神威(カムイ)の剣 タイム・コントローラーDAI -6ページ目

神威(カムイ)の剣 タイム・コントローラーDAI

小学6年生の美少年・三島大。古武術とタイム・コントロール能力を駆使して、さまざまな敵を殲滅していく超絶アクション小説。

 

「これって、単なる連鎖反応じゃないね」

「そうだな。偶然や自然発生的なものではなく、誰かの意図を感じる」

「JJJ。京極明良、だろうな」

「ああ、たぶん。だが、どれだけ犯人を追いつめても、京極の関与は証明できないんだ。会員になって、禊神社に行っても、京極本人に会ったという者は皆無なんだ」

「総監。洗脳するのに面と向かわなきゃならないって思い込んでない?」

「ん? ・・・違うのか?」

「違うね。そうだ、実験というか証明して見せようか」

 

 ということで、僕は岸田を梅ヶ丘のマンションに連れて行った。

 

「じゃあ、総監はここにいて。どんな格好しててもいいけど、何か感じたらそのノートに書き留めてね」

「わかった。何が始まるのか知らんが、私もこれでも忙しいんだ。2,3時間に収めてくれよ」

「うん。30分あれば十分だと思うけど」

 

 僕は総監を12階の道場に一人残した。それからペントハウスに行き、待ち受けていた莉実の部屋に入る。

 

「やあ、お待たせ。準備いいかい?」

「ええ。でもこれ、なんなの? 相手は小学生?」

「僕だって小学生だぜ。世の中の組織のトップだって、小学生より程度の低いのはごまんといるさ」

 

 僕は来る途中で莉実に電話して、三角とか丸とかの単純な図形や、ESP(ちょうのうりょく)カードで使う記号なんかをあらかじめスケッチブックに描いてもらっておいた。

 

「最初のページから順番でいいよ。開けて出てきた図形や記号を下の道場にいるおっさんの頭の中に送り込むんだ。イメージしづらいだろうから、僕が最初の触手を出す。莉実はいつも僕の中に入ってくる要領で、今日は思いきり集中してやってみて」

「うん、わかった。で、下にいるのって、誰なの? ずいぶん不純な氣を感じるんだけど。道場が穢(けが)れるような相手じゃないわよね」

 

莉実はすでにそこまで能力を伸ばしていた。

 

「それは大丈夫さ。僕の叔父の静剛流の弟子だった人だから。岸田警視総監っていうんだ」

「警視総監・・・わかったわ」

 

 僕と莉実は床に向き合って座った。お互いの両手を握り合う。目をつぶる。僕の膝というか股間には、スケッチブックに描かれたちょっと揺れた「川」の字のページが開いてある。

 

「さあ、行くよ」

「うん」

 

 僕は思念を道場の岸田のエーテル体に送り込み、捕まえる。同時に莉実のアストラル体が岸田のエーテル体を包み込む。僕の頭の中から「川」の字が送り込まれる。それを後押しするように莉実の大きな思念が「川」と輝く。

 

 次は三角。その次は☆マークだった。合計5個、僕と莉実は岸田に送り込んだ。

 

 僕は莉実にキスして

 

「お疲れさま。何かしてほしいことがあったら呼ぶから、ここでのんびりしていて」

 

 そう言って部屋を出た。

 

「どうだった?」

「うーむ。なんかおかしな具合だな。次々に形や記号が頭に浮かぶんだ」

「そうなるようにしたからだよ。ノート、ちゃんと書いた?」

「ああ。これ」

 

 岸田は僕にノートを差し出した。

 けち臭いというか、気の小さい岸田らしく、1ページしか使ってなかった。それでも結果は十分だ。

 

「上から書いていったんだよね? じゃあ、答え合わせだよ」

 

僕はスケッチブックを開いていった。スケッチブックの1ページ目「川」。2ページ目「△」。3ページ目「☆」。4ページ目・・・

 

5枚の絵はすべて岸田が書いたものとぴったり合っていた。

 

