神威(カムイ)の剣 タイム・コントローラーDAI -10ページ目

神威(カムイ)の剣 タイム・コントローラーDAI

小学6年生の美少年・三島大。古武術とタイム・コントロール能力を駆使して、さまざまな敵を殲滅していく超絶アクション小説。



三島 大、つまり「12歳の男の子」の僕が、正式に、つまりパスポートに出国スタンプを押されてLAから帰国した。



これからは井上由里と三島 大というふたりの人間が、同時期に東京に存在することになる。




「まあ、なんとかなるんじゃない」

「そろそろあっちのみなさんにちゃんと紹介してくれない?」




 ということで、僕は絵美莉実の双子と、第2ママの絵里香を三島家の5人の女性に紹介することにした。会わせるのは正剛流古武術鍛錬上(道場)の母屋。いろんなところに住まいを持っているけど、戸建て住居はここだけだもん。




 エルマ誘拐事件の時、いきなり姿を現した三島 大の説明をするのは、結構大変だった。なにより、家族がそんな危険な状態におかれていたのを黙ってたことで、ママにこっぴどく叱られた。




「そりゃ、うすうすは感じてたわよ。敦子にいろんなことを聴いたし、冴子さんやそれに時々お見えになる将軍(ママはマイクがどういう階級になっても『将軍』という呼び名を使っていた)も、少しだけどダイちゃんのお仕事について話してくれてたし・・・」

「ダイちゃん、女の子になってるの?」




 エルマが僕のひざの上で甘えながら尋ねた。自分が誘拐されたということについての自覚がほとんどないエルマは、僕がアメリカから戻ったことを単純に喜んでいたんだ。やっぱエルマはかわいいなあ!




「そう、お仕事の都合でこれからも井上由里っていう女の子として梅が丘のマンションに住んで、○○女子大学付属小学校に通うことになるんだ。あ、ずーっと由里じゃなくて、ダイと由里はしょっちゅう入れ替わるから、半々くらいになるかな」

「面倒なのねえ。どっちかにすればいいのに」




 そういったのは、長女の彩音だった。大学受験でダイ由里問題など煩わしいだけだということかな? 




「玲美ねえはどうなの?」

「どうって、ダイちゃんについてはもともと規格外な子だから気にしてないわ。もう監視の人もついてなくていいんでしょ? じゃあ、私はその双子ちゃんとお友達になれたらうれしいなってくらいかな」

「ふーん。そうだね、玲美ねえちゃんが一番歳が近いか・・・でも絵美莉実は恐ろしいよ。なんせ中一でもう何十人もテロリストを殺してるんだからね」

「あら。ダイちゃんこそ小6で、数千人を殺してきてるんでしょ? そんなことで驚いてられないわ」




 この玲美の言葉が、三島家の女性陣の心理を代表しているということに気づいた。




「自分の肉親ながら、すでに次元の違う世界で生きている三島 大と、そのチーム」




 これが三島家のみんなの「井上一家」に対する認識なんだ。




「怖がることないからね。3人とも美人ですごく性格もいい女性たちだから」

「まあ、ダイちゃんが身近に置く女性が美人じゃないってことは考えられないけど」


 玲美のこの言葉に、みんながいっせいに頷(うなず)いたのには参った。




 敦子は2家族(三島家と井上家)の初顔合わせの準備で、久しぶりに道場の方に戻った。僕は冴子に敦子の手伝いを頼んだ。




「やっとダイちゃんの全体像が見られるのね。じゃあ、いつも言ってる『地下練習場』にも案内して」




 冴子のこの言葉に、僕は三島 大パターンの時の身内の中で、冴子と敦子は井上家の女性陣に加えて『戦闘グループ』とし、姉ふたり、それに妹のエルマは『保護対象グループ』という区分けが出来ていることに気づいた。それで改めて全員にそういう宣言をした。例外はママで、その両方を行き来する。




「だって将軍や小暮総理やエリクソンさんは、もうお友達だもん」




 ということだ。“エリクソンさん”というのはもちろん第4*代米国大統領のことだ。副大統領のデビッドの妻・アイリーンとはメールのやり取りをする間柄だという。知らなかったなあ。







(その②につづく)







 

