シャルル・ドゴール空港に4人が降り立ったのは、パリの朝だった。僕はエア・フランスの機内食をたっぷり食べ、ママはワインをたっぷり飲んだからそんなにおなかは空いてなかったけど、双子がカフェで朝食のクロワッサンとアラビカ豆のカフェオレにしたいというので、彼女たちに付き合ってからホテルに向かった。
チェックインの時刻ではなかったけど、リッツの最上級スイートの予約を入れてあった僕たちは、すんなりと部屋に通された。
船旅のような大きなトランクがいくつか積み上げられている。税関を通らないで、米軍機で運んでこられたものだ。戦闘服や武器、その他の装備が詰まっている。僕たちはこのミッションのために、女の子の服装としてもおかしくない「乗馬服」スタイルを注文していた。
女の子がヘルメットをかぶって不自然じゃないスタイルって、結構すくないんだよね。シャンティーとパリの間を行き来するなら、ツール・ド・フランスの自転車乗りスタイルより、この時期は乗馬スタイルの方が自然でおしゃれだろうというのが絵利香の意見だった。
僕はあの「タイムコントロールBOX」を持ってきていた。どうしようという考えがあったわけじゃないけど、どこかのシーンで使う(見せる?)ことがあるかも、という予感からだった。
僕のオリジナル自転車はエントランスホールのクロークに置いてあった。サドルを引き抜くと、神威が鞘ごと収まる。
僕たち4人は休憩の後着替えてシャンティーに向うことにした。下見だ。絵利香がレンタカーのルノーを運転する。二日後の週末にロンシャン競馬場で行われる凱旋門賞の前に、出走場のたくさんいる厩舎や牧場や、競馬博物館を見に行くという設定だ。
僕は応接室に置いてある大きな船旅用のルイ・ヴィトンのトランクを開けて、乗馬服に模した戦闘服に着替えた。12歳の少女らしいファッションだ。振る装備を仕込んだ乗馬用ヘルメットもかぶる。デイパックに静竜とモーゼル・レッド9、その弾倉を詰め、ベルトの穏剣10枚と予備カートリッジを確認して、僕の準備は終わった。
絵美莉実も乗馬服に着替える。莉実は手甲をブラウスの下に着けた。それぞれの銃とカートリッジや予備の矢をデイパックに入れる。
莉実の刀、彼女は「桜丸」と呼んでいる。なぜか鞘が薄いピンクがかった白だからだろう。僕はこの色使いには首をひねったけど、莉実はどういう趣味かすごく喜んだ。僕より伊勢仁の方が女心をわかってるってこと? その刀をどう隠すかが、ちょっとした議論の対象となっていた。僕は神威を自転車のフレームに隠せるようにしているし、絵美の静竜は40㎝と短いからとくに問題はない。しかし、桜丸は柄まで入れると62㎝ある。
「今回は乗馬スタイルだから、ポロのスティックケースで運んだら?」
絵利香のこの提案が採用された。スウェーデンのサルミング社のフロアスティックケースを購入してきて、それに入れたが、全然違和感はなかった。さすが絵利香。
いろいろ装備や武器をチェックしていると、マイクから連絡が入った。
「・・・わかった。すぐ動くよ」
「みんな、いまから狩りに出かけるよ」
「まあ、今日決行するの?」
「ああ。ジュールとミッシェル親子が明日からはバラバラに宿泊するっていう情報が入ったんだよ。実行するのは今日がチャンスなんだ」
ホテルが用意してくれたレンタカーは、ルノーのワンボックスだった。自転車もラゲッジに積める。
僕はママの横の助手席に座り、後部座席に双子が座った。ふたりとも先ほどから無言だ。無理ないよね。生まれて初めて人を殺しに行くんだから。
車は1時間でシャンティーの街に着いた。
大きな牧場が森の中に点在し、城がそのまま厩舎になっているところも多い。シャンティーは競馬の街だった。
アズナブールの城に向う。ママ≒絵里香は、少し離れた幹線道路沿いのカフェで待つ手はずだ。
双子は別々に車を降り、歩いて城に向う。ここから先は3人は個別行動だ。なにせ800人という大量の傭兵軍団を相手にするんだ。こちらの人数の少なさは気づかれない方がいい。
僕はすでに愛車になりつつあるオリジナル・マウンテンバイクをこぎながら、城が見渡せる場所を探した。映像であたりを付けてあった丘のうち、ひとつは森が深すぎて城が見えなかった。で、もう一つの方に回った。
「うん、ここでいい」
城から約200m。低い灌木の茂みが丘の上を覆っている。すぐ近くに太い幹の樹木の森もある。
僕は一本の大木に上った。真っ昼間だから、城の様子がよく見える。ヘルメットからゴーグルをおろし、望遠にする。城の中庭に完全武装の兵士たちがたむろしている。
まさか、まっ昼間から襲ってくる者がいるとは考えてないのだろう。タープを張った下にテーブルを置き、ワインの瓶を並べて、ランチタイムを楽しんでいる集団もいた。
バッグからモーゼル・レッド9のホルスターと弾倉10本を取り出した。
(さて、遠距離射撃の練習の成果が試される時がきたな)
ヘルメットから出ているインカムのマイクで恵美と莉実に呼びかける。
「E&R、スタンバってるかい?」
莉実の声がインカムのイヤホンから聞こえた。
「A地点はちょっと狙撃には向いていないからB地点の小屋の屋根にしたわ」
屋根ねえ。さすがパルクール・クラブ! 実戦にはどんなスポーツよりパルクールって有益かもしれないな。
「OK! Eも準備できたか?」
「ちょっとまって・・・うん、OKよ。こっちは最初の計画通りC地点の樹の上。銃も準備OKよ」
「よし。じゃあ僕が撃ち始めたら、ふたりも狙い撃ちを開始して・・・ふたりとも大丈夫か? トリガーを引けるかい?」
「うん、私は大丈夫みたい」
「わたしも! Yのバックアップ、任せて!」
いざとなったら、女性の方が肝が据わるってのは、これまでもたくさん見てきた。二人の声のトーンからすれば大丈夫だろうと思った。万が一傍受されていることを考えて、それぞれをかしら文字で呼び合う約束もちゃんと覚えているようだったし。
(その④につづく)