恋するアホウ 15 | あもん ザ・ワールド

あもん ザ・ワールド

君へと届け 元気玉

この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1996年から1997年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします


いつの間にか冬将軍は撤退しており
生暖かい風が南から吹き始めた
気の早い小鳥は寝ぼけながらも季節に音を付け
ほんの小さな蕾が暖かくなる今からに夢を与えてくれている
今年の早春はどうやら泣き虫のようだ
シトシトと優しい雨があもんを目覚ましてくれていた
『もう、3月なんじゃな~』
だがあもんは、今から訪れる陽気な春にウキウキする気分ではなかった






あもんが好きになったアミミはもう少しで卒業をして地元徳島に帰る
あもんはアミミが不倫をしている事実を知った時から多く悩んだが、結局答えは見つからなかった
答えを見いだせないから何も出来ることは無い
あもんはあの去年のクリスマスの日からアミミと連絡を取っていなかった
何も助言できない自分を情けなく思い、加えてアミミに申し訳なく思ってもいた
好きだと告白したものの、だだ告白しただけで終わっていた
それがアミミにとっては良かったのかもしれないが
あもんにとってはなんだかむず痒い
あもんはそんな不器用な自分をアホであると思った
恋するアホウであると思った


ふと、北海道で出逢ったチェリーとハカセを思い出した
『恋ってもっと楽しいもんなんじゃない?』
今、二人にあもんの悩みを相談するとそう答えるであろう
『じゃぁ、どうやったら、楽しくできるんだ?』
あもんは今二人が旅をしているであろうタイに向かって聞いてみた
『え?相手が誰が好きなんて気にしなくてもいいんじゃねぇの?』
ハカセが答えてくれた
『そうだよ~あもん君が好きな人に会って、その時が楽しければいいんだよ~』
チェリーも答えてくれた
『人が人を好きになるって、別に特別なことじゃないんだ』
『そうだよ~好きな人と遊ぶから楽しいんだよ~』
『一緒に遊んで、いつかその人もあもんのこと好きになってくれればいいんじゃねぇ?』
『好きになるって理由はないんだよ~“あ~この人好きだな~”って自然と思うものなんだよ~』
『あもん君、その人ともう一回、笑って遊んだほうがいいよ~♪』

チェリーとハカセはタイの海岸でフルーツジュースを飲みながらそう言ってくれたとあもんは想像をした


その夜、あもんは久しぶりに福短寮に電話をかけた
『はい。福短寮です』電話に出たのはあの福短お嬢だった
『もしもし、あもんと申しますが、アミさんお願いできますか?』
『えっ、あもん君!?久しぶりじゃね~どうしとったん?何で電話掛けてくれんかったん?』

福短お嬢はまるであもんが自分に久しぶりに電話してくれた時の対応をしているみたいだった
よく考えれば、福短お嬢はあもんが電話を掛けると多くの確率で出ていた
いつも挨拶程度の話しかしないが、あもん自身も福短お嬢が電話に出ることに安堵を覚えていた
『うん。いろいろあったんじゃ~』
『アミの相手のこと?そのことはしっかりアミと話し合ったほうがええと思うよ』
『アミもアミであもん君に期待しとるとこがあるんじゃけん』
『そんで、アミも悩んどるんじゃけん、ウチからも頼むわ~アミに力になってあげてぃや~』



あもんはこの時、アミミと福短お嬢が仲が良いということを初めて知った
ということは、あもんの恋するアホウ話も福短お嬢は知っているということだ
『なぁ、俺、どうすればいいじゃろうか?』
思わずあもんは福短お嬢に相談してしまった
『え?あもん君はアミの傍におってあげたほうがいいんじゃない?』
『それにあもん君、かっこいいし!ウチはちょっとアミに嫉妬しとるんじゃけんね~』
『え?俺のこと、見たことあるん?』
『何言うとるんね~ウチもあの学園祭の時、アミと一緒におったんじゃけんね~』

