神威(カムイ)の剣 タイム・コントローラーDAI -13ページ目

神威(カムイ)の剣 タイム・コントローラーDAI

小学6年生の美少年・三島大。古武術とタイム・コントロール能力を駆使して、さまざまな敵を殲滅していく超絶アクション小説。

 

 データどおり、最上階の5階は全く下の階と違っていた。図面で見ていた間取りのとおりではあったけど、ドアはすべてスチール製だ。蹴破るのはやめた。耳をドアに付ける。中から金属音が聞こえてきた。自動小銃の安全装置をはずしたり、弾倉をセットしたりする時の音だとわかった。

 


 100
倍速にする。神威でドアノブ周辺を切り裂く。空いた穴から手を入れ、ロックを外す。ドアを開けて転がり込む。

 

 
 中には20人ほどの男がいた。スーツ姿の男も7人いるが、ロベルトの顔も、サン・レイの顔も見えない。ためらう事なく武装兵たちを斬り伏せていく。


 
 数秒後、立っていたのはスーツの7人だけだった。その7人の男たちのアキレス腱を断つ。こいつらが何者なのか、尋問しなければならない。

 


(サン・レイとロベルトは・・・隣の部屋だ!)

 


 廊下の反対側の部屋のドアが開けられ、人が逃げ出そうとする気配が感じられたのだ。

 


(ふん。逃げられると思ってるのか? 甘いぜい!)

 


 僕は廊下に出た。前の部屋のドアが開きつつあった。

 


 僕はそのスチールドアを蹴った。ドアがへこみ、ゆがみ、蝶番がはじけ飛んで、ノブを握っていた男とともに、部屋の中に吹き飛んだ。

 


(ひえー! 超速の蹴りってすごい!!)

 


 蹴っておいて、自分でびっくりした。

 


 ドアの巻き添えになって延びている3人を除いて、部屋の中には、逃げだそうというポーズのまま固まっている6人の男がいた。



 データにあったロベルトはすぐにわかった。サン・レイもわかった。ほかの5人はスーツだけど、一人だけ戦闘服なんだもん。

 


 僕はロベルトとサン・レイの二人を除く4人とドアの下敷きになっている3人の男のアキレス腱も神威で斬った。



 無傷で立っている二人の後ろに回り、バッグからロープを取り出した。おなじみのパラシュートロープだ。立ったままの二人の手を後ろで縛ってつなぐ。さらにロープをテーブルの足に回して二人をつないでおいた。

 


 モーゼル・レッド9をバッグから取り出した。新しい弾倉をセットし、リアルタイムに戻す。

 


 いきなり現れた僕の顔を見て驚くが、逃げようとしていた慣性が抜けていないので、床に転がった。二人ともうめき声を上げた。

 


「ボンジュール・ムッシュ。あんたがロベルトで、あんたがサン・レイね?」

「・・・おまえか。やはり魔女だったのか」

「失礼ね。こんな美少女を魔女だなんて。じゃあ、答えてもらうわよ。このアパルトマンの監視システム、どこに置いてあるの?」

「・・・彼ら、みんなおまえが殺したのか?」

「そうよ。この刀、よく切れるのよ。サン・レイ、あんたは生かしておいても仕方ないわ。殺してあげるね」

「ちょ、ちょっと待て! 監視カメラのことはロベルトは知らないんだ。俺がシステムを組んだんだ」

「なにを言う! 私も知っているぞ。地下室だろうが」

「あ、バカが、しゃべるんじゃない!」

「バカって、ロベルトのことらしいけど、サン・レイ、あんた、まだ自分の立場が分かってないわね。あんたを生かしておく理由なんてないのよ」

「くっ・・・いや、日本に渡った刺客は俺の言うことしか聞かない。ロベルトはただのお飾りだ」

「こ、こいつ! パパや兄さんにさんざん世話になっておいて、俺を裏切るのか!」

 まったく見苦しいなあ。早くおしまいにしたいなあ。僕はパリ市警を相手にしたくないんだよね。

 

