神威(カムイ)の剣 タイム・コントローラーDAI -15ページ目

神威(カムイ)の剣 タイム・コントローラーDAI

小学6年生の美少年・三島大。古武術とタイム・コントロール能力を駆使して、さまざまな敵を殲滅していく超絶アクション小説。


シャルル・ドゴール空港に4人が降り立ったのは、パリの朝だった。僕はエア・フランスの機内食をたっぷり食べ、ママはワインをたっぷり飲んだからそんなにおなかは空いてなかったけど、双子がカフェで朝食のクロワッサンとアラビカ豆のカフェオレにしたいというので、彼女たちに付き合ってからホテルに向かった。





チェックインの時刻ではなかったけど、リッツの最上級スイートの予約を入れてあった僕たちは、すんなりと部屋に通された。

 


船旅のような大きなトランクがいくつか積み上げられている。税関を通らないで、米軍機で運んでこられたものだ。戦闘服や武器、その他の装備が詰まっている。僕たちはこのミッションのために、女の子の服装としてもおかしくない「乗馬服」スタイルを注文していた。





女の子がヘルメットをかぶって不自然じゃないスタイルって、結構すくないんだよね。シャンティーとパリの間を行き来するなら、ツール・ド・フランスの自転車乗りスタイルより、この時期は乗馬スタイルの方が自然でおしゃれだろうというのが絵利香の意見だった。



 


 僕はあの「タイムコントロールBOX」を持ってきていた。どうしようという考えがあったわけじゃないけど、どこかのシーンで使う(見せる?)ことがあるかも、という予感からだった。



 


 僕のオリジナル自転車はエントランスホールのクロークに置いてあった。サドルを引き抜くと、神威が鞘ごと収まる。





僕たち4人は休憩の後着替えてシャンティーに向うことにした。下見だ。絵利香がレンタカーのルノーを運転する。二日後の週末にロンシャン競馬場で行われる凱旋門賞の前に、出走場のたくさんいる厩舎や牧場や、競馬博物館を見に行くという設定だ。





僕は応接室に置いてある大きな船旅用のルイ・ヴィトンのトランクを開けて、乗馬服に模した戦闘服に着替えた。12歳の少女らしいファッションだ。振る装備を仕込んだ乗馬用ヘルメットもかぶる。デイパックに静竜とモーゼル・レッド9、その弾倉を詰め、ベルトの穏剣10枚と予備カートリッジを確認して、僕の準備は終わった。



 


 絵美莉実も乗馬服に着替える。莉実は手甲をブラウスの下に着けた。それぞれの銃とカートリッジや予備の矢をデイパックに入れる。



 


 莉実の刀、彼女は「桜丸」と呼んでいる。なぜか鞘が薄いピンクがかった白だからだろう。僕はこの色使いには首をひねったけど、莉実はどういう趣味かすごく喜んだ。僕より伊勢仁の方が女心をわかってるってこと? その刀をどう隠すかが、ちょっとした議論の対象となっていた。僕は神威を自転車のフレームに隠せるようにしているし、絵美の静竜は40㎝と短いからとくに問題はない。しかし、桜丸は柄まで入れると62㎝ある。





「今回は乗馬スタイルだから、ポロのスティックケースで運んだら?」



 


 絵利香のこの提案が採用された。スウェーデンのサルミング社のフロアスティックケースを購入してきて、それに入れたが、全然違和感はなかった。さすが絵利香。





いろいろ装備や武器をチェックしていると、マイクから連絡が入った。





「・・・わかった。すぐ動くよ」
「みんな、いまから狩りに出かけるよ」
「まあ、今日決行するの?」
「ああ。ジュールとミッシェル親子が明日からはバラバラに宿泊するっていう情報が入ったんだよ。実行するのは今日がチャンスなんだ」



 


 ホテルが用意してくれたレンタカーは、ルノーのワンボックスだった。自転車もラゲッジに積める。





 僕はママの横の助手席に座り、後部座席に双子が座った。ふたりとも先ほどから無言だ。無理ないよね。生まれて初めて人を殺しに行くんだから。





 車は1時間でシャンティーの街に着いた。





 大きな牧場が森の中に点在し、城がそのまま厩舎になっているところも多い。シャンティーは競馬の街だった。





 アズナブールの城に向う。ママ≒絵里香は、少し離れた幹線道路沿いのカフェで待つ手はずだ。





 双子は別々に車を降り、歩いて城に向う。ここから先は3人は個別行動だ。なにせ800人という大量の傭兵軍団を相手にするんだ。こちらの人数の少なさは気づかれない方がいい。





 僕はすでに愛車になりつつあるオリジナル・マウンテンバイクをこぎながら、城が見渡せる場所を探した。映像であたりを付けてあった丘のうち、ひとつは森が深すぎて城が見えなかった。で、もう一つの方に回った。





