この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1996年から1997年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします
北海道も9月に入ると肌寒い
今日はさらに雨が降っているのでトレーナーが必要になってきた
この中富良野森林公園キャンプ場は旅人だけでは無く、ファミリーも多い
よって出発する人も多く、連日朝からザワザワとしている
それに加えて、朝早くから着替えて出かけていく旅人もいる
『おはよう。ウチら、行ってくるわ』とかずねぇとナンねぇが言った
『おはようございます。早いっすね、がんばってください』
彼女らはここから旅立つのではなく、ここから仕事に行くのだ
収穫の時期を迎えている北海道では、この時期に季節労働としてバイトを募集している農場が多い
にんじんやスイカなど、収穫の時だけバイトを雇うシステムだ
日給1200円や時給750円と少し少ない気がするが
無料キャンプ場で過ごしている旅人にとっては十分な収入源となっている
農家の方も彼女らを当てにしている所もあり、また、農業が気に入り、定住の道へと進んだ旅人も多いとい言う
道東方面ではサケの加工工場で働く、シャケバイが有名で、そこで働くと言っていた旅人も多かった
定職を持っていない旅人は、暑い夏の時期を北海道で過ごし、秋口に涼しくなった所で次の旅資金を稼ぐ
北海道が寒くなり始めると、南下し、沖縄の離島でゆっくり過ごすと言う
そんなスタイルが日本旅人のひとつのスタイルになっている
『おーい、トマト貰ったで~』
と言いながらサイトに戻ってきたのは一徳さんだ
一徳さんは毎朝、このキャンプ場のゴミ捨て場辺りでウロウロする
そこで、出発するファミリーキャンパーが残した食材を頂くのだ
一徳さんの人得なのか、彼は誰とでも瞬間的に仲良くなることができ、帰り支度をしているファミリーキャンパーとも仲良くなれる
『これ、残ったんで、良かったらどうぞ』という言葉を貰ったら一徳さんの勝利だ
『ありがとうございます。喜んで頂きます!』
一徳さんは決して、ゴミをあさっているのではない
ゴミとなってしまう食材を食材としてきちんと使っているのである
食材とは食べられる材料だ。食べられないから捨てられる材料では無い
どんな食材にも作った人の想いが込められており、作った人も捨てられるために作っているわけではない
“食べきれないから隣人にあげる”という行為は共同生活において以前は普遍的な行動だった
現代では隣人の顔さえ知らないと言う時代となっており、それがお金の価値を無意味に上げていき
終いには、その行為で人間的感情を蝕んでいるのに気がつかなくなってしまう
一徳さんとトマトを食べていると、タブラの音が聞こえて来た
見ると、先ほど空いたテントサイトでタラさんがタブラを演奏していた
『ん、タラさん、何で?』あもんは一徳さんに尋ねた
『いや、いいテントサイトが開いたから、引っ越しするらしいで』
『タブラを叩いているのは、地鎮祭をしてるんや。あいついっつもするで、サイトの地の神に感謝するんやて』
真剣にタブラを叩いているタラさんの顔はインド人のようだった
『サンサンさんも色々旅しているんですか?』
あもんは一見、普通のサラリーマンぽいサンサンさんが気になった
『いや、有休とって、初めて北海道に来たんだ』
『へぇ~どこら辺回って来たんですか?』
『どこも行って無い。ずっとこのキャンプ場に居る』
『えっ、ずっとって、ツーリングとかしないんですか?』
『ああ、北海道ツーリング目的で上陸したんだけど…』
『あははは、サンサンさんは10日前からずっとおるで、今日は旅立つって毎日言ってるもんな。でも毎日ここにいるもんな、あははは』
きっとサンサンさんにとって、ここが北海道なのだろう
あもんはそんなサラリーマンの北海道旅も素敵な旅だなと思った
あもん達は雨が一向に止まないので、昼から隣接している宿泊施設の風呂に入りに行った
ラベンダーの湯と掲示してあり、テンションが上がったが、ラベンダーの花が数枚浮かんでいるだけの湯船だけだったので、一気にテンションが下がった
しかし、秋雨の北海道は肌寒いので快適だった
結局、3時間ぐらいそこでまったりしていた
夕方になると、かずねぇとナンねぇが帰って来た
彼女らは形が悪いので売り物にならないニンジンを貰ってきていた
夕飯は野菜炒め、味噌汁、さつま芋、それと生ニンジンをみんなでかじった
『あれ?サンサンさん、今日出るんじゃなかったの?』
『うん、そのつもりだけど…』とサンサンさんが朝に聞かれるのは毎日の事になっていた
そう聞かれたサンサンさんはニコニコと笑うだけでそこから一向に動く気配は無い
どうやら、サンサンさんの休日はここしかないみたいだ
『チャイ飲む?』珍しく早起きなタラさんがみんなに聞いていた
『はい。飲みます。ありがとうございます』
チャイとはインドのミルクティーであって、紅茶にマサラとすりおろしたショウガが入っている
甘さの中にパンチの利いた刺激があって、とても美味しかった
今日は雨が止んだので、シンさんとタラさんと十勝岳登山に出掛けてみた
しかし、登山口に着くと濡れるほどの霧が発生し、シンさんが危険だと感じたので登山は中止した
