あもる一人直木賞(第154回)選考会ー結果発表・統括ー | 感傷的で、あまりに偏狭的な。

感傷的で、あまりに偏狭的な。

ホンヨミストあもるの現在進行形の読書の記録。時々クラシック、時々演劇。

いんやー、今回はいつも以上に楽しかったー!!!

あもる一人選考会そっちのけで読書を楽しんだ。
時間があるっていいなあ~。→最終的に駆け込みで読んだことはお忘れください。

無理矢理読まされる苦行のような読書から解放され、
しかもいい作品に恵まれ、
そして今に至るまで外しまくりで、もはや誰も期待してないことだし、
ああ、この爽快感!
私は今、脱衣所ではだかんぼになったような気持ちよさを感じてます!!!
・・・安心してください、履いてます。


今回も私情を挟みまくって決断を下しました。

いい作品ばかりが続き、きょえ~と嬉しい悲鳴をあげ続けていたのだが、
最終的には、はだかんぼの爽快感がもたらした勢いのままサックリ決断できた。

私が推したい作品と、獲るであろうと思っていた作品とが
大きくかけ離れていていた前回とは違い、
(結果、私が推したい作品(東山さんの『流』)が獲ったんですけども~)
5作品全てを読了した瞬間、やり遂げた勘がハンパなく、気持ちよかった。
ああ、終わったな、というこの充実感。

発表まであと20時間ほど。
本物の選考委員がハフハフ河豚鍋つつきながら(妄想)選考している間、
あもる選考委員は一人ハフハフ茶漬けすすって(現実)結果を待つことにしたい。

それではあもる一人直木賞選考会(第154回)の受賞作品の発表です!!!!!


はいっっ!ドラムロール、スタ~ト!!!!


ドロドロドロドロドロ~~~~~~



ジャン!!!


青山文平「つまをめとらば」(文芸春秋)


で~す!!!

青山さん、二回目のノミネートでの受賞、おめでとうございます~~~~~!!!!


多少迷ってはいたのだが、最終的にはそんなにグダグダすることなく、
また、ノミネートの回数とか全然関係なく、
やっぱり青山さんで決まりかな~、とあっさり決まった。

だって、うまいんだもん。
青山さんのやさしい筆遣いが私は好きやで。
なにより前回のノミネート時より格段にうまくなっていて、
ぐぐっと読ませてきたことに私は感動を覚えたほどだった。

5作品の長所短所などを考察し、あれもこれもいい!と嬉しい悲鳴をあげているうち、
読み終えた瞬間の
これが獲ってくれたら嬉しいな
というときめきを思いだし、唯一ときめいた青山さんの作品を選んだ。
(他の3作品は(1作品除く・・)、おもしろい!!!という興奮でいっぱい。)

これぞ、こんまりさんよろしく「ときめく選考の方法」!

あもるがときめく選考の方法に従い、
20時間後に行われる本物の直木賞選考会の経緯を予言いたしましょう。

まずは
▽宮下奈都(なつ)「羊と鋼の森」(文芸春秋)
が落ちるであろう。

ピアノや調律について書いた作品ということで、
ピアニスト崩れのあもちゃん、最後のお楽しみにとっておいた作品だったのだが、
ピアニストの視点から読んじゃって逆に厳しい採点になっちゃったかもしれない。
しかしそれを差っ引いても、他の4作品に比べるとかなり劣ると思われた。
直木賞主催の文藝春秋が、まずは候補に挙げてみたのであろう。
今後に期待する作家、ということでお披露目的な小説であった。

1作品が落ち、残った4作品の段階でおそらく、か~な~り、揉めるはず。

そして
▽柚月裕子「孤狼(ころう)の血」(KADOKAWA)
が落ち、続いて
▽梶よう子「ヨイ豊(とよ)」(講談社)
▽深緑野分(のわき)「戦場のコックたち」(東京創元社)
の2作品が一気に落ちるであろう。

