土の煉瓦で出来ているような平屋の建物が見えてきた。またねそべって望遠ゴーグルで見る。ジープやトラックが並んでいる。
煉瓦の建物が本部なんだろう。その後ろにちょっと低い鉄骨造の窓のない建物があるが、あれは武器・弾薬倉庫だろうな。
敵の建物は勝手がわからない。あぶり出してある程度離れたところから始末するのが得策だろう。
そう考えた。で、その武器倉庫に近づく。さっき落とした1機目のヘリで生き残っていたゲリラが持っていた、変な形の手榴弾を一個持ってきていたのを倉庫のドアの前に置き、離れる。安全ピンらしきものを抜いて走って隠れたんだけど、一向に爆発が起こらない。
「しょうがないなあ」
僕は背中のザックからモーゼルを取り出し、弾倉に新しい弾丸パックを装填した。20発装填できるが、必要なのは最初の1発だけだ。
手榴弾の真ん中をねらって撃つ。あらら、はずれちゃったよ。すぐ2発目を撃つ。
命中! でも、手榴弾は転がっただけで爆発ない。
「あらー、これは困ったな」
と思ってたら、兵舎からゲリラが飛び出し
僕はモーゼルで狙い撃ちした。殆んど顔のど真ん中に当たった。
「こいつら、バカか?」
続々と出てくるゲリラをモーゼルで撃ち殺したけど、切りがないなあと思いはじめたとき、例のロケット・ランチャーを担いだゲリラが出てきた。
僕はそいつの頭を吹き飛ばし、スピード・アイの倍率を50倍速に上げた。転がっている死体の中からマシンガンを拾い上げ、入口から中に向けて全弾をたたき込む。
「これでしばらくは時間が稼げるだろう」
ロケットランチャーを拾い上げる。その操作方法は横田基地で習っていた。ロケットは2発あった。
(おおっと。これは危険なんだ)
僕はあたりを見回したが敵の姿や飛んでくる縦断はない。
(ってことは、あの武器庫か!)
僕はあたりの時間がほとんど止まったままの中を、走って兵舎の裏側に駆け込み、身を伏せた。
ものすごい大爆発だった。いったい何を入れてたんだ?
顔をあげると、土煉瓦作りの兵舎の地上部分はほとんど吹き飛んでいた。僕は体の上につもった土をふり払いながら起きあがった。
あたりを見回す。遠くにジープが転がっている。5台のうちの2台がまともに立っていた。僕はそれに近づく。どちらも動きそうだ。キーは差したままだった。
1台ずつ瓦礫になった元兵舎に乗り上げる。もう1台も同じようにする。
ガソリンタンクをモーゼルで打ち抜こうとしたが、考え直した。地下に人質がいたらまずい。
ジープの後部座席の下に手動ポンプが見つかった。ガソリンタンクのフタを開ける。ポンプをつっこみ。吸い出す。パイプの先を兵舎の床に向ける。ガソリンが流れ出す。ポンプのキャップを取ると、ガソリンが流れ出し続けた。1台目のジープのタンクが空になった。
僕は少し離れた場所で待った。しばらくすると、瓦礫の山が崩れ、階段のあったところから人が転がり出てきた。女性らしかった。ベールで顔を覆っているから判然としないが、叫び声は女性のものだった。
「撃たないで!」そう言っているものと判断して、その女性を見逃す。続けて5人ほど、同じ状態が続いた。
そのあと、しばらく時間をおいて同じような格好の人間が穴から出てきた。
(こいつは女装した男じゃないのか?)
「Hey!」
と声をかけた。その女姿のごつい姿の男は胸元に手を突っ込むと、何かを握り、ピンを抜いた。
(あ、手榴弾か)
僕はその男をモーゼルで撃ち殺した。
「出ててこい。出てこないなら、このガソリンに火をつけるぞ!」
僕は穴の奥に向かってフランス語でそう怒鳴った。
「やめろ。今出ていく。武器は持っていないから撃つな」
ひどいブロークンのフランス語が聞こえた。
「ダッコール。一人ずつだ」
そう言ってから1分ほどして、ベールで顔を覆った女性姿の者を含め150人ほどが並んだ。
「おまえ、何者だ? 子供じゃないか。ほかの兵はどこだ?」
「僕一人だよ。悪かったね」
一同に動揺が走ったようだ。こんな子供にしてやられたのか。その屈辱は激しいと見えた。男たちの何人かが銃を抜いたので、モーゼルで撃ち殺した。ゲリラたちはまだ状況が飲み込めないようだった。一人が手榴弾を取り出し、ピンを抜いた。
(まずい!)そう思ったが、仕方なく穏剣をベルトから引き抜き、手榴弾を投げようとしている男に投げた。男は後ろ向きに倒れ、手榴弾は地面に転がった。
爆風が僕の体も包んだ。遅れることコンマ数秒で元兵舎の瓦礫はガソリンに引火し、燃え上がったと思ったら大爆発を起こした。
僕は危うく巻き込まれるのを50倍速で切り抜けたが、並んでいたゲリラたちは全員跡形もなく吹き飛んでいた。地下には武器庫もあったのだろう。その弾薬、火薬に引火したのだ。
女性らしき姿が38人いたが、助けることは無理だった。全員を殺すことになってしまったが、いたしかたなかった。彼女たちも自爆テロの要員である可能性が高いのだ。
後味は決してよくなかったが、予定を上回る成果を挙げたのは確かだろう。手応えだけはしっかり感じながら、無線でヘンドリックに連絡した。
そのあとは、なんとか動くバイクを見つけたので、一気にグライダーの近くまで走った。
グライダーは着陸したときと同じ様子でたたずんでいた。
バーント・シエナ(油絵具の薄茶色)に塗られた機体と翼。ハイポリマー樹脂とカーボンファイバーで出来たハミングバードⅢは、砂漠を歩いて探さなければ見つからないだろう。打ち合わせどおり、交換用バッテリーがパラシュートで投下されているのを機体から100mくらい離れたところで見つけた。
横田で散々練習させられたので、バッテリーの交換はなんなく終了。滑走に適した地面まで50mくらい機体を押していくのが堪えたけど、なんとか離陸できそうな平面が数百m長あるの地面にたどり着いた。
実際、横田基地の訓練のほとんどはこの「離陸」だった。でこぼこの地面を走って離陸に持っていくのは相当難しい。でも、そんなことは言ってられないから、乗り込んで離陸の準備。すべての計器のチェックを終え、モーターを最高回転に持っていく。
自然に機体が走り出した。
200mも走らないうちにハミングバードはふわりと浮き上がった。
「やったー! 離陸成功っと。これ、ほんとにいい飛行機だなあ!」
夜の帳(とばり)を下ろしたシリア砂漠には、満天の星が耀いていた。
「こりゃサン・テグジュペリの気分だな。やっぱりイタリアじゃなくてパリによって行こうっと!」
第12話 終わり