神威(カムイ)の剣 タイム・コントローラーDAI -16ページ目

神威(カムイ)の剣 タイム・コントローラーDAI

小学6年生の美少年・三島大。古武術とタイム・コントロール能力を駆使して、さまざまな敵を殲滅していく超絶アクション小説。

 
 僕は新宿と渋谷にふたりを連れて行った。用意しておいたクレジットカードをそれぞれに渡し、好きな洋服や靴、そのほかさまざまな日用品を買わせた。彼女たちは非常につつましかった。

 


「ねえ、ほんとにそれだけでいいの?」

「うん。あんまりファッションには興味ないもの。下着はこんな高級店じゃなくて、近所のスーパーで買うし・・・トレーニングウェア、静剛流のあの黒いの、かっこいいわよね」

 

 
 絵美がそういうと

 


「・・・ひとつだけ贅沢していい?」

 

 
 莉実が言い出した。

 


「なに? 好きなだけそのカード使っていいんだよ」

「あの、オーディオのいいのを揃えたいんだけど」

「あ、そうか。君たち楽器やるんだから、聴く方も好きだよね」

「うん。田舎でもアマゾンで何でも買えたから」

「CDおいてきたんでしょ? じゃあ、まずオーディオから揃えよ!」

 

 
 僕は秋葉原の専門店に二人を連れて行き、ビーム管ウイリアムソン式回路の真空管アンプと、中古のレイオーディオの小型モニタースピーカー、アーカムのプレーヤーやデッキなどを購入した。

 


 ふたりが東京に慣れるのは早そうだった。

 


 僕と同じ女子校の中等部2年に通い始めた絵美、莉実はSD部に入り、由里の指導を受け始めた。

 


 さすがに宗一の厳しい訓練で鍛えられてきただけあって、あっという間に「静剛流古武術」の基本をマスターしたんだけど、道場では彼女たちの思わぬ凄さを見ることになったんだ。

  


「キエーイ!」

 


 気合の入った掛け声とともに莉実がバク転しながらかかと落としを仕掛けてきた。あっけにとられて危うく肩口に食らうところだった。

 


「シュー!」と息を吐きながら、絵美が道場の壁を駆け上がり、天井付近から前回し蹴りを放ってきた。莉実の方を先に経験していなければ、僕はこの蹴りで失神させられていたかも!

 


「へー。二人とも凄い身体能力ねえ・・・ちょっと驚いたわ」

「私たち、鹿児島市のパルクール・クラブに所属してるの」

「パルクール・・・かあ。あのリュック・ベッソン監督の『YAMAKASI』のやつでしょ?」

「ええ、そう。さすがー! 私たち、元々新体操やってたし、走り回るのだーい好き! で、あの映画に刺激されて結成したクラブなの」

「でも、うちの流派って、薩摩示現流の影響が強すぎるの。だから剣術と柔術、それに沖縄空手が中心なのね。私たちが今やったような動きをしたら、兄に一発で張り倒されるわ」

「すぅごーいって思うわ。私は二人はその身体能力を生かした方向で技を磨くべきだと思うな」

「やったー! ゆうべ二人で相談したのよ。由里ちゃんならきっとわかってくれるって結論だったから、思い切りやっちゃった!」

 


 僕は元々運動神経が発達している方ではない。身体能力は、スピード・アイを使えなければ普通の12歳並みだし、叔父の道場で鍛えられていなければ、格闘技の能力は高校生レベルだろう。

 


(スピード・アイを持たない僕なら、この双子に一瞬で倒されてるだろうな)

 


 当然、高等学部、つまり女子高校生を含めた他の部員の指導が行えるレベルだ。

 


「師範代」の資格を与え、由里不在時の指導を任せることにしたが、「強い者に教えを乞う」のが当たり前の格闘技の世界。不満を口にする部員は皆無だった。

 

 

そんなこんなで2週間はあっという間に過ぎ、双子も学校や東京でのっ生活に慣れ始めていた。想像していたけど、ふたりの学力は鹿児島の志學館中等部にいただけに、学年トップを争うレベルだった。

 

