12月11日 昼
後に母に聞いた話ではあるが
あもんが先生と面談した前にアイカは先生とお話をしていたらしい
初め先生は母と姉ちゃんに父の容態を伝えた
大事なことなので姉ちゃんは聞きたがるアイカを一人、外で待たせていた
『娘さん、小学校3年生ですよね?』
『だったら、きちんと話せばちゃんと伝わるので、話してあげて下さい』
どう話せばいいか戸惑っていた姉ちゃんを見た先生は
『よろしかったら、私から伝えましょうか?』
『はい。よろしくお願いします』と、アイカは面談室に通された
詳しい話は聞いてはいないが、先生は人の生死の事、寿命の事、誰も悪くないんだという事をアイカに分かりやすく伝えたみたいだ
それを聞いたアイカは今から起こることを分かったのか、涙が出てきたみたいだ
普段からよく笑いよく泣くアイカ
たまにウソ泣きなどもしてみせるアイカは、本気で泣くと止まらなくなるらしい
オェオェと言いながら病院内を彷徨いながら泣きまくっていた
それを見た看護師長さんが、姉ちゃんに言った
『泣きたい時には泣いちゃいけんとか言わんほうがいいですよ』
『泣きたい時にはしっかりと泣かせた方がいいですよ』
『アイカちゃん、そこに家族室があるけぇ、あそこでいっぱい、泣いてきんちゃい』
そう話しかけた看護師長さんは姉ちゃんとアイカを家族室に入らせたのであった
『父さん、これ見て、この前の写真じゃ』
あもんは痛み止めの薬を点滴し、少し落ち着いた父に見せた
家族みんなでセルフタイマーで撮った写真、孫二人と撮った写真、父がダブルピースしている写真、コータとアイカがふざけている写真など十数枚の写真を父がじっくり見ていた
『おお、こりゃ、ええ~』
と父が写真をめくる手を止めたのは、その時に食べた誕生日ケーキのアップ写真だった
『その写真かよ!』と小さくツッコむ、あもん
父は自然とクスッとしていた
『今日は夜勤、ないんか?』
時折、ハァハァ言いながら、か細い声で父はあもんに話しかけた
『うん、昨日でキリの良い所まで、やったけぇ、今日はないんじゃ』
父は安心したように頷いた
『墓は近くの墓地がええと思うんじゃ、近いほうがええじゃろ』
あもん父は次男であり、里を出て広島に住んで家族を創ったために、あもん家では墓を新調する必要があった
父が何を察しているのか分からないが、聞くとこによると以前から父の心配事だったらしい
父は自分の事より家族の事を心配する性格である
『そんなん、心配せんで、ええんじゃけぇ、ちょい気が早いよ~』
あもん母があもんが答える前に答えた
『ほうよ、正月帰って来るんじゃろ?何日に帰るん?2日ぐらいか?』
あもんはこれ以上母をしゃべらせると泣きそうだったので、透かさず父をこっちに向けさせた
あもんを見た父は言葉を出さず、何故か照れくさそうにクスッとした
『タイヤは変えたんか?』
『えっつ?うん、予約しとるけぇ、来週替えるつもりじゃ』
『ほうか、、』と言ってまた、父はクスッとした
息をするのが困難な状態なのに、父は何故か家族の心配ばかりしている
あもんが昨年買った車にスタッドレスを履かせていなかったのが心配のひとつだったみたいだ
父はタイヤを変えさせようと、十五万を封筒に入れて、母に渡していた
『なんで?そんなん、いらんよ』と母に一度は返したが
『お父さんが、どうしてもって言うんじゃけぇ、姉ちゃんに渡したんよ』という母の言葉にあもんは受け取ったのだ
『タイヤは変えたんか?』
『えっつ?うん、予約しとるけぇ、来週替えるつもりじゃ』
『ほうか、、』
これが、あもんと父が交わした最後の会話となった