神威(カムイ)の剣 タイム・コントローラーDAI -19ページ目

神威(カムイ)の剣 タイム・コントローラーDAI

小学6年生の美少年・三島大。古武術とタイム・コントロール能力を駆使して、さまざまな敵を殲滅していく超絶アクション小説。



 翌日はデビッドが地下練習場にやってきた。マイクと2人だけだ。SSたちは途中で待たせているらしい。この練習場を他の人に見せられないということもある。




「道場での接待はすばらしかったよ」

「いろいろハプニングもあったけど」

「彼や奥方の前で君の技を披露したようだね」



 マイクはニコニコしながら言った。


「ああ。理解できたとは思えないけど」
「今日は君の真の戦闘能力を見せてくれるんだろうね?」
「うん。そのためのセッティングでしょ?」

 ということで、僕はいつもどおりの練習を開始した。マイクがひとつひとつ、解説していく。


 モーゼル・レッド9の200m連射、穏剣を投げて装甲車の甲板を貫通させ、静竜の連射でハマーの防弾ガラスやドアを突き破り、暫甲剣で戦車の大砲の砲身を断ち割った。


「な、なんというものすごさだ・・・人間業ではないな・・・」
「そうさ。東洋の悪魔・・・魔女かな・・・と呼ばれてるけど、僕の本当の力量を見た者はほとんどいない。見てもその直後に死んでるからね」
「ワンマン・アーミー!」
「そう、まるでランボーだな」
「ランボー? ああ、映画ね。あんなに無能じゃないよ、僕は」
「ああ。すまない。たとえるものが浮かばないだけだよ。・・・君を敵に回すのは即、死を意味するってマイクが言っていたのが、よくわかったよ」



「敵に回す気があるの?」

「と、とんでもない・・・これから私たちの前には数々の難題が立ちふさがるだろう。その中でも、現実的には米軍を使えない武装集団や国家がいるはずだ。これまでにも、君には困難なミッションをお願いしてきた。いずれも大成果を上げてくれたので、エリクソンは大統領になれたんだ。君にはあと8年、民主主義と自由主義の守り神として活躍してもらいたい」

「民主主義ねえ。そういえばあの民主党のおっさん、どうなったの?」


 僕が暗殺にグァムまで出向いたけど、殺すまでもなく大統領戦から降りた男の末路は、一部は別ルートで入ってきていた。しかい、政治の世界のことはエリクソンから聞くのがいいだろうと思っていた。


「映像は絶対に表に出さないことを条件に、大統領戦から降りさせたんだ。いまは引退して、別荘近くの川でフライフィッシィング三昧の毎日らしい」

「フライかあ。いいなー」

「あれ? ダイ、そんな趣味あったっけ?」

「うん。結構はまってるんだ。僕がやるのは『テンカラ』っていう、日本古来の毛バリ釣りだけどね」




「あんなやつが代表だったというのが民主党にとってかなりのダメージになっている。4年後の選挙、民主党はすでにあきらめているらしい。すべて君の冷静な判断のおかげだよ。あそこで彼を暗殺していたら、今回の選挙、どうなっていたかわからない」


「弔い合戦ってことになって、民主党が勝利!」
「そう。そのとおり。あのころのエリクソンは頭に血が上っていたんだろうな」




 それからしばらく、米国副大統領は僕とマイクの3者会談を行って帰っていった。


 僕はなにも見返りを求めなかった。だって僕がこうしてほしいと言うことは、全面的に共和党の米国政府が実行してくれるのはわかっていたんだからね。




「サイパン島が欲しい」って言ったらくれるかな?








第13話 おわり





 そんなこともあったが、おおむね順当に夕食会は終了した。




 食後のデザートの水菓は道場の畳の上で食べたいというデビッドのわがままをきいて、全員が道場に移った。



 ビワのジェリー固めと、スイカとメロンのフルーツポンチが供された。その後、縁側で花火で遊んでお開き、という計画だったんだけど、そこで異変が起きた。





 僕はリリーに危機が迫っている感覚を覚えた。その瞬間、500倍くらいの超アイに切り替えた。




 道場の縁側の前の庭から、突然3人の男が飛び込んでくるところだった。ひとりは白人。あとの二人は日本人だ。見ると手には、それぞれ拳銃が握られている。




 ライフルの狙撃であれば、飛びついてリリーをかばうところだったけど、この状況は違う。銃を撃つのであれば、庭にいて狙えたはずだ。拳銃は威嚇に使うつもりなんだろうと判断した。駆け上がってきて、リリーに近づいて銃口を突き付けるのに3秒は掛かるだろう。500倍速だと20分もかかる。ゆっくり散歩してきてから捕まえても、充分間に合うタイミングだった。