「うん、ここでいい」





 城から約200m。低い灌木の茂みが丘の上を覆っている。すぐ近くに太い幹の樹木の森もある。





 僕は一本の大木に上った。真っ昼間だから、城の様子がよく見える。ヘルメットからゴーグルをおろし、望遠にする。城の中庭に完全武装の兵士たちがたむろしている。





 まさか、まっ昼間から襲ってくる者がいるとは考えてないのだろう。タープを張った下にテーブルを置き、ワインの瓶を並べて、ランチタイムを楽しんでいる集団もいた。





 バッグからモーゼル・レッド9のホルスターと弾倉10本を取り出した。





(さて、遠距離射撃の練習の成果が試される時がきたな)







 ヘルメットから出ているインカムのマイクで恵美と莉実に呼びかける。





「E&R、スタンバってるかい?」





 莉実の声がインカムのイヤホンから聞こえた。




「A地点はちょっと狙撃には向いていないからB地点の小屋の屋根にしたわ」





屋根ねえ。さすがパルクール・クラブ! 実戦にはどんなスポーツよりパルクールって有益かもしれないな。





「OK! Eも準備できたか?」
「ちょっとまって・・・うん、OKよ。こっちは最初の計画通りC地点の樹の上。銃も準備OKよ」
「よし。じゃあ僕が撃ち始めたら、ふたりも狙い撃ちを開始して・・・ふたりとも大丈夫か? トリガーを引けるかい?」
「うん、私は大丈夫みたい」
「わたしも! Yのバックアップ、任せて!」




 

 いざとなったら、女性の方が肝が据わるってのは、これまでもたくさん見てきた。二人の声のトーンからすれば大丈夫だろうと思った。万が一傍受されていることを考えて、それぞれをかしら文字で呼び合う約束もちゃんと覚えているようだったし。










(その④につづく)



「えー! フランス?」

「きゃー!」

「やったー!」

 


「おいおい、遊びに行くんじゃないんだよね」

「でも、ロンシャン競馬場って、パリにあるんでしょ?」

「そうだけど・・・で、みんなで行くってことでいいんだね?」

「はーい!」

 

 
 合唱が返ってきた。僕のミッションの手伝いをする気あるんだろうか?

 


 パスポートを持ってない絵美と莉実はその取得に有楽町に。絵里香は実家に帰るという。

 


「絵里香の実家ってどこなの?」

「京都よ」

 


 以前から言ってた和服を取りに帰るんだろう。

 

 

 いろいろ大騒ぎの続く中、マイクが梅ヶ丘にやって来た。

 


「いやあ、敦子さんの茶碗蒸し、3個ごちそうになってきたよ」

「マイクはあれが異常に好きだよね」

「うん。もう中毒だな」

「で、道場はOKなの?」

「ああ。まったく監視者の影もない」

「ダイがアメリカに行ってるってことが知れ渡っているってことか・・・それ、二重スパイが成功してるってことなのかな?」

「ああ。情報網は生きてるってことだろうな」

「国レベルならいいんだけどね」

「?」

「制御システムが滅茶な行動を抑制するってこと。ヤクザって知ってる?」

「ジャパニーズ・マフィア、だろ?」

「まあそうだね。日本では昔から言われてるんだ。『ヤクザも上の方なら安心だけど、下っ端のチンピラは怖い』ってね」

「なるほどね。システム内の人間は政治的、論理的な統制下にあるけど、そこに入らない者は突拍子もない行動に出る、ってことだな」

「そう。世の中、バカが一番怖い」

「私にはもっと怖い存在があるが」

「?」

「家内、さ」

「あ、あはは」

 

 

「で、アズナブールの泊まるのはパリ?」

「パリの市街地じゃないよ」

「じゃあ、シャンティー?」

「知ってるのかい?」

「いや。フランスで行ったことのあるのは、パリとニースだけだよ。でも、凱旋門賞に出走させるんなら、シャンティーで調教を積むんじゃないかって思ったんだ」

「やつらはシャンティーに大きな牧場と厩舎を持っているからな」

 

 
マイクは僕のPCに画像を出しながら、ゆっくりと計画を話し始めた。

 