 

この時、インカムに悲鳴のような絵美の声が入った。

 


「ダイちゃん、莉実が撃たれた!」

 


 絵美の声だった。

 

 

 

(その⑥につづく)

 

 

 全ての準備が整った。レンタカーのルノーを、例のアパルトマンの200mくらい手前で停め、まず僕が降りた。双子もそれぞれ離れて降りる。

 


 僕は近くまで歩いていった。さっきの警備兵は姿が見えなかった。いったんアパルトマンの前を通り過ぎた。

 


 四つ角を曲がり、バッグから神威をだし、鞘を右腰に差す。一度抜いて刀身を見た。ギラリと黒く光る刀身。神威の刃には一点の曇りもない。

 


 (また血で汚れるけど、日本に帰ったらきれいにしてあげるからね)

 

 
 ヘルメットをかぶり、ゴーグルを下げて望遠にする。それから顔だけコーナーから出して、出入り口を見た。

 

 
 5人の警備兵がいる。扉が閉まっている。

 


 (あの扉が開いて、警備を交代する時だな)

 

 
 それまで、姿を隠して見張れる場所にいなければならない。さきほどビストロの窓からあたりをつけておいた古めかしいアパルトマンの非常階段に上る。

 
 窓が全部閉まっているから、まあ大丈夫だろう。

 


「E、R、いまどこにいるの?」

「はい、Eです。Yの斜め右10時のビルの屋上!」

「あらら。昇るの早いわねー。Rは?」

「はい。私はYからは見えないわ。ターゲットの建物の裏手にあるビル。いま非常階段を上ってるところ」

「オーケイ! じゃあ、私が動いたら、EはRに合図するのよ。10秒遅れて侵入して!」

「ダッコ!」

 


「ダッコ」ってのはフランス語の「ダッコール 
D'accord」つまり「了解!」を縮めた言葉だ。ふたりは前回のフランス旅行? から帰ってから、盛んにこの「ダッコ」を使うようになった。

 


(超アイが逆にも働けばいいのになあ)

 

 
 そう思うほど、長い時間が過ぎたように感じたが、実際は7、8分だったろう。ターゲットのアパルトマンの扉が開いた。警備兵の交代なんだろう。僕は100倍速に切り替え、神威を握ってその扉に走った。

 


「Qu
’est-ce qui・・・」

 


 警備兵13人を切り倒す間に聞こえた、唯一の言葉だった。

 中に走り込む。監視カメラだらけだ。

 


(これはまずいな)

 


 僕は500倍速にアップし、完全に止まって見える兵士たちを切り殺していく。中庭には30人ほどのアラブ系の兵士がいた。リアルタイムではコンマ2秒かっかていなかっただろう。



 返り血は500倍速ではまったく浴びることはない。首を切り落としても、血が吹き出してくるまでに、数十人は殺して、その場を離れるからだ。



 全員が絶命しているのを確認して、僕は建物の中に入った。

 


(監視カメラが無線でどこかに画像を飛ばしてないといいんだけど、それを調べるのは何人か残さなくちゃな)

 


 僕は下の階からドアを蹴破っていった。スニーカーのつま先がドアノブに触れると、爆発するように壊れて砕け散る。

 


 大量の兵士がいた。神威は一瞬で数十人の命を奪っていく。

 


 階段を駆け上がる。2階に着く。

 


 階下の惨劇はまだ上階に届いていない。同じようにドアを蹴破ろうとしたとき、低い周波数の音が振動として伝わってきた。

 


(非常ベルだな。どこかに監視カメラをにらんでいる連中がいるんだろう。必ず見つけだして、尋問しなくちゃ)

 

 

上の方から銃声が聞こえ始めた。双子が突入したんだろう。5階は構造が大きく変えられているから、4階から入るように指示を出してある。

 