(どういうふうにやれば、効果的に見えるかな)




 僕にはそう考えるだけの余裕があった。





 まず3人の手首のツボを押して、拳銃をもぎ取った。弾倉から実弾を抜き、テーブルの上のデザート皿の横に並べる。


 それから縁側に足を掛けて飛び上がろうとしたままの姿勢の3人の両すねを砕いた。




 そうしておいて、彼らに一番近いところにいたリリーを抱き上げ、道場から母屋のリビングのソファに移した。これから始まる残酷なシーンを見せるわけにはいかない。




 ゆっくり道場に戻り、縁側に掛け上がろうとしている姿勢のまま、両膝を砕かれたので倒れ込みつつあった3人の男の襟首を掴み、道場の板の間に放り投げた。





 拳銃を確認した。SP2人はニュー南部、SSはS&Wのスノッブノーズを持っていた。




 僕は神威を壁の刀賭けに取りに行き、鞘を抜き、その鞘だけ壁掛けに置いた。

 


リアルタイムに戻す。




「え?」
「な?」
「ぐあ!」
「ぎゃ!」




 いろんな叫びが一度に聞かれた。





「あ! リリーは?」




 アイリーン夫人が最初にこの異変に気づいたようだった。




「大丈夫。僕が母屋に避難させたよ」

「・・・どう、どういうことだ、これは」




 デビッドが状況を理解できないまま叫んだ。




「先日、僕にこけにされた日本のSP二人とあんたの連れてきたSS一人さ。さてどうするかな」





 デビッドはさすがに理解でき始めているようだったが、夫人はこの成り行きがまだ飲み込めていないようだ。

 


「うがが」とうめき声を上げながら道場の板の間を転げ回る3人の迷彩服を見て、初めて自分たちがテロの標的になっていたことを夫婦はようやく悟ったようだった。





 僕はアメリカ人のSSだけを尋問すればいいと考えた。で、SP二人をいじめた。




 両目を潰し(えぐり出しはしなかったけど)、顎を砕いて歯を全部折り、両肩を粉砕し、腕の骨を粉々にし、両手の指を逆に曲げて折り、心臓などの重要な内蔵に刺さらないように肋骨を砕き、股関節を脱臼させ、大腿骨を折り、足の甲の骨を砕いた。





 これで少しでも動ける人間がいたら、それは異星人だろうな。




(あ。キンタマ潰すの忘れてた)




 で、仕上げに睾丸を蹴り潰してあげた。







 アメリカ人のSSはこの様子をじっと見ていた。どう自殺するか、それを必死に探しているんだろう。




「自殺はさせないよ。これからアメリカ大使館に引き渡す。そこで何が行われるかまでは、僕もわからないけどね」

「悪魔め、殺せ!」

「こんなかわいい少年を捕まえて悪魔ってのはないでしょ。そういう育ちの悪い口を塞ぐには・・・そうだ、庭に生えてる竹を活けてあげよう。活花って日本じゃ上品な趣味なんだよね」





 僕は神威を手にして、庭に降りた。少ないながら、篠竹が植えられている。その1本を切り取った。



 葉のついたままの篠竹の枝を、SSの顎をのけぞらせておいて、開いた口から喉の奥まで押し込んだ。




「うぐ・・・」と、情けない悲鳴が漏れた。

「うるさいなあ」




 僕は彼の声帯を潰してあげた。ついでに両目も見えなくしてあげる。神威でちょっとつつくだけだった。





「これは・・・」
「あなたを守る役目のSSだよ。用心するんだね。こうやって、いつ裏切るかわかったもんじゃない」




 3人の元精鋭は、昔の中国の処刑さながらの残酷な仕打ちを受けながらのたうち回っていた。舌を噛んで死ねれば楽なんだろうが、僕が歯を全部へし折っておいたから、それもできない。アメリカ人の口の中にだけ、篠竹に換えて雑巾を押し込み、ガムテープで止めた。