「そろそろ本格的に戦闘員としての訓練を始めるよ」

 

 僕は一緒に登校するスクールバスの中でふたりにそう告げた。

 

「はい!」

 

 ふたりは即座に答えた。

 

 翌日は土曜日。私立校なので午前中は授業がある。今日はSD部の部員には自主練習を命じた。

 


「えー! 由里ちゃんも師範代もいないんですかー? つまんなーい」

「そんなこと言ってる暇があったら、型の練習でもしなさい!」

 

莉実に一括されて、高校生の部員の女の子は舌を出した。

 

いったんマンションに帰宅する。話しておいたので、絵利香も出かける準備を整えていた。そう、僕は今日、3人の女性を地下練習場に連れて行き、僕の本当の戦闘能力を見せてあげることにしたんだ。

 


 僕の片腕、とはいかないまでも、サポート役になるにしたって、僕がどういう戦い方をするか、僕のスピード・アイがどういうものか、武器とその能力。それらを知っていなくては話にならない。かなりショックだと思うけど、3人一度に体験させる方が面倒がなくていい。

 


  僕はあの古いビルから入るルートではなく、マイクが横田基地から物資や機材、弾薬を運び込むルートを使うことにした。三島 大の動線と、井上由里の動線は、可能な限り重ならない方がいい。

 


「えー! 由里ちゃんが運転するの?」

 

地下道に回しておいたジープの運転席に僕が座ると、絵美と莉実は心配そうな顔になった。

 


「なに言ってるのよ。ダイちゃん、いえ由里ちゃんって、自分の車何台も持ってるのよ」

「そう。公道を走るのは無理だけど、この秘密の地下通路は私道だからね。免許は要らないんだ」

「・・・」

「運転が不安なの? 大丈夫だよ。ぼ、私、いつもフェラーリで170㎞くらい出してるもの」

「170・・・」

 

 
 まだ不安げな二人の少女と、信頼しきった顔の絵利香を乗せ、僕はジープで地下トンネルを走った。時速100㎞ほどのゆっくりした安全運転だった。

 


「あー、怖かったー」

 

 
 ジープから降りると莉実がそう言った。

 


「あら、すごく安定した、自動車教習所並みの運転だったでしょ?」

 

 
 絵利香が笑ってそう言った。

 


「まあ、仕方ないかもね。この格好の僕が運転してる姿って、どうしてもアンバランスだもんね。そんなこと言ってないで、そこのドアを開けて」

 

 普段のこのルートは、僕かマイクの虹彩認証でしか開かない。僕はロックを解除した。

 

 全員が中に入った。僕は壁の大型スイッチをONにした。

 


「ガシャン!」という、かなり派手な音を立てて、トンネル内のすべての照明が点灯した。僕の秘密の地下練習場がその全容を現した。

 

「・・・」

 

あまりにも現実離れした光景なんだろう。

 

目の前に現れたのは、一番奥が霞んで見えない約2㎞の地下トンネルだった。

 

数十メートルおきに戦車、装甲車、戦闘機、マネキンタイプの人体標的などが一列になって据え置かれている。台車に乗っているのは、引き込み線を利用して、標的を入れ替えたりするのに便利なようにだった。大型のクレーンやコンベア、リフトなどが反対側のレール上に並んでいるのだ。

 

 

 

(その⑥につづく)

 

その夜、双子は新しい自分たちの住まいに僕、つまり由里を招いた。3人一緒に寝ようというのだ。どこまで由里でい続けるか迷ったけど、鹿児島から上京したばかりのふたりをこれ以上振り回すのはやめにして、おとなしく寝ることにした。

 

でも、おかしな雲行きになってしまったんだ。

 

「ねえ、莉実ちゃん。一緒にお風呂入ろ!」

「え? あのー・・・」

「いいじゃない。お姉さんふたりで洗ってあげるわ」

 

あっという間に両手を引かれ、パウダールームに連れ込まれた。絵美と莉実は自分たちの服をさっさと脱ぎ捨てると、もじもじしてる僕、つまり由里の服をふたりがかりで脱がせ始めた。

 