 ここまでに80人ほどを倒した。まだ300人以上残っている。急がなくっちゃ。僕は焼夷薬とプラスチック爆弾を一個ずつバッグから取り出し、階段に仕掛けた。雷管は「誘爆」の方にした。高温の炎にさらされると爆発するんだ。一気に最上階に駆け上がる。

 

 

 

(その⑤につづく)

 

 

「マイクも、エリクソンもデビッドもフリーメーソンの会員でしょ? 僕への依頼がメーソンに有利な方に偏ってたってことない?」

「・・・うーん。難しい質問だなそれは。私もエリクソンも、そしてデビッドもメーソンであることは確かだし、アメリカの国益とメーソンの志向する方向性が一致するのは仕方ないことだよ。だって建国の父、ジョージ・ワシントンにしたってフリーメーソン会員なんだからな」

「そうだろうね。反イスラムってことじゃ、十字軍やテンプル騎士団、薔薇十字団なんかは、有力なメーソンだもの・・・そうか、リクソン・モービルか・・・アズナブールと結びつく必然性は大いにあるね」

 

 

 そんなやりとりがあってから、僕は絵利香と双子と観光に出かけた。セーヌ河左岸といえば、YSL(イヴ・サンローラン)以来の有名ブランドの路面店がずらっと並んでいる。日本人としても最上級の美女である絵利香とマニッシュな双子の美少女、それに女装スタイルにも慣れた僕・由里の4人がショッピングする様子はパリっ子にも刺激的に映るらしく、スマホを向けられて写真を撮られることが多かった。あとで第2の大量殺人と結び付けられることはないと思うけど・・・

 


「ねえ、これどうかしら?」

 


 このセリフを何度聞かされたことか。ママたちは延々とショッピングしまくり。

 


 やっとロベルトのアパルトマンの前に出た。リーヴ・ゴーシュの市街にあるそのアパルトマンは異様だった。

 


 まず、路上・屋上に異常に警備員が集中している。目立たないように気をつけているらしいが、人数が多すぎて、どうしてもその異常さが目についてしまう。だいたい20人くらいで巡回してるようだ。

 


「ママ、もう帰ろうよー」

「あら、もう少しつきあって。あの先にシャルル・ジュールダンのお店があるのよ」

「もう。私、お腹すいたよー」

「あら、ごめんね。えーっと。このあたりにレストランかカフェってあったかしら?」

 


 このあたりの演技力は訓練されたスパイそのものだった。ママは買い物したブランドの紙袋をいくつもぶら下げたまま、ロベルトのアパルトマンの入り口にいる中年の傭兵に近寄り、大声で尋ねた。

 


「すみません。このあたりに食事できるところ、ありませんこと?」

 


 思わずママの顔を見た。完璧なフランス語だったからだ。僕のフランス語はRがG系の発音だけど、絵利香のはH系だ。どちらかといえばH系に発音した方がきれいに聞こえる。

 


(前回は彼女の活躍する機会がなかっただけなんだなあ)

 


「ボンジュール、マダム。そうだね、あの角を左に曲がると、レストラン、いや、ビストロがあるよ。パティシエがいいから、お嬢ちゃんたちにも気に入ってもらえるはずだ」

「あら、それはいいわね。メルシー。みんな、行きましょ!」

 

 
 僕にいくつか紙袋を持たせ、ママはきびすを返した。傭兵は僕にパチンとウインクした。

 


(僕や双子の容貌は全く知られてないんだな。それじゃ、何人歩哨を立てても意味ないじゃん)

 


 僕はその歩哨役の傭兵に手を振って分かれた。

 


 自分の父親と兄、それに大量の傭兵を抹殺した『東洋の魔女』が、僕と双子の3人であるということも、まったく情報として残されていないらしい。こんなに堂々と「東洋の美少女3人組」が歩き回っているのに、不自然な視線を送ってくる警備兵は一人もいない。

