幸と不幸と現実と 19 | あもん ザ・ワールド

あもん ザ・ワールド

君へと届け 元気玉

あもん史 妄想編

幸と不幸と現実と 19


この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1996年から1997年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします





『え?ねぶたの解体に参加できるのですか?』
寝起きのあもんはムッシュさんに聞いた
『ああ、できるで、今年もシノさんが地元の人と俺らの調整をしてくれたからな』
シノさんとはこの跳人ライダーを仕切っている人であり
毎年毎年、ライダーが跳人として参加できるように尽力をしている方である
シノさんとはじっくり話したことはないので詳しくは知らないが
地元の消防団と繋がりがあり、あもん達跳人ライダーが団体でねぶたに参加できるのはそのお陰である
地元との連絡を繫げることによって、あもん達がスムーズに参加できるようなシステムを作ってくれて
年々増える跳人ライダーが祭りに迷惑を掛けないように注意を促している方でもある
あもん達が青森ねぶたに自由に参加できるのはシノさんのお陰であり
跳人ライダーを仕切って無事に祭りを終わらせるように仕事をしている方である
もちろん、自分も跳人として参加し、あもん達が違った方向に進みかけたら注意もしてくれるのだ

全国から何百人も跳人ライダー集まるまで大きくなったのはこの方の力であろう
何百人も集まれば、いろんなライダーもいる
集団行動が苦手で一人旅をしているライダーが多くいるなかで
来年もみんなで跳ねられるように、気苦労を重ねつつ、
時には地元の方に頭を下げて、自分も祭りを楽しんでいる方である



『ていうか、ねぶたって解体するの?』
『ああ、賞を取ったねぶたは今から各地に凱旋するけどな、あんな大きいモノ、祭りが終わったら、納める所がないやろ』
『また、来年は新しいの作るみたいやし』
『でも、翌日に解体するなんて、なんか寂しいっすね』


ねぶたの制作には約3ヶ月の月日を要するらしい
その間、青森県民は精神を込めてねぶた作りに没頭する
ねぶたはその昔、町内単位で運行されていた為、町内の有志が集まり制作をしていたが
現在は多くの団体や企業が参加するようになった
そこで“ねぶた師”と呼ばれる達人が生まれるようになり、企業などはねぶた師に制作を依頼する
ねぶた師にとって依頼者の想いをカタチにするのが仕事であり
その上で自分の信念を重ねて今ある最高を作り、依頼者と制作者の両方が満足するモノを作るのだ
ねぶたは重要無形民俗文化財であるから、カタチはあって無い様なものだ
それぞれの想いが色濃くねぶたに表現されている
あもんは細かな制作工程を知らないが、あもん達第3者が一目見てビリビリと感動を味わえるのは
その細かな工程にも魂が込められているのからであろう


あもんは解体するねぶたをまず触ってみた
感触はただの紙なのだが、何故か熱いモノを感じた
昨日まで多くの人を魅了させていた、たくましいねぶた
あれだけ華やかに燃えていたのに、もう数時間後にはこの世から居なくなる
あもんのようなねぶた素人には“もったいない”という気持が募るが
現実的に毎年作られるねぶたを全て残すのは不可能である
大きな情熱を与えてくれたこのねぶた
あもんを再び燃え上がらせてくれたこのねぶた
あもんを成長させてくれたこのねぶた
解体を手伝うあもんの手は若干、震えていた


モノ作りとはそのほとんどが地道な道のりである
大きな工程は派手で楽しそうに見えるが、
その大きな工程まで辿り着く緻密な工程は至って面白くない
面白くないを超えて、苦しい時の方が多いかもしれない
しかし、その緻密な工程がなければモノは作れないのである
モノ作りに携わっている人はその苦しさに耐えている
苦しさの数だけ出来上がった時の感動は増していくもので
出来上がった自分の作品を見上げた瞬間はまさに感無量なのである
その瞬間はまさにほんのひと時であるが、モノ作りをする者はその一瞬の感動に酔う
その感無量な酔いが麻薬の様になって、また新たなモノ作りに挑むのだ
そう、この一瞬の感無量が味わいたくて、また苦しい工程をひとつひとつ乗り越えていくのである


解体は着々と進められて、あっという間に終わった
あもんは無口に淡々と作業を続けていった
『これで、終わったか…』と悲しい気分が込み上げてきた
『ありがとう』とじっくりと言いたかったのに、もうそれを言えるねぶたはいない
しかし、解体作業を続ける青森県民はあもんと違う思いだった
青森県民は作業中、昨日のことを思い出すことは無く
来年の祭りに向けて構想を考えている目付きだったのだ
『来年はもっと熱いねぶたを作ってやる』そんな呟きが聞こえてきそうであった



$あもん ザ・ワールド



そう、これが“重要無形民俗文化財”なのだ

伝統を繫げ続ける
言いかえれば
情熱を繫げ続ける


無形文化財とは人間の文化的活動のことを言い
その根源は人間の魂にある
魂に情熱を注ぎ文化として親から子へ受け継いでいく
かつての日本人はみんなそうであったのだろう
しかし、日本人に世界の観念が注入されてしまった頃からその魂は少なくなっていった
全般的に少なくなる魂があれば、濃くなっていく魂があるのは節理であって
その後者が無形文化財となって日本に点在する
そこに重要が加わると言うことは
日本が国として重要と認めたことである
よって青森県民のねぶたに対する情熱は日本国にとって絶やしてはいけないものなのである
あもんもこの時、少しだけ青森ねぶた祭りに参加できたから
日本国の重要に少しは役立ったのだろうか?
そんなことを考えながら作業をしていたら、ねぶたはもう居なくなっていた


あもん達はねぶたの解体を終え青森フェリーターミナルに帰ってきた
あれだけ満席だったテントサイトはガラガラになっていた
その夜、人数が少なくなったので跳人ライダーは一度みんなで輪になって座った
シノさんの乾杯の音頭により打ち上げが始まった
みんなが笑顔で飲み食い、満足感が一杯の顔だらけだった
普通に飲んでも美味しい酒が今日はたまらなく美味しい酒になった気がした
ここまで居残るの旅人はやはり個性的な旅人が多く
酒宴は徐々にエスカレートしていった
あもんはただただ、旅人の話を聞いて笑うだけであったが
その空間に座れることが出来たことを幸せだと感じた
ここに社会的地位や年齢層による区別は全くない
人間が人間同志でとても単純な気持良さを共感している空間だ
名前も過去も知らない人間同志がこれだけ共感できるのは
ひとつのコトをやり遂げた仲間意識とこれからも後世に伝えたいと言う想い
そして情熱を共に燃やしたと言う結果があるからであろう





ハネトも間違いなく“重要無形民俗文化財”ですよねw



これこそが重要無形民俗文化財だとあもんは思ったが
自信がなかったので、この時は胸の奥にこっそりと隠したのであった





続く