 こういう「ピンチ」には超アイにはならないんだよね。

 

「え?」

「きゃ!」

 

ふたりの口から同時に声が出た。

 

「由里ちゃん、あなた・・・」

「あーっ! あなた、ダイちゃんでしょ!」

 

「あーあ、見っかっちゃったー」

 

僕は両手で髪の毛をくしゃくしゃといじり、毛の流れを変えた。ある程度付き始めた筋肉。水泳やってたから少し逆三角形の上半身。そしてなにより、まだ垂れ下がってはいるものの、十分大きくなっている股間の一物が、僕が男の子であることを強烈に主張していた。

 

「ごめんねー。ちゃんとわけがあるんだよ。ゆっくり話すから、怒らないでね」

 

「・・・あーびっくりした―! 私、自分の眼がどうかしちゃったかと思ったわ」

「私もー! でもダイちゃんのって、おっきいのねー!」

「やだー!」

 

やだー!って言ってるわりに、絵美はしっかり僕の下半身を見ていた。

 

 

                      *****

 

 

「・・・まだ信じられないわ。ダイちゃんがそんな仕事してるなんて」

「2,000人以上を殺してるんでしょ?  なんてことかしら・・・」

「これが僕の本当の姿なんだ。恐ろしくなったでしょ? 鹿児島に帰る?」

「な、なに言ってるの? 帰るわけないじゃない。こんなものすごい男のそばにいられるだけで、どんなに幸せか・・・」

 

「うん。私、ダイちゃんの片腕になる!」

「え? 片腕?」

「そう。私も薩摩古武術師範の妹よ。小さいころからめちゃくちゃ厳しく鍛えられてきたんだから」

「そう。兄は他人より私たちを厳しく鍛えたの。いつも言ってたわ。『俺のサポートをすることになるかもしれないし、だれか別の侍の妻になるかもしれない。いずれにしろ、お前たちは武士の妻になる運命なんだ。しっかり鍛錬しろ!』って」

 

「ふーん。・・・わかった。学校に行ったらSD部に入部しな。僕が、いや、由里が指導者として訓練してるから、そこで基礎練習をするといい。もっと実戦的な練習は、僕の秘密の練習場でやろう」

「秘密の練習場って?」

「隣の区の地下に作ってあるんだ。全長2㎞くらいのでかいのをね」

「2㎞!」

 

 なんてことを話しながら、僕たちは3人並んでゲストルームにと考えている和室の布団の上で眠った。いつの間にかどちらかの手が僕の下半身をまさぐっているのはわかったけど、ワインを3本開けてたせいか、睡魔には勝てなかった。

 

 

 いい匂いが漂っていた。

 ドアの向こうで、トントンという、野菜を包丁で切る音がしている。

 

(あー、朝なんだあ・・・ママ、お味噌汁作っ・・・?)

 

 

「やあ、もう朝ごはん作ってるの? よく材料があったね」

「おはよう! よく寝てたから起こさなかったけど、もうお昼に近いわよ」

「上に行って、絵里香さんに朝ごはんの材料を分けてもらおうと思ったら、近くに24時間やってるスーパーがあるって教えてくれたの。さすが東京ね。びっくりしちゃった」

「ワイズマートまで行ったんだ。そうだな、自転車も買っておこうね」

 

 

 双子は「由里=大」がばれたことを絵里香に話したらしい。

 

「もう二人ともダイちゃんとエッチしちゃったの? って聞かれたのには参ったわ」

「ダイちゃんって、そんなに手が早いんですかって聞いたら、そっちの方もスーパーマンよ、ですって」

 

ったく絵里香は・・・そうか。ヤキモチだねこれって。

 

「絵里香さん、ダイちゃんのママ役でいろんなところで作戦に参加してるんですってね」

「私たちもダイちゃんの、あ、由里ちゃんのお役にたてるように頑張らなくちゃ」

 

 半分鹿児島風、半分東京風にできた朝食はおいしかった。鹿児島では、道場で合宿するときには彼女たちが三食の料理をすべて作ってきたそうだ。中2にして主婦並みの料理の腕前だった。

 

