恋するアホウ 5 | あもん ザ・ワールド

あもん ザ・ワールド

君へと届け 元気玉

この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1995年から1996年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします



『やっぱ、狙い目は福短の学園祭じゃで~』
『尾短はコンパ誘ったらすぐ出てくるけど、福短はお嬢様学校じゃけん、コンパは無理なんじゃ』

学生生活をパチンコとコンパで楽しんでいたフジモンとジュンペイが話していた
二人はバイクには乗っておらずR2にも所属していない
だが、あもんはこの二人と同じ学部であり休憩時間はよく喋っていた
フジモンは広島の山間部出身であり福山の街にハマっている大学生の一人であった
パチンコで儲けては夜な夜な夜の街に遊びに行く生活を送っていた
ジュンペイは真面目にバイトをしていたのでたまにフジモンと遊んでいたぐらいであった
福山大学の近くにある短期大学と言えば
尾短と呼ばれる尾道短期女子大学と福短と呼ばれる福山女子短期大学があった
福短生は福大生から見てお堅いイメージがあり校則も厳しかったため浮いた噂が一切なかった
コンパに誘っても寮の門限が厳しいらしく出てくる女子がいなかったみたいだ
そこで福大生が福短生と出逢えるきっかけとなるのがこの学園祭であった
福短の学園祭に訪れそこできっかけを掴もうというフジモンとジュンペイの作戦であった
『あもんも行くじゃろ~』
そこに居たあもんは自然に2人に誘われ、断る理由も無かったし、短大の学園祭に行ったことがなかったので
あもんは2人と福短の学園祭に行くことになった



『こんにちは~ベル番教えてよ~』
百戦錬磨のフジモンは軽い感覚で福短生に話しかけていた
ジュンペイも負けじと戦いを繰り広げていた
あもんはナンパなどしたことも無いし性格的には絶対無理だと思っている
だからフジモンのように軽いタッチで女性に話しかけることは無かった
フジモンとジュンペイのそばで会話に入っていき会釈をするのが精一杯であった
戦い慣れているフジモンも今回は苦戦しているようだ
フジモンは茶髪にパーマをかけており顔もジャニーズ顔をしている
軽いイメージが若干あるがモテないタイプでは無い
女性をヨイショしつつ自分のペースに持って行くのが非常に上手かった
しかし、流石はお堅い福短生である
フジモンのイメージをお嬢様であるというプライドが阻止しているのである
フジモンは声をかけては無視され、足を止めてくれて話してもベル番ゲットまでは辿りつけない
だが、フジモンにもプライドがあった
お堅い福短生を知っていてこの学園祭に来たのだから何としても結果を残さなければならない
フジモンはあもん達に言った
『よし!オレは勝負にかける』
『今からやる“ねるとん大会”にエントリーしてくるわ!!』

ねるとん大会とはこの学園祭のメインイベントとして行われており
名前の通り、男女10人がステージ上に上がりねるとん紅鯨団ごっこを行うのである
参加女性陣はもちろん福短生で参加男性は当日応募をする
ミス福短に選ばれた子が出場することもあってか男性参加者が殺到し
フジモンはその抽選の中で見事に選ばれた
そしてフジモンはステージ上で自分のテクニックを披露し始めたのであった


あもんとジュンペイはそれが面白く観客の一人となっていた
フジモンはミス福短に行くと思いきやフェイントをかけ始めた
この辺がフジモンのテクニックかどうかは未だに分からない
さり気なく近づいては足早に去りメインターゲットを他の子としていた
あもん達はその作戦がわざとらしくて面白かった
多分、会場で見ている誰もがフジモンの行動を予測できたであろう
あもんはフジモンの百戦錬磨も大したことないなと思った



『あの人、絶対無理よね~』
『えっ、なんで?』

あもんとジュンペイの傍に居た福短生3人組の話し声が聞こえた
『え、知らないの~ねるとんに出ている女子はみんな演劇部だよ~』
『あのミス福短の子は女優の卵みたいなのしてて、男性陣も半分は劇団の人なの』
『初めから出来上がるカップルって決まっているんだ~』

『ええええっーーマジか!』と叫んだのはジュンペイであった
ジュンペイは驚いた拍子にその福短生に話しかけた
『僕の友達が出てるんですよ~ほら、あのミス福短を狙っているとバレバレなやつ、あいつ』
『フラレれるの分かってて見るのって面白いよね~』

あもんはジュンペイも中々のテクニックを持っていたということに気付いた
共通の話題を見つけすぐさま彼女たちを振り向かせたのである


運よく、馬鹿をしているのはフジモンである
ジュンペイは友達ネタを要領良く使い彼女たちとの距離を縮めた
彼女たちも初めは他人行儀であったがフジモンの行動が助けとなり
徐々にジュンペイのペースになっている
女子も3人集まると主にしゃべる子としゃべらない子と分かれるらしく
しばらくはジュンペイとしゃべる子が話題を引っ張っていった
あもんはもちろん、自分から話しかけることは無かった
しかしあもんはこの3人でタイプの子を見つけてしまった
その子は3人の中で一番しゃべらない子であった
背は小さく髪は黒くて長い、顔は幼顔で体つきも幼児体型のようだ
見るからに“大人しいお嬢様タイプ”であり、ジュンペイのタイプではない
あもんが北海道で好きになったチェリーとは正反対な雰囲気であったが
あもんはこの時、この子をじっと見つめてしまった


