神威(カムイ)の剣 タイム・コントローラーDAI -4ページ目

神威(カムイ)の剣 タイム・コントローラーDAI

小学6年生の美少年・三島大。古武術とタイム・コントロール能力を駆使して、さまざまな敵を殲滅していく超絶アクション小説。

 

「なんとも不可解なのは、あの大鳥居をくぐって前に進もうとすると、捜査員全員が足が止まるのです。そして自分では前に進んでいるつもりなんですが、くるりと弧を描いてもと来た参道を引き返しているんです。これは何度も試みましたが、私自身の体験でもあるので、部下たちを叱咤する気にもなりませんでした。私以下、約30名の捜査官はみなベテランばかりで、たやすく暗示にかかったりするヤワな精神の持ち主はおりません。その日は3回試み、結局あきらめて引き揚げました」

「ふーん。・・・それから?」

「翌日、本部で対策会議を開きました。これは高度なマインドコントロールであろう。それに対抗するには、捜査員が迫っているということを悟られないように社務所に近づかねばならないだろう。そう結論が出ましたので、メンバーの半分を入れ替え、変装して、神社の四方に潜み、時間を決めて一気に突進しよう。そういうことになりました」


「結果は前と同じ、だったんでしょ?」

「はい。社務所から100m以内の圏内に入れたものは皆無でした。みな、なんとも不思議な気分になり、踵を返して元の待機場所に戻ってしまうのです」

「 おっちゃん。この前梅ヶ丘のマンションで実験したの、忘れちゃったの?」

「え? ああ、あのカードの実験か?」

「そう。あれで精神感応は面と向かわなくても、つまり遠距離でも可能なんだって、自分の体、といか頭で確認したんでしょ?」

「・・・あれと同じなのか、京極のは?」

「厳密に言えば別物なんだけど、やり方は似たようなものだよ」


「うーむ。ということはキミならなんとかあの神社に入れるということか?」

「僕がただ入るのでいいの? 捜査員の家宅調査なんでしょ?」

「そう、だな。じゃあ、君の力であの妨害電波みたいなやつを止めてもらえないか?」

「うん。そのためにこの3か月、ずいぶん訓練したんだよ。以前、3か月前に行ってみたとき、ものすごい力の精神波を感じて、あわてて逃げ出してきたんだ」


「うーむ。キミでも逃げ出すくらいの相手なのか・・・で、訓練の結果は?」

「うん。何とかできると思うよ。もっと言えば、その精神波をある程度弱められると思う」

「そうか! それは助かる!」

「肉体が相手の武装ゲリラやテロリストなら、殲滅できるんだけど、今度の相手は思念だからねえ。その思念を出しているおおもとの人間を殺してしまえば終わるんだろうけど、それじゃおっちゃんの立場はないんでしょ?」

「まあ、そうだな。あくまでも検挙して、法の下で裁かなければ意味がない」


「でも、他人の思考を支配して、誘拐や殺人を行わせた、なんて、裁判できるの?」

「・・・それは無理、だな」

「でしょ。僕は、一連の事件のおおもとが京極という人間一人だと確認できれば、その段階で京極を抹殺するつもりだよ」

「うーむ。私の立場で『あいつを殺してきてくれ』とう言えないが、たとえあの京極という男が死んだとしても、君にはお礼こそすれども罪に問うなど考えもしないよ」


「うん、わかった。じゃあそろそろ戦闘開始、だな」

「・・・気を付けてくれ。これまでの相手とは違うからな。たとえ一人でも厄介な敵だ。しかし、いったいどうやって立ち向かうつもりなんだい?」

「いつものように神威でぶった切るのさ。でも、神威そのものも進化したんだ」

「進化? 打ち直したのかい?」

「いや。神威も成長したんだ」

「?」

「物理的な次元じゃないから、説明は難しいよ。言ってみれば、あの神威に神霊が宿ったってことかな」


「神霊・・・まあいい。私には到底理解不能な世界の話だ」

「そのほうが賢いよ。理解できないことを考えると頭禿るよ」

「ああ。で、いつ出かけるんだ?」

「明日」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。直接捕縛できないとしても、逃げ出さないように回りを囲むことはできるだろう。300人体制を組むから3日くれないか」

「わかった。じゃあ今度の金曜日ね。突入は正午ちょうどにするよ」

 

 

 

 

 

(その⑮につづく)

 

 

「なあ、そろそろ乗り込んでくれないかな」

 

 岸田総監から悲鳴のような依頼の電話が入った。

 