 その朝は双子の部屋に絵里香も呼んでの朝食となった。

 

「私たち、田舎料理しかできないから、絵利香さんにいっぱい教わらなきゃ」

 

 絵美がそういうと、絵利香が

 

「ミシュラン級のお料理が上手な女性に囲まれてるダイちゃんに気にいられるには、しっかりお料理も勉強しなくちゃね」

 

と煽るように言った。

 

その言葉にうなずく双子を見て、なにか言って混ぜっ返そうと思ってたけど、何も言えなかった。

あまりの真剣な表情に茶々を入れづらくなったんだ。

 

 

 

 

(その⑤につづく)

 

 

「あなたが由里さん? 三島さんによく似てるのね」

「うん、従妹の中で一番似てるって言われるわよ」

「で、三島さんは・・・」

「ねえ、その三島さんって変だよ。ダイちゃんでよくない?」

「そう・・・で、その、ダイちゃん、アメリカからいつ戻るの?」

「そうよね。せっかく鹿児島からダイちゃんに会いに出てきたのに、いないんじゃねー」

「兄さん、昨日ダイちゃんと電話で話したって言ってたけど、あれ、アメリカにいるダイちゃんとお話したのかな?」

 


 絵美と莉実がボストンバッグひとつずつだけを持って上京してきたとき、出迎えたのは井上絵里香、由里の母娘だった。

 


 とまどう二人を僕は梅ヶ丘のマンションに連れてきた。

 


「ここが二人のお部屋よ。これ、玄関の鍵。いちおう家具は揃えておいたけど、気に入らないのがあったら言ってね。すぐ取り替えるから」

 

 
 絵里香は自分の選んだインテリアと家具に自信たっぷりだった。確かに僕が言ったふたりの印象だけがヒントだったにしては十分満足できる選択だと思う。スパイって、こういうセンスも学ぶんだろうか?

 


「と、とんでもない・・・ありがとうございます。こんなにしていただけるなんて、全然考えてなかったから・・・」

(絵美と莉実のどちらの発言かを区別する必要のないときは書かないことにする)

 

 
 二人の住まいは僕と絵里香が住むマンションの最上階、つまり屋上のペントハウスの1フロア下を確保した。もともと12階建てのこのマンション、アメリカ大使館の関係者の持ち物で、僕の井上由里バージョン用に11階から上は空き家にしてあったから女の子二人に住んでもらうのは簡単だったのだ。

 


 12
階4戸のうちの1戸が彼女たちの新居だ。玄関ドア脇に「肝付」という表札も掲げてある。

 


「こんなお部屋・・・凄すぎます」

「いいのよ、遠慮しなくて。聞いてないの? ダイちゃんの収入のこと」

「ええ、なにも」

「あの子、年収は何もしなくて300億円あるのよ。それに彼がアメリカや日本政府からの依頼で動くときは、1回のミッションで10億円は最低で支払われるから、超大金持ちなの。小学生が使い切れる金額じゃないのは分かるでしょ?」

「・・・」

 

 
ふたりは声も出ないようだった。

 

 
 12階の中では最も狭い、98㎡。3LDK プラス サービスルーム、という間取り。洋室ひとつずつをそれぞれの個室にし、残る一部屋の和室はゲストルームとした。

 


 リビングルームには大型TVとソファ類。意外にも姉の絵美がピアノ、妹の莉実がヴァイオリンを弾くというので、リビングにはアップライト・ピアノも置いた。

 


服の数は増えそうになかったけど、それぞれクローゼットを備えた個室には、セミダブルのベッドを入れた。

 


「自炊させる」というのを宗一から聞いていたので、キッチン用品は完璧に揃えた。セレクトは絵利香。

 


「私が由里ちゃんの分と一緒に作るから、料理なんてしなくていいのに・・・」

 


 絵利香はそう言いつつも、プロ用の調理器具やシンプルな食器を楽しそうに選んでいた。



 ペントハウスのキッチンはハイカロリーバーナーどころか、プロが使う中華用ガスコンロ、ガスオーブン、業務用冷蔵庫、ワインセラー、コンベックス。



 調理器具、食器、食材をしまう広いパントリーなどが充実ぶりを見せつけている。

 


