僕は新宿と渋谷にふたりを連れて行った。用意しておいたクレジットカードをそれぞれに渡し、好きな洋服や靴、そのほかさまざまな日用品を買わせた。彼女たちは非常につつましかった。
「ねえ、ほんとにそれだけでいいの?」
「うん。あんまりファッションには興味ないもの。下着はこんな高級店じゃなくて、近所のスーパーで買うし・・・トレーニングウェア、静剛流のあの黒いの、かっこいいわよね」
絵美がそういうと
「・・・ひとつだけ贅沢していい?」
莉実が言い出した。
「なに? 好きなだけそのカード使っていいんだよ」
「あの、オーディオのいいのを揃えたいんだけど」
「あ、そうか。君たち楽器やるんだから、聴く方も好きだよね」
「うん。田舎でもアマゾンで何でも買えたから」
「CDおいてきたんでしょ? じゃあ、まずオーディオから揃えよ!」
僕は秋葉原の専門店に二人を連れて行き、ビーム管ウイリアムソン式回路の真空管アンプと、中古のレイオーディオの小型モニタースピーカー、アーカムのプレーヤーやデッキなどを購入した。
ふたりが東京に慣れるのは早そうだった。
僕と同じ女子校の中等部2年に通い始めた絵美、莉実はSD部に入り、由里の指導を受け始めた。
さすがに宗一の厳しい訓練で鍛えられてきただけあって、あっという間に「静剛流古武術」の基本をマスターしたんだけど、道場では彼女たちの思わぬ凄さを見ることになったんだ。
「キエーイ!」
気合の入った掛け声とともに莉実がバク転しながらかかと落としを仕掛けてきた。あっけにとられて危うく肩口に食らうところだった。
「シュー!」と息を吐きながら、絵美が道場の壁を駆け上がり、天井付近から前回し蹴りを放ってきた。莉実の方を先に経験していなければ、僕はこの蹴りで失神させられていたかも!
「へー。二人とも凄い身体能力ねえ・・・ちょっと驚いたわ」
「私たち、鹿児島市のパルクール・クラブに所属してるの」
「パルクール・・・かあ。あのリュック・ベッソン監督の『YAMAKASI』のやつでしょ?」
「ええ、そう。さすがー! 私たち、元々新体操やってたし、走り回るのだーい好き! で、あの映画に刺激されて結成したクラブなの」
「でも、うちの流派って、薩摩示現流の影響が強すぎるの。だから剣術と柔術、それに沖縄空手が中心なのね。私たちが今やったような動きをしたら、兄に一発で張り倒されるわ」
「すぅごーいって思うわ。私は二人はその身体能力を生かした方向で技を磨くべきだと思うな」
「やったー! ゆうべ二人で相談したのよ。由里ちゃんならきっとわかってくれるって結論だったから、思い切りやっちゃった!」
僕は元々運動神経が発達している方ではない。身体能力は、スピード・アイを使えなければ普通の12歳並みだし、叔父の道場で鍛えられていなければ、格闘技の能力は高校生レベルだろう。
(スピード・アイを持たない僕なら、この双子に一瞬で倒されてるだろうな)
当然、高等学部、つまり女子高校生を含めた他の部員の指導が行えるレベルだ。
「師範代」の資格を与え、由里不在時の指導を任せることにしたが、「強い者に教えを乞う」のが当たり前の格闘技の世界。不満を口にする部員は皆無だった。
そんなこんなで2週間はあっという間に過ぎ、双子も学校や東京でのっ生活に慣れ始めていた。想像していたけど、ふたりの学力は鹿児島の志學館中等部にいただけに、学年トップを争うレベルだった。
「そろそろ本格的に戦闘員としての訓練を始めるよ」
僕は一緒に登校するスクールバスの中でふたりにそう告げた。
「はい!」
ふたりは即座に答えた。
翌日は土曜日。私立校なので午前中は授業がある。今日はSD部の部員には自主練習を命じた。
「えー! 由里ちゃんも師範代もいないんですかー? つまんなーい」
「そんなこと言ってる暇があったら、型の練習でもしなさい!」
莉実に一括されて、高校生の部員の女の子は舌を出した。
いったんマンションに帰宅する。話しておいたので、絵利香も出かける準備を整えていた。そう、僕は今日、3人の女性を地下練習場に連れて行き、僕の本当の戦闘能力を見せてあげることにしたんだ。
僕の片腕、とはいかないまでも、サポート役になるにしたって、僕がどういう戦い方をするか、僕のスピード・アイがどういうものか、武器とその能力。それらを知っていなくては話にならない。かなりショックだと思うけど、3人一度に体験させる方が面倒がなくていい。
僕はあの古いビルから入るルートではなく、マイクが横田基地から物資や機材、弾薬を運び込むルートを使うことにした。三島 大の動線と、井上由里の動線は、可能な限り重ならない方がいい。
「えー! 由里ちゃんが運転するの?」
地下道に回しておいたジープの運転席に僕が座ると、絵美と莉実は心配そうな顔になった。
「なに言ってるのよ。ダイちゃん、いえ由里ちゃんって、自分の車何台も持ってるのよ」
「そう。公道を走るのは無理だけど、この秘密の地下通路は私道だからね。免許は要らないんだ」
「・・・」
「運転が不安なの? 大丈夫だよ。ぼ、私、いつもフェラーリで170㎞くらい出してるもの」
「170・・・」
まだ不安げな二人の少女と、信頼しきった顔の絵利香を乗せ、僕はジープで地下トンネルを走った。時速100㎞ほどのゆっくりした安全運転だった。
「あー、怖かったー」
ジープから降りると莉実がそう言った。
「あら、すごく安定した、自動車教習所並みの運転だったでしょ?」
絵利香が笑ってそう言った。
「まあ、仕方ないかもね。この格好の僕が運転してる姿って、どうしてもアンバランスだもんね。そんなこと言ってないで、そこのドアを開けて」
普段のこのルートは、僕かマイクの虹彩認証でしか開かない。僕はロックを解除した。
全員が中に入った。僕は壁の大型スイッチをONにした。
「ガシャン!」という、かなり派手な音を立てて、トンネル内のすべての照明が点灯した。僕の秘密の地下練習場がその全容を現した。
「・・・」
あまりにも現実離れした光景なんだろう。
目の前に現れたのは、一番奥が霞んで見えない約2㎞の地下トンネルだった。
数十メートルおきに戦車、装甲車、戦闘機、マネキンタイプの人体標的などが一列になって据え置かれている。台車に乗っているのは、引き込み線を利用して、標的を入れ替えたりするのに便利なようにだった。大型のクレーンやコンベア、リフトなどが反対側のレール上に並んでいるのだ。
(その⑥につづく)