 携帯で警備主任を呼ぶ。




「どうしてこいつらが庭に潜んでいられたんだ? あんた、失業したいの?」





 警備主任の男はブルブル震えながら3人を引き取っていった。



 他の警備の男たちに道場の汚物を清めさせてから、僕はリリーを迎えにいった。





「もう大丈夫だよ。ワルモノたちは僕がやっつけたから」
「あーん。私も見ていたかった」




 とんだサディスティック少女だ。





 3人の襲撃は、僕の技を見せびらかすような形になった。副大統領夫妻は大興奮で、すごいすごいを連発して帰っていった。






リリーは僕とのデートと称して残った。




「門限は守るのよ」





 アイリーンは夫の手前、自分も残りたいとはいえず、僕の手をしっかり握ってはなさないリリーを恨めしそうに見て言った。






 3時間後、ぐったりしたリリーを抱きかかえるように玄関まで連れて行く。



引き戸を開けると、お迎えの運転手とSS2人が立っていた。





「じゃあ、明日の夜は事務所に行くからね」
「ええ。必ず来てね。約束よ」




 リリーはきつく僕をハグし、キスしてから離れた。



 なんだかふつうの少年少女のデートのようだった。

 




「あなた、お疲れさまでした」




 普段着に着替えていた敦子が、僕の体を後ろから抱きしめた。





「敦子の料理、どんな高級料亭よりすばらしかったよ」
「姉さんのおかげで、ずいぶん助かったわ」
「これから女性軍にはVIPの接待役をやってもらうことが多くなりそうだね」
「もう少しレパートリー増やさなくちゃ」





 敦子の眼は輝いていた。これまでの道場主の妻という「陰の存在」から、小暮首相、マイク司令官、エリクソンやデビッドといった「超VIP」から賞賛を浴びる役回りを与えられ、人生が変わったように感じているのだろう。




 マイクも小暮のオッチャンも、そしてアメリカのNo.1と2までもが、うちの女性陣の手料理の大ファンになっているのは、ひとえにママのママ、つまり僕の祖母の料理好きを受け継いだからだと思う。何せ「趣味」でしかなかった料理をフランスのコルドン・ブルーに入学してまで勉強した人だからね、僕のおばあちゃんって。



 それにしても、どうしてママも叔母も和食のほうが得意なんだろ?







(その⑤につづく)


小暮総理から電話が入った。




「なあ、あんまり大人をからかうんじゃないよ。今日のことは聞いたけど、みんな辞表を出してきたぞ」
「あんな無能な連中、雇っておくだけ税金の無駄使いだよ。退職金なしでクビにしなよ」
「おいおい・・・君にかかっちゃ、日米の最上級SS、SPも赤ん坊扱いのようだね。わかった。道場の警備は遠巻きにすることを約束するよ。確かに史上最強の戦士である君といっしょなら、SSもSPも必要ではないだろう」



 ということで、8人の失業者の恨みを買う結果になった警備担当者会議は終わった。



                           **********


 デビッド一家が道場を訪れた当日は雨だった。しっとりと降り続く日本の雨は、古めかしい道場や、日本家屋の母屋のたたずまいの美しさを一層際だたせていた。




 デビッド一行が到着した。車の数はさすがに多かったが、主賓を降ろすとどこともなく去った。


リリーが僕に飛びついて、キスの嵐。




「ああーん。会いたかったわ、ダイ!」
「おいおい。ここで君を抱くわけにはいかないだろ。あとでたっぷりかわいがってあげるから、いまは大人しくしてて」


 まるでいやらしい中年男だね、これじゃ。


 敦子の和服は浅黄色の結城紬だった。地味に見えるが、敦子のおねだりで、銀座の呉服店で買ってあげたものだった。どうしてこんな地味な和服が800万円もするのか、全然理解できない。帯は西陣の綴織というものらしい。合ってるのかなこの組み合わせって。

 しかし、夫人のアイリーンはさすがに服には目が肥えているらしく、




「すばらしい和服ね。高いんでしょ?」




 なんて聞いていた。




 道場で僕は3人の客人に静剛流の「型」を披露した。最初の1巡はリアルタイムで。次は2倍速、その次は5倍速にした。




「すごい!! 君の動き、ほとんど見えないくらい早い!」


 デビッドが目を丸くして賛嘆の言葉を浴びせてきた。




「いまの動き、僕としてはストレッチ体操くらいのスピードなんだけどね。あんまり早くすると、みんなに見えないから」
「・・・東洋の悪魔、か。わかる気がするな。どうだろう、君の最高スピードはどんなものなのか、見せてもらえないかい?」
「うーん。どうしようかな・・・まあ、いいか。でも僕がこういう状態で出せる最高スピードって、現実の危機の時の半分くらいなんだよ。それをわかった上で見ててね」


