幸と不幸と現実と 41 | あもん ザ・ワールド

あもん ザ・ワールド

君へと届け 元気玉

この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1996年から1997年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします



『テキトーに座ってね』
そう言い残すとミクねぇは洗面所の戸を閉めた
札幌の真ん中にあるこのマンションは2LDKでそこそこの値段がしそうだ
家具は少ないがソファーは立派なものが置いてあった
こんな汚い格好で座っていいのかどうかというソファーだ
全体的に白のイメージでまとまっており静かに座っていると癒される空間だ
ほのかに香水の香りがしている
今日、ミクねぇの化粧姿を見たのは初めてだった
キャンプ場ではもちろんすっぴんだし、元々地黒の女性だ
それが決して濃くない化粧でも真っ白で綺麗に見えた
薄紅色のホッペで白が艶やかになっており、湿り気のある赤い口紅が更に色気を増していた



『赤と白、どっちがいい?』
『えっつ?』
『ワインよ。飲むでしょ』
『あっ、ヒョウ柄‥』
『なんや、大阪のおばちゃんって言いたいん?』
『もうおばちゃんやけどねw』

着替えてきたミクねぇはショーパンに小さなドットの入ったキャミソールを着ていた
その上にヒョウ柄のパーカーを羽織っていた
ミクねぇは30歳であり21歳のあもんにとってはお姉さんである
今の色気を見てみてもおばちゃんと比喩することは決してないが
同年代の女性と比べたらかなり違う


それはきっと経験の違いであろう
一度目の結婚で未亡人となり、二度目の結婚をして震災で生活を失った
多くの悲しみを経験したに違いない
あもんたちの同世代の多くはやれ彼氏が浮気しただの、太って痩せられないだの
言ってみれば幸せな悲しみしか経験をしていない
もちろん、あもんもそうである
人間の色気とは女性なら女性らしさだ
それは化粧などで出せるものではなく、悲しみを乗り越えてこそ出来る女性らしさだ
多く泣けばいいということではない
決して消えることのない大きな悲しみを背負った証が見えないシワとなり
そのシワが雰囲気を作って、自然な仕草や話し方となる
話をしてみれば、一言一言に理由があり重みがあったとうことが後から考えると納得もできる


この時のあもんはそんな理論は全く知らなかったので、ミクねぇを“大人の女性”としか思えなかった
あもんは初めて会う大人の女性に少し戸惑っていた
キャンプ場やツーリングなどで接したとき、年上の女性だとは意識していたが“大人の女性”とは思わなかった
少しか弱く、自分を不幸だと言い続けてきたミクねぇにあもんは笑顔になってもらいたかった
それには、あもんがおちゃらけてバカを演じるのではなく
あもんの真っ直ぐな楽しみ方を伝えてきたつもりだ
不器用なやり方だったけど、少しは想いが伝わったかなと思っていた
しかし札幌で会ったミクねぇは“大人の女性”だった
都会の空気がそうさせたのかどうかは不明だが札幌のミクねぇは別人にも見えてきた
あもんはもともと女性とお話するのは苦手なタイプなのに初めての女性とどう喋っていいのか分からなくなっていった
次第にワインを飲むペースが早くなった


『幸せって妄想よ。だから、素敵なの』
『幸せって成ってしまったら、案外つまらないものだから』
『あもん君にはまだ分かりづらいかな…』


意味が全くわからなかった
幸せと感じる瞬間も分からなかったし、それが妄想だなんて考えたことも無かった
ましてや、幸せの妄想が素敵だというのは理解するらできなかった
ただ好きな人がいつも隣にいて、ご飯食べたりキスしたり、時には喧嘩して、そして仲直りして
そんな日常的なやり取りが幸せなんだろうとうっすら思っていた程度だった
結婚という行為が幸せを複雑にしているのだろうか?
ふと、そう考えたが幸せになったら案外つまらないものだとういミクねぇの言葉はそれでは解決できない



『ミクねぇ、幸せってもっと単純なことなんじゃないのかな?』
あもんはそう言い返すのがやっとだった

『女性って順応性が高いのね。きっと。例えるならカメレオンかな』
ミクねぇが訳のわからないことを言い始めた
きっとミクねぇも酔っているのだろう
『カメレオンになれるって、すごいと思う。俺なんて順応性ないから』
『そう?爬虫類やで』
『いや、そう言う意味じゃなくて』
『俺は自由人というか、我が強いっていうか。人の真似して生きるのが、どこか悔しいっていうか』
『あはは!あもん君はそれでいいと思うよ』
『男はやっぱ女性に振り向かれる男にならんとアカンで』

