幸と不幸と現実と 52 | あもん ザ・ワールド

あもん ザ・ワールド

君へと届け 元気玉

この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1996年から1997年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします


相変わらずサカナ組の朝は遅い
昨日はあもんも気持ちよい疲労感とお酒により早々と寝てしまった
遅くまで笑い声がしていたので、大将や砂糖さんあたりは飲み続けていたのであろう
ねぶたで跳ねた翌日は決まって全身筋肉痛である
あもんは痛い身体でゆっくりと湯を沸かしコーヒーを飲んでいた
ここは町中にある普通の公園である
この公園のジャングルジムでちびっ子が遊んでいた
ひとりの大人が何人かのちびっ子と遊んでいるというどこにでもある光景が目の前にあった
『あれ?砂糖さんじゃ』
よく見ると、ちびっ子と遊んでいるのは砂糖さんだ
そのちびっ子も昨晩一緒に跳ねた幼稚園児であった


砂糖さんは不思議な人である
普段は東京で鉄筋工としてバリバリに働いているらしいが
ねぶたの日だけは彼にとって特別な日であり、決まって休みを取る
キャンプ場ではいつもアサヒスーパードライの2リッター缶を両側に置き飲んでいる
普段から無口であるため、あまり誰かと語ることをしない
しかし、ねぶたになると人が変わったように活発になる
昨晩はねぶたヒーローのように跳ねた後、たらふくビールを飲んでいた
そして、朝早くからちびっ子とジャングルジムで遊んでいる
きっと、興味の無いものは無い、興味のあるものは物凄くあるという性格なのであろう
一般社会において、協調性というものはある程度必要だと思う
だが、あもんは砂糖さんのようなワールドを持った人がカッコいいなと思った
他人の目など気にせず、自分がこうだと思ったことに突進する
多分それは社会においては失敗を招く原因になることが多いだろう
しかし、それを分っていてもまだ突進するというところがカッコいいなと思った





ちびっ子と砂糖さんの遊びがエキサイトしてきて公園が騒がしくなってきた
その笑い声でひとり、またひとりとテントから顔を出していった
それぞれがゆっくりと眠気を覚まし、全員が起きたということで
コンカナ王国へ行こうということになった
コンカナ王国は宿泊施設レストランがあるレジャー施設で温泉もあった
それは鬼岳温泉という温泉で、ここでも跳人ライダー割引が利くという
全身筋肉痛のサカナ組一行は今晩の福江ねぶた最終日にそなえて身体を癒すことになった


するとそこには数台のバイクが止まってあった
多分、酒宴組御一行であろう
バイクを見渡すとミクねぇのセローがある
あもんは北海道でミクねぇと別れてから、また会いたいと思っていたが
まさか福江島にミクねぇがいるとは思わなかった
ミクねぇは1ヶ月前まで離婚調停のために北海道に住んでいた
それが最近、地元である兵庫県に帰ってきたと言った
ということは離婚が成立したことを意味するのだろうか?
あもんはミクねぇとゆっくり話がしたかった
あもんが北海道でミクねぇと分かれる時
ミクねぇは『今から始める』と言っていた
何を始めるかまでは聞いていなかったが、きっと人生に関ることであろう
どんな意志があってそれを決めたのか、今から何を始めるのだろうか?
それはあもんの応援がきっかけになっているのだろうか?
そして、あもんのことをどう思っているのだろうか?
結局、酒宴組一行とはここで会うことが無かった


温泉に入ると腹が減るということでサカナ組一行は昼飯を食べに行った
福江港前にある小さな食堂が旨いと評判であった
『あもん、やきそばって書いてあるのは皿うどんだぜ、うまいぞ』
『あっ、食べたいっす』

