本当なら 本日の今頃、上野で展覧会観て、東京文化会館でバレエ公演を鑑賞するハズだったのに・・・
東京バレエ団×モーリス・ベジャール・バレエ団「第九交響曲」公演延期、および代替公演のお知らせ
あちこちの美術館も休館。
世の中には やむなく廃業・閉店したり、解雇されて生活が立ち行かなくなっている方々がいるなか、身勝手なつぶやきではあるでしょうが、
気が滅入る。
その、生活の基盤が失われた人々の中で 最も 気になるのが 芸術・芸能に関わっている業種。
何ヶ月 あるいは 何年も時間をかけて準備をしてこられ、資金繰りに奔走されて やっと公演にこぎ着けられたのに、この コロナ騒動であっけなく中止。
そして、それに関わって来られた関係各所の損失、ギャランティ。
いくつかのメディアでも取り上げていて、それらの深刻さを危惧しています。
朝日新聞 表現活動はいま 新型コロナ より
≪芸術止める痛み、感じて≫ 指揮者・典沼尻竜氏
3月にびわ湖ホール(大津市)制作のオペラ「神々の黄昏(たそがれ)」の公演(4年を費やしたワーグナー4部作の集大成)を中止。
無観客での上演と配信をすることに。
「文化・芸術は水道の蛇口ではない。いったん止めてしまうと、次にひねっても水が出ないことがある」
「文化は社会や経済との循環の中で育てられる。低速回転でもいい、回り続けないとダメなんです。」
「文化・芸術の蛇口に手をかけている政治家の方々には、芸術の営みを止めることへの痛みを感じる想像力を持っていただきたく思います。」
≪「軽視」される私たち≫ 劇団「東京マハロ」主宰・矢島弘一氏
3月23日に都が打ち出した 「4月12日までの自粛要請」で力尽き、東京・赤坂で3月19~26日の日程で始めた公演を途中で打ち切り。
代わりに、本番中に撮影した映像をインターネット上で無料配信。
「上演中止は職場を失うことです。
政府は文化芸術に関わる人たちを “企業に属すのを嫌うフリーター” 程度にしか見ていないと感じます。
演劇は人々の生活の中にあるピースにすぎず、それが時に大切なものになるという存在。」
「今は全く先が見えない状況」
≪泥臭い新宿らしさ、残したい≫ 新宿区長・吉住健一氏
「緊急事態宣言をめぐる業種の選定などをめぐって国と東京都が綱引きするような状態は首をかしげたくなる。窓口となる自治体の現場も混乱します。」
「今まさに先の見えない中で、芸術や娯楽は、自分が人間であることを取り戻して落ち着いたり、ホッとしたりできる力を与えてくれると信じています。」
≪文化守るため、国が支援を≫ ミニシアター運営・浅井隆氏
東京の渋谷と吉祥寺で運営する映画館アップリンクは、4月8日から当面、全面休館。予定していた京都での開業も延期。
4月27日からはネット動画配信の UPLINK Cloud で映画60本以上の見放題を販売開始。
「映画に出会う場を提供する立場で「家で映画」と宣伝していいのか悩みましたが、会社を潰さないための決断です。」
「私は経営者として、毎月の家賃や従業員の給料を払う責任を負っている。
国や都は「自粛」というが、それは経営者に「国民の生命の危機」と「会社を潰さない」の両方をてんびんにかけさせることなのです。」
政府は売り上げが半減以上した中小企業に200万円を上限に給付、 都は2店舗以上の事業者には最大100万円の「感染拡大防止協力金」を支給するとのことですが、この程度では
「映画館の賃料すらまかなえません。」
・映画製作 ; 文化庁が助成
・日本のコンテンツを海外発信する「クールジャパン」事業 ; 経済産業省が主導
・映画館 ; 厚生労働省の管轄(公衆衛生の観点から)
「ですが、特に映画の多様性を担うミニシアターには文化庁の助成などを考えてほしい。文化施設の休業中の賃料を国が肩代わりするなど、公平な仕組みで支援を考えてほしい。」
「ミニシアターがなくなることは、映画文化の多様性を失うことを意味します。簡単に潰すわけにはいかないのです。」
「開けていても赤字」「3カ月続けば閉館」コロナで危機に陥るミニシアターの悲痛
文化を支える現場から 収入が途絶えるなどで悲痛な声が上がっている中、「文化芸術立国」を目指す(←!?)日本政府の対応が問われている、と。
朝日新聞 (新型コロナ)文化芸術、鈍い政府の支援策 より
「文化芸術は人々の想像力、創造性とノウハウの歴史的な蓄積、多様な分野の専門人材の総合力、そして人々の支援で成り立っているが、その分解は文化芸術の継承の危機であり、基盤が根こそぎそこなわれかねない」
と、文化芸術推進フォーラムは、4月6日に緊急アピールを発表。
活動が続けられるように支援する最低1千億円規模の基金を、民間と協力してつくることを求めた、と。
それ以前に 関係者たちは3月中旬から経済的支援を政府に求めてきたそう。
