ソニアから再び連絡が入ったのは10日ほど経ってからだった。
「エミリ、いまイギリスにいるわ」
「イギリス? 何してるの?」
「イングリッシュ・ペトローリアムとの協議よ。実は私もいまロンドンなの」
「その会議に出てるの?」
「そう。昨日から始まってるの」
「いつまでいるの?」
「会議は明後日で終わるけど、そのあとは彼女、ダブリンの別荘で過ごすみたい」
「えー! またアイルランドかあー」
「そのほうがいいでしょ。イギリスじゃ面倒なことが多いもの。ヨーロッパの富豪って、アイルランドに別荘を持ってる人が多いのよ」
「まあ、分からないでもないけどね・・・アイルランドって日本の北海道に似てるんだ。イギリスの隣なのに食べ物もおいしいしね。わかった。エミリに話しておいて。明後日、ダブリン空港に僕が着くって」
「ええ。でも気を付けてね。エミリ自身は荒っぽくないけど、護衛がたくさんついてるわ・・・そうか、肉体や武器はダイには意味なかったわね」
「そうさ。逆にエミリはこれまでのターゲットの中で、最大の脅威、かもしれないよ」
「あれからいろいろ探ってみたけど、エミリの超能力はかなり特殊ね」
「特殊って、超能力自体が特殊でしょ?」
「でも、これまで知られているどのジャンルにもあてはまらないのよ」
「ふーん」
「たとえば、予知とか、透視とかトランスポーテーションとか、ある程度ジャンルがあるんだけど、エミリのは違ってるの」
「どういうの?」
「いなくなるのよ」
「いなくなる?」
「確かにいままでそこに座っていたのに、いきなり姿が見えなくなるの」
「それって、僕でもできるけど」
「そう。ダイのように時間のコントロールをすればできるでしょうね。でも彼女の場合は、実際はその場所にいても、いるようには見えないというか、存在を消しちゃうのね」
「ふーん」
「それから、気分がよくなったり、悪くなったり、精神的というより肉体的な影響もあるわ」
「それ、彼女が相手のアストラル体をどうにかしてるんじゃないの?」
「私もそう思うわ。自分のアストラル体を肉体から切り離す、いわばダブルロケーションをやれるんだと思う。彼女なら、他人のアストラル体をいじるのなんて簡単だと思うわ」
「・・・それだけ?」
「いいえ。エミリの最大の武器は思考の支配、でしょうね」
「思考の支配・・・そりゃ厄介な武器だな」
「それも一度に複数の人間の思考を支配できてしまうようなの。今日の会議で、それがよくわかったわ。元セブンシスターズの他のメンバーがいとも簡単にエミリの言いなりになったもの」
「ふーむ。それに対抗する方法ってあるの? 私にその力を向けてこなかったというのがヒントになるかしら。どうして私を除外したか、私自身にはわからないわ。チャクラがひとつ開いているってこと以外はね。アストラル体そのものも、現代科学じゃ分析も説明もできない存在だもの。対抗策以前の問題ね」
「うーん、うかつには近づけないなあ・・・まあいいや。とにかく会わせてよ」
「必ず会えるでしょうね。エミリのほうがダイに興味津々なんだから。ダブリンの港に近い丘の上の別荘に行くことになると思うわ
」
考えても仕方なかった。エミリの言いなりになるなんて気はさらさらないけど、このまま放置しておくことはできそうもない。他人の思考を操れるなら、世界の征服も簡単だろう。エミリが人格破綻者でないことは分かっているけど、そんなとんでもない能力を持っているとしたら、そのまま放置しておくなんてできるわけがない。まして彼女は弟の一人を僕に殺されているんだ。その復讐心がどういう形で現れるか、僕には予想できなかった。
今回も絵美莉実のふたりは絶対に連れて行かなくちゃならないけど、井上由里ではなく、三島 大を知っているエミリに会うんだから、ダイで行くしかない。
「ダイちゃんと私たちだけで行くの?」
「うん。今度はソニアが向こうで待ってるから、絵利香ママは行かなくていいよ」
「はい。ちょっと悔しいけど」
「じゃあ、二人は旅行の準備をして」
こうして何度目かのアイルランド行きが決まった。よっぽど僕はアイルランドに縁があるんだろうね。
(その⑫につづく)