 


 魔女3人の容貌というか、基本的属性、さらには人数すら知られていない。という情報は重要だった。



 マイクからの情報はまだ来てないが、今回の計画は僕自身が立てるのがいいと思った。
現地にいるのは僕だし、こちらの戦力は全く知られていないだろうからだ。

 

 

「あなた、もう行動を起こす気のようね」

「あれ? ママ、わかるの?」

「ええ。あなたとはずいぶん長い間一緒に暮らしてるんですもの」

「そうだね。ベッドも一緒だしね」

「うふ。でも、気をつけてね。あのアパルトマン、なんだかすごい殺気が漂っていたわ」

「ふーん・・・ママって、結構すごいのかな?」

「そうかもね。私、これでもきつい訓練を受けてきたんだもの。少しは頼ってね」

「わかった。でも、ママは今回も運転手だよ」

「分かってるわ。絵美莉実のふたり、あっという間に凄い戦士に育っちゃったもの。もう私が戦場に出る幕なんてないわよ」

「でも、いまのパリで僕たちの運転手をやるってだけで、かなり危険なんだよ」

「ええ。あなたの本当のママや敦子さんに任せられる任務じゃないわね」

「うん。じゃあ、食事が終わったら、この買い物袋をホテルに置いて、レンタカー借りてくれる?」

「わかったわ。私があのアパルトマンまで送ればいいのね?」

「そう。それからこのビストロに近い駐車場を見つけて、車を停めてね。3人、あるいは双子だけが任務終了後ここに来るから車でリッツに向って」

「ダッコール、ムッシュ! いえ、マドモアゼル!」

 

 

 

(その④につづく)

 

 

アズナブール家の次男、ロベルトはこれまでモナコの豪邸に住み、海運業を営む会社の社長としての表の顔しか知られていなかった。

 


「実際これまでは裏の顔といえるものはなかったようだな。父親と兄を殺されて、それで考え方を変えたようだ」

「それでよく残党のまとめができるね。・・・いや、それは無理だと思うな。きっと誰か、傭兵をまとめてるヤツがいるはずだよ。それに父親たちの作り上げた情報網と取引関係」

「そうだな。調べさせるよ」

 

 

 マイクから情報が入ったのは、絵理香と双子の三人と打ち合わせている時だった。

 


「ロベルトはパリにいる」

 


 あの惨劇の直後におこなわれた凱旋門賞で、皮肉にも長男のミッシェルの持ち馬が優勝し、ロベルトは兄の代理で優勝トロフィーを受け取った。そのままパリにとどまり、アズナブール商会の残党と事業を引き継いだという。

 


 パリに着いて、また前回と同じリッツのスイートに入った。武器、装備はアメリカ大使館経由ですでに運び込まれている。

 


「さて、今回は残りの傭兵200人、サン・レイが連れてきたと思われるアラブ系テログループ300人、それにロベルト本人を殺すことになるけど、今度は前みたいなドジは踏まないわよ」

「由里ちゃんは悔しいでしょうけど、私たちがサブとして役立つことがわかったんだから、私は嬉しかったな」

「でも、銃や吹き矢で人を殺すってことに、あれほど抵抗がないって方が驚いたわ」

 


 
双子にPTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)は生じていないようだ。

 


 マイクから届いた情報をじっくり検討する。ロベルトの意向を受け、残った傭兵軍団をそれぞれの派遣国から全員引き上げさせ、まとめているのは「天才軍事顧問」と呼ばれているらしい中年男、サン・レイだった。まともに写っている写真が一枚もないのも、レイの非凡さを示している。彼は自分の率いているアラブ系テロ組織の兵士たちも大量に密入国させている。アルジェリアからシェルブール港に運んだらしい。ヨーロッパ各国はアラブに簡単に侵入される。

 

 
 マイクからスマホに連絡が入った。

 