「・・・これ、君が私の頭に働きかけて書かせた。そう言いたいのか?」

「そうだよ。それ以外の説明、できる?」

「何かの手品とか」

「馬鹿だな。何言ってんだよ。そんな暇つぶしに総監を連れてきてどうするのさ。僕だって暇じゃないんだぜ」

「あ、いや。申し訳ない。そうだな、もう事実だと認めるよ。洗脳はこうして離れても可能なんだな」

「これは洗脳というより、『感応』というべきだろうけどね。洗脳はこれをもっと強力にやるんだ。対象者を入れておく部屋の条件も整えなくちゃね。そして暗示をかける。下手すると何か睡眠導入剤みたいなものを飲まされていることだったありうる。後催眠のもっと高度なやり方だよ」

 

 岸田総監はショックを受けたようだった。

 

「それじゃ、暗示をかけるだけで人を殺人に駆り立てることができるってことなのか?」

「そうだね。さすがに殺人となると心理的抵抗が強いだろうけど、できなくはないと思うよ。でも、これまでの事件、相手の、たとえば中国人の行動に切れて、って感じじゃん。だから計画的な行動じゃなくて、何がしかのきっかけで、突発的に暗示が行動を支配したってことじゃないのかな?」

「うーむ。まいったな、これは・・・」

「証拠が残らない、検挙できない、ってこと?」

「ああ。こんな心霊現象みたいなものでは逮捕状が出ないし、裁判にはできないよ」

 

 

「じゃあ、ほおっておけば?」

「そ、そうはいかん。中国や韓国の大使や外交レベルでガンガン言ってきている」

「ほおっておいてさ、『自国民の教育レベルをもっと上げなさい』って大使連中に言ってやればいいじゃない。僕でさえ、このところの中国人観光客の傍若無人ぶりは目に余るくらいだったよ」

「そういう風潮というか、『気分』が広がっていることが問題なんだよ。それこそ京極の思うつぼだろう」

 

 

「そうかな。僕はこういう古武術道場の主だから、神道を信奉するっていう立場だ。日本の八百万の神々は寛容で心が広いから、異教徒も受け入れるけど、日本人のメンタリティが温和で協調性が高いとしても、許せる限度ってものがあるよ。神聖な日本の国土を踏んでいるからには、それなりの敬意と謙虚さを持ってもらわなくちゃね。『郷に入れば郷に従え』さ」

「君は武術家だったな。神道か・・・ちょっと考えさせてくれ。今日の出来事を反芻してみる」

 

 岸田総監はすごすごと帰って行った。

 

 

 

 

(その⑤につづく)

 京極明良、あるいはJJJという団体がマインドコントロールに長けているという情報は、それ以前からも公安や岸田警視総監のもとに入ってきてはいたらしい。でも、僕は日本の警察が「マインドコントロール」という言葉について正確な、あるいは詳しい情報を掴み、理解した上で使っているようには思えなかった。

 

「洗脳」という言葉がある。マインドコントロールよりさらに強い意味で使われることが多いようだけど、この二つは心理学用語、あるいは精神医学界では同列に扱われている。何らかの介助(薬や催眠術、生存環境を極限にまで追い込むなど)のもとに恣意的に自分の意思に従うような暗示をかけ、被験者の行動を左右、支配する。

 

 僕が理解している「洗脳」は、莉実との思念対決の延長線上にあるものだ。

 

 相手のエーテル体にこちらのアストラル体を侵入させる。アストラル体はエーテル体より精妙で、かつエネルギーは遥かに大きい。アストラル体を相手のエーテル体に伸ばし、覆い尽くすということで、相手の思考そのものを縛ることが可能になる。これが僕と莉実が「遊び半分」でやってる思念対決の実体だった。

 

だから、いま次々と発生している「事件」の背後に、京極がいるという確信を持ったんだ。

 

 その「事件」というのは、こういうものだった。

 

・中国人コックが店の厨房に乱入してきた男性客3人に襲われ、高熱の料理用油を頭からかけられて重度の火傷を負った。襲った男たちの供実調書によれば「コックが痰を鍋の中に吐き入れたから」

 

・中国人旅行者夫婦が路上で少年4,5人に襲われた。夫婦は財布を奪われ、顔を何度か金属バットで殴られ、重傷。犯人は逃走中。目撃者による調書「中国人夫婦が路上で大声で言い争っているところを襲われた」