 僕は母屋の台所に入った。敦子はママに手伝わせての料理におおわらわだった。僕は大根を1本を失敬した。道場にその大根をもって戻る。


「なーにそれ?」




 リリーが無邪気に尋ねた。


「DAIKONっていう日本の野菜だよ。ラディッシュのでかいやつ、かな?」

「それ、どうするの?」

「リリー、僕のこと、信じているかい?」

「もちろん! 私の命、ダイに救ってもらったんだもの。絶対的に信頼してるわ」

「じゃあ、君がそのDAIKONを持って立ってる役をしてくれるね」

「うん。どうすればいいの?」

「そこに立っているだけでいいんだよ」

「OK」


 僕は道場の壁の刀掛けから久しぶりに神威を取った。


 よけいなものを見せてリリーや両親を怖がらせる必要は皆無だったから、そのまま500倍速にして、神威の鞘を抜き、リリーがぶら下げている大根を下から輪切りにしていった。

 

大根のような堅さの物質を切るには、神威の切れ味は鋭すぎるのだろう。ほとんど最後まで全く微動だにせずに空間にとどまっていた。リアルタイムに戻す。



「切ったよ」



 僕がそう言い終わると同時に、リリーの持っているすぐ下から、大根は千枚切りのように薄切りになって畳に落ちていった。

「え? もう終わったのかい?」




 デビッドがそう言った。

「うん。この刀でそのDAIKONを切ったのさ。だから言ったでしょ。僕が本気で動くと、みんなには全く見えなくなるって」



 デビッド夫婦とリリーは畳の上に、千枚漬けのように重なっている大根の輪切りをさわって確かめていた。



 夕食が母屋で供された。最初、和室にする予定だったけど、3人が正座できないのでダイニングテーブルに移した。




 敦子の料理はエリクソンが本気でホワイトハウスの料理人にスカウトした実力が遺憾なく発揮されていた。すばらしい日本料理が並んでいる。



 選ばれた日本酒も小暮の差し入れた秋田の蔵元の自宅用の秘蔵酒、またワインの赤はブルゴーニュのピノ、白はシャブリと平凡な選択ながら、どれも料理にぴたりと合っていた。リリーにはサングリアが出された。




ダイエット中だというアイリーンも驚くほどたくさん平らげた。

「だって日本食って、カロリー的にはとっても低いのよ。このディナーだって、ハンバーガーとポテトとコーク食べるより少ないはずよ」

「昔から日本人は小さいと、内心バカにしていたんだが、この味と量で低カロリーというのが理由だったんだね。平均寿命が世界有数の長さなのもわかるなあ」

「ダイのを見てて思い出すのは、UTAMAROね。あれ、誇張だと思ってたけど、日本食で育つとああなるのかも」

「・・・」



 リリーのいきなりの下ネタにその場が固まった。



(その④につづく)



 10日があっという間に過ぎた。その間、いろいろすったもんだがあった。


「そんなにたくさんのでかい白人や人相の悪いSPがうろうろしてるんじゃ、逆に標的にされやすいだろ。警備は日本人のSP3人、それも部屋の中からは見えないポイントにいること」


 僕が最初の警備計画をあっさり蹴ったので、日米の担当者は怒りまくった。僕のことをほとんど知らない連中だから無理もないけど。


警備担当者会議に呼び出され、僕はいやいや出席した。道場の近くのビルの会議室でやるからと説得されたんだ。


「まず、デビッドがうちに来ること自体、極秘なんでしょ? その上でのこんな警備体制って、矛盾してない? 副大統領の行動が全部漏れてるって前提なの? それ、恥ずかしくない?」