「観光客として行ってもらう。絵利香は双子とパリ見物かな?」

「いや、競馬好きってことで、シャンティーに4人揃って行くことにするよ」

「戦闘に参加させるのか?」

「絵利香は運転手。でも双子は援護チームを組んでもらうつもりだよ」

「銃の腕はこの前見せてもらったが、精神的には大丈夫なのか、あのふたり?」

「うん。実際人を殺すシーンになったら怖気づく可能性はあるけど、まあ大丈夫だと思うよ。なにせ叔父とよく似た気質の兄に仕込まれて育ってるからね」

「鍋島 剛か・・・いろいろ噂は聞いているよ。日本で一番強いと言われた侍だったようだね」

「うん。僕が負かして、ショックで修行に出た。あ、そうだ、敦子叔母はその鍋島 剛の奥さんだったんだよ」

「ああ、そうだね・・・表札がミシマになってるから、ついそのことを忘れてしまっているよ」

「うん。離婚した後、僕があの道場と家を買い取ったんで表札も変わってるんだ」

「敦子さん、さびしがってたぞ。ダイちゃんはいつまでアメリカにいるのかしら、ってね」

「まあ、身内から騙さないとね。彼女はほとんど僕のマンションに行ってるんだ」

「ダイのママも井上由里のことは知らないんだね?」

「うん、家族全員、僕は今、アメリカにいるって思ってるよ。何日かおきに電話するけど、『ずいぶんはっきり聞こえるのね』なんて言ってる」

 

 

「で、絵美莉実姉妹だが・・・」

「ん?」

「このミッションに女性3人を連れて行くのはわかるが、シャンティーの城を襲う時はダイひとりの方がいいんじゃないか?」

「そのつもりだったけど、あの子たち、納得しないんだよ」

「一緒に襲撃に加わるっていうのか?」

「そのつもりで訓練してるしね。まあ、まだ一人も人間をキズつけてないんだから、実戦となったらビビるってこともあるかもね」

 

 
 そうマイクとは話したけど、僕は絵美、莉実のふたりは、そのあたりのヤクザや警察官より度胸も覚悟も上だとみていた。

 


「私、ほんとうの人に銃口を向けてトリガーを絞れるかしら?」

「うーん、私もわかんないなあ。でも、その覚悟はあるよ」

「そうね。私、銃を使う前に刀で斬りこんでみたい気もするし」

 


 なんて話してた。確かに銃弾を撃ち込むのと、刀で相手の体を斬るのとでは、「人を殺す」実感がまるで違う。刀を使うと、「人を斬った」という実感と同時に「斬られる痛み」も感じるんだ。切られたこともわからないまま絶命してしまう神威は、少し僕の痛みを軽減してくれている。

 


 生きた人間の胴体をノコギリで挽いて殺すことがあったら、それは僕の方もめちゃくちゃ痛みを感じるだろうね。

 

 


 絵美莉実姉妹を井上絵里香・由里母子とどういう間柄とするかも少々悩ましかった。

 


「由里ちゃんの双子のお姉さん、じゃだめなの?」

「パスポート、肝付、でしょ」

「あ、そうか・・・」

「ま、いいか。親戚のお姉ちゃんたちで、東京に国内留学してるってことで」

 


 この「親戚の双子のお姉ちゃん」の今後のために、僕は小暮首相にまたニセの戸籍を作らせることにした。ママと敦子のいとこが肝付姉妹の母親という戸籍だ。それ以上は詳しく調べないだろう。

 

 

 ターゲットはシャンティーの街外れにある、大きな古城を厩舎にしている大金持ちだった。世界90カ国に支社を置くという総合商社アズナブール商会のボス。裏の顔はロシア、中国、リビア、イラク、シリア、北朝鮮、IRAなどに武器を流している兵器商人。シリアで僕が殲滅したバイオテロ研究所で扱ってた変異性ウイルスを売ったのも、この商社だという。

 


「彼がジュール・アズナベル。あ、アズナブールか。フランス語読みはやっかいだな。ダイはフランス語は大丈夫なのか?」

「まあ、得意じゃないけど、日常会話くらいな何とかなると思うよ」

「絵利香は堪能だから、君もある程度話せるのが自然だな。双子は英語オンリーでもいいだろう。で、ここがその城の周辺だ」

 


 マイクはPCにDVDをセットした。動画が映る。ストリート・ビュー的な画像が出た。城の前の公園のベンチで、一人の老人がスポーツ新聞を読んでいた。その新聞の日付を見ると3日前。ごく最近の画像だった。

 


 アズナブール商会はフランスとカナダの国会議員にかなりのコネクションを作っている。特にカナダのケベックには絶大な影響力を持っているという。

 


「で、この親子を殺せばいいの?」

 

 
 僕はモニターに映るふたりのフランス男の顔を見ながら少将に尋ねた。

「最低限はそうだ」

「最低限?」

「ああ。アズナブール商会は兵器やウイルスだけではなく、傭兵を持っている。その数1000人。この傭兵がやっかいでね。もと米軍の海兵隊員やグリーンベレー、フランスの外人部隊隊員など、プロの殺人軍団なんだが、アズナブールはこの傭兵たちを、共産圏の軍事指導者として今言った国の軍に送り込んでいるんだ。彼らが鍛えた兵士は優秀なんだよ」

