満願 | 感傷的で、あまりに偏狭的な。

感傷的で、あまりに偏狭的な。

ホンヨミストあもるの現在進行形の読書の記録。時々クラシック、時々演劇。

 

満願 (新潮文庫) 満願 (新潮文庫)
724円
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(あらすじ)※Amazonより

第27回山本周五郎賞受賞
2015年版「このミステリーがすごい! 」第1位
2014「週刊文春ミステリーベスト10」 第1位
2015年版「ミステリーが読みたい! 」 第1位

2014年のミステリー年間ランキングで3冠に輝いた、米澤ワールドの新たなる最高峰! 
人生を賭けた激しい願いが、6つの謎を呼び起こす。人を殺め、静かに刑期を終えた 妻の本当の動機とは―。

驚愕の結末で唸らせる表題作はじめ、交番勤務の警官や在外ビジネスマン、美しき中学生姉妹、フリーライターなど、切実に生きる人々が遭遇する6つの奇妙な事件。入念に磨き上げられた流麗な文章と精緻なロジックで魅せる、 ミステリ短篇集の新たな傑作誕生!

 

 

※ちょっとネタバレする部分もあります。

 

◇◆

 

第151回直木賞候補作である。

あもる1人直木賞選考会の様子はこちら・

 →『あもる一人直木賞(第151回)選考会ースタートー

 →『あもる一人直木賞(第151回)選考会ー途中経過1ー

 →『あもる一人直木賞(第151回)選考会ー途中経過2ー

 →『あもる一人直木賞(第151回)選考会ー結果発表・統括ー

 →『本物の直木賞選考会(第151回)~結果・講評~

 

 

「夜警」「死人宿」「柘榴」「万灯」「関守」「満願」の6編からなる短編集である。
最初の「夜警」でいきなりあもちゃん、度肝を抜かれた。
平織りのような日本語から紡がれる、この闇のような深さはなんだ、
平易な単語からひたすら率直に紡がれていく美しさと怖さはどうしたものか。
とおそれおののいたのである。
 

米澤さんという作家さんは、この第151回直木賞選考会で初めましての作家さんだったのだが、あもちゃん巨乳をガッチリ掴まれた。

道尾くん(道尾秀介さん)の洗練されたきらめいた文章も本当に好きなのだが、こちらの米澤さんの質素で飾らない、それでいて深みのある文章も大変魅力的で甲乙つけがたし!!

またそんなシンプルで深い闇のような言葉から繰り出されるストーリーそのものも恐怖。
幽霊とかそんな恐怖じゃないの、淡々と語られる普通の人の話。

特にあもちゃん、最初の「夜警」で描かれる恐ろしさがお気に入りで、あの恐怖は読後から4年経った今に至るまで、ずっとずっと記憶に残っている。
こわいの。とにかくすっげーこわい。6編の中で一番よかった。

 

この第151回直木賞は私にとって思い出の回で、私の愛する黒ちゃんの『破門』が見事直木賞を受賞、そしてあもる一人直木賞も受賞し、黒ちゃんは見事W受賞したのであった。。。まあ、黒ちゃんはあもる一人直木賞なんて目もくれてないでしょうが、私はいつも目にかけてます!

 

破門 (角川文庫) 破門 (角川文庫)
943円
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これは「疫病神シリーズ」の中でも1、2を争う名作である。

 

で、そんな黒ちゃんの『破門』といい勝負したのが、この米澤さんの『満願』であった。

黒ちゃんと同じ回という悲劇に見舞われたが、候補の回が違っていればいいとこいってたと思う。というか短編6編全てが、あもちゃん大絶賛の「夜警」と同じレベルであったら、黒ちゃんの受賞も危なかったと思うほどであった。

(6編全ての水準はいずれも高く、言葉も美しく、大変よかったのだが、イマイチ・・・と思われる作品がいくつかあったのが惜しかった。)

ちなみに最後の「満願」もよかったが、ちょっと狙っちゃったかも。
しかしかなり凝っていて、折り目正しい下宿先の女主人のキッチリ感がよく表現されており、
着物の衣擦れの音までもが聞こえてくるような静けさでよかったです。
 

6編のうち、ここではあもちゃん大絶賛の「夜警」について大いに語りたい。

「夜警」に出てくる、交番勤務の若い警官・川藤の小心者っぷりがとにかくこわい!!

時々、ニュースにもなるじゃないですか。

なんでそんな嘘つくの!?っていう犯罪を犯す小心者が。

謝ればいいんじゃないの・・?っていうことを隠すために、とんでもない嘘で警察沙汰になるような、小心者が。

この若い警官の川藤ってのがまさにそのタイプであった。

うっかりミスをしちゃったのを隠すためにくだらない嘘をついて、結局バレる、ということをやっていた。

それがとうとう、とんでもない大きな事件に発展して・・・

というめちゃくちゃこわい、というか、もしかしたらあなたにも、私にも、みんなにもあり得るような話なのだ。

たまたま川藤は警官で、自分のやったことを塗り隠すために、大きな小細工(変な日本語笑)を仕掛けてそれが失敗して殉職しちゃうのだが、私たちだってそうなりかねないのだ。警官じゃないから殉職まではしないにしても、いつ道を踏み外すかわからないのだ。

 

だがここが運命の分かれ道。

私だって仕事でウッカリ、時々、ミスをする。

うへ〜、やっっべ〜〜〜〜〜、やっちまった〜〜〜。

と思う時もたまにはある。

そうねえ・・2年に1度くらいは、あっ!って冷や汗をかく時がある。

自分一人でなんとかリカバリーできるなら、ミスを隠す努力は惜しまないが(笑)、これはボスに報告しないと後々大変なことになりそうだ(私が裁判所で弁護するわけではないので)、って時は、渋々、仕方なく、ボソボソとボスに報告するわけですよ。

