恋するアホウ 14 | あもん ザ・ワールド

あもん ザ・ワールド

君へと届け 元気玉

この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1996年から1997年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします





『こんにちは~』
あもんは昨晩モチさんとお酒を飲んだ“スナックレン”の扉を開けて中を覗いた
スナックレンは昼からも喫茶店で営業されていたため
福山に帰る前にもう一度立ち寄ったのであった
ママであるレンさんはあもんを笑顔で迎えてくれ、コーヒーを出してくれた
あもんがここを訪れたのは昨日モチさんに相談したことがしっくりこなくて
もう一度女性側の意見としてレンさんに相談しようと思ったからであった


他に客がいなかった為レンさんはあもんの前で相談に乗ってくれた
『昨日のモッチー、何言ってるか分からなかったね。うふふ』
昨晩は酔っていた為気付かなかったが、レンさんは美しい顔立ちをしており、どこを見ても色気を感じられる
色気のある仕草で何度かの別れを経験したかのような悲愴感を漂わせている気がした
『いや、応援団的には理解をしたんですけど、一般論としてはどうなのかな?と思ってレンさんに聞こうと思って』



『レンさん、不倫ってどう思います?』
『ん~私は恋愛の行き末が結婚だと思ってはいないから、不倫も恋だと思うな』
『結婚は家族を持つってことだから46時中、奥さんに恋するって無理なんだよね』
『逆に結婚したら恋愛感情は捨てないといけないかもしれないね』
『えっ、レンさんって結婚したことあるんですか?』
『ええ、ないよ、だけど、不倫なら経験があるかな』
『マジッすか!でもそうだと思ってました』
『うふふ。失礼ね~私は騙されていただけだから、知らなくて不倫してたんだよ~』
『で、奥さんがいるって聞いた時どんな気持だったのですか?』
『そりゃ、むかついたわ~殴ってやったわよ!』

流石はモチさんの友達レンさんである。多くの修羅場を経験している



『でもどんな不倫にも理由があるものよ。彼の場合は若くして結婚したから理想が高過ぎたみたい』
『だから、理想を私に求めていたわけなの』
『でも結局、彼は現実を捨てることが出来なくて、謝ってきたけど』
『私は全てを捨てる覚悟はできてたんだけどな~』

流石はモチさんの友達レンさんである。恋愛にもまっすぐに情熱を注いでいる


『アミミさんだっけ?そのアミミさんは家族がいるって知っていて、付き合ってるんでしょ』
『だったら、アミミさんにもきっと理由があるはずよ。それは、何なのだろうね』
『レンさん、僕はどうすればアミミを自分のモノにできるのでしょうか?』
『えっ、そうね~アミミさんの理由よりもっと大きな理由が出来たらいいんじゃない』
『それは好きっていう気持が大きければいいのですか?それなら自信があるけど』
『うふふ。それだけじゃダメなのよ』
『恋愛には駆け引きが必要なの。私が見る限り、あもん君も恋愛に不器用そうね』
『応援団の子ってみんなそうよ。いつもは馬鹿ばっかりしてカッコイイけど、恋愛には不器用なのよね』
『モッチーだってそうだったわ。真面目なんだよね、応援団の子って…』


あもんは応援団が真面目であるという意見を初めて聞いた
確かに海田高校応援団は学ランを着ると真面目になる
応援も真面目なら馬鹿も真面目である
ただまっすぐに情熱の彼方へ向かってエールを切る
そこに変化球は必要ない
真摯な心で誠心誠意応援をすることによって声が届くものだから
それが恋愛にもリンクしているとは初めて気がついた
恋愛にはストレートだけではいけないのか?
変化球を混ぜ込んで試合をしないといけないのか?



『でも、私、応援団の子って好きよ。不器用なところが母性本能をくすぐるから』
『応援団の子にはお母さんみたいな女性がお似合いかもね。うふふ』
『あもん君、男って、結局家族の所に帰るの…だから、それを待つのも手かも知れないよ』
『そこまで好きでいられるかどうかだよね』

レンさんの言葉はやけに説得力があり、あもんは思わずレンさんを見つめてしまった
見つめられたレンさんは照れることなくあもんを見つめ返し、
それが逆に恥ずかしくなってあもんは目をそらした
そしてもう一度レンさんを見つめていると、レンさんは一切あもんを見ない
あもんを見ないで色気のある仕草をチラつかせながら仕事をしていた
そんなレンさんの色気に耐えきれなくなったあもんは思わず席を立った
『レンさん、そろそろ時間なんで帰ります』
『あっ、そう、あもん君、また来てね』
『はい。ありがとうございました』



あもんはレンさんの残像を思い出しながら福山に帰っていった




年が明けてからというもの、あもんは忙しくなってきた
大学3年生であるあもんはこの時、必死に勉強をし始めたからだ
あもんの作戦としては大学4年生までに単位を全部取り、極力学校に行かなくてもいい環境を作る
そしてその時間を旅に費やすというものであったからだ
運よく今までは順調に単位が取れていた
よって、今の時期にひと踏ん張りすればあとは卒業研究さえすればいい環境となる
あもんは毎日、キグナス石油から帰ったら勉強し始めた
アミミとの電話は一切しなくなりアミミからも電話がかかって来ることはなかった
アミミの想いは本気であったが何をどうすればいいかが全く分からなかった
アミミがこの福山に居る時間が日に日に少なくなっていったが
あもんにはどうすることもできずにいた