 

・電車の中で、中国人女性旅行者の土産物を入れていたスーツケースがロックが外れて走り出し、男性の脛(すね)に当たった。男性はその女性を素手で殴打し、女性は頚椎(けいつい)損傷の重傷

 

・日本人経営のラーメン店。かねてからの常連客が軽乗用車で店に突っ込み、客の中国人6人が重軽傷。「このところ毎日中国人で満席。常連の俺をないがしろにしたので」

 

・秋葉原に買い物ツアーに来た中国人を乗せた観光バスに投石

 

・横浜・港の見える丘公園内で飲食中の中国人グループ12名が、木刀を持った20歳代の集団に襲われ、一人が脳挫傷の重体。残り11名も重軽傷

 

 これら事件で検挙された容疑者に共通するものがあることは、マスコミにも伏せられている。彼らはいずれもJJJというロゴの入ったTシャツを着ていたか、帽子や衣服にJJJのロゴのバッジをつけていたのである。

 

襲撃対象が中国人に限られていたので、岸田以下、警視庁の担当者は「対中国人襲撃事件」としていたのだけど、3週目に入ると、今度は韓国人旅行者、北朝鮮を含む「半島人」にも拡大し始めた。

 

新大久保の路上で、韓流スター関連グッズを販売しているショップから出てきた日本人中年女性が、10代後半から22歳の大学生のグループに襲われて、持ち物を奪われ、着衣をすべてはぎ取られて路上に放り出されるという事件を皮切りに、韓国人の観光客を乗せた観光バスへの投石、ロッテのガム生産工場の壁全体に旭日旗、JJJのロゴ、朝鮮語(ハングル文字)で脅迫文などが大量に落書きされる。


 韓国人経営の焼き肉店の放火ボヤ騒ぎ。冷麺の終了時期が早すぎるという客が、店員の女性の足を蹴って逮捕。・・・まるで今度は朝鮮人シリーズだった。

 

 それがさらにエスカレートしてきた。

 

JJJのホームページに、次のようなアジテーションが載ったのが引き金だとみなされている。

 

『わが国民の美しい心根(こころね)は、長年培われた礼節、思いやりの心、協調性などにより、世界にも類を見ない良質な世界観を生み出してきた。われわれの常識、モラルは世界中から賞賛を受けるレベルにあるのだ』

 

『・・・満員電車の中で、平然と食べ物を口に入れる者ども。まるでパウダールームにいるかのように化粧ポーチを開け、鏡を見ながら傍若無人にも化粧を始める女ども。こういう輩(やから)は日本人ではない。中国人か朝鮮人である。見つけ次第、成敗すべき連中である』

 

 常識人なら眉をひそめる程度のこういった行為に対し、「日本人ではない。中国人か朝鮮人だ」と決めつけ、制裁せよと叫ぶ。このアジテーションに影響を受けたとみられる暴力事件が、電車内で多発し始めたのだ。

 

襲い掛かる連中はもうJJJのTシャツやバッジを隠してはいなかった。それどころか、自分で勝手に作ったと思われるサインを身に着け始めた。

 

 革ジャンの背中に大きく晴天旭日旗とJJJロゴを刺繍した一団。

 JJJと書き込んだ鉢巻きを額に巻いた「学ラン」高校生集団。

 「JJJ公認」と謳ったネット通販ショップの乱立

 

 これまで、電車内の暴力事件では「被害者」でしかありえないような貧弱な体の、気の弱そうな男たちがこういう風潮、ムードに後押しされたのか、ネットショップで購入したと思われるJJJバッジやワッペンを身に着けたとたんに「加害者」側に立ち始めたのだ。

 

「これじゃ、『日本人の意識革命』って言われてもしょうがないね」

 

 そう、この異常なブームを週刊誌が『目覚め始めた日本人たち』というタイトルで記事にしたことで、この現象は一気に拡大した。

 

 中国人観光客は激減した。

 

 

(その④につづく)


 JJJの総帥はまだ26歳という青年で、宗教団体としても川面(かわづら)凡児(ぼんじ)系列の「禊(みそぎ)神社」という神社を中心に、神道の教義を広める布教活動を行っている。