「JJJ?」

「決まってるだろ? あいつら、もう手が付けられない」

 

 僕が禊(みそぎ)神社の偵察に出かけてから3か月余り。事態はどんどんエスカレートしていたのだ。

 

 JJJ関連のニュースが報道され始めると、中国人、韓国人に対する「迫害」ともいえる事件が日本中で頻発し始めた。JJJとは無関係と思われる地域や年齢層にまでそれは広がっていた。

 

 日本各地の都市部で「青天白日」マークの下にJJJというロゴ(ロゴといっても「HGB創英角ポップ体」というPC(パソコン)のフォントそのままだった)をあしらったシールやワッペン、バッジが海賊版のようにそこらじゅうで作られ、売られるようになっていた。それは、需要があるからで、実際飛ぶように売れているという。街中でこのマークを見かけることが多くなってきたのも確かだ。

 

 それに比例するかのように、繁華街から中国人の姿が消えていた。「中国人の爆買い」も鳴りを潜めていた。

 

 実際に中国人や韓国人の観光客に対する暴力事件が多発したのは、JJJが活動を開始して数か月でぴたりと収まっていたし、そんなニュースも聞かれなくなってきていた。

 

 ではJJJは消えたのかというと、現実は逆だった。あきる野市の禊神社への参拝者は急増し、電車の運行本数を増やそうという動きまで出ていた。

 

 もう一つ、これまでにない現象として「国旗」の需要がここ数か月で3000%増えていたことが報じられた。30倍の売れ行きというのは、百年以上前の「日清戦争」の時以来だという。

 

「困ったことに、首相近辺ではJJJを容認しようという動きが出てきたんだ。JJJの主張が『一見過激な右翼』の主張に見えるからだろうな。だが、あいつらの本質は暴力団より性質(たち)が悪いのは明白なんだ」

「どういうところ?」

「君のように聡明な・・・なるほど、こちらの捜査状況を詳しく教えてなかったな。いや、申し訳ない」

 

 岸田は公安部公安第三課の課長を呼んだ。

「課長の中西と申します」

 

 中西は陰気な雰囲気のやせた中年男だった。

 

 

「第3課ってことは右翼関係なんだね?」

「そうです。JJJは宗教団体というより右翼に近いとみています」

「僕の感じたのは、むしろ宗教的なものなんだけどね」

「と、おっしゃいますと?」

 

 中西はあくまでもお慇懃無礼だった。

 

「京極明良という男、表だった動きは見せていないでしょ。誘拐事件をはじめ、いろんなトラブルは弟子というか、信者が起こしているはずだ」

「ええ。それは承知しています」

「その京極、とんでもない力を持っている」

「力、ですか・・・」

「そう。他人の心を操る。心理的、精神的に支配する」

「それはマインド・コントロールということでしょうか?」

「そんな生やさしいレベルじゃないよ。あの禊神社の境内に足を踏み入れただけで、完全に意思を奪われる」

「意思を奪う・・・そんなことができるんですか?」

「何言ってるの。これまであの神社を家宅捜索してこなかったわけがないじゃん。でも、令状取って、踏み込もうと思ったけど、何度行っても捜査員は一歩も中に入れなかったはずだよ」

「・・・」

「そこまでわかるのか君には・・・これはもう警視庁の恥とかなんとか言っている場合じゃないな。おい、中西、隠さんでいい。これまでの経緯を全部お話しろ」

「・・・はい。了解いたしました」

 

 中西課長はソファに座りなおして岸田と僕を交互に見てから話し始めた。

 

 

 

 

 

(その⑭につづく)

 

 

 この3か月間、僕は精神波の修練に明け暮れていた。あのとき、禊(みそぎ)神社で感じた京極明良の巨大な触手は、安易に立ち向かうのは危険すぎると感じさせていたのだ。

                                                     

 ひとつ誤算、というか、予想外だったのは絵美だった。彼女は莉実が僕と精神波のやり取りをしているのがわかってからというもの、悔しくて仕方ない状態が続いていたらしい。

 

 双子って不思議。銃撃されたショックでチャクラが回りだした莉実と違い、絵美がチャクラを回せるとは全く考えてもいなかったんだけど、絵美は自力でそれを成し遂げつつあった。ペントハウスの庭でふたりで丹田呼吸法をやる際、莉実は三角倒立していたけど、絵美は様々なヨガのポーズを試したようだ。

 

 文献も読み漁ったらしい。僕の書棚にあるヨガ関係図書はもちろん、東京中の図書館を巡ってヨガ関係書籍を読み漁ったという。

 