「でも、シャンティーにはアズナブール親子しかこないんだろ?」

「厩舎はシャンティーのその城の中にある。ふつうなら、せいぜい愛人数人だけを連れて1週間ほど泊まる」

「あー! 何か仕掛けたんだね?」

「そうだよ。東洋の魔女をエリクソンがパリに送り込んで、アズナブールの暗殺を計画しているっていう情報を、例の二重スパイからフランスとカナダの情報局に流したんだよ」

「ふーん。それで、アズナブールは何人の傭兵を呼び寄せるんだい?」

「抱えている傭兵の中でも、指導者クラスではなく、実戦部隊の若手800人だと予想している」

「800人!」

「多すぎるか?」

「いいや。少ないとは言わないけど。・・・で、その全員を殺すの?」

「出来れば。最低限はさっき言ったようにアズナブール親子を殺せば目的の80%は達成したことになる。ジュールには息子が2人いて、長男ミッシェルは必ず城に入ることはわかっている。今回の凱旋門賞に出る馬の直接の馬主がその長男だからね。もうひとりの次男ロベルトは・・・まあ、来ないだろうな。ずーっとモナコに住んでいて、父親の要請を全く聞かず、商売にも関心を持っていないようだからね」

 


 つまり、アズナブールと長男を殺せば、アズナブールの組織は崩壊するのだ。ついでに傭兵を殲滅すれば、次男が跡を継ごうという気もなくなるのは確実だろうという。

 

 

 

(その③につづく)

 

地下練習場に弾薬庫が必要になった。絵美と莉実の消費する弾薬の量が半端じゃないので、9㎜パラべラム弾の木箱をいくつか保管する場所がいるんだ。いかに地下とはいえ、数千発の実弾をむき出しで置いておくわけにはいかないもんね。

 


 厚さ40㎝のRC(鉄筋コンクリート)造の弾薬庫を僕が設計し、双子と3人で手作りする。鉄筋や番線、型枠、コンクリートの材料はマイクに頼んで運んでもらった。

 


 鉄筋の組み上げは結構大変だった。出来上がった鉄筋を内側にして、型枠を組む。

 


 電動コンクリート・ミキサーにセメント、砂利、水を入れ、ミキシングする。流し込む。

 


 屋根は折板鉄板を重ね、壁の上面のアンカーボルトに留める。出入り口は片開きのスチールドアで、一応テンキーのロックも付けた。1800㎜×5400㎜、つまり3坪という小さな弾薬庫だけど、日本で個人所有のものとしては大きな方だろうね。スチールのラックを並べ、木箱入りの銃弾やプラスチック爆弾、液体焼夷薬の瓶、各種雷管、信管、静竜の矢の箱などを区分して並べた。

 


 拳銃はスイートルームの床にアンカーボルトで留めた200㎏重の金庫にしまうことにした。いずれにしろ、この地下練習場に侵入してくるのは、単なるコソ泥ではなく、ゲリラかテロリストだろうから、スチールドアや金庫なんて意味ないんだけど、まあ「雰囲気」だね。

 


 絵美と莉実の射撃の腕は、あっという間に僕を追い抜いちゃった。悔しいけど、こればかりは天性のものだから仕方ないな。艶消しのブラックコーティングされたワルサ―PPKやベレッタM85はカッコよかった。

 僕にも1丁欲しかったけど、モーゼルの長距離射撃は捨てがたいし、拳銃を2丁持って戦場に臨むのは、侍らしくなくて、僕の美学に反するからやめにした。命中精度でいえば莉実が絵美を少し上回るくらいだったけど、絵美は速射や曲打ち、つまり飛び上がって空中で撃つなんてのが得意だったので、甲乙つけがたい。

 


 いずれにしても、この双子の中学生はその射撃の腕前だけで、優秀な暗殺者になるだろうと思った。

 


 莉実の刀が届いた。僕の神威より少し長い。小刀と脇差の中間くらいの大きさだ。

 


「うわー、きれい!」

 

 
 莉実の第一声はこれだった。確かに伊勢仁の打つ刀は、どれも美しい。しかし、その真骨頂は切れ味と強さだ。僕は神威でこれまでに何百人斬ってきただろうか? まだ一度も刃こぼれしたことはないし、研ぎに出さなくても切れ味は全く衰えない。

 

 
 ふつう、日本刀の手入れは「打ち粉」を打ち、和紙で拭い、丁子油を薄く塗っておくくらいだけど、それは「人を斬っていない刀の錆止め」が目的なんだ。僕のように、一度に何百人という肉や骨を斬った後は、研ぎに出さないわけにはいかないだろう。というより、これまでの日本刀で、何百人も切った刀があったとは思えない。映画の「座頭市」の刀くらいだろう。

 