「ダイ、無事だったのね?」

「うん。全然大丈夫さ」

「こっちじゃ、すごいニュースになってるわよ。リクソン一族のNo.2と3が襲われたって」

「ふーん。No.1じゃないんだトーマスって」

「そう。トップはエミリ。表には出てこないんだけど」

「エミリってロスのソニアのパーティで会った背の高い女性?」

「ええ。よく覚えてるわね。ねえ、ダイ。私今でも信じられないのよ。今度の件はあらかじめ聞いていたから、かろうじてそうなのかなって思えるけど、どんなメディアでも、犯人グループは少なくとも30人くらいの集団だって報じているわ。たった一つだけ、『東洋の悪魔の仕業だ』『東洋の悪魔はたった一人でこの大虐殺をやりおおせている』『東洋の悪魔はうら若い小柄な女性だ』なんて書いてるわ。このサイト、過去の事件のを実際に担当した警官や軍人も参加してて、かなりリアリティがあるの」

「へー。あるサイトを潰したんだけど、ほかにもまだあったのか・・・主催してる男を抹殺したから、消えてると思っていたよ」

「まあ! やっぱりあのサイトに載ってることって、事実なのね」

「いやいや。そんなのは妄想ばっかりだよ。そんなことができるのは人間じゃないよ」

「・・・でも、今度のリクソンの件は、ダイちゃん一人でやったんでしょ?」

「うーん。僕は映画のヒーローみたいなものさ。主演者。助演も、監督も、撮影スタッフもいなくちゃ、あんなまねは出来やしないよ」

「ふーん、映画かー。なるほどね。でも、その主役を務めるだけの力があるってことでしょ?」

「まあ、そうだね」

 

 なんてことがあったので、僕はソニアとの会話が終わった後、PCでそのサイトを探した。

 


(こりゃやばいかも)

 


 僕はかなり驚いた。僕がこれまでに関わった事件が、ほとんど網羅されていたのだ。

 


 イギリスのサイトだった。スコットランドヤードの捜査官とか、米軍の軍事顧問とか、なんだか物々しい連中が投稿している。以前、エリクソンの陣営が潰したサイトではなく、新たに立ったサイトだった。

 


 この「東洋の魔女」というサイトには動画が組み込まれ、各事件の際の防犯カメラ、監視カメラの映像が見られる。僕はそのすべてを見ていった。



 気をつけて映らないようにしていたんだけど、いまじゃ世界中、どこの都市も防犯カメラだらけだ。僕の姿がいくつもの動画にとらえられていた。

 


 しかし、決定的な殺戮シーンでは、「何かの影が走り去ると両手が切断される」、「頭が断ち割られる」、ようにしか見えない。スピード・アイ状態の僕の動きは、普通のカメラでは捉え切れないのだろう。おそらく「超高速度カメラ」で撮らないと写せないと思う。

 


 しかし、その現場に僕、あるいは井上由里がいたことを映像は証明していた。ヘルメットをかぶり、戦闘服にデイパックを背負った僕は、確かに小柄な若い女性、いや少女にしか見えない。ふだんでも女の子に間違われる僕の外見は、欧米人には東洋系の少女と見えるのだろう。ましてウイッグをかぶり、女の子の服装で駆け巡る由里のイメージは『東洋の魔女』そのものだった。ちょっと若すぎるけどね。

 


「東洋の魔女」はもう世界中でひとり歩きを始めていたのだ。

 


「ということで、これからは仕事がやりづらくなる」

「そうだな。・・・わかった。軍の技術センターに相談してみる。それにそのサイトは潰す」

「まあ、状況証拠にはなる映像だからね。FBIあたりはもう入手しているものだとは思うけど、エリクソンに手を回すように言っといて」

「ああ。彼にとっても君は切り札だ。しかし命取りの火種でもある。消しにかかる可能性もあるぞ」

「うん。それも考えてる。もし、エリクソンが僕を裏切ったらってね。だから打てる手は打っておくつもりだよ」

「・・・おそろしく用心深い少年だな、君は」

「そうじゃなくちゃ、生き延びてないよ」

「そうだな。裏切りはいつも身内や一番親しい相手と相場が決まっているからな」

「そう。でも僕はマイクが僕を裏切ったとしたら、笑って死ぬよ」

「・・・どういう意味だ?」

「マイクは僕の父親だ。父親が息子を売る時は、アメリカの、いや世界の秩序維持に不可欠な場合だけだろうと思う。だから、マイクがそう思ったら、言ってね。僕は消えるから」

