恋するアホウ 16 | あもん ザ・ワールド

あもん ザ・ワールド

君へと届け 元気玉

この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1996年から1997年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします



『卒業、おめでとうございます』
あもんとR2の仲間たちは今年卒業するアンチさん、モツさん、シッシーさんに言った
R2のツーリングとしては今までその他多くの福大生が参加したが
主に参加率の多い4年生のメンバーはこの3人であった
CB1000のアンチさん、バンディッド400のモツさん、ZZ‐R400のシッシーさん
あもんは彼らと毎週のようにツーリングに行っていた
そこには多くの笑いと感動があり、旅をしているという一体感がある
ソロツーリングも楽しいところはたくさんあるが、やはり大勢で行くツーリングは面白い
かっ飛びや立ちコケや居眠りや極寒、自然との対話に仲間意識の誕生
あもん達は福山大学で出逢った仲間たちである
ただ、バイクが好きで乗っていただけの一個人が
ツーリングという旅を共有することによって得られるこの仲間意識
誰もが一人暮らしで寂しかったが、俺は一人じゃないんだと感じた
旅はだらだらと時間を消費していくだけの大学生活にけじめをつけ
未知なる道を開拓しているという高揚感を築かせてくれる



『一緒にあっちに行ってみよ~ぜ~』『そこには何があるのかな?』
そんなキャッチボールをR2ではたくさんした
卒業後、アンチさんは地元の兵庫へ、シッシーさんは大阪へ、モツさんは北海道へと
それぞれが新たなる地で暮らすことになっていた
あもんはもちろん、寂しかった
特にアンチさんはあもんが入学した時からR2に入っており
あもんが一番多く旅した仲間である
でも、あもん達R2はみんな笑っていた
“いつか、きっと、また会えるじゃろ~”
そんなクサイ言葉は誰も発しなかったが、誰もが心の中で噛みしめていたものである





そして、あもんには別れないといけない女性がいた
その女性の名をアミミという
正確に言うと、別れと言うほどのものでもない
その女性はただ単にあもんが片想いをしているだけの関係であり
彼女にとっては単なる知り合いと会えなくなる程度のものであろう
しかしあもんは最後にちゃんと会ってお別れを言わなければいけないと思っていた
『じゃぁな、いろいろありがとな、お前を好きになってよかったよ』
この程度が今のあもんに言える精一杯のことであろう
決してアミミを自分の彼女にしてやろうとかいう魂胆は全くなかった
しかも今日はアミミの彼氏である河野さんにも初めて会う
河野さんがあもんに話があるらしい
あもんは一晩中考えても何を話していいか分からなかった
『アミミと別れてください。俺がアミミを幸せにしますけん!』
そんなことは口が裂けても言えなかった
自信が無いのだろう。きっと自分自身に自信が無いのだろう
河野さんがどんな人かは知らないが、河野さんに勝てる自信も無いのだろう



『あもん君、久しぶり!』
福短の校門の前に立っていたあもんの前にアミミが現れた
『今、卒業式終わったよ。卒業しちゃったよ』
『ああ、卒業おめでとう』
『うん、ありがとう』
『あもん君、彼が河野さんだよ』

アミミが紹介してくれた河野さんはやはり大人であった
見るからに20代後半でやせ気味で背が高い
お洒落なメガネでクールさを醸し出しており表情の変化が少なそうである
隙の無い世界観を持つ河野さんは情熱を体内で昇華させることができそうだ
きっと、他人の前では必死な顔やこんちくしょうな姿を見せないだろう
頭の回転が速く、相手の先の先まで推察して話を進めるタイプに見えた
正直、あもんの苦手のタイプである



『あたながあもん君ですか。アミミからよく聞いております。お世話になっております』
河野さんは深々と頭を下げ紳士的にあもんを扱った
『はい。あもんです』
ガキなあもんは河野さんの世界に飲み込まれないように必死に無愛想になった
『ここでは何なんで、喫茶店で話しましょう』
『ああ、ええで』
『あもん君、私は最後の授業があるけん、行くね』

そう言ってアミミは二人の所から去っていった



『いや~アミがいつも噂してますよ~あもん君のこと』
河野さんは煙草に火をつけてあもんに話しかけてきた
『どんな噂してるんですか?』
『なんか、いい友達が出来たって、優しくて、かっこよくてってベタ褒めですよ』
『でも、確かに、あもん君ってかっこいいよね~』
『そんなこと無いっすよ、ただの不器用な男ですよ』
『不器用な男!?それは男として魅力的ってことじゃないのかな?』
『河野さん、あんた、器用でしょ。昔から負けたことを知らないみたいだ』
『いやいや、僕だって毎日負けてますよ。でもそれを表情に出さないことにしてるから…』
『だって、表情に出した時点で相手の勝ちを認めたことになる』
『僕はね、自分で負けたと思っても、相手に勝ったとは思わせないようにしてるんだ』