 ホームページはかなり凝った作りで、デザイン的には超モダン。教義は神道にヨガ、道教(仙術)のエッセンスをまぶしたような、不思議な内容だ。総帥兼教祖の京極(きょうごく)明良(あきら)は霊能者だというふれこみだった。


「Jointment Japanese  J
ustice って『日本の正義のための団結』という意味らしいんだけど、英語としちゃ無理があるね」

「うん。どうせアメリカのKKK(クークルックスクラン)を真似たんだろうな。あるいは666(あくまのマーク)かな? ところが間違っていようが何であろうが、この安易なネーミングってのが、実は一般大衆にはアピールするんだよ。この団体が、若い層だけじゃなくて中年や高齢者にも支持されつつあるってことが問題なんだ」


「支持するって、具体的には?」

「ここ見て。このJJJのホームページに出てるけど、ここから入って『会員募集・寄付する』ってページに飛ぶんだ。クレジットカードでお金を振り込む。金額は任意。会員になるとバッジとステッカーとTシャツが送られてくる。そのステッカーっていうのがここに見本があって・・・」

 
 岸田は僕のPCを操作して、JJJのそのページを開いた。

 
『会員になるための資格は、①私たちJJJの主張に賛同する方 ②日本人の方(日本国籍を有する外国人はご遠慮下さい)以上の2点だけです』


 という書き込みの下に、数種類のステッカーが並んでいる。


「中国人は立ち入り禁止 中国人在这里请勿入内」
「朝鮮人は立ち入り禁止 
조선인은 출입해 금지」
「野良犬と中国人はこの町から出ていけ 野狗和中国人从
这个城市出去」
「この地区はJJJの監視下にある 
이 지구(地區)는 JJJ의 감시하에 있다」

「この町に立ち入る中国人は、その安全を保障しない 进入在(到)这个城市的中国人,不保障那个安全」



 JJJというロゴの上には晴天旭日マーク。その下にこれら過激な民族差別的、国籍差別的なスローガンが躍っているのだ。

「これはちょっとひどいね」

「ああ。中国や韓国の大使館から、猛烈な抗議が来ているさ」

「でも、まだ具体的な行動は表には出てない、というか、証拠が挙がっていないんだよね?」

「そうなんだ。過激な主張をしているってだけじゃ、手も足も出ない」


「潜入捜査、かな」

「え? 」

「僕、このJJJって団体に潜り込んでみるよ」

「そ、それはちょっと危険すぎないか?」
「なに言ってるのさ。イスラムのテロ組織やヤクザの組事務所にひとりで行ってるんだよ。極右団体、それも日本人の主催する団体なんて、ちょろいものさ」

「うーむ。そう願えると大変助かるが・・・」


 ということで、僕は今度は極右組織に潜入することになった。

 

「この京極明良って人、霊能者なの?」


 莉実がPCのJJJのホームページを覗きながらそう言った。

 

「新興宗教なんかだと、そういう触れ込みの教祖様が多いみたいだけどね」

「ダイちゃんはどう思うの?」

「うーん。ちょっと気になるのは、写真じゃはっきりしないけど、この男の眼なんだ」

「眼?」

「うん。莉実ちゃん、ときどき眼の色、すこし金色してることがあるだろ?」

「ええ。あの銃撃の後は金色だったり白っぽかったり、いろいろ変化してたわ」


 そう絵美が言った。


「僕、同じような人をもう一人知ってるんだよ」
「・・・」

「あのリクソン一族の長女、エミリ・コーク」

「コーク? コーラみたいな名前ね」

「コークって石油精製の革命を起こした人の名前さ。この一族、数百兆円の資産家だぜ。エミリはリクソン兄弟の姉で、コーク家に嫁いだんだ。まあ、政略結婚だろうけどね」

「で、そのひと、霊能者なの?」

「霊能者っていう定義が難しいけど、おそろしい力を持ってるのは確かだな。一度会ったことがあるけど、『あー、この女はヤバい!』って感じたから、さっさと逃げ出したよ」
「へー、ダイちゃんでも逃げ出すくらいなんだ」
「そりゃそうさ。僕にはまだ超アイの能力は目覚めてなかったからね」