 

そう、普通はそうするんですよ。

なんとか言い訳を・・とか、どう小細工してごまかしてやろうか・・とか、保身のために色々思案するわけだが、結局はさっさと報告して謝って、その後ちゃんと対処した方が結局依頼者のためになるじゃないか、と正しく報告して謝るわけ。

ちなみにそういう時、私はほとんど怒られない笑

正しくミスを報告して、今後の展開とリカバリーの道筋まで一緒に報告するので、

「わかった。じゃあ、引き続きあもさんに任せるからそうしてちょうだい。」

と静かに言われるだけであります。・・ま、静かなボスの方がこわいんですが笑

 

一方の川藤は普通じゃないから、そういうミスをその場しのぎの保身に走って浅はかな取り繕いをしてごまかそうとする小心者でありつつも、バカで、ある意味大胆とも言える性格でもあるのだ。

そしてそれがその後、己の命を奪ってしまう事件に発展する・・というこわいお話なのだ。

 

そしてこの作品は、そういう川藤を一貫して冷めた目で観察していた上司である柳岡の口から語られているのであるが、この作品の底にある闇はですね!!!!

 

ううーーーー言いたいーーーーーー

言います〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ここから下はネタバレですじゃ。

 

 

この上司である柳岡も保身に走ってた、という恐ろしい、というか人間的な事実がそこにはあった。

川藤とはタイプの違う保身ではあるのだが、川藤がちょいちょいやらかしていたミスのごまかしや、色々なことを上司という立場から注意することはできたし、警察に向いてない、と叱りつけることもできたのに、柳岡は過去に部下を死なせてしまったことから、左遷されていたことが心に重くのしかかっていて、これ以上部下に何かあって左遷先からさらに左遷されるなんていやだ、と思い、注意することもせず、どうせ長く一緒に仕事するわけではないし、と放置していたのだ。何事も起こらなければいい・・と。

ま、結局、殉職というとんでもないことが起こってしまったんですけどね。

 

柳岡の冷めた視点から語られる、深くて湿度が高いのにどこか飄々とした不思議な物語を、この米澤さんの文章はよく表現していて、本当に私の心にハマったのだ。

 

ちなみに本物の直木賞の講評では

 

「米澤穂信さんの『満願』は、ちょっと過ちがあるという指摘があった。コレラがどういうふうに伝染していくか、証拠物件は返せるはずだとか、いわゆる推理として成立するかしないかというところで。まあ、山本周五郎賞を受賞した作品であるから、それはそれで評価されているのではないかと思います。」

 

とのことであった。
どうやら、あもちゃんにどハマリした推し作家、選考委員らにはお気に召さなかった模様。

「それはそれで評価されているのではないか」


って、その言い方ーーーーー!!!!!

なんたる屈辱!!!
米澤さんの魅力が私がよくわかってるからね!!!!
これにくじけず、米澤さんにはがんばってほしい!!!

 

 

ところで!!!

先月、NHKで米澤さんのこの『満願』を原作としたドラマが3夜連続で放送された。

(6編のうち「万灯」「夜警」「満願」が放送された。)

 

これが私、うっかり見逃しちゃったのだ。。。なんたる大失態!!

しかし神様は私を見捨てはしなかった。

2夜の「夜警」だけは、最初数分を見逃してしまったもののほぼ全部見ることができたのだ。

これも運命だ!!ジャジャジャ、ジャーン!!!

 

 

西島秀俊×安田顕×高良健吾 ベストセラーミステリー『満願』ドラマ化!

 

主演 安田顕
第2夜「夜警」 若い巡査の殉職の謎
柳岡の若い部下・川藤が刃傷沙汰になった夫婦ゲンカに巻き込まれ殉職する。夫から身を呈して妻を守った川藤の行動は、世間から賞賛されたが、柳岡は違和感を覚えていた。川藤に自己犠牲の精神など無かった、と。そういえば……あの日は朝からおかしな事が続いていた、事件当日交番近くの工事現場で不審な事故があったことを思い出す。

 

ドラマの感想としては、安田顕さんが演じた柳岡がすごくよかった〜〜〜〜〜〜!!!

米澤さんの描いた「夜警」の不思議な空気感がとてもよく出ていた。

ドラマはほぼ原作に沿ったすばらしいものだったのだが、殉職した川藤ってこんな感じだったっけ?・・と疑問に思い、もう一度、読み直してしまったよ。

 

何度読み直しても、この「夜警」は名作だと思う。この湿気がたまらんわ。

く〜、そうなると1夜と3夜を見逃してしまったことが悔やまれる。どうだったんだろう><

 

というのは置いときまして、何度読み直しても、うん、本当に原作どおりだった。

なのに私が殉職した川藤に違和感を覚えたのは、ドラマでは川藤をサイコパス寄りにわかりやすく描いていたが、私は川藤の人物像を小心者寄りの人物として理解した、という違いがあったからだった。

確かに川藤にサイコパスな面もなくはないけど、やっぱり小心者の犯したとんでもない罪、のほうがぞっとするんだよな〜。そういう話って日常的にあるじゃないですか〜。

以下、上記の「小細工」に関する記述参考。

ま、ドラマは1時間で濃密に描かないといけないから、川藤が犯した罪がどのように引き起こされたか、を視聴者が理解しやすいように導いた結果なのであろう。

 

とにかく文章がすばらしいからドラマを見てハマった人は、ぜひ原作にあたってもらいたい!