 僕に罵倒されて面目を失った形のシークレット・サービスと日本のセキュリティ・ポリスの幹部は、いきり立った。


「おまえ、何様のつもりだ! 副大統領の娘の友達だかなんだかしらんが、ガキンチョが偉そうな口を利くんじゃない」

「へー。あんた、ホントにバカなんだな」

「な、なんだとお!」

「じゃあ、試してみればいいよ。この前エリクソンを守っていたSSの10人は、僕にあっさりのされたんだよ」

「・・・」

「あー。そのこと聞いてるんだ。それも忘れてたなんて、実際にボケてるんだね、あんた」


 完全な挑発だね。だってこんなバカ面、何度も見たくないからね。体つきから見て、格闘技、空手と柔道の両方をやってきたSP上がりだろうと察しがついていた。挑発してブチのめすにはちょうどいい。


「こいつぅ・・・」

「あれ? 日本語理解できるんだ。ゴリラが服着て座ってるのかと思ってた」


 周りの関係者たちが青ざめるのがわかった。


(この少年、殺されるぞ)

(国賓が懇意にしてるという子供だ。殺されては大変だ)

(それにしてもこの小僧、あれだけの体躯の強面を前に、よくあんなものすごい罵倒ができるなあ。頭悪いようには見えないけど)


 まあ、ひそひそ話はもっと小さい声でしないと。


「あは! 怒りが収まらないようだね。いいよ、ここで組み手の相手したげるよ」

「組み手? 俺とおまえがか? はん! なにを冗談」

「あらら。僕が静剛流っていう古武術の道場主だってことも忘れたの? 僕、いままで誰にも負けたことがないんだよ」

「・・・よし。中庭に出ろ」

「なに言ってるんだよ。ここで十分だ。試合じゃないんだし。それともSPやSSはこういう会議室は初めてで、あがってるの?」


 完全に舐めきった、こけおろしだった。男はいきなりデスクの上に飛び上がった。さすがに今回のSPのチーフを任されているだけある。でも、そこまでだね。


 僕はゆったり5倍速で動いた。同じようにデスクに上がり、男の後ろに回って股間を蹴りあげた。そのまま正面に回り込んで、スラックスのベルトを抜き取ってやった。ゆっくりデスクから降りる。

 全員に僕の動きが見えていたはずだ。ただ、異常にスピードの早い動きを、目の前の少年が行った、という印象だろうか。


「うががっ!」


 男が股間を押さえてうずくまった。その動きでスラックスがずり落ちる。



 みんながそれを見、そして視線を僕に向ける。僕の手には男のベルトが摘まれてぶら下がっている。


「な、なにがあったんだ?」


 SSの一人がそう叫んだ。


「あれ? 今の見えてなかった? この男の金玉を蹴飛ばしてから、ここに戻ったんだけど」

「この・・・」


 次に出てくる言葉が予想出来たので、僕は先回りした。ちょうど会議のあるこのビルには自転車で来ていたんだ。ヘルメットはあの戦闘用の「最新装備」だった。

 


僕はそのヘルメットをかぶり、ゴーグルを下げ、金属探知機のスイッチを入れた。この場に拳銃を持ってきてるのが誰かを探るためだった。


 なんと出席者14人のうち、8人が拳銃所持者だった。全部処理するには50倍速が必要だな。


 僕が8丁の拳銃から弾丸を抜き取って、それぞれのホルスターに戻すまでに要した時間は、リアルタイムでは2分くらい。50倍速では2秒くらいだ。


 僕はサイドデスクの上においてあった、青い切り子ガラスの花瓶の中に50発ほどの実弾を投げ込んだ。


「さて、こんな無能なおじさんたちを相手にしていても時間の無駄みたいだから、僕は帰るね」

「・・・ちょっと待て。そうはいかない。君がどんなにすばらしい古武術の使い手であろうと、今は銃の時代だ。いかな君でも、銃弾は防げないだろう」

「ふん、偉そうに古めかしい言葉を使うんだね。あんた、自分の拳銃が軽くなったのにも気づかないのか? あんたらの中の8人が拳銃所持者だとわかったから、いまそれぞれの銃から弾を抜いておいたよ。嘘だと思うんなら確かめてみたら」


 8人はあわてて拳銃を抜いて弾倉を確かめた。全員が驚愕の表情で僕を見た。


「僕には22口径や45口径の実弾なんて使いようがないんだ。だからそこの花瓶の中に捨てておいたよ。水が入ってるから、早く取り出さないと、雷管が湿るよ。じゃあね。見送らなくていいから」


 僕はそのまま、ビルの前に停めてあった自転車に乗って帰宅した。


(その③につづく)