時折、目が合うことがあったが恥ずかしさのあまり目をそらしてしまう始末だ
あもんはそんな目運びをジュンペイの話につきあいながらしていた
あもんはこの子と話したくなってきた
しかし、きっかけが分からない
なにしろ、ナンパなどというものをしたことがなかったからだ
フジモンはみんなの予想通りにミス福短に挑んだが、大どんでん返しは起こらなかった
もう日も暮れ始め、学祭も終わりに近づいている
この最後のチャンスを逃すと二度と福短生とはお近づきになれない気がした
困ったあもんはふと学祭りのパンフレットを見た
そこには学祭最後の行事として“フォークダンス”と書かれていた



『ねぇ~学祭終わったらどうするの?』
ジュンペイが次にステップに繫げようとしていた
『え~終わったら寮に帰るよ~』
ジュンペイが若干不利になっていた
その時、あもんは初めて口を開いた

『あの~フォークダンス、一緒に踊りませんか?』

『あははは!あもん!なんだよそれ』
ジュンペイが笑い始めた
『だって、ここに書いてあるじゃん…』
ジュンペイにつられ福短生も笑い始めた
あもんは別にギャグで言ったつもりは無かったのだがつられて笑ってしまった
するとその時、あのしゃべらない子が初めて喋ったのであった

『うん。いいよ。行こ』

その子はあもんを見つめながらそのひと言だけ言った



フォークダンスの種類はオクラホマミキサーであった
次第に男女が円になって並び始めた
このお堅いイメージのある福短でこの行事があるのは不思議であった
フォークダンスは明らかに男女の距離を縮められる一大行事であるのに
密かにこの学校は清らかな男女交際を求めているかもしれないと思った
あもんはドキドキしていた
フォークダンスをするのは小学校以来である
あの好きな人と手を握れる瞬間を踊りながら待ち望み
結局は好きな子までたどり着けないという小学生には残酷なこのオクラホマミキサー
あもんは小学生の時と同じドキドキ感を感じていた
しかも今回はお気に入りの子と初めから踊れるのである
確実に手を握れるのは決まっている


オクラホマミキサーが始まった
彼女の小さく冷たい手があもんの手に納まった
あもんと彼女はニコっとしあいオクラホマミキサーを踊った
そしてすぐさま手は離された
これもオクラホマミキサーの残酷な処である
せっかく、意中の子と手が繫げたのにその時間は物凄く少ない
しかもまたこの意中の子までたどり着けるまでは
またこの大きな円を回ってこないといけない
さっきまで自分の腕の中に居た意中の子は他の男と手を繫いでいる…
さらに意中の子は曲が進むにつれて自分から遠ざかっていく…
あもんは小学生の時の気持ちを思い出してしまった
そして小学生の残酷な思い出の通りに
今回のオクラホマミキサーも終わってしまった


しかし、あもんは次なるアクションに出た
フォークダンスが終わり閉幕を告げているアナウンスの中で
あもんはあの子を追いかけ紙を渡した


『これ、オレの番号じゃけん、ベルもってないけ~部屋の電話じゃけど』


『あっ、ありがとう』
彼女は俯きながら言った



『うん、じゃぁ帰るけん、またの~』
『うん、バイバイ』


あもんはジュンペイと一緒に帰った
あもんは絶対に電話はかかってこないことが分かっていたが
何か残していきたかったのだ
ジュンペイは結局、ベル番をゲットすることはできなかった
フジモンはあれからどこに行ったか不明である





その夜、あもんの部屋の電話がなった
『もしもし』
『あの~あもんさんですか?』

あもんはまたあのデート商法のエリカかと思ったが、声が全く違った
『はい。そうですけど、どちらさまですか?』
『あの~今日、番号教えて貰ったモノですけど…』
『え!あの福短生?』
『はい。自分の名前言ってなかったなと思いまして…』
『あははっは!そうじゃったね~』


あもんもあの時、精一杯であった
加えて久しぶりのオクラホマミキサーで興奮もしていた
電話番号を渡したのにかかわらず相手の名前を聞くのを忘れていたのだ
彼女はわざわざそれを伝える為に電話をかけてきてくれたのであった
『ほんで、なんていう名前なん?』
『うん、私、アミって言います』
『えぇぇぇぇえぇえええええ!アミって言うの!!』

アミとはあもんが以前につきあっていた彼女の名前と一緒である
偶然が重なり過ぎると少し怖くなる



あもんはとっさにアミにお願いをした
『ねぇ、アミミって呼んでいい?』
『あはは、何それ?何で?』
『ん、何となく、その方が可愛らしいかと思って』
『そうなん?でも、いいよ♪あだ名みたいで可愛いしw』

アミミは快くその呼び名を承諾してくれた
『じゃぁ、そろそろ』
とアミミは言った
『えっ、もう?』
『うん、こっち、寮の公衆電話なんじゃ~後ろ並んどるけん』
『あっ、ここの電話番号、教える。繋がる確率少ないけど…』



ということであもんとアミミの初電話は自己紹介だけで終わった

次の日、フジモンはあもんの前に現れて言った
『やっぱ、福短生みたいなお堅いタイプは苦手じゃ~』
『尾短のノリの良さがええの~』

あもんはあのねるとん大会が出来レースだったことや
アミミから寮の電話番号を聞いたことは
フジモンには言わない方が平和だと思った

続く