「こんな回線を使っていいの?」

「ああ。今回改善した。軍事衛星経由で私のスマホと君のスマホの間の通信は完全に傍受不可能になっている」

「マイク以外にかけるときはふつうの状態ってこと?」

「そうだ。だから注意してくれ」

 


 まあ、それなら少しは安心できるかも。

 


「レイとロベルトはセーヌ左岸のアパルトマン1棟全部を買い取って、そこを司令部にしている。レイとロベルトはすでに5階建てのそのアパルトマンを大改造していて、かなり強固な要塞のようになっているらしい。エコーと赤外線で探り出した建物全体の図面を添付したから、よく見ておいてくれ。きっと襲撃の役に立つ」

「ヘリで屋上に降ろしてくれれば楽なのに」

「そういかないのをわかってて、年寄りをいじめるのはよくない趣味だぞ」

「へーんだ。いじめられてるのは僕の方だろ? フランス中が『東洋の魔女』の話で沸騰してるよ」

「ああ。フランスの警察にしては、ずいぶんしっかり検視してるし、捜査もまともにやってるようだな。だが、捜査が正確であればあるほど、事件の様相が矛盾だらけになる。これは最初のうち、我々がダイを分析したときに陥ったジレンマと同じだ」

「へー、その話、初めて聞くよ。で、僕はどんな風に分析されたの?」

「帰ってきてからのお楽しみ! それより少々気になる情報が入って来ているんだ」

「どんなの?」

「ロベルトのアパルトマンに出入りしている人間の中に、アラブ系の顔立ちの男が多いことがひとつ。もうひとつは、どう見てもエグゼクティヴ然としたスーツ姿の一団が混じっているという点だ」

「アラブ系のは、サン・レイのデータにあったイスラム過激派の連中でしょ? 抹殺する人数が増えたってこと。スーツ族はロベルトの会社の部下たちじゃないの?」

「それがどうも違うらしいんで、顔認証に掛けたんだ」

「で、わかったの?」

「うむ。それが・・・リクソン・モバイルの幹部社員たちなんだよ」

「リクソン! あらら。なんだか意外な展開だね」

「そうなんだ。ダイの会社、イングリッシュ・ペトローリアムと並び称される『7S=セブンシスターズ』の一角だからな」

「いまは4グループしかないよ・・・でもどうしてリクソンがアズナブールと組むんだろ?」

「どっちも武器や軍事施設を商売のネタにしてるが、それはほかの7S も同じだろ?」

「・・・なるほど。マイク、これはちょっと厄介なことになるかもしれないよ」

「うん? なにか思い付いたのか?」

「フリーメーソンVS反フリーメーソン」

「な、なんだと?」

「元の7Sは今は4つに吸収合併してるんだ。イングリッシュ・ペトローリアム、ロイヤル・ダッチ・オイル、リクソン・モバイル、シュブール。初めの2つはフリーメーソン、あとのふたつは反フリーメーソン、なんだよ」

「・・・」

「リクソン・モバイルとシュブールはこの間の大統領選で民主党を裏で支援していたんだ。それはエリクソン、マイク、あんたもだけど、今の共和党議員にメーソン会員が多いことへの対抗処置、というか反動なんだ」

「ほんとなのか、その話」

「ああ、ソニアが言ってた」

 


 そうなんだ。フランスに向けて準備しているときに、ソニアからTV電話が掛かってきた。

 


「このところの東洋の魔女、悪魔の話、タイムコントロールBOXで一気にみんなの知る所となった感があるわね。でも、私が会社の幹部に聞いたところでは、ダイの活動は、すべてメーソンに有利に動いているように見えるらしいの。『東洋の魔女はメーソンのどこかのロッジに所属しているんじゃないか』とか『東洋の魔女は21世紀の十字軍、騎士団じゃないか』ってね」