「絵利香がママや叔母と同じくらい料理が上手でよかったよ」

「お二人は和食がプロ並みですものね。私はどちらかというと中華とイタリア、フランス料理が得意なの」

「うん、僕、あ、私、洋食系の方が好きかも」

 


 その夜の歓迎夕食会。絵里香ママは手作りのガレットとサムギョプサルと南仏料理でもてなした。

 


「ダイちゃん、いつ戻るのかしら?」

 

 
 僕はまだまだ意地悪だった。

 

「絵美ちゃんと莉実ちゃんって、双子だから同じ趣味なの?」

「同じ趣味って?」

「二人ともダイちゃんに惚れちゃったんでしょ?」

 

 
 惚れたってのは、古すぎるかなあ。

 


「・・・うん、そう。ダイちゃんがうちの道場に来て練習生のみんなや、兄さんまであっけなく倒したのを見てて・・・」

 

 
 絵美が恥ずかしそうに言った。それを受けるように莉実が

 


「あの夜、私絵美に言ったの。私、あの人のお嫁さんになるって」

「え? お嫁さん? ちょっと早過ぎない?」

「ううん。あんな人、何百年に一人しか出ないと思う。あの人のそばで暮らして、あの人の赤ちゃんを産むんだって、その時決心したんだ!」

 

 
 ひえー! おそろしく思い込みの強い子だなあ。

     

「で、絵美ちゃんは?」

「私・・・莉実にはいつも負けてるの。双子だけど、莉実はすごく積極的で、私は引っ込み事案なの。だからこれまで同じ男の子を好きになると莉実にゆずっちゃってたの」

「でも今回はそうはいかない、ってこと?」

「うん。私、ダイちゃんにバージン上げるの!」

「あらら。ふたりともすごい惚れ込みようね。まだ若いんだからもう少しいろんな男の子と付き合ったら?」

 


 絵利香がにこにこしながら恵美に言った。

 


「そうだよ。だいいちあのダイちゃんって、すごい変態だよ」

 

 
 と僕が毒を流した。

 


「変態・・・」

「うん。小学校4年生の時から何十人もの女性と付き合ってきてるし、ダイちゃんが大金持ちなのは、愛人にアメリカの石油メジャーの女性オーナーがいて、ダイちゃんと結婚するか、さもなくば養子なれって迫って、結局愛人になることで落ち着いたって。その愛人がダイちゃんに持ち株を譲って年収300億円!」

「・・・」

「それに、何十人ものガールフレンドやセフレがいて、中年のおばさんから同級生までっていう具合に見境ないし」

 

 
 僕の意図を察して絵里香もたたみかける。

 


「冴子さんっていう、私から見てもほれぼれするくらい美しい女性が、ダイちゃんが成人するのをじーっと待ってるわ」

「?」

「もちろん、ダイちゃんが結婚できる年齢になるのを待ってるの」

「・・・でも、それって変態っていうより、めちゃくちゃモテるってことじゃないんですか?」

「うーん。まあそうね」

「私じゃだめかー」

 

 
 ふたりは相当落ち込んだみたいだった。

 


 僕はちょっとかわいそうになってこう言っちゃった。

 


「でも、あなたたちふたり、すっごくきりっとした美人さんだし、ダイちゃんもふたりのこと、かなり気に入ってるのは確かね」

「え? そうなの?」

「そう。私、ダイちゃんからあなたたちのこと何度も聞いたことがあるし、だいいちダイちゃんのお気に入りじゃなきゃ、東京の身元引受人になるなんてお兄様に言わないでしょ?」

 

 

 ふたりの表情は、あっという間に輝いた。単純だなあ。あんまりいじめちゃかわいそうだよね。

 

 

 

(その④につづく)

 

 

僕が研究対象として入所するのは、ソニアが役員を務める、ロスにある製薬会社『M&Yファーマシーズ』となった。もともと僕の「女性生殖器疾患治癒能力」に着目して、いろいろちょっかいを掛けてきた『バイオクザス』という会社の親会社だし、世界でも有数の大製薬会社だから、研究所内に侵入して「ダイ・ミシマ」の所在を確認するなんてことも難しい厳重警備の研究施設をいくつも有している。