「・・・ダイは、いまの日本人ではないな。サムライなんだ」

「だって静剛流古武術道場の道場主だよ、僕」

 

 

第19話 終わり

 

 マイクに電話する。

 


「もう誰も上がってこないけど、社内の動きはどう?」

「ビルから逃げ出してくるのがたくさんいるけど、どうも館内放送で指示がでたらしい。そいつらは普通の社員に見える。ほとんどが日本人だ。アメリカ人は全員拘束している」

「じゃあ、もう僕に向かってくる人はいないってことかな?」

「まあ、そうだろう。そろそろ警察官が突入するようだ。ダイ、そこから逃げ出したほうがいいぞ」

「わかった。じゃあ後ほど」

 


 僕はゆっくり非常階段を下りていった。監視カメラのあるエレベーターは使えないと思っていたからだ。でも、降りながら考えた。

 


(面倒だなあ。僕の映像が残らなければいいんだから、エレベーターの監視カメラを壊せばいいか)

 


 僕は神威と犀角を仕舞い、モーゼル・レッド9を手にした。23階で非常階段のスチールドアを開けた。廊下には誰もいない。

 


 見ると30mくらい先の天井に監視カメラがあった。それを撃ち抜く。廊下を走り、エレベータホールに入り、6台並んでいるエレベーターの下降ボタンを押す。



 1台来て、扉が開く。中のカメラを腕だけ伸ばして撃つ。3発目で当たった。乗り込んでB1のボタンを押す。

 


 エレベーターは2階にも止まらず地下1階で止まった。

 そーっと外を見る。誰もいない。監視カメラはっと・・・やはり廊下の天井にあった。それを撃つ。



 これで出ていけるんだけど、それをやれば警官隊の拳銃や狙撃銃の銃口が一斉に僕に向けられるだろう。

 


(確か地下2階からが駐車場だったな)

 


 僕はこのビルの図面を思い出していた。

 階段を降り、B2に出る。駐車場だった。警官があちこちにいる。僕は500倍速に切り替え、思い切り走った。車路を一気に地上階まで駆け上がる。

 


 パトカーや装甲車がごちゃごちゃ停まっている。それら車両の周りにはフル装備のSWATや警官がうようよいたが、彼らの間を走り抜けた。

 


 僕の姿は見えてないだろう。でも安心してスピードを落とすのはまずいだろうと思い、道路を渡りきって、隣のビルの陰に入ってからリアルタイムに切り替えた。

 


 ものすごい数の警官たちが動き回っている。僕はゆっくり歩いて、運転手が見物にドアの外に出ているタクシーを見つけて乗り込む。

 


「走れる道を見つけて、半蔵門駅まで行って」

 


 全く違う路線の半蔵門線で東に向かった。錦糸町駅で降り、JRで西に戻る。

 


 のんびり電車で地下練習場のある駅まで行った。

 


「トーマスはどうしている?」

「基地の病院で太股の銃弾創を治療中だ」

「きっちり尋問してね。すべて話さなければ、僕に引き渡すって言えば、ちゃんと話すと思うよ」

「はは。よっぽど恐ろしい思いをしたんだろうな」

「さあね。じゃあ僕はニュースでも見るよ」

 


 スイートルームのソファに座り、TVをつける。どのチャンネルでも臨時ニュースを流していた。

 


「・・・このビルは世界的な総合商社として知られるリクソン・モバイルの日本支社が所有しています。そのリクソンで何が起こっているのでしょう?」

 


「多くの死傷者が出ている模様です。しかし、リクソン社員のうち、日本人の死傷者の数はまだ発表されておりませんが、運び出される中には見あたりません」

 


「屋上から落下してきたのは、やはりヘリコプターの回転翼だということです。10階のバルコニーで止まったのは不幸中の幸いというべきでしょう」

 


「ビル内で銃撃戦が行われたのは確かであるという情報が入っております。平日の都心のオフィスビル内で銃撃戦が繰り広げられたという事実は、衝撃をもって受け止められています」

 


「どうしてオフィスビルに大量の武装集団がいたのでしょうか? そして彼らが大勢殺され、かつその相手が誰であるか、襲撃者が何人いたのか、それらについての情報がまったく伝わって来ません」

 


