕の中に入ってくる要領で、今日は思いきり集中してやってみて」
「うん、わかった。で、下にいるのって、誰なの? ずいぶん不純な氣を感じるんだけど。道場が穢れるような相手じゃないわよね」
莉実はすでにそこまで能力を伸ばしていた。
「それは大丈夫さ。僕の叔父の静剛流の弟子だった人だから。岸田警視総監っていうんだ」
「警視総監・・・わかったわ」
僕と莉実は床に向き合って座った。お互いの両手を握り合う。目をつぶる。僕の膝というか股間には、スケッチブックに描かれたちょっと揺れた「川」の字のページが開いてある。
「さあ、行くよ」
「うん」
僕は思念を道場の岸田のエーテル体に送り込み、捕まえる。同時に莉実のアストラル体が岸田のエーテル体を包み込む。僕の頭の中から「川」の字が送り込まれる。それを後押しするように莉実の大きな思念が「川」と輝く。
次は三角。その次は☆マークだった。合計5個、僕と莉実は岸田に送り込んだ。
僕は莉実にキスして
「お疲れさま。何かしてほしいことがあったら呼ぶから、ここでのんびりしていて」
そう言って部屋を出た。
「どうだった?」
「うーむ。なんかおかしな具合だな。次々に形や記号が頭に浮かぶんだ」
「そうなるようにしたからだよ。ノート、ちゃんと書いた?」
「ああ。これ」
岸田は僕にノートを差し出した。
けち臭いというか、気の小さい岸田らしく、1ページしか使ってなかった。それでも結果は十分だ。
「上から書いていったんだよね? じゃあ、答え合わせだよ」
僕はスケッチブックを開いていった。スケッチブックの1ページ目「川」。2ページ目「△」。3ページ目「☆」。4ページ目・・・
5枚の絵はすべて岸田が書いたものとぴったり合っていた。
「・・・これ、君が私の頭に働きかけて書かせた。そう言いたいのか?」
「そうだよ。それ以外の説明、できる?」
「何かの手品とか」
「馬鹿だな。何言ってんだよ。そんな暇つぶしに総監を連れてきてどうするのさ。僕だって暇じゃないんだぜ」
「あ、いや。申し訳ない。そうだな、もう事実だと認めるよ。洗脳はこうして離れても可能なんだな」
「これは洗脳というより、『感応』というべきだろうけどね。洗脳はこれをもっと強力にやるんだ。対象者を入れておく部屋の条件も整えなくちゃね。そして暗示をかける。下手すると何か睡眠導入剤みたいなものを飲まされていることだったありうる。後催眠のもっと高度なやり方だよ」
岸田総監はショックを受けたようだった。
「それじゃ、暗示をかけるだけで人を殺人に駆り立てることができるってことなのか?」
「そうだね。さすがに殺人となると心理的抵抗が強いだろうけど、できなくはないと思うよ。でも、これまでの事件、相手の、たとえば中国人の行動に切れて、って感じじゃん。だから計画的な行動じゃなくて、何がしかのきっかけで、突発的に暗示が行動を支配したってことじゃないのかな?」
「うーむ。まいったな、これは・・・」
「証拠が残らない、検挙できない、ってこと?」
「ああ。こんな心霊現象みたいなものでは逮捕状が出ないし、裁判にはできないよ」
「じゃあ、ほおっておけば?」
「そ、そうはいかん。中国や韓国の大使や外交レベルでガンガン言ってきている」
「ほおっておいてさ、『自国民の教育レベルをもっと上げなさい』って大使連中に言ってやればいいじゃない。僕でさえ、このところの中国人観光客の傍若無人ぶりは目に余るくらいだったよ」
「そういう風潮というか、『気分』が広がっていることが問題なんだよ。それこそ京極の思うつぼだろう」
「そうかな。僕はこういう古武術道場の主だから、神道を信奉するっていう立場だ。日本の八百万の神々は寛容で心が広いから、異教徒も受け入れるけど、日本人のメンタリティが温和で協調性が高いとしても、許せる限度ってものがあるよ。神聖な日本の国土を踏んでいるからには、それなりの敬意と謙虚さを持ってもらわなくちゃね。『郷に入れば郷に従え』さ」
「君は武術家だったな。神道か・・・ちょっと考えさせてくれ。今日の出来事を反芻してみる」
岸田総監はすごすごと帰って行った。
(その⑤につづく)