 彼女は「結跏趺坐(けっかふざ)」でのプラーナ呼吸法を突き詰めたのだ。ある夜、いつものように莉実と僕が精妙体、精神波で絡みあっているとき、突然絵美の精神波が侵入してきた。

 

 僕と莉実は、全裸で抱き合っている部屋のドアをいきなり開けられたみたいに、慌てふためいた。

 

《な、なんだよいきなり。びっくりするじゃん!》

《こんなことしてたのね。莉実、あなたずるくない?》

《あ、あの・・・絵美、どうしたの? ここに来られるってことは・・・》

《そうよ。私にも出来るようになったの。まったくいやらしいんだからふたりとも》

 

 思念ではあったが、全裸の絵美が僕たちの体の上にかぶさって来た。

 

結局、双子ってのは、同レベルにならないと不安で、それがすべての能力、技量を同じ水準にまで引っ張り上げる潜在力となっているのだろう。

 

僕はこうして、精神波、思念のパワーをもうひとつの武器とする二人の女の子を、肉親同様の身内として持ったのだった。

 

 

(その⑬につづく)

  

竣工して家具、家財道具、照明、電気機器、それにマンションから個人の荷物を運び入れて落ち着いたので、お披露目の食事会を開くことにした。

 

木暮首相、岸田総監、マイクの3夫妻とマダムの7人がメインのゲストだ。シェフはママと敦子叔母、絵里香、冴子の4人でかかるから、豪華な和洋食が次々とダイニングテーブルに並ぶ。最近パティシエの勉強が進んでいる冴子は、食後のデザートを作っていた。

 

実は夫人たちに会うのはこの日が初めて。マイクの奥さんバーバラ・イーストウッドはヨコタの司令官室の写真立てにあったポートレートで知っていたが、実物は写真よりずっと若々しく、また小柄だった。

 

小暮夫人は元女優で、昔から「美女と野獣」と言われていた、というのがおっちゃんの機嫌のいい時の決まり文句。確かに60歳代前半にしては美しい。

 

すごかったのは岸田警視総監の奥様。岸田自身は168㎝と小柄な中年男なんだけど、この奥方、170㎝を超える長身にハイヒールを履いてさらに背が高くなっている。そして・・・まず普通の男なら首を垂れて前を通るという超不細工女。昔の法務大臣の娘らしい。「ブスで地位を買った」と陰口を叩かれ続けているけど、本人は平気らしい。

 

「オレは仕事とセックスは家庭に持ち込まない!」

 

 これが岸田がタモリからパクった「決まり文句」だった。実際、都内に愛人用のマンションを持っているというのが自慢だそうだ。馬鹿みたい。

 

この岸田夫人、僕にやたらとくっついてくるから困った。で、バーバラ夫人に助けを求めた。英語を理解しないとわかったから、彼女の目の前で英語で話す。

 

「マダム。助けてくれないかな。この奥さん、僕にやたらとベタベタくっついてきて、困ってるんだけど」

 

 バーバラはこの僕のSOSに、にっこり笑って、

 「あなた。いつも息子以上にこの男の子をかわいがってるの、わかりますわ。この子、素晴らしく聡明で、今の日本人にはない、BUSHIDO(武士道?)の精神性も持っているようね。私があの野獣のような女性から守るから、あなた、やきもち焼かないでね」

「おお。ダイは私の息子だと思っているさ。しっかり守ってあげてくれ。でも、ダイの本当の姿を知ったら、お前もただじゃ終われなくなるぞ」

「あら。どうなるのかしら? 知りたくなってきちゃったわ」

 

 というような会話を交わしてから、バーバラは僕の腕を取って、うちの家族の間を回った。僕はこういった欧米形式のパーティーに慣れているから、バーバラを家族に紹介しながらブス女から遠ざかって、食事が始まるときには彼女から一番遠い席を確保することに成功した。

 

 

 明治期の洋館建築は興味深い。設計者の欧米に対する憧れ、思い入れに対し、施工者、つまり大工はそれまでの日本建築の良さを活かしつつ、モダンな意匠と近代的な生活様式を理解し、具現化しようと、持てる技術の粋を注ぎ込んだ。

 

 そうして生まれた洋館には、ヨーロッパ系と日本人のハーフ(こちらは人間の)のかわいらしさ、ハンサムぶりに通底する美しさがある。

 

 僕は設計者に市川の西邸を案内し、採寸取材してもらってから、改良点、変更点を伝えた。

 