「BIGだけ?」

「そうだよ。BIGがなけりゃ、そんな超 VIPと知り合いになれるわけないじゃん」

「あ、そうか・・・」

「で、莉実。最近はどう?」

「どうって言われても・・・お庭で三角倒立しながら丹田呼吸法やってると、私の中の何かが肉体から抜け出ていって、上の方から自分の体を見てるってことは毎回のように起きてるわ」

「それってドッペルゲンガーじゃん!」

「そうじゃないよ、Bilocation(バイロケーション)って言うんだ、そういうの。で、自分じゃなくて他の人はどう見える?」

「ダイちゃん、由里ちゃんはもともと特殊だから除外ね」

 

 莉実はこう言うといきなり真っ赤になった。絵美が不思議そうに莉実を見たけど、僕には莉実が赤くなる理由がわかっていた。絵美には内緒!

 

「以前はダイちゃんたちだけだったんだけど、いまでは見ようと思えば、どんなひとも多重構造に見えるわ。でも、電車のなかや、歩いていても、あれ? って思う人に出会ったりするの」

「たとえばどんな感じ?」

「やたらとあたりにとげとげしいものを放っている人、が多いかな。そういう人はきっとなにか心を病んでて、敵意をむき出しにして歩いているんだと思う。そういう人の精妙体っていうか、オーラは赤黒いのよ」

「精妙体とオーラは違うからね。いまの莉実の言ってたのは、まさにオーラ、思念の波だよ。そうか・・・莉実は相手のオーラが見えるようになったんだな。実は僕もある程度、というか、強いオーラは感じられるんだよ。でも、このジャンルの能力は弱いみたいで、いくら鍛錬しても、あまり進歩しないんだ。莉実は実にいいタイミングでその能力を身に着けたと思うよ」

「いいタイミングって、さっき言ってたJJJ総裁、教祖の京極明良のこと?」
「うん。僕は彼が他人の思考を操れると思ってる」

「思考を操る・・・」

「そう。これはこれまでの肉体派の武装集団とは全く次元の違う相手だと思うんだ」

「写真見ただけでわかるの?」

「ほら、よく見てごらん。京極の左目、金色だろ?」

「あ!」

 双子は同時に声を上げた。


 

写真の具合ではっきりと写っているわけではなかったけど、彼の左目の虹彩は明らかに金色に変色していた。

 

 僕は莉実が同じように眼の変色を表しているとき、相手の思考を読みとっているのをそーっと観察していた。

 

どうやったかって? 莉実が僕のエーテル体、あるいはアストラル体に触手を伸ばしてくる感覚はキャッチできるんだ。で、そういう時は、思い切りエッチな想像、思考に切り替えちゃう。たとえば「莉実、いまお前の体を舐めまわしてるところだよ!」とか、「その口に僕のBIGを咥えて。そうもっとぺろぺろして!」とか、僕のBIGになった時の股間のアップとかを鮮明にイメージするんだ。そうすると、莉実が伸ばしてきた思念の触手はあっという間に引っ込む。まるで熱い鍋に触れてしまったようにね。



 これが何回も繰り返されているうちに、莉実は僕がわざとエロい想像で対抗しているのが分かって来たらしい。ここ数週間というもの、莉実も相当きわどいエロイメージを僕に送り込むようになってきた。



 僕と莉実は数メートル離れて、あるいはそれぞれの個室にいながら、どろどろと全裸で絡み合う「イメージの戦い」を繰り返すまでになっていたんだ。莉実って思ってたよりずっとスケベ少女だった。さっき莉実が真っ赤になったのは、この「絡み合い」を思い出したからに違いない。

 

絵美は置いてけぼり。僕と莉実がそんな関係になってることは全然知らない。だから絵美のエッチ度はまだわからない。残念!