 


 トム・ブラッドレー国際線ターミナルに迎えにきていたソニアは、紅潮した顔で僕に抱きついた。

 

「ダイ、会いたかったわ。3日間は私といっしょよ」

「いっしょって、ハリウッドのソニアのうちには泊まれないよ」

「分かってるわよ。だから研究所内のゲストハウスに泊まるの」

「ははー。それってもともとあった施設じゃないでしょ。ソニアが急きょ造らせた。でしょ?」

「もうー、いやなひとねえ。そうよ、1週間で完成させたの。インスタント・ハウスよ。見て驚かないでね」

 

 

 見て驚いた。ログハウスだったが、漆喰風の塗り壁が施され、暖炉の煙突からは本物の煙が立ち上っていた。中に入るとレッドシダ―の清潔感あふれる香りが満ち、巨大なジャグジーまで設置してあった。

 


「すごいねソニア。ログハウスとジャグジーなんかのパーツは、キットみたいな感じでホームセンターで売ってるけど、漆喰の壁は1週間じゃ乾燥しないでしょ? 自然乾燥なら最低1か月」

「・・・ダイってほんと何でもよく知ってるのねえ。そう。あれ、漆喰に見えるけど、特殊な樹脂を石灰に混ぜ込んだものなの。調湿機能は漆喰並み。触った感じや強度もほとんど同じ。でも完全乾燥に6時間しかかからないっていう新しい素材なの。うちの研究所が2年前に開発して、特許申請中」

「ふーん。なんにしろ、このログハウスは素晴らしい出来だよ。調度品はソニアのうちにあるのと同じ物みたいだね」

「よく覚えてるわね。ダイがうちに来てくれたの、もう2年前よ。そんなことよりダイったらー・・・」

 


 僕は4日後、空軍の輸送機でヨコタに出発した。日本に近づいてからヘアスタイルを変え、服装を変えた。井上由里がそこにいた。

 

 

                        *****

 

 

 由里の復帰は学校中の熱狂的な歓迎で迎えられた。

 

「ねえねえ。由里ちゃん、イギリスに行ってたんでしょ? あんなに完璧な英語話せるのに、語学留学なの?」

「ううん。オックスフォード大学の研究所で、私の論文の公開実験をする準備してたの」

「・・・」

 


 お嬢さんたちは煙に巻いておくに限るということを、僕は前回のこの学校生活の中で学んでいた。


 

僕はこの女子校での生活を再開した。

 


 前回のミッションは小暮首相の要請だったこともあり、僕と絵利香の戸籍は完璧に偽造された。いや、戸籍そのものは役所で作られたんだから、「本物」といえるだろう。僕は12歳の女の子で、名前は井上由里。母親は36歳の絵利香(実際は34歳みたい)。父親をアメリカで亡くし、現在母子家庭。世田谷区梅丘1丁目のマンションに母と娘二人で住んでいる、ということになっている。

 


「本物の戸籍」と「本物の住民基本台帳」があるから、どこをどうつつかれてもボロは出ない。ばれるとしたら、「由里」が裸に剥かれてBIGをさらけ出した時くらいだろう。

 

 
 僕、由里は空手部を再建した。由里がぶっ潰した空手部だけど、元の部員たちに迫られ、復活させたんだ。ただし、静剛流古武術鍛錬場として。もちろん名前は別のを付けた。こんなところで三島 大あるいは鍋島 剛を想像させるようなバカはしない。

 

『セルフディフェンス部』略してSD部。

 

元の空手部の道場をそのまま居抜きで使わせてもらうことになった。部員は約50人。元の空手部の部員に加え、新しく入ってきた女の子が20数人もいたのだ。井上由里の人気は凄まじい。

 

                         
                      *****

 

 

そういうなか、もうひとつ、ある「事件」が起こった。

 

以前、僕が武者修行で出向いて行った(第3話その①)、鹿児島県の薩摩流古武術錬鍛場の若きリーダー、肝付宗一の双子の妹、絵美と莉実が上京してきたのだ。

 

