暗幕のゲルニカ 暗幕のゲルニカ
1,728円
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(あらすじ)※Amazonより

一枚の絵が、戦争を止める。私は信じる、絵画の力を。

手に汗握るアートサスペンス! 

反戦のシンボルにして2 0世紀を代表する絵画、ピカソの〈ゲルニカ〉。国連本部のロビーに飾られていたこの名画のタペストリーが、2003年のある日、突然姿を消した―誰が〈ゲルニカ〉を隠したのか? 

ベストセラー『楽園のカンヴァス』から4年。現代のニューヨーク、スペインと大戦前のパリが交錯する、知的スリルにあふれた長編小説。

 

反戦のシンボルにして20世紀を代表する絵画、ピカソの“ゲルニカ”。

国連本部のロビーに飾られていたこの名画のタペストリーが、2003年のある日、忽然と姿を消した…。大戦前夜のパリと現代のNY、スペインが交錯する、華麗でスリリングな美術小説。

 

◇◆

 

第155回直木賞候補作である。

 

この作品をあもる一人直木賞受賞!と強く推したが、結果大三振。

世紀の大三振の様子はこちら・・

 →『あもる一人直木賞(第155回)選考会ースタートー
 →『あもる一人直木賞(第155回)選考会ー途中経過1ー
 →『あもる一人直木賞(第155回)選考会ー途中経過2ー
 →『あもる一人直木賞(第155回)選考会ー結果発表・統括ー
 →『魔のあもる推し被害者の会発足前夜。

 →『本物の直木賞選考会(第155回)~結果・講評~

 

 

この作品、最初の10頁くらいであっさりと私の中で受賞が決まった。そしていつもどおり外す(笑)。

とにかく重さと熱さが他の作品と全く違う。
そんでもってついでに言うと私の好みにドンピシャ。
それでも、後半どう進んでいくかによっては評価も変わるかも・・とは思ったが、ラスト1頁ラスト1行まで、張りつめた集中力は切れることなく、ものすごい熱量で原田さんは駆け抜けていった。

とにかく熱い!!!
高校球児らよりも熱い!!

今、ここにこうして書き付けておかねばならない
という原田さんの強い思いと執念が1文字1文字に込められているようであった。
 

スペインが好き、原田マハが好き、というあもちゃんの私情を取っ払って読んでも、大変よくできた作品である。
ピカソの愛人であるドラから見た20世紀とMOMAのキュレーターである瑤子から見た21世紀の現代を交互に巧みに絡ませながら、少しずつそれぞれが時を前にすすめていく。
20世紀の部分はほとんどが実在の人物で、21世紀の部分は全て架空の人物からなっているのだが、その実在の人物と架空の人物、事件や会話の絡ませ方があまりに巧みで、どこまでが本当にあったことでどこからが作り話なのか、虚構と現実の縫い目の境目が全くわからない、小説らしい小説であった。

文句を言おうと思ったら言えなくもない部分はある。大いにある。
瑤子が拉致されちゃうとことかさ。
まさかの展開に瑤子もビックリしただろうが、私もビックリした。
突然、全米が泣いた!みたいなハリウッド映画のような展開に驚いたねえ。


しかしその後、拉致グループの一人「マイテ」の正体がハッキリわかる箇所では、20世紀部分をずっと読んできた読者にはじーんとくるのではないだろうか。
ああ、彼女の・・・って。
マイテの正体そのものについては私はすぐわかったのだが、それでもはっきりと明らかになる部分ではジーンとなった。
描かれていない長い時間を読者は脳内で補完するのだ。
そして読者が、ピカソと別れたドラのその後を豊かに想像してくれることを信じて、それらの説明をばっさりカットするその勇気と技術に私は感服した。

そんでもって、この拉致部分を読んで、
イグナシオがマイテの面倒をしっかりみていなかったことに、私が密かにご立腹であったのはご愛嬌。

この作品が今この瞬間(平成29年7月)に直木賞を受賞させる意味があると私は思った。
フランスのパリで同時多発テロがあった。
バングラデシュでもテロがあった。
トルコではクーデターが起こった。

この作品の20世紀部分では、ピカソがパリ滞在中、祖国スペインのゲルニカで内戦が勃発する。そしてパリにナチスが進行してくるのだ。
戦争は世界へ広がる。
そして対する21世紀部分は、9.11事件から始まっているのだ。
まさに今、世界で同じことがまた起きようとしているのではないか。歴史は繰り返す。

20世紀の「ゲルニカ」と21世紀の9.11を巧みに繋げることで、連鎖する戦争の無意味さを、双方から強く説いた。

今、この不穏な時代において、作家は何ができるのか、と、ピカソのゲルニカを通して、原田さんが自身に問うている作品でもある。
「ゲルニカ」という作品がどういう作品であったのか、ピカソはどういう思いであったのか、今こそ私たちは知るべきであり、この時期にあえて書いた原田さんの心を知るべきである。

ラストの国連シーンは、国連に期待しすぎ〜と思って読了したのだが、
ふと、待てよ、と思い、再度読み直す。
何度も読み直す。
国連に期待しすぎているのと同時に、最大の皮肉とエールを送っているのかもしれない・・
とも思ったのであった。

バラハス空港やプラド美術館、ソフィア王妃芸術センター(←「ゲルニカ」所有)、ビルバオやバルセロナが度々登場してきて、スペイン大好きあもちゃんとしてはそれだけでも嬉しかったのだが(景色が脳内に甦る)、それ以上に濃密な作品のできばえに、本当に嬉しく読んだ。
 

 

そして最後に・・・

 

原田マハ・インタビュー「暗幕のゲルニカ事件」が伝えたもの『暗幕のゲルニカ』刊行記念

 

(引用)

『暗幕のゲルニカ』を書く直接のきっかけも、やはり実際に起こった出来事でした。〈ゲルニカ〉には、油彩と同じモチーフ、同じ大きさのタペストリーが世界に3点だけ存在します。ピカソ本人が指示して作らせたもので、このうち1点はもともとニューヨークの国連本部の会見場に飾られていました(ちなみに1点はフランスの美術館に、もう1点は高崎の群馬県立近代美術館に入っています)。しかし事件は二〇〇三年二月に起こります。イラク空爆前夜、当時のアメリカ国務長官コリン・パウエルが記者会見を行った際、そこにあるはずのタペストリーが暗幕で隠されていたのです。私はそれを、テレビのニュースで知りました。

(略)

 ピカソは決して反戦主義者、平和主義者ではありませんでした。けれども〈ゲルニカ〉は、アートが強いメッセージを持ち、政治や国を動かすこともありうると信じさせてくれる作品です。現代では政治的なモチーフを取り扱う作家はたくさんいますが、彼らはみんなゲルニカの子どもたちだと私は思っています。

 実際は、美術が戦争を直接止められることはないかもしれません。それは小説も同じでしょう。けれど「止められるかもしれない」と思い続けることが大事なんです。人が傷ついたりおびえたりしている時に、力ではなく違う方法でそれに抗うことができる。どんな形でもクリエイターが発信していくことをやめない限り、それがメッセージになり、人の心に火を灯す。そんな世界を、私はずっと希求しています。

(引用終わり)

 

暗幕のゲルニカ・・の事件は本当の出来事だったらしい。

そして3点あるタペストリーのうちの1点が高崎にあるってことに驚いた。

また、『暗幕のゲルニカ』から高校球児よりも熱い原田さんの想いをビンビン感じとった私だったが、その原田さんの想いはやはり本物だった、とこのインタビュー記事を読んで思い知ったのであった。