「・・・では、あなたはビル内の監視カメラをチェックしていたんですね? 銃撃や戦闘の様子はどのように映っていました?」

「あの、それが全く映らなかったんです。銃が撃たれたのは非常階段と地下と屋上のようなんですが、そこには監視カメラは設置してないんです」

 


「一部情報によりますと、このビルの屋上に米軍のヘリが来ていたということです」

 


「リクソン・モバイルという会社は、われわれ日本人にはあまりなじみのない名前ですが、世界の主要石油採掘会社の一つであり、その系列会社は日本にも数多く存在しており・・・」

 


「進入した犯人の特定がなされるのは時間の問題でしょう。多くの薬莢が残されているもようです」

 


「この数カ月の間に、同様の大量殺人事件が3件起きています。いずれも被害者側の遺体のみが残されており、襲撃側は死体や負傷者を一人も残していないことから、仲間が負傷者を連れ帰っていると考えられており、殺戮の数からすれば、襲撃者集団は20から30人程度のグループではないかと思われます。米軍のグリーンベレー、あるいは海兵隊の指導者でもあった軍事評論家の小関徹氏によれば、どれだけ訓練を受けた優秀な狙撃手であっても、接近戦では一人で10人を殺すのが限界だということでした。今回を含めた一連の大量虐殺事件の平均的死亡者数は297人ですから、この20から30人という数字になります」

 


 30人分の働きしかできないか・・・なんか情けないなあ。そう思っているところにソニアからの電話が入った。

 

 

 

(その⑨につづく)

 

 

 銃撃された。忘れてた。このビルにはゴマンとリクソン・モバイルの社員がいるんだった。だって日本支社の本拠ビルだもんね。

 


 1000倍速に切り替わることもなかった。自由になる最高スピード500倍速までで十分対応できると本能的に、あるいは超アイを起こす能力が判断したのだろう。最近はこういう進化を遂げている。

 


 僕は階段に回り込んだ。100倍速にし、モーゼル・レッド9を取り出して弾倉を確認して安全装置をはずす。撃っているのは4人のアメリカ人だった。一人の頭に1発ずつ撃ち込む。4発で制した。

 


 階段を降りると、踊り場に5、6人いるのが見えた。こいつらも1発ずつで倒す。いまで200mの遠距離で50cmにマーキングできるまでに腕を上げているんだ。こんな至近距離で耳や眉間をはずすわけがない。

 


 47階に着いた。屋上からここまでに30人ほどの武装グループがいた。



 しかし、47階には皆無だった。ソファの上で左右に分かれたエドワードの両断死体があるだけだ。

 


 僕は下に降りる階段を探した。面倒な内装の施されたドアがその非常階段の入り口だった。



 マイクに電話する。

 


「このビルで、リクソンの私兵がいるとしたら、何階になる?」

「そうだな・・・まさかふつうに事務をやってるオフィス階にはいないだろうから・・・」

 


 マイクはデータベースと情報将校の赤外線探知機からの映像を見ているはずだった。

 


「どうも19階と20階が怪しいな。人数が多くて動きがはげしい」

「何人くらいいるの?」

「合わせて50人はいる」

「武装集団?」

「そのようだ」

「全部殺してしまうよ」

「ああ。しかたないだろうな。君の妹を誘拐したんだから」

 


 決まり。僕は非常階段を駆け降りた。

 


(これからは神威と犀角の出番だな)

 


 都心のど真ん中で銃撃戦を繰り広げるわけにもいかない。それにリクソン一族に僕の恐ろしさを知らしめる必要がある。

 


 25階まで降りたところでマイクから無線連絡が入った。

 


「連中が階段を登り始めたぞ」

「わかった、ありがとう」

 


 100倍速に切り替えた。23階で先頭集団にぶつかる。剣と犀角で切り込んだ。



 頸を刎ね、後頭部を突き刺し、額に穴を空ける。 



 いきなり現れた僕に銃を向けて乱射し始めるバカがいて、大混乱になりそうだったので、そいつら6人の両腕を切り落とした。

 


 あとの連中は突っ立っているだけだった。いやいや付き合わされているという表情だ。武装というより、スーツ姿で拳銃を握っている。日本人ばかりだ。20人はいる。

 


(社員が命令で無理やり拳銃を持たされたんだろうな)

 


 そう思ったので、殺したりするのはやめにした。拳銃から弾倉を抜き取り、ひとりずつ膝を犀角で突いて回る。まあ、何か月か松葉杖のお世話になる程度で済むだろう。

 