 

「いや、まことに申し訳ない。僕にはあいつらの決意を翻させる力がなかった」

「ふーん。で、中学校は転入するんだよね?」

「うん。こちらで調べてもよくわからないから、君の方で推薦してくれるとありがたいんだけど」

 


「住まいは?」

「学校が決まったら、その近くのアパートでも借りるよ」

「わかった。任せてくれる?」

「学校、見つけてくれるのか?」

「うん。学校だけじゃなく、住むところも提供するよ。それに母親代わりの女性も紹介できる」

 


「いや、そこまで君に世話になるわけには・・・」

「なに水臭いこと言ってるの? 義兄弟でしょ? それくらいは当り前さ。それに、この前は言わなかったけど、僕、相当なお金持ちなんだよ」

「お金持ちって・・・あいつらの生活費くらい、僕がなんとかできるよ」

「まじめすぎるのは時と場合によるよ。じゃあ、僕個人の年収、どれくらいか当ててみて」

「・・・そう言うということは、相当な額、ってことだな・・・年収・・・1千万円!」

「残念。はずれ。300億円くらいあるよ」

 

「300億・・・」

「ほんとは今現在いくらになってるのか僕自身も知らないんだ。アメリカと日本の会社の配当は300億くらいから始まってるけど、このところ僕自身が働いて稼いでるからね。一回の仕事で10億円から100億円くらい。だから、小学生じゃ使い途がないんだ。東北に自然災害に負けない復興住宅を作ったりしてるけど、本当はそんなの国がやるべきでしょ? だから、君の妹たちの生活にかかる費用なんて、まったくなんでもないんだよ。気にしないで、着のみ着のままで、手ぶらで寄越してね」

 

肝付の双子の姉妹が東京に着いたのは、1週間後だった。

 

 

 

(その③につづく)

 

 

最近まで、どの国に行っても「東洋の悪魔」とか「東洋の魔女」のうわさが聞こえてきていた。

 

しかし、「タイムコントロールBOX」の動画が流れて以来、様子が一変した。

 

過激な反応を見せたのが中国。北朝鮮のパクが駆け込んできて“井上由里”の恐怖が伝染したのかもしれない。なんとニューヨークの国連本部、それも安全保障理事会(United Nations Security Council)で、同じ常任理事国のアメリカを非難したのだ。僕のいたずらが面白いことになったわけ。

 

 

この「BOX」はちょっとまともな頭脳の持ち主なら、真剣には取り合わないだろう。しかし、「悪魔、魔女」の情報を断片的にでも入手している人間には、このBOXが冗談とは思えなくなるという「非論理地獄」に陥ってしまうらしい。

 

そして相手の地位が高いほど、彼らの掴んでいる情報量は多くなり、僕の実体に近づいてきてしまう。これはかなり危険な状態だ。

 

僕に関する情報が漏れ出す大元はほぼ特定されたようだ。今後は彼らを「二重スパイ」として偽情報を渡していくようだけど、これまでに知られている情報だけでもかなりやばい。家族が危険に晒されたことはまだないけど、その不安が絶えず僕を悩ませるようになっていた。

 

北朝鮮経由の「東洋の魔女=井上由里説」と「タイムコントロールBOX」のおかげで、僕、つまり三島 大にすべての情報機関の目が集中することはなくなったけど、それでも「過去の実績」が物を言って、僕自身へのアプローチがなくなったというわけではなかったんだ。

 

実は僕、北朝鮮作戦の時にやった「井上絵利香・由里母子」の偽装が結構気に入っていた。男の子が女の子に化けている、というのは、実感として想像しにくいらしく、僕の昔からの友人や、古い付き合いの大人の人とすれちがったり、正面に座ったりしても、その女の子が「三島 大」であるとは思いもしないし、どこかで会ったことがあるなという怪訝な顔ひとつされたことがない。

 

 人間って、先入観、思い込みに支配される生き物なんだろう。最初から「女の子」として僕を見る人は、実際には男の子であり、三島 大というよく知った少年であるとは、一切思い至らないのだった。この事実が僕にある計画を実行する決心を促したんだ。

