幸と不幸と現実と 40 | あもん ザ・ワールド

あもん ザ・ワールド

君へと届け 元気玉

この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1996年から1997年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします




『おぉーこれが日本3大がっかりってやつか!普通の時計じゃん!』
あもんは噂通りの“がっかり感“に逆に興奮していた
『やっぱ、旅人の噂って本当なんじゃな』と札幌の時計台を見ながら興奮していた
日本3大がっかりとは、全国に有名になり過ぎて期待を煽られ、行ってみると『普通じゃん!』と突っ込みたくなる観光名所である
普通な観光名所は日本にいくらでもあるが、これらはメディアに県の代表観光地のようにハードルを勝手に上げられている不運な観光地だ
しかし、逆にメディアに見向きもされなかったら、隠れたスポットになるのは間違いない程の観光レベルも持っている
高知のはりまや橋、札幌の時計台、長崎のオランダ坂、そして沖縄の守礼門が4大がっかりの候補として力をつけている
これらはあくまで、訪れた人ががっかりするという事が基本になっているため
これらの観光地に足を運ぶ者が多いという証拠となる
しかも、がっかりするぐらいだから、大きなワクワクがあるのが必然であり
訪れる前にそれらの存在を想像して楽しむと言う“旅の魅力”を引き出せれる不思議な力を持っているスポットだ
『日本3大がっかりってはりまや橋と時計台とあともうひとつ何だっけ?』
と“がっかりなこと”を忘れてしまわれるオランダ坂はある意味、がっかり要素は少ないのかもしれない
ちなみに現在のあもんは4大がっかりまで全て制覇している
『本当はがっかりせんのんじゃない?』と言う期待も持ちながら、見事にがっかりしたので満足をしている


あもんは札幌の大通公園でミクねぇと待ち合わせをしていた
大通公園とは札幌市内にある有名な都市公園で県外者でも確実にいける観光地だ
ここで、毎冬さっぽろ雪まつりがあることは有名だ
テレビ塔がシンボルのようにそびえ立っている
靴磨きのおばあちゃんがいたり、そばを自転車で配達している少年を見つけたりした
北海道にとって夏は穏やかに過ごせる短い時間なのだろう
それぞれがそれぞろの時間を大切にしているように見えた
あもんは待ち合わせ時間より早めに着いたので、あの見たかった“がっかり”を見に行っていたのだった



『あもん君』
『はい。』

と誰かに話しかけられたから振り向いたが、誰から話しかけられたかが分からなかった
『どうしたの、あもん君?』と言った女性がミクねぇと気づくまで数秒かかった
『えっ、ミクねぇ、そんなに白かったっけ?』
目の前にいるミクねぇはいつもの地黒ではなく白かった
白い顔に赤い口紅をつけて、ロングの髪はサラサラと風になびいていた
服装もいつものTシャツにGパンではなく、白いブラウスにタイトスカートだ
『ふふふ。馬鹿ね、化粧よ。ウチだって一応、女の子なんだよ』
『そっ、そうだった』と言ったあもんの頭をミクねぇは軽く叩いた
『ねぇ、スープカレー食べに行かない?』
『え?スープカレーって何?』
『最近、札幌では流行り始めたの。スープみたいなカレーよ』
『え、やっぱカレーはドロドロなのがすきなんじゃけど』
『わがまま言ってないで、来なさい!ほら、行くよ』

とあもんの手をつかみ、ミクねぇは歩く始めた
『女って化粧で変わるんじゃな~』と言おうと思ったけど、怒られそうなのでやめた




『なにこれ!ぶち野菜がでかいじゃん!』
初めてスープカレーを見たあもんはそう言った
『でも、スープじゃん、でもカレーじゃん』
『あはは。正直、どっちもあってるわ』
『でも美味しいでしょ。あとからどんどん汗が出てくるわよ』

札幌の小洒落た店であもんは初めてスープカレーを食べた
これがなぜ、札幌から生まれたのかは分からないが、とにかく上手い
母さんの作るカレーとは味も口溶けも全く違い、カレーの概念を超えていた
飲むカレーというべきか、ルーはあっさりしているが味は濃厚だ
その濃厚さを気持ち悪くさせないのが自然な甘味を演出する大きな野菜
ご飯をスープに浸すとすぐにスープは染み込み、柔らかくご飯が踊り始めた