 
 神威は異常な刀だ。僕がスピード・アイ状態で振るうとき、その切れ味は最高のものとなる。斬甲剣で行うことが多いけど、アメリカ軍の戦車の砲身を断ち切ることが出来る。その斬甲剣よりもさらに鋭く、かつ粘り強い丈夫さを持つのが神威だった。刃に付いた血糊や脳症は水の中で数回すすぐだけであっさりと落ちてしまう。

 

 
 僕はこれまでミッションの終了したあと、水洗いしてナイフ用のホーニングオイルで磨くだけでしまいこんでいる。

莉実の新しい刀は、その神威と同じ材料と製法で作られたものだ。スピード・アイにならない莉実であっても、その切れ味は最高だろう。

 


「莉実は接近戦になることが多くなるだろうな。僕と同じ戦闘服とヘルメットに加えて、手甲を着けるのを正装とすることにしよう」

 

 
 この「手甲」というのは、ハイパーカーボン繊維で織りあげられたアームサポーターのことだ。以前僕が研究所に依頼して完成したもので、その防弾、防刃性能は、斬甲剣で僕が切りつけても断ち切れないほど優秀だった。

 

 
 この手甲を追加装備とする莉実のフル装備の姿はカッコいいというより、色っぽかった。そのことは本人には言わなかったけどね。

 

 
 絵美の静竜は矢の改良を終えていた。対象に突き刺さった衝撃で仕込んだ毒液が噴出する仕掛けは、かなり細密な加工技術を要するということで、内容を明かさないまま日本の下町の工場に依頼されたようだ。


 上がって来た試作品は、外見はほとんど僕の使っている矢と同じだった。ただ、先端付近に小さな孔が4個あり、そこから液体が噴出すると分かった。液体の吸い込み方は万年筆のインクの吸い方と同じで、矢を専用のホルダーに固定して逆さに置き、そのホルダーに液を満たす。そして矢の本体、シャトルをゆっくり回すと先端の孔から液が吸い込まれていく。満タンで1㏄。

 

 

「1㏄もあれば、アフリカゾウでも即効で倒れるくらいに強力な猛毒だからね。取り扱いにはくれぐれも注意してよ」

 

 
 僕はマイクの受け売りを絵美に伝えた。その猛毒はボツリヌストキシン。矢への注入、保護キャップの装着は3人が一緒の時に限ることにした。

 

 
 ほかにも、一時的に意識を失うものや、意識はあっても体が動かせなくなるもの、視力だけを奪うもの、など、マイクはいろいろと取り揃えてくれた。これらは弾薬庫に冷凍庫を入れ、そこに保管した。

 

 

「いろんな病原菌を仕込んで、対象を病気にすることも出来るな」

「それって、僕が殲滅したシリアのテロリストとたいして変わんないモラルじゃないの?」

「ああ。でも、裏社会じゃ、そういう暗殺が横行してるんだよ」

「やな時代だね」

「で、今度の依頼がその『病原菌も売る死の商人』を抹殺してもらうって仕事なんだ」


「アズナブール商会の会長?」

「うん。会長のジュールより、息子のミッシェルの方がいまは実権を握っている。このふたりが年に一度だけ、確実に一緒にいるというチャンスがもうすぐ来るんだ」

「10月・・・わかった、ロンシャン競馬場の凱旋門賞!」

「さすがに頭の回り方が早いな。そう、今年の凱旋門賞に、アズナブールの長男が馬主の競走馬が出走するんだ」

「その馬、結構強いみたいだね。1番人気か2番人気になりそうだって、絵利香が言ってたもん」

「絵利香さんは競馬ファンかい?」

「そうでもないらしいけど、ファッションに詳しいからね。一度ロンシャン競馬場の馬主席に和服で行ってみたいわ、なんて言ってたなあ」


「ふーむ。ちょっと当たってみるけど、うまくすればそれ、実現できるかもしれないな」

「?」

「ダイ、君はイギリス大使の娘をアイルランドの過激派から救出しただろ? イギリス大使はロンシャン競馬場に席を持っているし、凱旋門賞には招待されてるんじゃないかな」

「なるほどね。でも、行くなら井上由里で行くことになるよ」

「ああ、そうだな。別にそれはかまわないだろう。絵利香さんと二人でのんびり競馬観戦、と洒落込むか」


「じゃあ、ついでに僕の助手ふたりを連れてっていいかな?」

「助手? ああ、あの双子ちゃんか。彼女たち、見かけはあんなにかわいらしいのに、いったいどれくらい撃つんだってほど9㎜弾を使いまくっているな」

「うん。実はね、あの子たち、僕の射撃のレベルをとっくに超えちゃってるんだ」

「ふむ。それはすごいな。ダイの射撃の腕前はよく知ってるけど、米軍のスナイパーレベルだぞ」

「まあ、天性の素質にあの練習量だからね。もう僕の10倍は撃ってるよきっと」

 

 

 ということで、今度のミッションはフランスに女性4人で出かけることになったんだ。

 