私の中では「つまをめとらば」vs「戦場のコックたち」であったが、
本物の選考会では4作品の中からどれかが落ちた時点で一騎打ちという状態にはならず、
案外すんなり決まっちゃうんじゃないかな。
そして次の作品に期待したい、とかいうお決まりの台詞がどこぞから飛び出すのだ。

ザ・様式美。

というわけで、
私の順位の発表と各作品の簡単な総評を行いたい。

1位 青山文平「つまをめとらば」(文芸春秋)
無駄を極限まで省いた、静かで穏やかな凪いだ作品。
だからといって奥底には隠しきれない情熱がある。
そんなほとばしる情熱を真正面から受け止めた私は大いにときめいた。
なぜ「女」をここまで熱く静かに描けるのだろうか。
「女」という生き物を妖しくも美しく、畏れをもって描いていた。
女である自分には見えていない女がそこにはあり、ドキっとしたのだ。
長編に比べ、短編はダイナミックさを出すことが難しい。
ここ最近、ダイナミックさやスケールの大きさが重視される傾向にある中、
そんなハンデをもろともせず、限りなく制限された中で大きく世界を描ききった。
しかもどの角度から見ても美しい。
その素朴な描きっぷりに誰もがきっと心を撃ち抜かれる。


2位 深緑野分(のわき)「戦場のコックたち」(東京創元社)
1位の青山さんとは真逆のどえらい存在感のある作品の登場に、
ああ、時代が変わろうとしている
と嬉しくもあり、時代に置いていかれたオバチャンとしては淋しくもなった。
女性がこんな作品を書く時代がついに来たのだ。
とにかく文章が変わっていて、
舞台が外国で主人公も外国であることから、外国小説を意識して書かれていることもあり、
日本人の書く文章っぽくない。
しかも描く世界がドライで、良くも悪くも日本人らしい湿気がまるで感じられない。
このドライ感が新しいのだ。
友人が戦死し、民間人が死んでいく。そんなときも常にキリっと冷えた視線がそこにはある。
戦争反対!とかいう強いメッセージが出ているわけでもない。
なのに作者の強い気持ちに心打たれる不思議な小説。
外国人が多数出てきて一人一人を覚えるまでが大変、
という世界史的な試練を乗り越えた先には面白い世界が待っている。
(外人さんがみんな同じに見えるあもちゃん・・)
知らない世界を読者に見せてくれる作品はよい作品。


3位 梶よう子「ヨイ豊(とよ)」(講談社)
江戸から東京へ、江戸時代から明治時代へ、将軍から天皇陛下へ。
変わりゆく時代を鮮やかな色で描いていた。
考えたこともなかった世界がそこにはあった。
印刷技法も変わり、絵が庶民の楽しみから芸術に変わる。
浮世絵が西洋の絵に押されて廃れていく様子が、
時代に翻弄されながらも、力強く生きる浮世絵師を通してみることができる。
見たこともないのに、この作品を読むと江戸から東京に変わって行く様子を
まるでさっきまで見ていたかのような錯覚に陥る。
ヨイ豊が若き才能のある浮世絵師のために奔走する姿は涙をさそう。
ただ惜しむらくは、ヨイ豊の人物像がイマイチ定まらなかったところ。
天才肌ではないがコツコツ描き続ける才能をもつ。
才能ある後輩の浮世絵師に嫉妬しながらも、一番のファン。
という魅力ある人物だったはずなのだが、時々あれ?というブレ方をしていたのが残念。
そういう人間的なジレンマの描写がすごく好きなのに~。