と何人かがやきそばを注文した
『なんだこれ!』
と注文した誰もがやきそばを見て思った
その量が二人前以上もあったからだ
『あははは!俺にはちょっと完食無理じゃ、あもんなら食えるだろう』
焼き魚定食を頼んでいた大将は何故か自慢気であった
『大将、知ってて薦めたでしょう』
量に加えて熱さも凄かったので、あもんは何度も休憩しながら食べた
『なに!うまっ!』
味は本場とあって海鮮の味が色濃く出ていた
海鮮と調度良く絡み合う餡かけの甘さが箸を進め量と熱さが箸を休める
パリッという食感が食欲を誘い、不思議とそれが完食まで続いた
食べ終わると満腹感が眠気を呼んだが、ねぶたへのエネルギーが溜まった事を実感している
全員満腹で公園に戻った
途中、漁港で見た多くの大漁旗が今晩の盛り上がりを期待しているように靡いていた












『いくさん、震災ってどうでした?』

公園でまったりしている時にあもんはいくさんに聞いた
いくさんは大阪泉佐野の出身であり、阪神大震災を経験した旅人であった


『なんだ、いきなり』
『いや、僕もあの時、福山にいたんですけど、福山でも結構揺れて目が覚めましたもん』
『ああ、そうだな、びっくりする揺れだったな』
『だけど、正直あそこまで大惨事になっているとは思わなかってん』
『NHKだって地震速報流したけどな、本当のことが分ったのはずいぶん経ってからやからな』
『俺だってTVばかり見てたけど、見るたびに震度や被害が大きく発表される』
『きっと、みんな、何がなんだか分らんくて、助けを呼ぼうとしても連絡手段はないし、誰かを助けようにも何をしていいか、わからへん』
『俺らも遠くで何することもできへんかったしな。。。』


『神戸の長田なんてひどいもんや。消防署連絡しても全然来んかったらしいで』
『せやから、あんな焼け野原になってしもうて』
『なんや、消防にも優先順位ってのがあるみたいってツレが言ってたわ』
『あそこは今から道路から作りなおして区画整理するみたいやで』
『どこかの誰かはある意味、ラッキーと思っているんやろうな』
『暴力団が救援物資配ってたり、それに群がる全国からやってきたホームレスとか』
『みんな、パニックでどうすることもできへん、今まで守ってきたものが壊れていったみたいや』


『ミクねぇも被災者やで、あいつは神戸やからもっと辛かったやろうな』
『あっ、それ僕も聞きました』
『あいつの旦那、いい奴やったんやけど、おかしゅうなってしもうたわ』
『えっ、知り合いだったんですか?』
『ああ、あいつは旅人ではなかったけど、何回か飲んだことあるからな』
『せっかく軌道に乗った会社を一瞬にして無くなったらしい』
『合わせて自分が集めた仲間もだからな。。。そりゃ、おかしくなるわ。。。』
『あいつは何も悪くないのに、正義感が強かったんやな』
『実家に戻って仲間の家に一軒ずつ頭下げに行ったらしいで。みんなあいつが呼んだ仲間やったから。。』


『やっぱりな、不幸なことがあっても、不幸だと思わないほうがいいかもな』
『調子いい考えやけど、人間ってそもそも、強くはないやん』
『せやけど、強くは無いけど、弱くなるコトもない』
『幸せって思わなくても別にええけど、人生嫌になったらあかへん』
『嫌になったら何も始まらへん。。。何事もそんなもんやと思っとかんといかん』
『それで、ええねんっていう関西弁あるやろ』
『俺はそれに全てが詰まっとる気がする』

『さあ、そろそろ準備するか!あもん、今夜は燃え尽きるで!』

時刻は4時を過ぎていた
日が落ちるとねぶたが徐々に明るくなり囃子が徐々に響き始める
ついにねぶた最終日が始まる






公園には朝のちびっ子がまた来て遊んでいた
よく見ると砂糖さんも一緒に遊んでいた
砂糖さんはもうねぶた衣装に着替えていた
あもんもすばやく衣装に着替えちびっ子と遊びながら情熱に火を着け始めた





続く