この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1995年から1996年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします
TS125を手に入れたあもんに新たな旅意識が生まれるのに時間はかからなかった
『林道を走る』という新たな目的に加え
北海道で初体験をした登山ももうひとつの目的として加わった
ひとり旅の楽しさも北海道で教わったため
あもんはまたTS125でひとり旅へ向かったのだ
行き先は四国の剣山である
剣山は中四国第2の高峰を誇る山であり、太郎岌とも呼ばれる
時期は11月中旬であったが山深い処である
徐々に標高を上げると紅葉が元気に咲いている
あもんは国民宿舎剣山荘のC場を目指して走っていた
ここでキャンプして朝からゆっくり剣山を登る計画だ
道は徐々にせまくなり1.5車線のクネクネ道が続いた
あもんは軽いTSを軽快に走らせていた
その時である。あもんは一気に天地が逆転したのであった
何が起きたのかは一瞬の出来事であるため分からない
あもんは道路を数メートル滑り転んでしまったのだ
良く見るとそのコーナーの一部は山影になっており凍結しているではないか!
あもんのTSはその凍結コーナーで見事に滑って転んだのであった
『あははははは』あもんは面白かった
凍結道路で見事に滑ったため身体はどこも痛くない
TSも見事に滑ったため無傷のようである
すれ違った車が止まり心配して来てくれたがあもんは笑顔であった
あもんはTSのタフさに感心しキャンプ場で一人眠りに就いた
朝起きてみると雨であった
あもんは旅を急がないと決め明日までキャンプ場で待つこととした
朝起きてみると雨であった
あもんは旅を急がないと決め明日までキャンプ場で待つこととした
次の日には朝日が差し込みあもんは朝早くから剣山登山に向った
剣山はよく整備された登山道であり多くの登山者が登った形跡がみられた
しかしこの日は平日であるためか出逢った登山仲間はひとりであった
あもんは自然と出逢ったおじさんに話しかけ普通に2人で登ることになった
剣山山頂はその名前とは対照的に緩やかな草原地帯であった
名前に期待していたあもんは少しがっかりしたがおじさんが色々教えてくれたので面白かった
ついでに隣接する次郎岌まで二人で行くことにした
両山頂から見る山容は何処までも続いていた
山に登るといつも自分の小ささに気付く
そんなことをおじさんに話してみるとおじさんも納得し頷いていた
次の日、起きてみると雨であった
この日の温度は急激に下がりバイクを見てみると雨雫が凍っている
あもんはそれでも焦ることなく一日中テントの中で本を読んでいた
次の日はようやく晴れたのであもんは剣山スーパー林道へTSを走らせた
剣山スーパー林道は徳島県を縦断する林道で
全長87.7kmのダートが続き日本最長ダートであるらしい
オフライダーなら誰もが憧れる道で聖地とも崇めるライダーもいたぐらいだ
福山の林道でTSの運転方法を練習したあもんはさっそくスーパー林道を走った
剣山スーパー林道はその長さも凄いのだが、あもんが魅了されたのはその景色であった
ダイナミックなV字谷が続々とあもんを襲ってきた
それに感動したあもんは林道をかっ飛ばすことを止めノロリノロリと走ることにした
追い越していくぶっ飛びオフライダーにも目を向けなかった
それよりもこの絶景を記憶に残そうとバイクを降りてボーと山を望んでいた
帰り道、あもんは北海道から帰って来て旅のスタイがは変わったと気付いた
魚谷アパートに帰って来たのは夜になった
玄関を開けると留守電の録音ボタンが点滅している
誰かが留守電にメッセージを残した証拠である
あもんはこの留守電メッセージに悪戯をしているので
誰もが最低でも“もしもし”と言ってしまう為、無言で切られることは無かった
あもんは再生ボタンを押した
『もしもし、あもん君?アミです。ごめんね、あっ』
そこで電話は切られていた
留守電の録音メッセージはそれで終わっていた
それを聞いたあもんは“どっちのアミなんだ?”と悩んだ
元カノもアミと言う名前だし先日知り合った福短生の子もアミだ
声の質からしてもふたりは似ているので判別は難しかった
しかし、よく考えてみると元カノアミにあもんは電話番号を教えていない
教えていないどころかもう一年ぐらい会ったことも無い
しかしあもんは高校の一部の友達には教えていた為、彼ら経由で伝わることもあるかもしれない
でも、もし元カノアミだったら何の用であろう?
一応、元カノアミの電話番号は知っていたがあもんはかけることを躊躇していた
もし違っていたら恥ずかしいじゃないか…あもんはこの電話が元カノアミでは無いと思うようにした
良く考えてみるとこの電話が福短アミとしても色々疑問な処もある
福短アミとは先日学祭でオクラホマミキサーを踊っただけの仲である
かろうじて電話交換をしたが一回の電話で、しかも数分間話しただけである
あの学祭からもう半月以上たっていたがあもんは自分からは電話はしなかった
福短アミは正直、タイプであったが
あもんがその時夢中になっていたのはTS125であったからだ
新しく買ったTSが乗りたくてしようがなかったからだ
そもそも電話をしても口下手なあもんは福短アミを楽しませる自信が無かった
福短アミは今まで話したことの無いお嬢様タイプの女性である
応援団ネタにもひきそうな感じがしたし、バイクや車にも興味がない雰囲気である
結局、何を話題にしていいか分からないためあもんは電話をかけなかった
もちろん、アミからも電話がかかって来るとは夢にも思っていない
だが、今ここにアミという女性からの留守番メッセージが残っている
『なんで同じ名前なんじゃ~ぶち、紛らわしいの~』とあもんは悩んだ
悩んだ結果、あもんは勝手にこの声は福短アミの声だと決めつけるようになった
あもんは福短アミが教えてくれた福短寮の電話番号に電話をすることに決めた
もし、福短アミがかけていなくても『元気じゃった~?』と何気なく会話をすればいい
これが元カノアミの場合であったら間違いなく無理を生ずるであろう
あもんは妥当な方を選択したのであった
『もしもし、福短寮です』
長い長い話し中のコールにも負けず、何度も電話をかけようやく福短寮に繋がった
繋がったにしても寮の電話であるためここから本人を呼び出さなければいけない
『もしもし、あもんと申しますが、アミさんはおられますか?』
『はい?あもんさん?アミですか?…』
聞き慣れないあもんの声に寮生は一瞬、疑いの声を出した
『アミなら先日から外泊届けを出して外泊していますよ』
『よく知りませんが、実家にでも帰ったんじゃないですかね』
『あっ、そうですか!じゃぁいいです』あもんは何故かここでも緊張をしていた
彼女もきっとどこかのお嬢様なのであるという先入観が生じたからだ
『電話があったとメモでも残しておきましょうか?』と福短お嬢は意外にも優しかったが
『いえいえ、いいんです。またかけなおしますから』とあもんは断ってしまった
『はい。そうですか、それでは失礼します』と電話は切れた
あもんはもう一度、留守録メッセージを聞いてみた
良く聞くと、福短アミがメッセージを残したのは3日前の夜であった
あもんが剣山のキャンプ場で雨の中テントにいた頃である
窓の外を見ると今も雨が降っていた
あもんは湿っぽくなったので焼酎を一気に一杯飲んで眠った
続く