 そのまま階段を降りると、また武装集団にぶつかった。僕は持っていた弾倉20本を一本ずつ投げた。隠剣で鍛えたコントロールと、100倍速の時速数700kmの威力はすさまじい。弾倉が当たった場所は粉々に破壊される。自動小銃は破裂し、持っている人間の体をずたずたにする。体の一部に当たれば、そこは形がなくなる。

 


 20本のマガジンを投げ終えると、隠剣をバックルから抜き出し、投げた。二人を貫通すると3人目の体の中で止まった。どうやらこいつらは防弾ベストを着ているらしい。

 

 


 防弾ベストも進化している。FBIやNYPD、米軍のものよりこいつらの着ているほうが防弾性能が高そうだ。

 


 いい機会なので、僕は隠剣の性能テストをすることにした。100倍速、200倍速、500倍速とスピードを上げて投げる。

 


 それぞれ3人、5人と貫通する人間の数が増える。500倍速にする頃には、立っている武装姿がいなくなっていた。

 

 

 

 

(その⑧につづく)

 

僕はB2で非常階段の扉を開く瞬間に、いったんリアルタイムに戻していたのを再び500倍速にした。ゆっくりと開いてゆくドアから覗くと、廊下には誰もいない。トーマスがB3の方に人員を動かしたんだろうか?

 


 非常階段のドアを閉めて、階段を駆け降りる。

 

 
 案の定、途中から自動小銃の銃撃が始まった。しかし、ドアから腕だけを出して引き金を引くのは3人が限度であり、恐怖からか、顔を出さないでの乱射だから、弾道が狭い範囲にしか広がらない。ひゅーん、という感じで飛んでいく銃弾を横目で見ながら、B3への階段を下りた。

 

 
 突き出ている6本の腕をマシンガンの銃身もろとも切り落とす。それから階段室の出口から飛び出した。



 廊下には15、6人の武装集団とスーツ姿の10人ほどがいた。僕は彼らの間を、神威を振るいながら駆け抜ける。振り向かなかったけど、半数は胴体が上下に両断されたと思う。

 


 情報が届いた。エルマが監禁されているのはB3階北側角の部屋、給水機械室だ。

 

 
 その部屋の前に立った。ドアノブに手を掛ける。イヤな予感というか、感覚がした。いきなり1000倍速に切り替わった。僕は思いきりドアを開けた。ワイヤーが切れるのがわかった。

 


(爆発物を仕掛けているんだ)

 


 僕はそれにかまわず奥のベッドに走り、眠ったように目を閉じているパジャマ姿のエルマを抱き上げて部屋を出た。出る寸前、爆発が始まったのがわかった。閃光が小さく噴き出したからだ。

 


 僕はエルマを抱えたまま、もと来た非常階段を駆け上がった。1階のドアはロックされていなかった。肩で押し開け、廊下を走り、裏口から出る。

 


 目の前に以前会ったことのあるマイクの部下の情報将校が、10人ほどの武装した米軍兵と立っていた。リアルタイムに戻した瞬間、グアンという衝撃音と揺れを感じた。

 


 いきなり目の前に現れた僕を見て、将校は一瞬たじろいだようだったが、マイクから僕のことを教えられている筈だ。

 


「ありがとう。位置情報は助かったよ。エルマを基地に連れていって、どんな薬物を飲まされているか検査して。マイクによろしく。すぐに連絡入れるからね。それからこのビル、屋上にヘリが停まってなかった?」

「ええ。1機エンジンを切った民間ヘリがいます」

「じゃあ、指示を出して、そのヘリが飛び立てないようにして」

「イエス、サー・・・でも、どうやるんですか?」

「米軍のヘリをその民間機の真上でホバリングさせるのさ」

「なるほど。それならどうがんばっても飛び立てませんね」

 


 彼はニコッとほほえんで敬礼し、エルマを抱き抱えて去った。

 


 さて、都心で大虐殺、といくか。

 


 僕は左手に神威、右手にモーゼルを握った。今出てきた裏口には、煙が立ちこめ始めていた。B3の爆発は派手だったけど、ビル自体には致命傷を与えるほどの威力はなかったようだ。僕がいつも使うプラスチック爆弾の破壊力がすごすぎるのかも。

 


