「なんとも不可解なのは、あの大鳥居をくぐって前に進もうとすると、捜査員全員が足が止まるのです。そして自分では前に進んでいるつもりなんですが、くるりと弧を描いてもと来た参道を引き返しているんです。これは何度も試みましたが、私自身の体験でもあるので、部下たちを叱咤する気にもなりませんでした。私以下、約30名の捜査官はみなベテランばかりで、たやすく暗示にかかったりするヤワな精神の持ち主はおりません。その日は3回試み、結局あきらめて引き揚げました」
「ふーん。・・・それから?」
「翌日、本部で対策会議を開きました。これは高度なマインドコントロールであろう。それに対抗するには、捜査員が迫っているということを悟られないように社務所に近づかねばならないだろう。そう結論が出ましたので、メンバーの半分を入れ替え、変装して、神社の四方に潜み、時間を決めて一気に突進しよう。そういうことになりました」
「結果は前と同じ、だったんでしょ?」
「はい。社務所から100m以内の圏内に入れたものは皆無でした。みな、なんとも不思議な気分になり、踵を返して元の待機場所に戻ってしまうのです」
「 おっちゃん。この前梅ヶ丘のマンションで実験したの、忘れちゃったの?」
「え? ああ、あのカードの実験か?」
「そう。あれで精神感応は面と向かわなくても、つまり遠距離でも可能なんだって、自分の体、といか頭で確認したんでしょ?」
「・・・あれと同じなのか、京極のは?」
「厳密に言えば別物なんだけど、やり方は似たようなものだよ」
「うーむ。ということはキミならなんとかあの神社に入れるということか?」
「僕がただ入るのでいいの? 捜査員の家宅調査なんでしょ?」
「そう、だな。じゃあ、君の力であの妨害電波みたいなやつを止めてもらえないか?」
「うん。そのためにこの3か月、ずいぶん訓練したんだよ。以前、3か月前に行ってみたとき、ものすごい力の精神波を感じて、あわてて逃げ出してきたんだ」
「うーむ。キミでも逃げ出すくらいの相手なのか・・・で、訓練の結果は?」
「うん。何とかできると思うよ。もっと言えば、その精神波をある程度弱められると思う」
「そうか! それは助かる!」
「肉体が相手の武装ゲリラやテロリストなら、殲滅できるんだけど、今度の相手は思念だからねえ。その思念を出しているおおもとの人間を殺してしまえば終わるんだろうけど、それじゃおっちゃんの立場はないんでしょ?」
「まあ、そうだな。あくまでも検挙して、法の下で裁かなければ意味がない」
「でも、他人の思考を支配して、誘拐や殺人を行わせた、なんて、裁判できるの?」
「・・・それは無理、だな」
「でしょ。僕は、一連の事件のおおもとが京極という人間一人だと確認できれば、その段階で京極を抹殺するつもりだよ」
「うーむ。私の立場で『あいつを殺してきてくれ』とう言えないが、たとえあの京極という男が死んだとしても、君にはお礼こそすれども罪に問うなど考えもしないよ」
「うん、わかった。じゃあそろそろ戦闘開始、だな」
「・・・気を付けてくれ。これまでの相手とは違うからな。たとえ一人でも厄介な敵だ。しかし、いったいどうやって立ち向かうつもりなんだい?」
「いつものように神威でぶった切るのさ。でも、神威そのものも進化したんだ」
「進化? 打ち直したのかい?」
「いや。神威も成長したんだ」
「?」
「物理的な次元じゃないから、説明は難しいよ。言ってみれば、あの神威に神霊が宿ったってことかな」
「神霊・・・まあいい。私には到底理解不能な世界の話だ」
「そのほうが賢いよ。理解できないことを考えると頭禿るよ」
「ああ。で、いつ出かけるんだ?」
「明日」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。直接捕縛できないとしても、逃げ出さないように回りを囲むことはできるだろう。300人体制を組むから3日くれないか」
「わかった。じゃあ今度の金曜日ね。突入は正午ちょうどにするよ」
(その⑮につづく)