河野さんの話は哲学的であもんにはレベルが高かった
正直、あもんは世界観で河野さんに負けていると思った
だが、それが悔しかったのであもんも河野さんのように表情に出さないように努力をした



『河野さんとアミミっていつから付き合ってんすか?』
あもんは河野さんに聞いてみた
『うん。アミが大学入学してからかな』
河野さんは顔色一つ変えず淡々と答えた
『でも、河野さんって、家族いるんですよね?何で家族いるのにアミミと付き合ってんすか?』
あもんはまるで小学生が大人に質問するように尋ねていた
誘導尋問的に攻めるスキルはあもんには無い
昔から直球しか投げられないのが不器用なあもんである
正直、あもんはそれが聞きたかった
不倫というものが全く理解できなかったからだ
何がどうなって、どこに惚れあって、家族を裏切るまでの行為をしているのかが理解できない
愛とはそこまで深い感情なのだろうか?
すると河野さんは再び淡々と答え、その結果、あもんは再び混乱するようになる



『アミとは契約なんだ』

『え??』

『俺がアミの援助をする代わりに、恋人になるという契約なんだ』




『?』
あもんは河野さんの言っていることが全く理解できていない
『言ってることが、よう分からんのですが?』



『アミの学費を援助する代わりに恋人になるって契約だ』
『アミとは家が近くて家族ぐるみの付き合いでね、』
『女手ひとつでアミを育てているお母さんから頼まれたのがきっかけだった』
『そんなのって恋愛って言うのか?!』

あもんは次第に声が高くなっていった
『あもん君、あるんだよ、世の中には数えきれないほどの愛し方があるんだ』
『そんなん、愛じゃねぇよ!!』
『じゃぁ、あもん君、愛って何だね?』
『…』



悔しいが今のあもんには胸を張って言える答えは出来ていない
愛どころか自分の恋で頭が混乱しているのに
こんな大人の河野さんに対抗できる武器は何一つ出来ていない
『あもん君、男が女を求めるのは摂理なんだ。本能と言ったほうが分かりやすいかな?』
『人間はそれを美化したがる。それゆえに恋という美しい言葉が生まれた』
『そして性の本能を誤魔化す為に愛という言葉が生まれた』
『愛って言葉は卑怯な言葉だ。あもん君、そう思わない?』
『わかんねーよ!そんな理屈ばかり並べられても俺には納得できねーよ』




『河野さん、男が女を好きになる。そして恋をする。その後に愛になる。だたそれだけじゃないのか?』
あもんの全く単純すぎる思想に河野さんはクスッと笑った
『いや、あもん君の答えは間違ってはいない。僕は人を愛す方法はたくさんあるって言ってるんだ』
『なんだよそれ!俺がまだ経験不足って馬鹿にしてるのか!』

あもんの怒りはどんどん上昇した。いや、悔しさが上昇したと言ったほうがいいだろう
『じゃぁ、河野さんに聞くが、今の河野さんはアミミを幸せにできるのか?』
『いや、俺が幸せにするのはアミじゃない、家族だ』
『お前!アミミのことを真剣に考えているのか?』
『あもん君、俺は家族持ちだぜ、真剣に考えるのは家族のほうだと決まっているだろ』
『ふざけんな!!!』

あもんは全ての質問に悩むことなく淡白に答える河野さんにいらだちを感じた



『まぁ、あもん君、感情的になるなよ。話が全く進んでないぞ』
河野さんはあくまでも大人であった
『話を進めるよ。落ち着いて』
『くそっ!』今のあもんには河野さんと戦える武器は無かった
『あもん君、よく聞けよ、俺とアミミは契約なんだ』
『分かってるよ』
『契約ということは完了するということだ』
『アミは今日、卒業をした。よって僕たちの契約は今日で完了だ』
『え?』



『だから、今日から僕たちは恋人どうしじゃないってことだ』
『今日からアミは本当に好きな人と恋人となる権利を与えられる』
『僕はその恋人になる権利をあもん君に受け取って欲しいんだ』
『僕はアミが本当に好きな人はあもん君だと思う』
『だから、あもん君、アミを幸せにしてやってくれ!今日はこのお願いに来たんだ』
『あっ、そろそろ、アミの授業が終わるぞ!行こうか!』



それを聞いたあもんは席を立った
そして河野さんに言った
『河野さん、全てがお前の思う通りになると思っていたらそれは間違いじゃ!』
『契約だがなんだが知らねぇが、お前はただ自分の生き方を否定したくないだけじゃろ』
『じゃけどな、お前のことをひとつだけ否定しちゃる』
『お前とアミミのした不倫は絶対に間違っとるんじゃ!』



あもんはXJRに跨り松永バイパスをかっ飛ばした
松永バイパスに続き尾道バイパスもかっ飛ばした
行先なんてどこでも良かった
とにかく悔しかった
何もかもが悔しかった
どうすることも出来ない自分が一番悔しかった
しばらくすると雨が降り出したので
あもんは海岸にバイクを止め、ヘルメットを脱ぎ、頭を掲げて
どさくさに紛れて悔し涙を流した







続く