『ミクねぇはなんで札幌に住んでるん?』
『ん?この前も言ったけど、今、調停中なの。彼の実家ここにあるから』
『結構、大きい家だから、親戚だとか色々多くて、、、じっくり話すのだとか言ってるけど、、』
『結局は熱を冷めさせようとしているんじゃない?』
『それに耐えれなくなって、ねぶたとか一万年祭とか行ったりしてたの』
『彼の方はどうしとるん?』
『実家に引きこもってる。私より彼のケアの方が両親は必死だしね』
『そりゃ、悪いのは私だから、、、このままうやむやになるのは嫌だから。きちんと決めるまでここにいようって』
『だから、悪いとかミクねぇのせいだとか言うのやめろよ』
『うん。ありがとう。わかってる。でももう大丈夫よ。もうじき終わるから』
『終わるって?』
『わたし自身、怖かったのかもしれない。また誰かを不幸にさせるんじゃないかって…』
『でも、あもん君、言ってくれたよね。人は何度はじめてもいいんだ!って』
とミクねぇはまた色っぽくスープカレーを口に入れた
『ミクねぇってバイト何してるの?』
『え、すすきので働いてるよ』
『ええっつ!!』

スープカレーが効いたのか、今の返事のせいなのか分からないが、あもんは急に汗が出てきた
汗が止まらなくなったので、あもんは水を飲み、それ以上質問することをやめた



『小樽の方まで行ってみる?』
『うん、ちょうど明日のフェリーの予約確認しときたかったし』
『了解』

あもんは明日、小樽からフェリーに乗って広島に帰る予定だった
約1ヶ月半の青森北海道旅も今日で終わるのだ
あもんは恐ろしく下手なミクねぇの車の運転にドキドキしながら小樽フェリーターミナルに着いた
フェリーターミナルにはいくつかのテントが立っており、旅人が帰る時を待っていた
北海道から出るフェリーもこの時期は旅客が多く、時間がある旅人はキャンセル待ちでフェリーに乗っているからだ
あもんは数日前に予約をしていて、日にちを決めることができた
それに合わせて札幌に行く日も決めていたのだ



『こっから、みんな旅立つんやね。あもん君』
『そうそう、俺、最近思うんよ。別れの時、みんな地元に帰るんじゃない。みんなこっから旅立っていくんじゃと』
『旅って、そこに着くことが目的じゃなくて、旅先で色んなモノを吸収して、旅先から始まっていくのが本当の目的なんじゃないのかな?』
『なるほど、だから、あもん君持論でははじまりはいくつあってもいいってことか』
『では、あもん君に聞きます。はじまりは楽しい時に始めたほうがいい?悲しいことがあった時に始めたほうがいい?』

『ん??』あもんはよく分からなかった
質問の真意も分からなかったし、答えも分からなかったからはぐらかそうとしてみた
『いや、俺の持論とかでは無いし、、、、誰かから聞いたこと言ってるだけだし、、、』
『えっそうなの?』

とミクねぇがちょっと半笑いでそう切り返してきたから、あもんはちょっとムキになってみた
『いやでも、人に聞いたことだけど、それが正しいと思っているから口に出しているから!』
『うーん、なんていうのかな~はじまりの時の感情に別に決まりはなくて、、自分がはじめようと思った時にはじめるのが一番正解だと思うよ』
『なるほどーーじゃぁ、私のはじまりのときはあの大空沢の万年雪見た時だ!』
『そうじゃろーそれそれ!それが言いたかったんじゃ』

あもんは適当な答えがミクねぇに伝わったことを奇跡だと思った


『ねぇ、あもん君、今日うちに泊まっていくでしょ?』
『えっ?ここでキャンプしようと思っとったけど…』
『北海道最後の夜やし、一緒に飲もうよ、ねぇ、あもん君』
『でも、ミクねぇ、今は大事な時なんじゃ?』
『大丈夫やて!もうじき終わるから』







『それに、今晩があもん君のはじまりの時になるかもしれへんでーー』
とミクねぇは笑っていた
あもんはいつの間にかミクねぇがブラウスのボタンをひとつ外していたことに今気づき、また汗が出てきた
目のやり場に困り、さりげなく停泊しているフェリーを見ながら
『さっきのスープカレー今頃になってきたわ~』
と、とぼけて言ってみたが、ミクねぇはもう車に向かって歩いていた



続く