「うーん。コインに刻んであるマーク、トリスケルってアイルランドじゃよく十字架と組み合わせられるしなあ」

「そう。だから魔女3姉妹の活動を『トリスケル騎士団』って呼び始めてるメーソン会員もいるくらいなの」

「トリスケル騎士団、かあ。ちょっとかっこいいなあ」

「なに子供みたいなこと言ってるのよ・・・あ、ダイってまだ12歳だったわね。いつもあなたの年齢を忘れちゃうわ」

「とくにベッドでは、でしょ?」

「いやな子ねえ」

 


 と、こんな感じの話だったけど、ソニアは最後にこう締めた。



「フリーメーソンの各国の代表たちは、この件に関してかなり注目しているっていう話も入って来てるわ。『世界の支配体制の再編』っていうキーワードも頻繁に聞かれるし」

「なにそれ。おおげさだね」

「ここ数千年は東洋対西洋で来てるわ。そして数百年周期でどちらかが隆盛し、片方は衰退する」

「うん。『東西文明800年周期交代説』だね」

「うーん、ほんとによく勉強してるのねえ」

「だってこの説、日本人の村山節(みさお)博士の論文がおおもとだもん。いいから続けて」

「それでいくと、21世紀は西洋文明優勢の800年が終わり、東洋文明隆盛期への移行の時期に当たるというのよ」

「うん。そうなるね」

「この数千年正確に繰り返されてきた『東西対立』構造が変化してきたのが第2次世界大戦前後」

「資本主義対共産主義」

「ええ。それが終わって、共産主義は単なる『バグ』だったと言われ始めてるの」

「やはり本筋は東西対立、ってこと?」

「ええ。そういう流れに来てたのが、いきなり数世紀から十数世紀さかのぼって『イスラム対その他の宗教』っていう構造になりつつあるという見方ね」

「そこで『十字軍』ってこと?」

「そう。さらに言えば『フリーメーソン対反フリーメーソン』とも」

「・・・ソニアってメーソンなの?」

「当然よ。イングリッシュ・ペトローリアムの上位役員だもの」

「僕、株主だけどメーソンじゃないよ」

「いずれ、というか、資格を得る21歳になったら、東京ロッジでもこっちのLAロッジでもどこでもいいから会員になってもらいたいとは思ってるわ。あなたがその気になればの話だけど」

「ふーん。まあ、メーソンは宗教じゃないからね。僕はシントイスト(神道)だけど・・・」

「でも、ダイはもうメーソン派に取り込まれつつあるのよ」

「そういうことね。メーソン派が僕や由里のことを味方だという意識で情報を集めれば、反メーソン派もその観点で動くよね」

「そう、だから井上由里に化けてればダイとは無関係という顔はしにくくなりつつあると思うな」

 

 

(その③につづく)


「そういえば、アズナブールが言ってた1000億ユーロって、どうなったんだろう?」


 問い合わせてみて驚いた。1000億ユーロではなく20億ユーロだったが、日本円にして3000億円くらいが僕のスイスの銀行口座に本当に振り込まれていた。

 


「あれ、必死だったんだなあ。でも、僕がお金で動くと思うところが浅ましいな」

「そのお金、どうするんだい?」

「人の命で出来てるみたいなお金だからね。自分のためには使いたくないな。それに、いくらたくさんあっても小学生じゃ、使い道がないんだよ。地下練習場や無人島の大掛かりな工事なんかは、僕のご機嫌取りに小暮のおっちゃんがタダでやってくれちゃうし」

「日本の総理もダイにかかっちゃ形無しだな」

「だから、東北地震の義捐金として使おうと思ってるんだ」

 


 僕はあのとき考えたことを、そのままマイクに言っただけだったが、いきなり現実味を帯びてきた。

 


「被災者って、何家族いるんだろう?」

「よく知らないんだが、避難している人は26万人くらいいるって聞いたような気がするな」

「1家族平均2人とすると、13万世帯か。3000億円を13万で割ると・・・230万円か。確実に全世帯に届ける経費を引くとだいたい200万円くらいになっちゃうな。少ないなあ!」