あもんはこの時、この福短お嬢がアミミと親友であることを知った
『あっ、ウチに電話じゃなかったね、ちょっと待って、呼んでくるけんw』
あもんはこの時、好きになった子がこの福短お嬢だったらどうなっただろうと一瞬思ったが
失礼ながら顔も思い出せなかったので、すぐに考えることをやめた



『あもん君、ごめんね、久しぶりじゃね~』
アミミの声はいつもと変わらずおしとやかで可愛かった
『元気しとったん?電話くれんけん、もう嫌われたかと思っとったんよ』
『いや、そんなことは無いけん、ちょっと、忙しかっただけじゃけん』
『それより、もう卒業じゃろ?もうこんな形で電話できんけん、最後におめでとうって言いたくて…』
『アミミ、卒業おめでとう!徳島に帰ってもがんばれよ!』

アミミは『うん』と頷き、しらばらく黙っていた
『あもん君ってなんでそんなに優しいん?』
『え!』
『なんで、いっつも私が寂しい時に限って優しい言葉かけてくれるん?』
『いや、そんなこと言われても、アミが寂しい時って、よう知らんし、』
『俺はただ、馬鹿正直に思ったことを言うて、いつも自爆するタイプじゃけんの~』
『ウフフフ、あもん君、かっこいいね~』



馬鹿正直なあもんはとても嬉しかった
好きな人にかっこいいと言われたことが単純に嬉しかった
それはもしかしたらお世辞かもしれない、いや、嘘かもしれない
でも、それでもいいと思った
アミミに『かっこいいね』と言われただけであもんは十二分に幸せだったのだ





しかしこの後、あもんは幸せの絶頂から再び混乱からの絶望へと導かれるのである


『あもん君、ひとつお願いしてもいい?』
『おう!ええで!なんでも聞いてやるけんの~』

おバカあもんはこの時、有頂天馬鹿になっていた
『卒業式の日にね、彼が来るの』
『え?彼ってアミミのあの彼氏か?でもなんで?』
『うん、あの彼…彼がね両親の代わりに卒業式に参列してくれるんよ』
『何で?彼なん?普通は親が来るもんじゃない?』
『うん、ウチのお母さん、入院しとるけん、お父さんはいないし…』
『彼はウチにとって家族みたいなもんじゃけん』

アミミの言葉にはいつも謎が隠されているみたいだった
アミミは決して嘘をつくような性格ではない
ましてや、アミミはあもんを騙そうとしているとは思わない
ならば、このアミミの複雑な人間関係をどう解明するのか?
アミミはこの家族がいる男と付き合っていて、その男と家族のような関係にもなっている
親の代わりに来るということだからきっと、アミミの母親も彼のことを知っているのであろう
なんだそれ?
あもんは有頂天馬鹿から単純な馬鹿に戻っていった


『アミミ、どういうことか、全くわからんのんじゃけど…』
『うん、ごめんね、私の説明が下手で、話するのは得意なほうじゃないけん』
『でね、あもん君に申し訳ないと思って、あもん君と会って欲しいと思って』
『え、誰に会うん?』
『私の彼、河野さんっていうんだ』
『なにぃぃぃい!俺にアミミの彼と会えだと!マジで言いよるん?』
『うん、マジじゃけん、彼もあもん君に会いたいって言っとるし』
『あもん君、お願い、河野さんに私たちの関係を教えてもらって』
『お願いってそのことか?』
『うん、ダメ?』





『ああ、ええで~ワシもアミミの彼に会ってみたかったんじゃ』
『ワシもいろいろ聞きたいことがあるんじゃ~』

単純な馬鹿であるあもんはこの時、嘘をついた
どこに好き好んで恋敵に会おうとする男がいるのだろう?
アミミの口調からして河野さんはもう立派な大人である
社会人で家族を持っている立派な大人である
いまさら河野さんに会って何を話せばいいんだ?
あもんは幸せの絶頂から再び混乱からの絶望へと落ちて行った



『じゃぁ、卒業式の日に、約束ね~楽しみにしとるけんw』
アミミは少しテンションをあげて言い、電話を切った


あもんはこの日から卒業式の日まで、再び苦悩の毎日を送ることになった


続く