 

(その②につづく)

 

双子の能力は思ってた以上だった。

 


 あっという間に、正剛流の技をマスターしただけでなく、自分たちのこれまで学んできた薩摩古武術、それに彼女たち独自のパルクールをミックスした、変幻自在の攻撃を編み出してきた。

 


「そろそろ、実戦のための武器を考えることにしたいんだけど、その前に聞いておきたいことがあるんだ」

 

 

 僕は彼女たちの獲物、つまり彼女たちに専用の武器を持たせたいと思うようになった。つまり、彼女たちは「実戦に連れて行ける能力を有している」と判断したのだ。しかし、いまの日本は戦国時代ではない。僕のように「人殺しを依頼される」人間は表面上はいないし、まして「侍の妻」も「女忍者・くノ一」なんて職業もあり得ない。だからこれから僕の片腕となるというのが、どういう意味を持つか、その覚悟はどこまであるか、それをしっかり確認しておく必要があったのだ。

 


「僕の足手まといになるレベルなら、当然不要だ」

「ダイちゃん、由里ちゃんのレベルは人間の次元を超えているわ。それと同じレベルを求められると辛いんだけど」

「そんなレベルまでは要求しないよ。二人には、持っている身体能力をさらに高めてもらうことと、それぞれが得意なジャンルを見つけてほしい」


「それから、これが一番肝心なんだけど、ふたりともこれから僕と行動を共にするなら、人を殺すことになる。その覚悟はあるの?」

「・・・由里ちゃんも静剛流古武術の先生なら同じだと思うけど、古武術ってスポーツじゃないのよ」

「そう。いつも兄に言われてたわ。敵と向かう時は、相手を殺す覚悟で戦え、って」


「なるほど。やっぱり宗一さんは侍だな。そのとおり。僕も幼稚園時代からそういわれて鍛えられてた・・・わかった。このことはもう言わないことにする」

「・・・うん。それでね、私と莉実、最近よく話すんだけど、ダ、いえ由里ちゃんに訓練してもらっているうちに、少しずつ個性が違うことが分かってきたの」

「個性・・・得意技の違いってこと?」

「ええ。絵美は元々床運動が得意で、ジャンプ力も走力も私よりあるわ」

「莉実は鹿児島の道場では剣術が得意だったの。時々兄から一本取るくらいだもの」

「なるほどね。わかった。僕は、えーっと私は何も押し付ける気はないの。それぞれ自分の得意な、好きな技を磨いていけばいいのよ。この前言った『武器』も、その方向で考えよっ!」

 


 結局、絵美はパルクール的な、動き回って相手を倒すタイプの技。莉実は剣の技。そういう道を選んだ。くノ一(女忍者)絵美、女剣士莉実、ということだ。

 

ふたりに共通の武器は拳銃。地下練習場は射撃訓練に最適だから、通うことも多くなる。で、自転車も通学用と兼用で、僕のと同じ性能のマウンテンバイクを頼んだ。

 

僕は莉実用に新しい日本刀を、桑名の伊勢仁九郎に依頼した。

 


「やあ、久しぶりに連絡してきたな。あれからオレ、大変なんだ」

「?」

「キミの送ってくれるあのコイン。配合の研究を重ねて、ようやくナイフとか小刀までは安定して作れるようになったんだ。で、試しにアメリカの『ラブレスカスタムナイフコンクール』に出品したら、これが優勝! それから世界中から注文が殺到してさ。いやもう、毎日大変なんだ」

「うーん。それじゃ、僕の注文を入れてもらうのは難しいかな?」

「へ? バカ言ってんじゃないよ。君の注文なら、他の注文全部放り出して、真っ先に作るさ」

「ありがとう。今度お願いしたいのは、前の小刀より40㎜だけサイズアップした刀なんだ」

「ふーん。じゃあ、斬甲剣と神威の中間の大きさだな」

「そう、女の子が使うんだけど、彼女、ずーっと剣道やってきてるから、それくらいのサイズのがちょうどいいと思うんだ」

「お! 女の子かよ。相変わらずモテるねー」

「やだな、からかわないでよ」

 

 
 ということで、莉実の刀ができるまでは、斬甲剣で練習させることにした。

 

 

絵美には静竜の練習をするように指示した。静竜は本体の筒は僕のと同じだけど、矢の方を改良することにした。スピード・アイにはなれない絵美の矢は、普通の速度しか出ない。それを必殺の武器とするには、「毒矢」にするしかないと考えたからだ。スタッキングはしにくくなるけど、突き刺さった時だけ毒液が矢の先から噴出するような仕組みを絵に描いてマイクに渡した。

 