代わりに吹上温泉で無料混浴露天風呂に入ることにした
この温泉はTV番組北の国からで宮沢りえが入った湯として脚光を一気に浴びた
しかし、TVシーンの様な白いお湯では無かったことが残念だった
どうやら、撮影用に入浴剤を入れていたらしい…
後に数人の女性が入って来たが、ジロジロ見るのはマナー違反なので、ごく自然にお湯を楽しんだ
帰りながらみんなで焚火を拾ってバイクに積んだ
もう夜は焚火が無いと寒いくらいだ
夜になると小さな焚火をみんなで囲んで夕食だ
今日のメニューは豆腐入り野菜炒めと豆腐ワカメ大根の味噌汁、サラダはにんじんトマトの赤サラダだった
この夜は一徳さんとタラさんの外国旅の話で盛り上がった
『外国行ったら、盗難に会うのは日常茶飯事なんや』
『日本人って、金持ってるイメージあるやろ。俺達は全然持ってないのにな』
『だけど、向うの人は生死がかかってるから、マジやで』
『俺があった強盗は、俺の目の前でライターで火をつけて、“おい!金を出せ!!”って言ってきた』
『俺、思わずウケたわ。だって、マジな顔してるんやで、そしてライターの火をフッって消してやったんや』
『そしたら、慌ててまた火つけるんや、カチっ、カチって必死に火をつけてるのが可愛かったから、思わずお小遣いあげてもうやわ』
『あはははは!』
そして、サンサンさんはごく自然にこの輪の中に居た
彼は今日も旅立つことはできなかったらしい…
今日は気温が少しあがり、木漏れ日が気持い日だ
シンさんと落ちている大きな枝をデビルステックにして遊んだ
七輪さんがフリスビーを持って来てくれたので、一緒に遊んだ
一徳さんはハガキに鉛筆で絵を描いていた
タラさんは一日中、ハンモックで寝ていた
かずねぇとナンねぇは今日はバイトが休みの筈だが見かけていない
『はぁ~よう寝たわ~』と初めて見かけたのは午後4時だった
今日の夕飯はかぼちゃの煮つけ、ポテトサラダ、野菜サラダにワカメとしいたけのスープだった
今日もサンサンさんと一緒に夕飯を食べた
今日は特に何もしていない
夕飯はかぼちゃの煮つけ、野菜サラダ、ごま油スープだった
サンサンさんも今日一日、何もしなかったらしい
休日に旅をするということ
それは“非日常を味わうということ”
単調すぎる毎日に慣れて生きると言うことは、楽な生き方かもしれない
毎日、同じ時間に起き、同じ時間だけ働き、同じ時間に寝るだけで、月々の給料が頂ける
ただそれを繰り返すだけで、人間は一生を終えることはできる
争いは無駄な体力を使うから、誰かに平伏していれば恩恵は貰える
別に1番にならなくても、みんなと一緒であれば安心して眠りにつける
だけど、人間はみな、冒険者だ
昨日とは違う自分、新しい自分を見つけてみたいという欲求を持っている冒険者だ
それが日々のちょっとした行動の違いで見つけられれば、それでもいい
しかし、面白いことに人間はそんな器用には出来ていない
だから、人間は冒険をするために旅に出る
そして、旅先で幸せを探している人間もいる
現状では幸が感じられないと、身の危険を冒してまで冒険をしてしまう人間達
その先にはどんな自分がいるかは分からない
どんなタイミングで違う自分が見つかるかも分からない
人間は迷路のような未来を彷徨う冒険者なのだ
『迷路の先』
古来 島国では
太陽は西から昇り東へ沈んだと云う
それをある勇者が皆に唱えた
『♪西から昇った おひさまが 東へ沈む~』
皆は勇者をバカ者と笑った
勇者も一緒になって笑った
島国に迷路ブームが到来し
ついには地上だけでは飽き足らず
海上へ上空へ迷路が創られていった
ある有名大学教授が“脳の迷路”を発明し
人類は迷路依存に洗脳されていった
気付くと辺りは曲がり角だらけ
どんなに歩いても扉は見つからない
見えないゴールを求め疲れ果て
人類はベクトルを欲するようになった
『だれか ベクトルを僕に与えて!!』
そんな叫び声がこだましていた
誰もがそう叫んでいたから答えは返ってこなかった
混乱タイフーンが島国を覆った
そんな嵐の中
ただひとつ決まった方向に動くものがあった
それは毎日毎日決まった方向に動いていた
おひさま
人類はおひさまを追いかけた
ゴールがそこにあるかどうかは
もう どうでもいい
導く方へ…
誰かが導く方へ進むのが安息だったから
山を越え 川を渡り 空を飛び
幾年の時が流れた
そしてようやく人類は
水平線に沈むおひさまを見届けられる処にたどり着いた
そこではあのバカ者勇者がひとり唄っていた
『♪西から昇った おひさまが 東へ沈む~』
のちに此処は 東京と呼ばれた
次の朝、起きるとそこにはパッキングをしているサンサンさんがいた
『サンサンさん、いよいよ出発ですか~』
『うん』
『僕も今日、出発するんですよ。ある人と約束があって』
あもんも今日、新しい自分を見つける為に中富良野森林公園キャンプ場を旅立つ
『あ、雨だ…』
雨は徐々に強くなり辺りが真っ暗になった
二人は雨が弱くなるのを待った
雨がやむ気配が無いので、昼飯にチャーハンをみんなで作り食べた
その後、雨が小雨になったので、あもんは旅立つことにした
『ほいじゃぁ、そろそろ、行ってきますわ』
『おう、行ってきな、また帰って来いよ』
みんながあもんにそう言ってくれた
『サンサンさんはどうするの?』
『え、やっぱ、今日出発するの止めよーっと』
サンサンさんはニコニコしながらそう答えた
続く