「でも、それでもみんな助かるんじゃないか?」

「うん。じゃあ、そうすることにするよ」

 


 僕は被災地で救援活動を行っているNPOの中で、最も信頼できる団体を調べさせた。



 僕はその団体のトップの男、小笠原を仙台にある彼の事務所を尋ねた。

 


「あなたのNPO自体に200億円くらいを寄付するから、全世帯に200万円ずつ、確実に届けてくれる? 寄付したのが僕だってことは絶対に秘密にしてくれるのが条件だよ」

 

 
 彼、小笠原健二は目を白黒させていた。

 

 
 アズナブールの真っ黒な金を処分して、やっと日常生活が戻ったと思った。ところが、この寄付が思わぬ結果を招くことになったのだ。



 ネットで僕の寄付のことが流れ始めたことを知って、ちょっとまずかったかなとは思ったんだ。この世界の狭さもよく知ってるしね。

 


 あのNPOのトップの男、小笠原健二が惨殺されたという情報が、ニュースで流される前にマイクからもたらされた。

 


「どうやらモナコにいたアズナブールの次男ロベルトが、傭兵の残党を集めて、君への復讐を画策し始めたようだ」

「父親の仕事には無関心だっていう情報だったけど、凱旋門賞で表彰台に立ってた彼を見て、こいつが一番手ごわそうだって感じたんだ。それじゃあ、小笠原が殺されたのは、僕のことを聞き出すためだったってことか・・・」

 

 
 これはまずい事態だ。日本に乗り込んでこられたんじゃ、家族たちを守りきれない。



 僕はマイクと相談した。

 


「彼らの情報収集力を侮っていた。申し訳ない」

「情報はどこまで漏れているんだろう? 僕は小笠原にNPOの銀行口座を聞いただけで、名刺も渡してないし、本名も言ってない。スイスの僕の銀行にはマンションの住所なんて登録してないし・・・」

「いや、彼らを甘く見ない方がいいと思う。すでに何人かの刺客が迫っていると見るべきだな」

「じゃあ、家族はもう危険状態ってこと? まずいなそれ」

「ダイの家族は避難するしかないな。でも長期戦になると自宅に戻らなくちゃならんだろう。そこを狙われたら防ぎきれないかもしれない」

「・・・」

 


「ダイ、これは先制攻撃するしかないな」

「えー! またフランスに行くの? あーあ、面倒だなあ」

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ? 家族を守らなきゃ」

「米軍は関与しないの?」

「いや、今度は出来る限り支援する。だが、フランス当局と連携ってわけにはいかないからな」

「わかってるよ、アメリカの立場は・・・仕方ないなあ。まだダイ・ミシマはL.A.だから、由里と双子の『東洋の魔女軍団』の再登場、ってことで行くかな・・・あれ? ロベルトって、シャンティー城で暴れまわったのが『魔女』って知ってるんだよね?」

「そうだな」

「それでもダイの方を狙うとすると、『魔女』と『悪魔』を同一視する組織があるってことじゃないの?」

「うーん・・・ロベルトは『魔女』を無視して『悪魔』を追いかけている感じだな。アズナブールの金がダイ・ミシマの口座に流れたのを突き止めてる。その口座からNPOに行ったのを知ったからこそオガサワラは殺された。オガサワラがダイのことをしゃべったのは間違いないと思う」

「やっぱり、ママたちが危ないな」

「そうだな、今日からでも道場の敦子さんとダイの家族はヨコタで預かる」

「そうしてくれると安心して日本を離れられるね。じゃあ『魔女軍団、フランス再び!』ってことで」

 

 

 そういう経緯で、僕たちはまたぞろフランスに行くことになったんだ。

 

 

 

 

(その②につづく)