「ふーむ。これってダイや由里が使う矢じゃないだろ?」

「正解! 僕の弟子、というかサブの女の子が使うんだよ。スピード・アイにはなれないから、毒矢にするんだ」

「毒矢! そうか・・・で、どんな毒にしたいんだ?」

「シーンによって、いろいろ種類があった方がいいな。たとえば、瞬殺。解毒剤を使えば回復するヤツ。体の自由を奪うだけの毒。なんて、いろいろバリエーションが欲しいんだ」

「わかった。それはちょっといつもの研究所じゃ守備範囲外だから、別のところに頼んでみるよ。矢の構造については、この絵だけで十分伝わると思う」

「うん。お願いね」

「ところで、私にはそのお嬢さんを紹介してくれないのかい?」

「ああ、そうだね。地下練習場でなら、ダイの動線と重ならないで行けるから、そこで会わせるよ。結構かわいい双子だよ」

「え? 双子なのか? やっぱりダイはスケベ少年だなあ」

「なに言ってるんだよ。そんな関係にはなってないよ」

「怪しいもんだ」

 


 ふたりが二人そろって僕のお嫁さんになりたいと上京して来たなんて知ったら、この先ずーっといびられるに決まってるから、二人には口止めしなくちゃね。

 

 

ふたり共通の武器、拳銃だったが、これはマイクの部下、最初にヨコタで射撃の世話をしてくれた軍曹が選んでくれた。

 


「ワルサ―PPKは今でも小型拳銃としては最高のガンだと思うよ。それからベレッタのM1974。これも名銃だと思うね。女の子が持つなら、M85の方がグリップが細くていいかも」

 

 
 最終的に、莉実用には9㎜パラべラム弾を使うワルサ―PPKをオールステンレスで作ってもらうことにした。それも表面は艶消しのブラックコーティング。絵美にはベレッタM85。これも黒のオールステンレスで9㎜パラべラム弾バージョンで複製してもらうことに。完成品が届くまでは軍曹の所有していたオリジナルの銃で射撃訓練する。ヨコタからは銃弾の木箱と標的のマネキンをたくさん送ってもらった。

 

 

「ねえ由里ちゃん。私たちの更衣室作ってくれないかな」

「あら、どうして? 女の子同士でしょ。一緒でいいじゃない」

「うん、もう。ほんとにエッチなんだから・・・」

「分かった分かった。スイートルームの隣に作るよ。ジャグジーとパウダールームを充実させるね」

 

 
 実際、射撃の訓練を積むと、体中が硝煙臭くなる。これじゃ、帰りにスーパーにも寄れないというのが二人の言い分だった。

 


 3人一緒にお風呂に入るの、楽しみだったんだけどなあ・・・

 

 

 

第16話 終わり


 女性たち3人がようやく口を開いたのは、みんなをスイートルーム、つまり僕の休憩所に招き入れてからだった。

 


「ふー! お話には聞いていたんだけど・・・」

「すごい! 東京の真ん中にこんなおっきな練習場を持ってるなんて、やっぱりダイちゃんって、すごい男なのね」

「ねえ、それを言うのは、まだ早いよ。ここで一服したら、あの戦車や装甲車を使って僕の実力を知ってもらうんだからね」

「・・・はい」

 


 三人とも、いつになく素直だった。いや、緊張しているんだろうな。

 


 僕は部屋の壁に掛けてある斬甲剣、神威、穏剣のベルト、静竜とマガジン、モーゼルを取った。戦車や装甲車を切るには、神威より斬甲剣の方が気兼ねなくできる。切れ味、丈夫さは神威の方が上なんだけど、長さと重さのバランスで、斬甲剣の方が「砲身斬り」には向いてるんだ。

 


「じゃあ、まず戦車から行くね」

 


 僕はスイッチを操作し、台車に乗った戦車を近くに動かした。列車の整備や清掃に使う、鉄製の狭いプラットホームの脇に止める。

 


 僕はそのプラットホームの上に上がった。

 


「じゃあ行くよ。よく見ててね」

 


 そういうと斬甲剣を構えた。久しぶりに持つこの刀は、神威よりかなり重く感じる。

 

 
 100倍速にする。

 


「キエイ!」

 

 
 僕は砲身に直角に振り下ろした。

 


「ジュワン!」とでも表現したら近いのかな? 両腕に抵抗感を残しながらも、戦車の砲身は輪切りになった。ゆっくりと厚さ20㎝くらいの鋼鉄のバウムクーヘンが滑り落ちていく。

 リアルタイムに戻す。

 


「・・・」

「クッ・・・」

「・・・うそ!」

 

 
 三人の表情の変化は面白かった。動画で撮影しておけばよかったな。

 


「ガシャン! ゴン!」

 


 鉄のバウムクーヘンは台車に一度ぶつかり、それから地面に落ちて静かになった。

 


「どう? これが僕の『戦車斬り』だよ」

 

 
 三人とも何も答えない。

 