「・・・で、外断熱RC造でいくけど、外壁を煉瓦で覆いたいんだ。乾式の硬質ブロックやブロックタイルじゃなく、赤レンガで。目地は白華(はっか)する(白くセメントだれが出る)のは嫌だから、今度輸入する『ニュー漆喰』と同じ樹脂をモルタルに混ぜて使ってね」

 

「梁や柱は古材プールからできるだけ品質のいいものを選んで持って来て。3階の天井は現わしでいくから、形と色にも気を配ってね」

 

「エアコンは冷房だけでいいよ。業務用ヒートポンプ式のセントラルエアコン方式で。暖房は床暖房とスチームパイプ形式のオイルヒーターと暖炉、薪ストーブ併用のパッシブ・ソーラー。だからサーキュレーターを目立たないようにつけて」

 

「古材プール」というのは、解体された古民家から、質のいい材木を集めている集積場のことだ。結局、僕の注文は相当数に上った。

 

 

 

 

 

(その⑫につづく)

 

 

 こういう話はすぐママに伝わる。

 

「やっと考えてくれるのね。ダイちゃん、最近『由里ちゃん』で、あんまりうちに来ないから、私も言い出しにくかったのよ」

「なんだ、ママも引っ越したかったの?」

「だって家族って言っていい人が3人、いえ敦子を入れると4人増えてるのよ。もうこのマンションじゃ無理だわ」

「わかった。みんなに聞いておいて。新しいおうち、道場の母屋を立て直すのでいいかどうか」

 

 

 叔父の、いまは僕の「静(せい)剛流(ごうりゅう)古武術(こぶじゅつ)鍛錬場(たんれんじょう)」。僕たちの間ではたんに「道場」って呼んでいるけど、その所在地はマンションから約1㎞の世田谷区代田。小学校、中学校から400m。駅からはマンションからとほとんど同じ距離。小中学校への通学はこちらの方が近い。

 

彩音ねえちゃんは電車で高校に行ってるから文句はないだろう。ママはマダムのジムや買い物に行く車のルートが変わるくらいだけだし、敦子叔母はもともと道場の母屋が住まい。誰からも文句が出ようはずがなかった。

 

 

 ただ道場の隣の母屋は平屋。部屋数が絶対的に少ない。で、母屋を建て替えることにしたのだ。

 

敷地は道場を含めて225坪。母屋と駐車場を入れた建て替え可能面積は150坪もある。もともとここはじいちゃんが75坪の分譲地を3区画まとめて購入したと聞いている。最初はこれを単純に1区画を道場に、1区画を母屋に、1区画を庭にしたのだ。敷地75のうち建坪は45坪くらい。残り30坪のうち25坪が駐車場。庭に75坪はもったいないというので、叔父の代に、さらに25坪を足して駐車場スペースは50坪ほどある。

 

 僕は母屋を建て替えるに当たって、その相談をマダムにしに行った。

 

「まあ、ずいぶん久しぶりね、ダイちゃん。冴子に聞いたけど、引っ越しするんですってね」

「うん。で、マダムにお願いしたいんだ」

「いいわよ。こういう時に頼ってくれるのは嬉しいな」

 

 マダムの人脈は異常に広い。ソニア、エルマ、小暮首相、それにエリクソン大統領も、もとはマダムのラインだ。

僕から詳細を聞いた翌日には設計事務所と工務店を推薦してくれた。両方とも有名な老舗だった。

 

「お金は無制限なんでしょ? いまの日本で望みうる、最高のおうちにしなくちゃ。小暮首相やエリクソン大統領が遊びに来ても恥ずかしくないおうちにしてもらいましょ!」

 

 こりゃ時間がかかりそうだなあ。と思ってたんだけど、聞いてみると3か月で完成するという。

 

「3か月? ちゃちいプレハブ住宅でももっとかかるんじゃないの?」

「いえ。施主様のお知り合いの商社から、『ニュー漆喰』を入れていただけるので、一番時間がかかるところが大幅に時間短縮されます。資材以外では職人の数を無制限に投入できるし、何より敷地に余裕がおありで、機材資材の仮置き場や職人の詰所、作業事務所、それにトイレまで道場をお借りできるのです。こんな恵まれた建築現場は都内では初めてですよ。それに設計図がもう完成していますし、設計監理、施工管理にそれぞれの本社から常駐の責任者を置くという力の入れようです。早く出来るに決まってます」

 

 設計事務所の担当者は、嬉しそうにそう言った。

 

 

 僕はあの市川の西家の西洋館をそっくり再現してもらうことにした。

 