 

 

 

「しばらく“ダイ”はアメリカの製薬会社の研究所に缶詰めになるよ」

「それ、どれくらいの期間なんだ?」

 

 マイクは怪訝な表情で聞いてきた。

 

「あはは。あのミッションが心配なんでしょ? 大丈夫だよ、フランスには井上由里が行くから」

 

 この時点で、僕はエリクソンから次のミッションを依頼されていた。シリア砂漠で殲滅したバイオテロ研究所に、ウイルスや細菌を卸していた死の商人、アズナブール商会を潰すというミッションだ。でも、それの遂行にはタイミングがある。世界最高のレース、凱旋門賞に合わせてフランスに行くのだ。まだかなり先の話だった。

 


「・・・なんだ、そういうことか。じゃあ、パスポート使って、民間機でアメリカに渡るんだな」

「そうさ。そしてすぐに米軍機で日本に戻る。それから僕は井上由里として、梅ケ丘のマンションからあの女子校に通うんだ」

 

「なるほど。ダイはアメリカ。謎の美少女は小学校へ、ってことだな」

「うん。ダイが不在の時に家族を狙うのはあまり意味のないことだからね。何せ連中は僕、つまり『東洋の悪魔』を捕まえて、そのスピード、タイムコントロールの秘密を知りたいんだから」

 

「だが、君の家族が100%安全かといえば・・・」

「そう。安全とは言い難いね。でも、由里が動けば、連中の目は彼女に集まる。マイクにはCIAを含めた体制を取ってもらって、僕に関する情報漏えいルートと拡散の程度を突き止めてほしいんだ」

「わかった。敵が真相に気付いていないうちに手を打とう。井上由里か。鮮の教会に送られた井上母子のデータはでたらめ。さらに推薦者はこっちが送り込んであった潜入捜査員だから、鮮は井上絵利香、由里という名前だけしか手がかりを持っていない。そのままあの梅ヶ丘のマンションに住んでいてかまわないだろう」


「うん。絵利香はあれでもかなり訓練を受けた戦闘員だからね。万が一あのマンションが襲われたとしても、僕のほんとのママや姉ちゃんたちのように無抵抗で攫われるなんてことはないだろうと踏んでるんだ」

「ダイは静剛流の師範なんだろ? これから彼女を鍛えるってことも視野に入れるといいよ。でもなあ、あの道場にダイがいなくなるのはさびしいだろうな、敦子さんも・・・」

 

「ママや敦子叔母の手料理が食べられなくなることを心配してるんでしょ?」

「あ、いや、そんなことは・・・」

「いいよ。いつでも食べに行ってあげて。二人ともマイクのファンだから、喜んで料理するよきっと」

「いやー、うれしいなそれは」

 

 

 ということで、マイクは僕が秘密裏に日本に帰国する空軍の輸送機の手配をすると同時に、改めて日本国内のスパイ網の摘発と漏えい中継点の洗い出しに乗り出すことになった。

 

 

 僕は絵利香に連絡した。

 

「まあ、うれしい! やっと帰ってきてくれるのね。由里ちゃんがいないときは、私何していればいいか、ほんと困ってたのよ」

「絵利香にはもう少し戦闘能力のアップをお願いすることになるよ」

「・・・」


「今後一緒に作戦に向かうときは、これまでのように運転手や親子の偽装というだけじゃなく、敵地にもいっしょに行ってもらうことになるかもしれない。それにそのマンションを敵が襲撃する可能性だってゼロじゃない。だから、戦闘能力のアップは絵利香の身の安全を図るためにも必須なんだよ」

「・・・わかりました。浮かれてるだけだったの、反省するわ。で、いつからこっちに来るの?」

 

絵利香が寂しがっていたのは、井上由里は北朝鮮から戻った後、短期の語学留学という名目で姿を消していたからだ。実体の少年・三島 大はシリアで「暑いー!」って言ってたからね。

 

 絵利香の声が弾んでいるのは仕方のないことだったろう。

 

 

 

(その②につづく)