「日本の文化芸術には、民間セクターが大きな役割を果たしてきた。
市場原理だけに任せたら、残るのは体力がある一部の企業だけでは」
日本芸能実演家団体協議会 福島明夫常務理事
しかしながら、それら 現場の危機感に対し、政府の反応は鈍いものでした。
3月27日、宮田亮平文化庁長官が、
「文化芸術の灯を消してはなりません」
「日本が活力を取り戻すために文化芸術が必要だと信じています」
という声明を発表したものの、具体的な支援策が示されなかったため、ネット上で「ポエムだ」と 反発を招いたとか。
4月7日、政府は緊急経済対策として文化芸術分野に限らず、収入が減った世帯やフリーランスを含めた中小・小規模事業者向けの給付金制度を打ち出したものの、イベントの損失補償は盛り込まれませんでした。
政府は税金で補償は難しいとしており、文化庁幹部も
「他業種も大変で、全て補償するとなるとお金がいくらあっても足りない」
文化芸術の支援策も発表されましたが、コロナ問題終息後を視野に入れた内容が目立つ、と。
萩生田光一文部科学省は 会見(4/10)で
「タイムラグがあり不安に思う人もいると思うが、給付金などを使い頑張って欲しい。我々はV字回復できるよう皆さんの活躍の場を増やす」
舞台芸術やミニシアターへの支援を訴える馬奈木厳太郎弁護士は、
「影響が大きい零細事業者に限るなど、補償方法はあるはず。
議論さえしないのは思考停止」
と、批判しておられます。
劇場、映画館は“パブリック”な場、民主主義に欠かせない
≪アーティストは必要不可欠な存在≫
ドイツ政府 支援の姿勢強調
一方で、欧州の中でも感染・致死者を抑えている ドイツ。
文化メディア担当者がテレビなどに頻繫に出演し、
「文化は良い時代にだけ営まれるぜいたくではない」
「アーティストは不可欠な存在だ」
などと述べ、芸術家らを救う姿勢を伝えている、と。
(藤野一夫・神戸大大学院教授/文化政策)
連邦政府は3月23日、小規模・自営業者やフリーランス向けの給付金を発表。
対象は文化芸術分野に限らず、総額500億€(約6兆円)。
フリーランスには1人最大9000€(約105万円)を支給。
藤野教授によると、ドイツではナチスドイツ時代の全体主義への反省などから、芸術を通して自分と違うものの見方に接し、想像力を巡らすことで平和や民主主義が築かれるとする考え方が、社会に根付いているのだとか。
「コロナで各国の国境が閉じられ、自国優先の価値観が強まれば、相互理解が難しくなる。
芸術は文化的な慣習や言語の壁を乗り越えるために必要不可欠で、今こそ支援が重要だという認識がある」(藤野教授)
同じ敗戦国であっても、芸術に対する価値観が ドイツと日本では全く異なるまま。
私が生きる糧となっている舞踊芸術界も例外ではありません。
新型コロナが問いかけるもの NBSニュース Vol.399 特別寄稿
(毎日新聞学芸部編集委員 齊藤希史子氏)
≪やり玉に挙げられた「文化イベント」≫
1月の屋形船での集団感染が確認されたのち、2月26日に安倍首相が自粛を要請したのは、「大規模なスポーツ・文化イベント」。
なぜイの一番にやり玉に挙げられたのか。
「宴会を含む「飲食」は生命維持に欠かせないから、まずは不要不急の「文化」を……という短絡思考だったのか。その眼中に、イベントを生業としている芸術家や興行主の存在はない。」
「国の対策をみると、音楽家という職業が職業として認められていないと感じる。仕事として認めないなら税金も徴収しないでほしい」
(日本音楽家ユニオンが3月中旬に実施したアンケートへの回答より)
「もとより我が国の文化予算の比率は、約0.1%。有数の文化「小国」として名高い。有事に際しても、その姿勢は一貫しているのである。」
≪ライブハウスと興行場の混同≫
不運なことに自粛要請の直後から、ライブハウスでの感染が相次いで発覚。
しかしながら、「ライブハウスの業態は、大半が「飲食店」。
一方、劇場やコンサートホールは「興行場」であり、条例下で厳しい換気基準を満たしている。
「密集」はともかく、「密閉・密接」には当たらないはず。」
「ライブハウスとて全店が「3密」ではないのだが、「歌舞音曲の場は総じて温床」という偏見が、みるみるはびこった。」
「“とりあえず自粛を”という同調圧力が、民間でも高まっていった。」
≪興行主と観客の「自己責任」≫
「自粛はあくまでも「要請」であり、興行主は開催か中止かを、自己責任で決断しなければならない。キャンセルは赤字や破産を意味する。
といって強行すれば、世間の非難を招くばかりか、万一会場で集団感染が起きた場合に取り返しがつかない。進むも地獄、退くも地獄、が本音」
「(自粛要請は)『感染リスクを企業側が作っている、無責任だ』といった批判がこちら側に来る仕組みになっており、それを避けるために、強制的に閉めなければならない状況です。」