 僕の姿を見つけて、こちらに走ってくる男は容赦なく切り捨てた。コツンと刃の先端を額や目に突き刺すだけだ。ほとんど血は出ない。カウンターになって、刃が頭蓋骨を突き抜けることもあったが、おおむね脳に5cmから10cmくらい入り込んだところで止めることに成功した。これくらい浅くないと、引き抜くのに抵抗が出る。

 


 あの直通エレベーターにたどり着くまでに7、8人を刺した。そうだ、こいつら、さっきズボンを切り落としてやった連中じゃん。バカは死ななきゃ治らないんだな。かわいそうに。

 


 直通エレベータはRF階に箱があることを表示していた。ボタンを押す。箱が降りてくる間に、日本人警備員がおそるおそるといった表情で顔を出した。

 


「な、なにぃ~! このガキがあれをやったってのか?」

「は、はい。そう見えました」

 


 警備員の後ろには、同じ制服を着た若い男がふるえながら立っていた。腰が引けている。

 


「おい、坊や。そのエレベーターは偉い人専用なんだ。乗れないんだよおまえは」

「トーマス・リクソンのバカが僕を待っててもかい」

「トーマス? だれだそいつは」

「主任、このビルというか、リクソン本社の社長ですよ。きのう来日して最上階に泊まってた」

「あ!」

 


 そこでエレベーターが到着した。

 


「じゃあ、さよなら。トーマスに言っておくよ。そっちの若い方を主任にして、おっさんは惚けてるからクビにしなってね」

 


 呆然と見送る二人の警備員の顔がドアで遮られた。数少ないボタンのうちのうちのひとつ、RF階のボタンを押す。箱の中に置かれたソファでゆっくりとくつろぐ。神威を鞘に納め、腰の後ろに戻す。そしてモーゼル・レッド9のホルスターを胸の前に下げる。デカすぎて脇には収まり切れないんだよね、マウザーって。

 


 屋上に着いた。

 


 Rマークの上に止まったままのヘリはそのローターを回していたが、真上に米軍ヘリがホバリングしているので、飛び立つことができずにいた。

 


 僕は100倍速にした。それからベルトから隠剣を取り出した。狙いを付けて、ローターの軸に投げる。3投目で軸が折れた。駒のように羽根が回りながらずれて床に落ちた。その勢いが止まらず、屋上から落下していった。下を通行している人に当たると即死だろうが、それは僕のせいじゃない。

 


 ヘリのドアを開けて、トーマスが降りてきた。ヘリのエンジンが切られた。米軍ヘリがゆっくり飛び去っていった。

 


「やあ。残念だったね。空中散歩はまたの機会にするんだね」

「おまえは本当の悪魔か?」

「なんだよ。失礼な物言いだな。育ちが悪いのかな?」

「うるさい! おまえ、そんな旧式な銃でどうする気だ? その銃で俺を撃つのか?」

「そうして欲しいの? じゃあ」

 


 僕はそう言うと、トーマスの右太股に1発撃ち込んだ。

 


 悲鳴を上げながらころげ回るトーマスのところに行き、僕は彼に言った。

 


「自殺する? あそこから飛び降りれば確実にぐしゃぐしゃの死体になれるよ。自殺した方が楽だと思うなあ。CIAの拷問なんて子供だましだけど、僕の拷問はひどいよ。絶対に自殺できないようにしてから、何週間もいたぶり続けるからね。殺してくれって哀願されても、殺したりしないからね。人間が味わう最高の苦痛を、何週間も耐えられるかい? ここは僕のホームグラウンドの東京なんだぜ。僕はゆったりくつろぎながら、おまえを破壊していくんだ。楽しみだなあ」

 


 トーマスはすすり泣いていた。

 


「許してくれ。助けて!」

「だめだな。僕の身内に手を出した奴は、その家族全員を抹殺してやる。ほら、舌を噛んで死ぬなら、今のうちだぜ。いまからおまえの歯を全部引き抜いてやるから」

「まて、待ってくれ! 何が望みだ? 何でも言うことをきく」

「バカかおまえ。仕掛けてきたのはおまえの方だろう。何が目的で僕や家族に手を出したんだ?」

 


 トーマスはすべて吐くことを約束した。

 


 携帯であの将校に電話して、ヘリを回してトーマスを回収させた。僕はゆっくり47階に降りる階段に向かった。

 

 

(その⑦につづく)