 木造3階建ての洋館を「外断熱工法のRC造」とし、外壁に赤レンガを湿式で張る。

 

1階の「撞球室」もビリヤード・ルームとして残した。実は僕、ビリヤード得意なんだ。ナインボールなんかのポケットじゃなく、3クッションっていう、かなり高度な技術を要するゲームをもう3年くらいやってる。叔父が昔からビリヤードが好きで、道場の近くの古いビリヤード場に連れて行かれたのが最初。四つ玉で始めたんだけど、1か月くらいで叔父を負かしちゃうようになった。叔父は僕といっしょにそのビリヤード場に行くのをやめた。


 僕はそこの主人に手ほどきを受け、3クッションを始めた。専用のキューも購入し、3年たった今では近所で僕より上手い人はいなくなった。

 

1階はパブリックフロアだから、ほかに部屋もみんなゲスト関連だ。応接間、それぞれレストルームを備えた2ベッドのゲストルームが2部屋。そしてキッチンとダイニングルーム。

 

ママ、敦子、絵里香、冴子の4人が立つことになるキッチンは完全にプロ用厨房とした。パントリーにはワインセラー室を設け、20畳のダイニングルームにも薪ストーブを入れた。

 

2階の6室の個室は広すぎるからすべて8畳の個室にし、お風呂を充実させた。衣裳部屋と書斎をそれぞれ18畳で備える。3階の屋根裏部屋は、天井板を取り除き、梁の現わしとした。6室を女の子たちの個室とする。残りの部屋は倉庫。

 

 駐車場は前の50坪のままだけど、母屋竣工後、煉瓦敷きとした。庭は西洋館にふさわしくないけど、元の日本庭園を縮小して再現した。植栽を整理していると、庭に井戸があるのがわかった。

 

「そういえば井戸があったわね」

 

 敦子叔母はそんな具合。のんびりしてるんだ。汲み上げてみるとまだまだ現役だった。

 

「ちゃんとしてるじゃない。水質検査お願いしてみるよ」

 

 ということで厚労省と民間の検査所の2か所に頼んだ。さすが「お役所仕事」。厚労省のほうからいち早く結果が届いた。

 

「一般市民に対してもこれくらい迅速に仕事してね」

 

 こんなに早いのは上から指示があったに決まってる。

 

 それはさておき、民間検査所からの結果も、どちらもほとんど同じだった。

 

「飲料水として可」by厚労省。

「弱アルカリ単純冷泉。含有成分は以下のとおり・・・。大変すばらしい水質です。加熱すれば温泉として供給可能です。ミネラル分が比較的少ないので、長期にわたる飲用には別にミネラル分を補給する事をお勧めします」とは民間検査所。

 

「井戸にポンプ付けて上水として配管して。水道水は中水として使うんでいいよ。この井戸のお水、売ってるペットボトルの水より上質の軟質水らしい。すごくおいしいよ」

 

 あとで近所のお年寄りに聞いたら、昔は名水として有名な土地で、造り酒屋もあったって。お湯にすれば、そこらへんの温泉より優れた泉質だそうだ。お風呂に温泉の効能書を張っておいた。

 

 

 もうひとつ、僕が無理を言ったところがある。それは秘密の地下室と地下道、だった。

 

この道場はこれまで何度か襲撃されている。僕が不在の時、家族が逃げ込める「パニックルーム」と、最悪の時そのパニックルームから脱出する地下道を作りたかったんだ。地下室=パニックルームは、叔父がすでに作っていたけど、叔母ひとりのためのものだったから狭い。

 

地下道に関しては、パニックルームからの脱出口だけを今回造ってもらうことにした。地下道は小暮首相に頼んで、地下練習場と福生の横田基地を結んでいる地下道の支道を開いてもらおう。

 

僕の個室はこの地下室になった。10人が入れるパニックルームとして設計したんだけど、小型キッチン、シャワー・トイレ、庭に通じる換気システムなんかが完備して、閉じこもっても1週間は10人が過ごせる設備だったから、普段使わないのはもったいないでしょ? って言ったら、ママが、

 

「そりゃ地下室なら、女性が大声でよがり声上げても聞こえないから好都合でしょうね」

 

 と言った。聞いてた全員が「うんうん」ってふうに首を縦に振った。

 

 こうして、僕たち2家族プラスアルファ、つまり、三島家の女性軍4人、井上家の3人、敦子叔母、それに僕の合計9人が住む洋館が、本当に3か月足らずで完成、竣工したんだ。

 

 

 

(その⑪につづく)