(コンサルティング会社ケイスリーが4月上旬に実施したアンケートへの回答より)
「興行主が開催に踏み切れば、今度は観客が「行くべきか行かざるべきか」の選択を迫られる。劇場で何らかの病を「もらう」可能性は常にあるが、新型コロナの場合、症状なき感染者として自ら周囲に「ばらまく」恐れが足かせとなった。」
≪補償なき休業≫
「事実上の名指しにより、いち早く閉鎖された劇場。日本クラシック音楽事業協会のまとめによると、3月16日現在で
「公演中止・延期は約740件、損害総額は24億円超」に上った。
しかし政府は28日、これらの陳情に「税金での補償は難しい」と回答。中止は命令ではなく、建前上は興行主の自由意思によるからだ。」
≪芸術家の立ち位置≫
未曾有の災厄の中、文化大国としての株を上げているのがドイツ。
「モニカ・グリュッタース文化相が無所属の芸術家に
“文化は平時のみのぜいたく品ではない。あなた方を決して見捨てはしません”
と呼び掛けたのは3月11日。彼らを含む中小事業主への緊急支援予算として、最大500億ユーロ(6兆円)が計上」
「そもそも ドイツは州や市ごとに公立の歌劇場を有し、団員は公務員。翻って日本の楽団やバレエ団は、多くが公益財団法人。
内部留保に規制があり、有事に備える体力がない。」
「これらに所属しない演奏家やダンサーの立場は、さらに不安定。
公演準備にどれほどの労力を費やそうとも、本番がなければ報酬も水の泡。
音楽教室・バレエスクールが軒並み閉鎖された現状では、講師としての収入も見込めない。
コロナ禍は真の国力を、残酷なまでに露呈させてしまった。」
「外出の自粛を求められる中、音楽、映画、美術その他の芸術がなければ、家で過ごす時間はどれだけ貧しいものになるか考えてみていただきたい。
芸術、芸能は心のビタミンのようなもの。
軽んじると世界はますます灰色になっていきます。経済のことと同様の支援をお願いします」
(ケイスリーのアンケートへの回答より)
≪「ライブ」の危機≫
「コロナ禍の初期には無観客での上演をネットで配信する手が使えたが、感染が拡大した今は、出演者が顔をそろえてのリハーサルすら困難な状況。
生身の体の濃厚接触あっての舞台芸術が、根底から揺さぶられている。
芸術家はおのおの自宅で鍛錬を続けているが、たった一人で心身の状態を保つのは、どんな名手にも至難の業に違いない。」
「ダンサーの身体は稽古の継続によって作られる。
一日一日が勝負なのに、活動を止めなければなりません。
たとえコロナの雲が晴れても団員と団のコンディションは、すぐには戻らないでしょう」
(バレエ団関係者の述懐)
「“今、ここ” のライブ感こそが舞台芸術の醍醐味であり、劇場は観客にとっても、他者の “生” に触れる掛け替えのない装置だ。」
【芸術なくして豊かな人生はない。】
「あるダンサーは
“表現のあり方 が問われている。
バレエの振付やパ・ド・ドゥの距離感なども変わってくるのでは”
と語った。
より強靱な形態へと、脱皮させられるか。
コロナとの根比べに、官民を挙げて取り組むべき時だ。」
パフォーミング・アーツ、ファイン・アーツ のみならず、すでに放送している連続ドラマや4月クールから始まる予定だったドラマも収録できなくなってしまっているという昨今。
どれだけ 私たちが 常日頃 芸能・芸術というものと身近に接し、ご飯でお腹を満たしてるのと同様に 心や精神を潤してきたことか、無粋な政治家のおじさまたちでも分かるのではないでしょうか。
この コロナ騒動が始まる前から
「名実ともに文化 “貧国” のまま」(毎日新聞学芸部 齊藤希史子氏)
の日本。
これを機に、舞台芸術に関わる アーティストやスタッフの社会的地位の安定性、有事の際の危機管理体制を見直すべきなのではないでしょうか。
アートは 経済的実利を生むものではありません。
しかしながら “経営” をしなければ団員やスタッフを食べさせることはできません。
やはり “官民” 相互で持続・発展させていかないと。
表現活動はいま 新型コロナ 朝日新聞 2020年4月19日 朝刊
公演中止5600回、損失522億円 団体推計 朝日新聞 2020年4月15日 朝刊
文化・芸能は「ぜいたくな存在」なのか 支援遅れる日本 生活に根付く欧州は 毎日新聞
新型コロナが問いかけるもの NBSニュース Vol.399 特別寄稿
(毎日新聞学芸部編集委員 齊藤希史子氏)
朝日デジタル 2020年3月1日
意見書 公演中止で本当に良いのか 野田秀樹氏(演出家・劇作家)
Show Must Go On NBSニュース Vol.398 新・起承転々 漂流篇 VOL.38
NBS 日本舞台芸術振興会
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