「レイ、ロベルト。私とダイ・ミシマの情報の入手先を言いなさい!」
「そ、それは・・・」
「まったく。もういいわよ。二人ともここで殺してあげるわ」
僕はサン・レイの太ももに神威を突き刺した。
「うぐっ!」
サン・レイがうめく。さすがに歴戦の傭兵だ。それ以上じたばたしない。
次にロベルトに刃の先端を向けた。
「待て! ひーっ! 待ってくれ! 言う。言うから待て!」
「トロワ。ドゥー。アン!」
僕はロベルトの縛ってない方の足首を切り飛ばした。
「うぎゃー!」
ロベルトが大仰な悲鳴を上げて転げまわる。
「さて、もう時間切れね。情報の漏洩元を教えたほうを助ける。どっちにする? トロワ・・・」
「教える! 教えるよ。アメリカ国防省副長官のハリー・ブルースだ!」
僕はロープでロベルトの足首を縛った。出血が止まる。
「これからはふたりとも歩くのがちょっと面倒になるわね。さて、もう行くわね」
「おまえ、傭兵だったら世界で一番だろうな」
レイがそう言った。
「ふん。私は誰かの命令で動くなんてまっぴらよ」
「エリクソンの命令で動いているんじゃないのか?」
「とんでもない。私は自分の意志以外では動かないわ」
「・・・そうか。大いなる勘違いってやつだったか・・・」
僕は建物の中に、ほかに誰か隠れていないかを探ろうと思ったけど、そんな悠長にしていられないこともあり、5階のドアを自動小銃でつっかえ棒にしてすぐにはあかないようにした。
そして、残ったプラスチック爆弾と雷管をセットし、ドアの前に置く。
バッグからHDDを取り出し、廊下に置く。モーゼル・レッド9や神威、ヘルメットなどをデイバッグにしまう。そのとき、焼夷薬が複数バッグに残っているのに気づいた。
僕は階段を下りる途中、2階の爆弾と焼夷薬を確認し、さらに地下室に降りた。焼夷薬の瓶をカメラのモニター群の前に置く。そして神威でドアに切れ目を開け、タイマーを最長の3分にして全部を階下に放り込んだ。
建物を出る。5階の窓から、僕を見つめるサン・レイのゆがんだような顔が見えた。僕は右手を上げ、指で拳銃の形を作って彼に向けた。サン・レイはあわてて顔を引っ込めた。恐怖に支配されているんだろう。あれじゃ、窓から逃げ出そうという考えも持てないな。
中庭で動く人間はいなかった。死体が累累と転がっている。地面の煉瓦が血を吸って変色している。
パトカーのサイレンが聞こえてきた。
インカムが届かない距離だったので、スマホで絵里香に電話する。念のため2倍速で、1オクターブ声を高くしてからだ。
「いま、お医者様たちがRを連れて行ったわ」
「オーケイ。私、すごい格好だから、外に出るの恥ずかしいの。着替え持って来てくれない?」
「Eからあなたのスタイル聞いてたから、隣の非常階段の一番下にバッグに入れたお洋服を隠しておいたわ」
「ヤッホー! すごい助かるー! じゃあ、着替えたらタクシー拾って帰るね」
「うん。待ってるわ」
僕は100倍速にし、先刻ドアが開くのを待っていたビルの非常階段に走った。鉄の踊り場の下にバッグが押し込んであった。回収し、高速で着替える。返り血だらけのお洋服スタイルの戦闘服をバッグに押し込む。このバッグ、完全防水だから、血が染み出してくる恐れはない。バッグに入れられていた塗れたウエスやウエットティシューで顔をぬぐい、ウイッグをはずして帽子をかぶる。
(まあ、これでなんとか普通に見えるかな?)
僕は道に出て歩き出した。
そのとたん、すごい爆発音と突風が道路上を走った。危うく吹き飛ばされるところだった。アズナブール家の次男のアパルトマンが大炎上を始めた。
リッツの大きなバスルームで、僕は絵里香と絵美にふたりがかりで洗われていた。
「すごい血糊ねえ。まだ落ちきらないわ」
「ええ。からだの方はなんとかきれいになったけど・・・」
絵美は僕の下半身には手をつけられないでいた。
「あら恵美ちゃん、だめじゃない。ちゃんと全部洗ってあげなきゃ」
「だってママ。ダイちゃん、これだもん」
僕はわざとBIGにしていた。いつもながら、大量殺人は性的興奮をもたらすんだ。別に絵美と絵里香を抱こうと思っていたわけじゃないけど、BIGになってるのを見せるのはいいかなと思ってた。
「ミッションの後はいつもこうなるんだ。あーあ、これのためだけにでも冴子を連れてくればよかったなー」
絵美は下を向いていたけど、おずおずと切り出した。
「あの・・・私でよかったら・・・」
*
パリは他人に無関心な街だが、2回も続けて起こった「傭兵大量殺人事件」は例外のようだった。連日、朝から深夜までそのニュースが報道されていた。
あのアパルトマンが完全に焼け落ちていたので、ロベルトが死んだことは、なかなか出てこない。
「いずれにしても、前回のシャンティーのアズナブール城の件と今回の左岸の事件は、何らかのつながりがあるものと思われます。アズナブール一族が持っていた傭兵軍団は全部で1500人ほどだったようですが、そのほとんどが2回の襲撃で全滅しているのです。犯人グループがどんな組織であるか、依然として当局はつかんでいない模様ですが、殺害された死体に残る銃弾が、前回のものと一致しているということだけは発表されました」
「前回は防犯カメラがほとんどない土地でしたが、パリ市内で起きた今回の事件では、アズナブール家の所有するアパルトマン周辺の映像が残されています。しかし、当局の発表によれば、それらしき集団の映った映像は皆無だということです」
「のんびり買い物や観光をする少人数のグループや家族連れくらいしか映っていない。それは事実であるようで、当局の困惑が見えます」
「殺害に使われた武器の類似性はあるようですが、今回は爆薬が使われています。現場の分析が現在行われていますが、爆弾は軍用である可能性が高いようです」
「いずれにしても、これでアズナブール家につきまとっていた黒い噂が真実であったことだけは明らかになりました。テロ国家数カ国とのつながりが指摘されており、フランス企業がそういう活動をしていたことに、国民からは驚きの声が上がっています」
僕はスマホでマイクと話した。
「やあ、今回も仕事が速かったね」
「うん。実質1時間ってところかな。で、莉実はどう?」
「ああ。肋骨が2本折れているが内臓にはダメージは残っていないそうだ」
「いま何してる?」
「眼科に行ってるよ」
「眼科? そういえば眼がどうとかいってたな。じゃあ、僕、いや私、病院に迎えに行くね」
僕はこのとき、莉実に起こっていた現象をまだまったく知らなかった。
第18話 終わり