ワインは2本カラになっていた


『なぁ、ミクねぇ、、俺って幸せになれるんかな?』
『ん?どうかな?それはあもん君次第ね』

『‥‥‥‥』
『今から、幸せになってみる?』



















それからの記憶は一切ない
ワインが全身まで染み渡り、天井と床の区別ができなくなったことまでは思い出せるが
それから、自分が何をしたのか、ミクねぇが何をしたのか、記憶が一切ない
目が覚めた時には朝日が昇っていた

体に大きな疲労感を感じていた
しかし辛い疲労感ではなく気持ちのいい疲労感だ
ミクねぇはもう目覚めており卵焼きを焼いていた


『お、おはよう』
『あもん君、おはよう。よく寝れた?』
『う、あまり覚えてないんじゃけど、、』
『俺、ミクねぇに何かした?』
『うふふふ。結構酔ってたもんね』

『あもん君、私たち、始まったよ』
『えっ?どういうこと?』
『でも、それは妄想よ』
『幸せは妄想している時が一番幸せやから、そういうことにしよ!』







約1ヶ月半の青森北海道旅が終わろうとしている
あもんは小樽のフェリーターミナルで船を待っていた
ミクねぇとは札幌で別れた
あもんは北海道旅を回顧していた





『おーいあもん!』
そこに現れたのはモツさんだった
モツさんは大学時代のひとつ先輩で、今は札幌にあるバイク屋で働いている
この旅でニセコのキャンプ場で再会し、少しだけだったが一緒に旅をした仲間だ
あもんが先日電話をしてお礼を言ったところ、仕事の合間を見て見送りに来たらしい
『あもん。マツさんや、シシも北海道に来てたで!』
『えーー、マジっすか、会えれば良かったな~』

マツさんやシシさんも大学時代の先輩であり、一緒にR2というツーリングチームでツーリングをした仲間だ
『お前のゼミの後輩ってやつもおったで!』
さすがライダーの聖地、夏の北海道
誰もが夏の北海道に憧れ、一度は一人旅をする聖地だ
広大な北海道で有るから、約束もせずに知人とバッタリ会う可能性は低い
だが、同じ時に同じ地で旅をしていたんだなと思うと嬉しく感じる
彼らもあもんと同じように多くの出会いがあり、多くを感じてこれからの幸せについてヒントを得ているのであろう



『あもん、俺、仕事やめるわ!』
『えっ、マジっすか』
『ああ、1ヶ月後に転勤が決まっての~それを機に言ってみようと思うとる』
『ワシはまだまだ旅不足じゃ、お前ら見とったら、正直うらやましいわ』
『みんな、旅で成長しとるんじゃもん、自分では気づかんと思うが、お前らみんな顔つきが変わっとるで!』
『自分では全然わからんですけど‥』

この旅で自分がどれだけ成長したかは自分では判断できないが
社会に対する考え方、日本に対する接し方、そして、幸せの価値観の測り方など
旅に出る前には考えたこともなかったことについて考えるようになった
視野が広がったというべきだろうか



人間が生きていく上で、どれほどのコトに興味を持ち、それを追求していく過程で自分にとって幸せな時を模索していく
多くある幸せな時をまずはつまみ食いから始め、それが未来の糧となるようなら、噛み締めてみる
幸せに味がなくなったら、また別の幸せを探せばいい


あもんはそんなことを思うようになった


フェリーは京都の舞鶴に到着し、それからは広島までバイクでひた走った
岡山県にある平田食事センターというドライブインで休憩していると
たこ焼き屋のおばちゃんに話しかけられた
『あんた、北海道でも行ってきたん?』
『えっ、なんでわかったんすか?』
『おばちゃん、ここ、長いけん、よう見るんよ。あんたみたいにヤドカリのようなライダー』
『そのほとんどが北海道帰りじゃけんね』
『うちもようけ北海道行っとるけんね』
『ええ!そうなんですか!』
『うちはな、北海道に永住することを考えとるんよ。ペンションとかやってみたいんよ』
『ほいじゃけ、ここで働いとる。暇見て小説も書いとるんよ』
『もうこんな年じゃけぇ、叶わんかもしれんけど、夢は追い続けるんよ』




『おばちゃん、幸せって妄想かね?』
『ああ、妄想かもね。じゃけど、その妄想が夢を生み、夢がまた幸せを作るんよ』
『じゃけぇ、妄想するって大事じゃと思うよ』
『あっ、北海道は夏より冬の方がええよ。逆に冬の北海道を知らん人は北海道を語っちゃいけんよ!』


なぜか、あもんは最後に注意されてしまった
『冬の北海道か。。。』
『旅してみたい!!』


旅から家に帰って来た時
実はそれが次への始まりの時である
新たな幸せを見つけ始める時とも言う









続く