1ミリほど離れて・・

4位 柚月裕子「孤狼(ころう)の血」(KADOKAWA)
こちらも女性がこんな世界をこんな書き方で書くんだ・・と驚いた作品。
登場人物、みんな悪!
みたいなアウトレイジ的な世界。
主人公もよかったのだが、とにかくガミさん(主人公の相方のマル暴刑事)が魅力的。
暴力的でむちゃくちゃで法外な捜査もなんのその。
正義は必ずしも正しくはない。
私、そういうの好きなんだわ。
技巧的な構成に、その技巧に勝るとも劣らない展開の面白さ。
ただ、私はかなり早い段階で結末まで全部読めちゃったんだけど~。オホホ。
しかし結末まで予想できていても最後まで楽しめた。
なのにこの順位になってしまったのはそれが理由ではなく、
全体的にゴチャゴチャしすぎちゃったのがマイナス要因であった。
極道さんの起こした全ての事件に詳細な説明を施しすぎたせいかもしれない。
大幅カットしてもう少しスッキリさせると、
もっと物語の中心線がクッキリ見えてくる気がする。


だいぶ離れまして・・・

5位 宮下奈都(なつ)「羊と鋼の森」(文芸春秋)
すんごく楽しみにしてたのに、すんごく残念だった。
とはいえ、わりと楽しめた作品ではあった。
深緑さんや柚月さんとは真逆の、湿気たっぷり、これぞ女性的という作品。
それが裏目に出ちゃったんだよね~。
とにかく読者の感覚に訴えかける小説で、比喩や感傷的な表現が多い。
子宮で感じろ!的な小説。
それが的確な表現であればいいのだが、ちょっと読者に頼り過ぎでは?という点も多かった。
また主人公が男性調律師、という設定にも違和感を覚えた。
女性だったらわかる表現も多かったのだが、
女性の調律師に変えるとリアリティがなくなって小説が成り立たなくなる。
難しいよねえ。。。
ピアニストを目指す双子ちゃんもどうせ書くならもう少し魅力的に書いてほしかった。
地味な世界に脚光をあてて描こうとしているわりに、
物語の展開が平凡かつ滅多になさそうな事件が起こってそこも残念だった。
きっとこの作者はピアノ歴が長い。
だからこその欠点が出てしまっていた。
ピアノの説明が極端に省略されすぎているのだ。
グランドピアノの中を見たことのある人がどれだけいるだろうか。
なんでグランドピアノの中を「森」と感じたのか。
だって、感じたんだもん。っって言われりゃそれまでだけども。
ダンパーペダルが何を指すのか知っている人がどれだけいるか。
それが同時に上下するように調節するとどういう効果が得られるから、
同時に下げるようにしなきゃね、と言われたのか。
まーったくわかんないじゃん。
私は知ってるけど。
ただ!この作品に真摯に向き合って、一生懸命に言葉を紡ごうとしている姿は
ピアノを通してすごく見えてきた。
その姿に私は大変好感を持った。
言葉も美しいし、感覚を刺激される作品が好きな女性から好かれる作家さんだと思う。
今後、どういう作品を紡いでいくのか、期待できると思う。
最後に・・・
帯に
「村上春樹のドライさと湿り気。小川洋子の明るさと不穏。
 2人の先行作家の魅力を併せ持った作品です。」
とあったが、それは言い過ぎ~~~~~~。とツッコみたい。

◇◆

全体的にレベルの高い作品が揃い、とにかく楽しい選考会であった。
文句があんまり言えなくて残念ではあったが、本当はこういう選考会が理想。
私のようなかわいいお口に毒舌なんて似合わないじゃん☆

また、一時期多く見られた、映像を意識した小説、は今回もなく、
あの流行は去ったのであろうか?
(もし映画化されるとしたら「ヨイ豊」だと思われます~。)
ただ宮下奈都さんの「羊と鋼の森」は、映像を意識したものではないが、
ストーリー展開といい、双子とかキャラが非常にマンガっぽい印象ではあった。

※下線部、1/19 18:45追記

さあさ、お立ち会い!
20時間後、いよいよ発表です!!

私のときめく選考方法が日の目を見るのか。
今夜、ときめきトゥナイト!!

茶漬けすすって、結果を待つ。