父がやり続けた仕事 ④ | あもん ザ・ワールド

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春になった

あもんは変わらず休みの少ない日々を送っていた

父の抗がん剤治療は3回に分けて行われる予定で

数週間入院したら退院、またしばらくして入院と言うスケジュールとなっていた

父は67歳の時に狭心症で、69歳の時に腰部脊柱管狭窄症で手術をしている

今回の治療として手術と言う選択もあったらしいが

先生は年齢的な問題と過去の手術の経歴から抗がん剤治療を進めた

中皮腫は新生がんと分類されるらしく、治療法がはっきりと確立されていないのが現実

最近のがんは治る病気だと噂で聞いたことがあるが、それは発症例が多い有名ながんで、

しかも早期発見がポイントとなっている

日本医療界としても、これから多く中皮腫患者が増えるだろうと予想される中

様々な臨床実験をしているらしいが、まだ難病だと言ってもいいだろう

 

抗がん剤治療を始める父

これは父の病との戦いであり、家族のための仕事であろう

父は懸命に働き、あもんと姉ちゃんを育て家族を創ってきた

孫であるアイカとコータも楽しそうに子守をしてきた

決して裕福ではないけれど、ただ単純に孫が家で騒いで笑って泣いてと

ごくごく普通な時間が緩やかに流れていた

父の病気が発覚してから、家族には常に緊張が走り、どこか落ち着きのない日常に変わった

母は毎日看病に病院へ通い、精神的にも体力的にも消耗を続けている

以前のごくごく普通な時間を取り戻すために戦う決意をした父には

家族のために治してやるという意識がきっとあったのだろう

あもんはこれを父の仕事と思うようになった

仕事が好きだった父は仕事に自分の命をも懸けているのだと思った

 

しかし、抗がん剤治療の副作用はやはり、身体にはそうとう辛いみたいで

父は治療を始めた頃から徐々に弱っていく

 

『がんを殺すために毒を飲むようなもんじゃけぇの~』

あもんが会社の大先輩に抗がん剤治療のことを聞いた時の答えだった

 

GWも過ぎ、あもんの仕事は少し落ち着いてきた

仕事が落ち着くと一人旅をしたくてウズウズするのがあもんだ

自分で作った自由な時間を満喫しようと旅を続けていたが

どこか、楽しみ切れない思いがあったのだ

母は毎日病院に行っている

姉ちゃんはアイカとコータを連れて毎週病院に行っている

アイカとコータは病院内のドトールでサンドイッチを食べるのを楽しみにしている

あもんもたまに見舞いには行ったが

徐々に弱まっていく父を見るのがなんだか嫌で

何もできない自分に気づくのもなんだか嫌で

ひとり旅に行っても取れないモヤモヤ感で日常を過ごしていた

 

『わしゃ、実験台になっとるんじゃ。。。。』と父が現実逃避を始めだした

治すために抗がん剤を打っているのに日に日に元気が無くなっていく

病院側は精神的なモノだとも言うが

あもん達素人から見ても明らかに弱くなっていく父の姿があった

最後の抗がん剤治療の前では、もう手すりに捕まっていないと歩けない状態にまでなっていた

 

盆が過ぎ、あもんは新しい現場に着くこととなった

少し遠いが実家から通える距離の現場である

現場の立ち上がりである為に、盆休みを返上しバタバタとしていた

そんな中、先生に呼び出された母があもんに報告をした

 

『抗がん剤治療、だめじゃった、みたいよ』

『えっつ!なんで!あんだけ苦しんだのに!』

『もう、手術しるしか方法は無いって言うて』

『その手術って成功するん?』

『そりゃ、分からんって。手術して肺を全部取るらしいじゃけど』

『それに身体が耐えれるかどうか。。それとね』

 

『父さん、早かったら、9月末までじゃって、、、、、』

『えっつ!嘘じゃろ!!』

 

続く