「じゃあ、次行くね」

 


 僕は台車を入れ替え、マネキンを3体近くに置いた。そのいずれにもハイポリマー・ポリエチレン製の防弾衣を着せる。

 


「ちょっとうるさいけど、我慢してね」

 


 まずモーゼルの速連射からだ。20発入りのマガジンの装填されたモーゼル・レッド9を10倍速で連射する。距離は50m。1体目は6発を右眼に集中させた。2体目はマシンガンを構えた腕に3発ずつ。3体目のマネキンには、心臓あたりに8発撃ちこんだ。この防弾衣は9㎜パラべラム弾では貫通しない。弾はすべて下に落ちたけど、マネキンの胸は大きくへこんでいた。

 


「どう、速射だけど、正確でしょ?」

「・・・あの」

 

 
 絵美が何か言いたそうだった。おそらく貫通しない3体目のことだろうな。

 


「うん? なに?」

「お人形に着せてある服、弾は通らないの?」

「うん。最新の防弾チョッキだからね。でも、僕が実戦に着ていくのは、この数倍高性能なんだよ」

 


「・・・ふーっ! 凄い射撃の腕ね」

 

 
 絵利香がやっと口をきいた。CIAで射撃訓練も積んでいる絵利香だから、僕の速射のすごさはよくわかるんだろう。

 


「じゃあ、この9㎜弾も通さない防弾チョッキを切ってみるね」

 


 僕は神威を手にした。

 


「わあ! かわいい刀ね」

 


 莉実は無邪気にそう言った。

 


「うん。かわいいと思ったことはないけど、この刀、おそらく世界で一番切れる刃物だよ」

「・・・」

 


 莉実は黙った。

 


「じゃあ、このマネキンを切るからね」

 

僕は神威を背中に差した。マネキンから20mくらいのところまで下がる。

 


 100
倍速。

 


 走る。

 


 抜く。

 


 水平に薙ぐ。

 


 立ち止まり、神威を鞘に納める。

 


 リアルタイムに戻した。

 


「あ、あ、あの・・・」

「いまの、なに?」

「ダイちゃん・・・」

 

三人は、またもや失語症になっちゃった。

 


 僕の目の前で、マネキンがへそあたりからゆっくりずれ、スーと滑ってドスっと地面に落ちた。防弾衣ごと、マネキンは上下に両断されていた。

 

 
 そのあと、静竜で戦闘機の胴体にミシン穴を開け、穏剣で装甲車とマネキン2体を一度に貫通させてデモンストレーションを終えた。

 

 

「私、夢の中にいるみたい」

「・・・私も。あんまり現実離れしすぎていて、今見たのが実際の出来事なのかどうか・・・」

「すごすぎるわ。これじゃ地球上に敵なんているわけないわね。12歳の少年のダイちゃんに、エリクソン大統領とか小暮首相がいろいろ頼みに来る理由が、やっと理解できたわ」

 


 三人の女性たちは、スイートルームのソファに座りこんで動けないようだった。僕が淹れたコーヒーをゆっくり飲んでいるけど、その味を分かってくれたとは思えなかった。本物の、純生のモカ・マタリなんだけどなあ。

 


「今日は料理作るの無理そうだから、夕飯は外で食べて帰ろうね」

 


 帰り道は別ルートをタクシーで行った。三軒茶屋近くにひっそりとある湖南料理の店に入る。もともと夕食は外食と決めていたので、3日前から予約してあったんだ。

 


 料理のうまさが、次第にみんなの口を開かせ始めたようだった。

 


「まだ信じられないわ。コインが鉄の車を突き抜けて、その後ろのマネキン2つも貫通したんだもの」

「戦車の大砲、ゴトンって落っこちたとき、息が止まるかと思ったわ」

「神威っていうのよね、あの小さな刀。あれ、見てるとぞくぞくするくらいきれいだったわ」

「でもあの刀を持ってお人形を切ったダイちゃん、あ、由里ちゃんの動き、まったくわからなかった。映画でフィルムが飛んじゃったみたいに、あそこにいるんだ、え? こっちにいるの? って感じ。それからゆっくりマネキンが半分になっていくの、今度はスローモーションみたいで・・・」

 


 女性たちはおしゃべりが始まると、今度は止まらなくなったかのように話し続けた。僕はそれを聞きながら、時には質問に答えながら、食事を続けた。

 

 

 タクシーで梅ヶ丘のマンション近くに帰宅。駅の反対側にある羽根木公園の横で降り、中を散歩しながら帰る。

 


「この公園、大きいのねえ」

「そうね。私も初めて入ったけど、ここ、パルクールのフィールド・トレーニングにぴったりね」

「ねえ由里ちゃん。お休みの日はこの公園で鍛えましょ!」

 


 どこまでも体育系女子だった。

 

 

(その⑦につづく)