しかし、この莉実と僕の思念対決? は、思わぬ効果、「新たな武器」を僕たちにもたらすことになる。

 

 

(その③につづく)

 

 
 始まりは、だれにも意識されないような、小さな報道だった。

 


「中国語話せます! 我由中文能
説!」

 

 こう表記されたステッカーを貼ったタクシーが都内を走っている。そんな内容のニュースだった。

 

「ふーん。それだけ中国人の旅行者が増えてるんだなあ」

 

だれもがその程度の感想を持ったくらいだと思う。

 

 

 そのニュースが流れたちょうど1週間後、上海から成田空港に渡ってきた裕福な中国人の一家4人が行方不明になっているという報道が、こちらは少し大きな扱いで流れた。連絡が取れないことを心配した上海の親戚が捜索依頼を出し、中国大使館を通じて警視庁に捜索依頼が舞い込んだという。

 

 岸田警視総監は苦りきっていた。

 

「どうして警視庁が動かねばならんのだ! 行方不明になったのは千葉県だろう」

「ええ。確かに成田空港で足取りが途絶えていますが、都心に向うタクシー乗り場で1台のタクシーに乗り込んだのが確認されています。ですから、4人は都内のどこかで下車し、それからホテルに向う途中で消息を絶ったと思われます。それを踏まえての依頼でしょう」

「そんなことはわかっとる!」

 

 岸田に一喝された総監官房の吉川情報課長は表情ひとつ変えず、しかし小声になってこう言った。

 

「こういう時こそ、総監の伝家の宝刀を抜かれるべきではありませんか?」

「うん? なんのことだ」

「いつも言っておられるではありませんか。『総理に三島少年を引き合わせたのは俺だ』」

「うーむ・・・しかし、三島君に探索能力があるとは思えないが」

「いえ、三島少年のバックを利用するんです」

「バック? そうか、その手があるな」

 

                   *

 

「久しぶりですね、総監」

「おう! 少し見ない間に、ずいぶんたくましく、いやりりしくなったというべきかな」

「叔父からこの道場を引き継いだからね。ああ、そうだ。道場破りの件ではお世話になりました」

 

 僕が道場主になった直後から、何人もの道場破りがやってきた。そのうちの何人かを死亡、あるいは廃人にしたことがあった。そのときもみ消しに動いてくれたのがこの岸田総監だった(第2話)。

 

「ところで最近の君の活躍については、小暮首相から少しは聞いているんだ。にわかには信じられない内容だが、私に口出しできるレベルの話じゃないからな」

「・・・で、今日の目的はなに?」

「あ、うん・・・実は困ったことになっているんだよ」

 

最初の一家4人の失踪から、この日までに、次々と中国人家族が行方不明となっていることが明らかになってきた。その数6家族27人に達する。

 

「お得意の張り込みはやったんでしょ?」

「ああ。成田空港のタクシー乗り場に大量に刑事と覆面パトを配した。しかし、その日から1台の対象車両も現れなくなったんだ。あの『中国語話せます』というステッカーを貼ったタクシーは、全部で10台はあったんだが、1台も現れなくなった。つまりそのタクシーは全部グル、ということだ」

「へー。それって警察内部の情報漏洩ってことでしょ?」

「ああ。そう考えるしかなかろう」

「けっこう根が深そうな話だね。でも、僕は力になれそうにないけど」

「いや、君に捜索してくれと頼みたいわけじゃない。実は消えた中国人家族はすでに全員殺されているようなんだ」

「え? 殺されてるの? だれがそんなこと」

「君は『JJJ』という集団のことを聞いたことはないか?」

「JJJ・・・そうか、あいつらが犯人なんだ・・・でもそれがわかっていて、どうして逮捕しないの?」

「証拠がない。死体もひとつも出てない」

「じゃあなぜJJJだって思うの?」

「犯行声明、とは言えないが、それに近い書き込みがJJJのホームページに載ったんだ。内偵の結果もそういう結論だよ」

 

 JJJ。Jointment Japanese  Justice

 「日本人の純血性を守れ、美しい日本の風土を汚(けが)す劣等民族を排除せよ」と訴える、国粋主義団体。このところ10代、20代の若者を中心に異常な人気を集め始めた極右団体だ。

 