 エリクソンが大統領に就任した。アメリカの支配構造が大きく変わった。民主党政権下では、融和策のとられていた反米アラブ系国家や修正共産主義国家に対し、強硬路線が敷かれるようになった。


 小暮はエリクソンに来日を促していた。


「なあ三島君。君からもう一度頼んでみてくれないか? 訪欧より先に日本を選んでくれれば、私の政権維持もやりやすくなるんだ」

「こういう時だけ三島君って呼ぶんだね。いいけど、なにを餌にするの?」

「そうだな。駐留米軍へのヤミ支援金の拡充と、オスプレイの追加配備、自衛隊の海外派兵の規制緩和、くらいはやってもいい」



「TPPは?」
「それは・・・ちょっとむつかしいところがあるなあ」
「まあ、僕にはよくわからないけど、ともかく話してみるよ。ホットライン、使うよ」
「ああ、いくらでも使ってくれ。えーっと、君には通訳はいらないんだったな?」
「うん。いつも直かに話してるからね」
「官邸のホットラインより君んちのスカイプのTV電話の方が頻繁に大統領とやりとりしているなんて国民が知ったら仰天するだろうなあ」
「重要なことは別ルートで話してるけどね」
「・・・」


 小暮首相には詳しく教える必要などない。




「ところで、最近はあまり出てこなくなったようだが、『東洋の悪魔』、『東洋の魔女』って話題、知ってるかい?」




 おっと、カマ掛けてきたな。




「なにそれ? 知らないよ」
「そうか。まあいい。で、静剛流の道場の方はどうだ? 聞いたところによると、弟子はほとんどいなくなったそうだが」
「それは仕方ないよ。もともと、きちんと修行していた弟子って、僕ひとりだったし、その僕が道場主となると、習おうって人なんていないよ」
「そうだよなあ。君はかわいらしい12歳の少年にしか見えないからなあ」
「まあ、あんまり僕の実体が知られるのはよくないからね」
「あっちのデカさとか、戦闘能力とか、資産とか、君の実体を知れば知るほど恐ろしくなるからね」
「・・・」

(こいつ、どこかで蹴落としてやろうかな)




 首相官邸のホットラインは、さすがにいい音質だった。





「外遊の最初の訪問国は日本にするってさ」
「おお! ありがたい!!」
「エリクソンは再来月になるみたいだけど、副大統領のデビッドはすぐ来るよ」
「え、すぐって?」
「来週末」
「なんでそんなに早く?」
「娘のリリーがどうしても僕に会いたいんだって」
「くーっ! やっぱり君はすごいなあ」




 僕は横田基地のマイクがどうなるかが一番気がかりだった。



出世は息子の件であきらめているマイクだったけど、僕の数々のミッション成功の立役者であることは、エリクソンも国防相もよく知っているから、ほかの国への配置換えはしないだろうとは思っていた。




「そうだ。私はヨコタが好きだし、エリクソンも、私を君との仲介役からはずすことはしないだろう。だから当分の間、私は日本にいるだろうな」

「マイク、襟賞と胸のバッジ、前と違うね。星ひとつからふたつに増えてるじゃん」

「ああ、気がついたかい? 准将(ブリガディア・ジェネラル)から少将(メイジャー・ジェネラル)に格上げされたんだ」

「! 少将。で、横田基地の司令官のまま?」

「ああ。いま言ったとおりさ」





 僕は練習場にふらりと現れたマイケル・イーストウッド少将とのんびりお茶していた。





「ところで、副大統領が異例の早さで訪日するらしいが、あれは君が呼んだのか?」
「うん。小暮のおっちゃんに頼まれて、エリクソンの外遊先のトップに日本を選ぶように話したんだ。それはOKなんだけど、デビッドの娘のリリーがすぐにでも僕に会いたいって言ってるらしくてね」
「ああ! また君のBIGの登場か・・・セブン・シスターズの一角に食い込んでいたり、エリクソンの政敵を潰したり、ソニアが愛人だったり、副大統領が夫人もろとも君を恩人扱いしたり・・・なんとも恐ろしい少年だよ」



「BIGの方のミッションなら、いつでも受けたげるよ」
「わかったわかった。だが、君が女性を妊娠させられるようになったら、世界の勢力図は大きく変わるかもしれんな」
「・・・油断できないなあ。准将、あ、いや少将。ペンタゴンとCIAはまだ僕を見張ってるの?」
「見張ってるなんて、とんでもない。君や家族に危険が及ばないように見守っているのさ」




