三島 大、つまり「12歳の男の子」の僕が、正式に、つまりパスポートに出国スタンプを押されてLAから帰国した。
これからは井上由里と三島 大というふたりの人間が、同時期に東京に存在することになる。
「まあ、なんとかなるんじゃない」
「そろそろあっちのみなさんにちゃんと紹介してくれない?」
ということで、僕は絵美莉実の双子と、第2ママの絵里香を三島家の5人の女性に紹介することにした。会わせるのは正剛流古武術鍛錬上(道場)の母屋。いろんなところに住まいを持っているけど、戸建て住居はここだけだもん。
エルマ誘拐事件の時、いきなり姿を現した三島 大の説明をするのは、結構大変だった。なにより、家族がそんな危険な状態におかれていたのを黙ってたことで、ママにこっぴどく叱られた。
「そりゃ、うすうすは感じてたわよ。敦子にいろんなことを聴いたし、冴子さんやそれに時々お見えになる将軍(ママはマイクがどういう階級になっても『将軍』という呼び名を使っていた)も、少しだけどダイちゃんのお仕事について話してくれてたし・・・」
「ダイちゃん、女の子になってるの?」
エルマが僕のひざの上で甘えながら尋ねた。自分が誘拐されたということについての自覚がほとんどないエルマは、僕がアメリカから戻ったことを単純に喜んでいたんだ。やっぱエルマはかわいいなあ!
「そう、お仕事の都合でこれからも井上由里っていう女の子として梅が丘のマンションに住んで、○○女子大学付属小学校に通うことになるんだ。あ、ずーっと由里じゃなくて、ダイと由里はしょっちゅう入れ替わるから、半々くらいになるかな」
「面倒なのねえ。どっちかにすればいいのに」
そういったのは、長女の彩音だった。大学受験でダイ由里問題など煩わしいだけだということかな?
「玲美ねえはどうなの?」
「どうって、ダイちゃんについてはもともと規格外な子だから気にしてないわ。もう監視の人もついてなくていいんでしょ? じゃあ、私はその双子ちゃんとお友達になれたらうれしいなってくらいかな」
「ふーん。そうだね、玲美ねえちゃんが一番歳が近いか・・・でも絵美莉実は恐ろしいよ。なんせ中一でもう何十人もテロリストを殺してるんだからね」
「あら。ダイちゃんこそ小6で、数千人を殺してきてるんでしょ? そんなことで驚いてられないわ」
この玲美の言葉が、三島家の女性陣の心理を代表しているということに気づいた。
「自分の肉親ながら、すでに次元の違う世界で生きている三島 大と、そのチーム」
これが三島家のみんなの「井上一家」に対する認識なんだ。
「怖がることないからね。3人とも美人ですごく性格もいい女性たちだから」
「まあ、ダイちゃんが身近に置く女性が美人じゃないってことは考えられないけど」
玲美のこの言葉に、みんながいっせいに頷いたのには参った。
敦子は2家族(三島家と井上家)の初顔合わせの準備で、久しぶりに道場の方に戻った。僕は冴子に敦子の手伝いを頼んだ。
「やっとダイちゃんの全体像が見られるのね。じゃあ、いつも言ってる『地下練習場』にも案内して」
冴子のこの言葉に、僕は三島 大パターンの時の身内の中で、冴子と敦子は井上家の女性陣に加えて『戦闘グループ』とし、姉ふたり、それに妹のエルマは『保護対象グループ』という区分けが出来ていることに気づいた。それで改めて全員にそういう宣言をした。例外はママで、その両方を行き来する。
「だって将軍や小暮総理やエリクソンさんは、もうお友達だもん」
ということだ。“エリクソンさん”というのはもちろん第4*代米国大統領のことだ。副大統領のデビッドの妻・アイリーンとはメールのやり取りをする間柄だという。知らなかったなあ。
(その②につづく)