「君たちのアルバイト先を奪い、かつアルバイトの給料水準を引き下げているのは中国人だ」

「銀座や秋葉原、新宿、原宿などを奇声を発しながら集団で闊歩し、売り場ではガイドブックで推薦している商品を大量買い。品薄の水洗便座は奪い合い」

「丸の内のビル街のトイレには、こんな張り紙が張られている。『便座を持って行かないでください』」

「ありもしない歴史問題を振り回し、南西諸島に『もともと中国の領土だ』という主張のもと、勝手に上陸し、要塞化を進めている」

「日本にあこがれながら日本人を敵視し、日本企業で働きながら日本向け製品にはわざと不良品を混ぜ、食品にはツバや端を吐いて混入し、日本の規制の数百倍の濃度の農薬を用いた農産物を輸出している」

「不当なレートの元(げん)で日本の土地、不動産を買い占めている中国は日本を占領するのが狙いだ」

「沖縄は近々中国領とされるだろう」

「建設業界ではもはや中国人労働者無しではビル、マンションは立たないと言われている。しかし、その建設現場では大小便を垂れ流し、他の日本人職人の道具や財布を盗み、果ては技術を覚えるとさっさと帰国し、中国で高賃金を得ている」

「中華料理店のコックの大半は中国人である。厨房が客席から見えない店に、日本人は入らない方が良い。なぜなら彼ら中国人は、日本人客の料理に唾を吐きかけて調理したものを出すからだ」

 

 これら過激なアジテーションはもちろん事実を誇張、歪曲しているのだが、人生経験の乏しい若年層は鵜呑みにしてしまうのだろう。

 

 

 

(その②につづく)

 

「あー、やっとこれで平穏な日常が戻って来たわ」

 

 僕は井上由里の姿で梅ヶ丘のペントハウスにいた。西選手と三島 大はよく観察すれば共通項が多い。西から復帰するのなら、最初は井上由里の方がギャップが大きくていいだろうというのが、小暮のおっちゃんの言葉だった。

 

「いやあ、ほんとに君には感謝、だな。この1か月の西投手狂想曲のおかげで、国会関連のマスコミ報道はほとんどゼロに近かったよ。おかげて連日の強行採決も目立たないうちにできた。憲法改正まで一気に進めてしまえばよかったよ」

「なに言ってるの。それにはすごい時間がかかるんでしょ? あんなめちゃくちゃな替え玉なんて、あの1か月で限界だったわよ」

 

 

 僕は1か月、西投手を演じてきて疲れがピークに来ていた。市川市の西邸は一歩も外に出られないからまったくの缶詰状態。取材に応じないから、そこらじゅうの中学校の「西」君は人違いの取材攻勢大迷惑。

 

で、小暮首相にどうやったらきれいに消えられるかを相談した。

 

 そしたらあのタヌキおやじ、こう言ったんだ。

 

「それは考えてある。消えるにしても、それをうまく利用したいからね。まあ、死んでもらうことになるよ」

 

 小暮の考えている「西投手の死に方」はあんまりかっこいいものじゃなかったし、第3次対テロ法案を通すのに役立つとは思えなかった。で、僕の方から提案したんだ。

 

「スナイパーにマウンドで狙撃されて即死ってのはどう?」

「狙撃って、空砲でも使うのかい?」

「いや、実弾で僕の顔を狙ってもらうんだよ」

「それじゃほんとに死んじまう」

「普通の人間ならね。僕は時速1000キロの高速ライフル弾で狙撃された経験があるんだ。その時もなんとか避けられたから、もっと遅い弾なら、どうにでも処理できるよ」

 

 

「・・・あきれてものも言えんな。よし、狙撃手は飛び切り腕のいいのを選ぼう」

「いや。そんな役目を他人にやらせたくないな。スナイパーは僕が信頼してる人間にやってもらうよ」

「誰だか知らんが、腕の方は大丈夫なのかい?」

「うん。オリンピックの射撃の選手並みだよ。それよりその人間を信頼できるところが大きいんだ」

「好きにしたまえ」

「状況設定と、あとの処理は万全に頼むね」

「ああ。任せておけ。そんなことくらい、お安い御用だよ」

 

 