「物は言いよう、ってことね。で、僕の戦闘能力の分析はどうなの?」
「そう。そちらは遅々として進んでいないんだ。実際のところ、君はぜんぜんその能力を映像に残していないからな。まあ、ミッション遂行に際して、徹底的に監視カメラを避けて行動しているのは当然だし、映ったと思われるものは破壊してくるんだから、君の戦闘シーンの映像がほとんど残らない。だから、結果と現場検証のデータでしか分析材料がない」
「なるほど。ホントはマイク、米軍の上の方から僕の映像を撮ってくるように言われてるんじゃない?」
「・・・よくわかったね。そう、そのとおり。だが私はそれを断固拒否してきている」




「無理しなくていいのに。映像を撮られても、分析できても、僕の戦闘能力は再現不可能だから」
「そうだろうな。それでも軍の研究所は君の戦闘シーンの映像を喉から手がでるほどほしがっているよ」
「そうなんだ。・・・撮らせて上げてもいいよ」
「え? 本当か?」
「うん。ちょっといたずらな演出はさせてもらうけどね」
「それはありがたい! 本当のところ、やいのやいのうるさくてかなわなかったんだ」


「新しい装甲車と戦車と爆撃機の甲板や機体の実物を相当数ここに運んでおいて。実演を見せるなら、自分たちの作っている武器や装備を実験台にするのが分かりやすいだろ? それから、撮影には少し時間をくれないかな。準備したいものがあるから」




「何をたくらんでるのか知らんが、それは了解した。準備が出来たら教えてくれ。で、公開するって、誰に対してなんだい?」

「今度来るデビッドには、まだ一度も見せてないからね。米国副大統領閣下に見せちゃおうかなと思ってる」

「娘のリリーと奥方のアイリーンはすでに君の大ファンのようだし、その上にデビッドを取り込むんだな。そこまでしなくても、米国にとって君は不可欠な人物だと分かっているはずだが」

「そんなややこしいこと、全然考えちゃいないよ。僕の実像を知るのは、ごくごく限られた人間にしたいんだ。アメリカのNo.1と2なら、それだけで充分でしょ?」

「そうだな、他の人間に見せる必要はないな」





「ということ。だからデビッドが来たら、僕の道場で接待するよ。ママや冴子にも手伝ってもらって、おいしい和食で歓待するつもりさ」
「・・・」
「うらやましそうな顔してるよ」
「あ、ああ。あの3美人が揃うところを見てみたいな」
「またまたー。料理が気になるんでしょ?」
「まあ、本音を言うと、そうだよ」







 それからが大変だった。前回までは上院議員という立場だったのが、副大統領ということになると、受け入れ側の扱い方も大きく変わるようだった。デビッド夫妻とリリーが訪問するとされた僕の道場には、日本の公安とアメリカのシークレット・サービスの調査隊が大量に入って、爆弾の仕掛けられる可能性を調べて回った。




 僕は敦子とママに当日の料理を頼んだ。敦子の作る日本料理は、そこらの料亭の出す懐石料理など足下にも及ばないくらいのレベルだったけど、ママを助っ人に呼ぶ方が気が楽だろう。





道場の検分には僕自身も立ち会うし、いろいろ準備もあるということで、僕はしばらく道場に泊まり込むことになった。小学校にも道場の脇の敦子の、いや、今では僕の家だな、そこから通った。

 

 一方、リリーが僕の事務所の最上階のゲストルームに泊まりたがっているということが分かったので、そちらの方の準備も大変そうだった。この件に関しては、冴子をプロジェクト・リーダーにしたので、なにも心配しなかった。冴子の語学力、事務処理能力、統率力を、僕はよくわかっているからだ。道場の夕餉の料理は敦子とママのふたりに任せた。




「初日はともかく、次の晩からは事務所に泊まらなくちゃいけないだろうなー」

「あら、鼻の下、伸びてるわよ」




 ママはすでにその程度の皮肉しか口にしなくなっていた。リリーが何を期待して僕の事務所に泊まりたがっているか、それは明白だったからね。




「あーあ。人助けもつらいなあ」

「ばーか」

「この女たらし!」





 ママと敦子叔母は口を揃えてそう言った。







(その②につづく)