この恋愛の壁は大き過ぎる
いつしかそう思うようになったのか?それとも初めからアミミを好きではなかったのか?
恋に挑むのが面倒くさくなったのか?それともただ、フラれるのが怖いだけなのか?
そんなことを考える暇も無いぐらいあもんは勉強に情熱を注いでいた
さらにあもんはこの頃から自動車の運転免許を取りに学校に通うようになった
あもんは自動2輪の免許は持っていたが普通自動車の免許は持っていない
車にはあまり興味が無かったので必要がないと今まで思っていたが
いつかは必ず必要となるからと今の時期に取っておこうと思ったからだ
それによりあもんは益々忙しくなり、段々とアミミから離れていった
あもんは密かにそうしたかったのかもしれない
レンさんが言ったアミミの理由を超える理由を考えるのが面倒くさかったのかもしれない
そしてレンさんが言ったどこまで好きでいられるかを確かめたかったのかもしれない



『あっくん?』
ある日、あもんは自動車教習場で話しかけられた
話しかけてきたのはあもんが大学1年生の時にフラれたアミであった
アミとは同じ大学に通いながらももう2年半も会ってはいなかった
この偶然の再会にあもんは驚き、思わず無口になってしまった
『ひさしぶりじゃね~あっくん、元気しとった?』
あもんと対照的にアミはご機嫌なようだった
相変わらず可愛い仕草であもんに近づいてきた
『ああ、元気じゃったよ、アミは?』
『うん。ウチは最近、体調崩して休んどった。そしたら、また変な噂立てられて…』
『もう~ぶち、はがええじゃろ~人を軽い女みたいに言うて…』



アミはあもんと別れてからその人懐っこさからいつも隣には男がいた
アミは別に意識しているわけではないが、可愛らしいアミに近づく男は多かったらしい
いつもアミは男に囲まれおりその嫉妬から変な噂も立てられるようになっていたのだ
その噂はあもんの耳にも入っており、あもんは時折悔しさも感じていた
だが、あもんがアミにフラれたのは事実であったから、あもんは一切、アミに近づこうとしなかった
もうアミはあもんの彼女ではない
あもんはその事実をまっすぐに受け止めていたのであった



『ねぇ、あっくん、もう講義終わりじゃろ~今からヒマ?』
『ああ、バイトまで時間あるけど…』
『じゃぁ、あっくん家に行っていい?色々話したい事があるんじゃ~』
『え!?』

あもんは驚いた。まさかアミから誘ってくるなんて
アミはあもんの事を“もう好きでは無くなった”と言って別れ話をしてきた
その時のあもんは必死に抵抗したがアミの決意は曲がらなかった
密かに他に好きな人が出来たのだとも思ったが、それはアミは違うと言った
そしてあもんは最後に『お前のことずっと好きじゃけん』と言って別れを決めたのであった
だから、あもんには今のアミの誘いを断る理由が無かった
多くの変な噂を聞いたが、あもんはアミを嫌いになることはなかったからである




『久しぶりじゃね、変わっとらんね~』
あもんの部屋に入ったアミは可愛い笑みであもんを振り向いた
あもんは一瞬、昔のことを思い出してしまった
『アミって今、彼氏おるん?』
話を始めたのは意外にもあもんの方からだった
あの頃の幻覚を思い出してしまったのだろうか?
『ううん。今、おらんのんよ』
『あっくん、“別れ”ってなんであるんかね?』
『うち、あれから別れてばっかりじゃ~』

その質問にあもんは答えられるはずが無かった
あもんは今、“何故恋をする”ということで悩んでいるのに“別れ”で悩むのはその先の話である
あもんはアミをはじめ、幾度か別れを経験したが、別れの苦しさから逃れる努力をしていた
だから、敢えて別れって何だろうと考えたことはなかった



『あれからのアミの恋って悲しいばっかりだったのか?』
『えっ、うん、そうかもね…』
『それって、俺の時も?』
『ん~あっくんの時は悲しかったというより寂しかったって感じかな』
『寂しかった?』
『うん。本当に好きだった人が好きじゃなくなったってことが寂しかったかな…』

あもんはアミの心情が分からなかった
寂いしいのなら何故?別れを自分から切り出したのだろうか?
『ねぇ、あっくん、あっくんって、ずっとウチのこと好きでいるって言ってくれたじゃん』
『それって、今でもなの?』

その問いにはあもんは素直に答えることが出来る


あもんは悩むことなくアミに言った
『ああ、今でも好きじゃで!せっかく好きになったんじゃけん、例えお前がどんなに悪女になっても好きでいるつもりじゃ!』
『あはは。悪女って』
『じゃけどな、この感情はアミだけじゃないんじゃ』
『あれから、何人かの女を好きになって別れたけど、あいつらも嫌いにはなっとらん』
『ほんで、今は、アミミって女が一番好きなんじゃ!』
『え!』

あもんのアミミへの告白にアミは驚いた
それからアミは何故かテンションが下がり、あまりしゃべらなくなっていった
そしてアミは最後にあもんに言った
『やっぱ、あっくんってカッコイイね!』
『ウチ、あっくんのこと好きじゃなくなって後悔しとる』




アミは可愛い笑顔で手を振ってあもんの家を去っていった



あもんはレンさんの予想した通り恋愛に不器用な男である
好きな人をただまっすぐに好きになり、別れを告げられても好きでいるアホウである
この時のあもんはアミが言ってくれた『あっくんって、カッコイイね』と言う言葉が凄く嬉しかっただけであった
あもんはこの時のアミの心情を察することが出来ない不器用な男であった



続く