 誰にも姿を見られない球場内のポイント。そこからの退路。倒れた僕の担ぎ込まれる病院。院長以下医師団の口裏合わせ。それらを確認し、僕は絵利香に本番用のライフル弾を大量に渡して練習させた。初速710㎞/hと、狙撃用の弾丸としては遅い部類に入るM43だけど、フルメタルジャケット、つまり、貫通能力が高い。で、僕はその弾頭を鉛製に換えてもらった。

 手で掴めはしないけど、たとえば穏剣を手のひらに隠し持って、そこで受ければストップできるだろう。そんな甘い考えだ。これまで何度か狙撃され、その弾を避けてきた経験からくる自信だった。

 

「初めて人を打つのがダイちゃんだなんて、すごい皮肉ね」

 

 絵利香は嘆息気味にそう言った。

 

 そしてその当日、僕は穏剣を内側に縫い付けたグローブを持ち込んで、5回のマウンドに上がったんだ。

でも、現実に狙撃を受け、それを手で受けるなんて経験は当然初めて。で、やっぱり緊張してたんだろう。

絵里香と決めてあった合図で500倍速にした直後に飛んできた銃弾を、僕はなんと右手で受けちゃったんだ。

 

右手にはボールを握っていた。

とっさに僕は弾をボールで受けた。

 

うまくボールに食い込んだと思ったら、その弾がボールごと僕の顔に押し込んできたんだ。

小さな弾丸だけど、スピードがあると、ものすごい力というか、重量というか、エネルギーの凄さはちょっと想像以上だった。

 

僕はボールに食い込んだ弾丸に押された右手の甲を、思い切り顔の真ん中にぶつけてしまった。自分で自分に「裏(うら)拳(けん)」をヒットさせたみたいなものだ。

 

鼻血がぶわっと吹出す感覚があった。僕はのけぞっていたけど、なんとか態勢を変えることに成功した。つまり、うつぶせで倒れ込んだんだ。

 

上向きじゃ、鼻血ブーがみんなにわかっちゃう。それじゃかっこ悪いもんね。

 

皮肉にも、鼻血が僕の顔の下を流れ出していることで、狙撃で倒れたというリアリティを増す演出となったのだけど。

 

 

「依然として、狙撃犯は捕まっておりませんが、過去に日本に暗殺団を送り込んできたテログループ、それに日本人が犯人と推測されているイスラム過激派殲滅事件の生き残りなど、当局は世界各国の情報機関に情報の提供を求めているようです」

 

「改正テロ対策法の成立が少し遅かったことを悔しく思うと、小暮首相は今日の閣議で表明しました」

 

「いずれにしても、突如彗星のごとく登場し、数々の奇跡のような成績とさわやかな印象を残して、たった一か月で消えてしまった西 透という少年が、われわれ日本人に残したものは計り知れません」

 

「狙撃のあった東京ドームは、次は自分が狙われるのではないかとパニックになってしかるべきなのに、あのとき選手も観客も、マウンドに倒れ込んだ西選手のことだけを思った。これが奇跡と言わずしてなんと言うべきか!」

 

 西 透という少年は本当に存在していたのか・・・「真夏の夜の夢」ではなかったか・・・そういう論調の記事が週刊誌に載るころには、井上由里と絵美莉実3姉妹は、もはや母親「役」ではなく、戸籍上本当のママの絵利香とともに八ヶ岳のコテージで休暇を楽しんでいた。

 

「由里ちゃんずるいぞ。スピード・アイは使っちゃダメ!」

「あははは。でも使わないと姉ちゃんたちには絶対勝てないんだもん」

 

僕たちはテニスやスカッシュ、アーチェリーなんかのスポーツでさわやかな汗を流していた。

世間ではまだまだ「西選手狙撃事件」で揺れていたけど、僕、つまり井上由里がその西 透であるなんてこと、誰一人としてかすめもしないだろう。

 

美しい母親がにこにこ見守る中で伸びやかに遊ぶ美少女の3姉妹。

 

その姿はまるでTVコマーシャルのように美しかっただろう。

これじゃ女装癖がつきそうだなー。

 

もうはまってるって?

 

 

 

 SEASON2  第20話 終わり