恋するアホウ 7 | あもん ザ・ワールド

あもん ザ・ワールド

君へと届け 元気玉

この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1995年から1996年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします


あもんにはひとつの悪い癖があった
それは自分が楽しんでいることを伝染させることであった
しかし、それはあくまでも負の伝染では無い。楽の伝染である
北海道で登山の素晴らしさを知ったあもんは、すぐさまR2に伝染させた
キャンプのコツもR2のみんなに伝染させた
そしてあもんは一泊二日の石鎚山登山ツーリングを企画した
今回の賛同者はアンチさん、モツさん、シシさん、ナットウである
ちなみにR2ツーリングは絶対参加では無く、行きたいと思ったツーリングだけ行けばいいというルールがあった
今回のこの登山ツーリングを企画して正直賛同者は同じ北海道を旅したナットウだけかなと思った
しかし登山未経験者の3人が行きたいと言ったのだ
これはまさしくあもん伝染病であり、あもんの登山に対する力説が彼らも病気にしてしまったのかもしれない
あもん達は早速、夜が明けないうちに福山港からフェリーに乗り多度津港を目指した



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石鎚山は四国の愛媛県にそびえる山で
標高1955m、中四国の最高峰である
古くから山岳信仰の山としてしられ日本七霊山のひとつでもある
今でも山伏の修業は続けられており、毎年行われる“お山開き”の神事の時は女人禁制となる
あもん達は石鎚山近くの面河渓キャンプ場にテントを張った
一日目は走るのをここまでとし、明日の早朝に山に登ってまた福山に帰るという計画であった
運よく今日も晴れていて明日も天気がいいらしい



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次の日、夜も明けきらぬ内にあもん達は目覚め準備を始めた
そしてあもんは北海道でシンさんに教わったようにみんなに登山の基本を教えつつ山道を進んだ
古くから登山者が多いせいか登山道は整備されていて歩きやすい
初心者のみんなはいきなり中四国最高峰に挑むことになったが、若い為かみんな元気である


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石鎚山には3つの鎖場がある
どれにもう回路があるのだが、あもん達は若き青年であるため
この鎖を登るのに反対する者はいなかった
ひとつ目の鎖に挑む頃、ホラ貝の音が山にこだました
遠くに白装束の山伏が見えた
この山はれっきとした山岳信仰の山であるが登山するのは普通の者もいる
お互いがお互いの目的を達成するために石鎚山に委ねている
あもん達は次の鎖場で山伏が鎖を降りてくるのを見つけた
あもん達は初めて見る山伏だったので興味深く少し離れて観察していた
鎖を降りてきた山伏は山に向って何やら祈祷をし始めた
しばらく祈祷した後、山伏はまた鎖を登り始めた
山伏は何度この鎖を往復するのだろうと思ったが
それぞれの目的が違うため、あもんはその山伏に話しかけることはしなかった


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鎖登りは予想通りきつかったがみんなはそれぞれのペースで登り
3つの鎖を登りきった達成感で満ち溢れた
そしてあもん達はようやく山頂に着いた
石鎚山の山頂は正確には、最高峰に位置する天狗岳、石鎚神社山頂社のある弥山、南尖峰の一連の総体山を石鎚山と呼ぶ
あもん達は石鎚神社で腰を下ろした
するとさっきまでは晴れていたのに見る見るうちに雲が上昇していき、辺りは真っ白となった
山の気候変動は神の仕業のごとく早いものである


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下山中の山小屋で水が一杯200円で売っていたが
あもん達は元気な貧乏青年であったため我慢して石鎚山を降りた
それからキャンプ場に戻り、パッキングをして一気に多度津港まで走りフェリーに乗った


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福山港に着いた時はもう夜ごはんの時間であった

フェリーから降りたら雨が降っていた
福山港から下宿先まではすぐだったのであもん達はカッパも着ずに濡れて帰った


魚谷アパートの玄関を開けるとまたこの前のように留守電のランプが点滅していた
『アミミだ!』とあもんは思った
ちなみにあもんは福短アミのことを紛らわしいのでアミミと呼ぶことにした
これはアミミも承諾していることである
再生ボタンを押すとこの前と同じ声が聞こえてきた
『もしもし、あもん君、アミ、この前はごめんね、電話してくれたんだね…』
この時点でこの前の電話がアミミであったことが証明された
あもんの予想はあたっていたのだ
あの時、メモを残さなくていいと福短お嬢に言ったはずなのに?と思ったが、どうでもいいと思った
アミミの声はまだ録音されていた
『この前はちょっと相談があったんじゃけど、あもん君、忙しいんじゃね』
『今日もどっか行っとるん?よう考えたら、私、あもん君のこと何も知らんのんじゃね』
『んじゃ、また電話するけん、ごめんね、バイバイ』

アミミの録音は終わった
あもんはもう一度、再生ボタンを押した
そしてその録音がつい30分前であったことに気付いたのであった


あもんはすぐさま福短寮に電話をかけた
運よくこの時は一発で電話がかかった
『はい。福短寮です』その声はこの前の福短お嬢である
お前は電話番か!と言いたかったけどあもんは堪えて別のことを言った
『アミさんから電話があったんですけど、おられますか?』
『あっ、あもんさん、アミいますよ、よかったですねw』

福短お嬢は何故かあもんに親近感を感じているようだったが、あもんは敢えて無視をした
『もしもし、あもん君?』アミミは直ぐに電話に出てきた
『うん、この前も今日もごめん!ツーリング行っとったんじゃ』
『ううん、この前電話してくれとったんじゃね、そのこと今日聞いたけん、電話したんよ』

なに!福短お嬢はよりによって何で今日言うんじゃ~
もうアレから一週間も経っとるのに!言うんだったらすぐに言わんかい!
とタイミングの悪い福短お嬢を心の中で叱った
『ほんで、相談ってなに?なんかあったんか?』あもんは本題に入ろうとした
『いや、もういいんよ、大丈夫じゃけん…』
『いや、聞きたいんじゃ、ワシもアミミのことが知りたいんじゃ!』
『えっ、でも、電話じゃ長くなるけん…』
『じゃぁ、今からそっち行くけん、会ってくれる?』

この時のあもんは勢いに満ちていた
それが石鎚山の力なのかどうか知らないが興奮していたのは確かであった
『でも、雨ふっとるし…』
『大丈夫じゃ、今、濡れて帰ってきたけん、何度濡れても一緒じゃ』
『じゃぁ、今から行くけんの~待っとってや、40分ぐらいで行けると思うけん』

『うん…分かった…』とアミミは電話を切った


あもんはバイクの荷物を部屋に投げ込み
今度はスピードの出るXJRのエンジンをかけ雨の中走り出した






福短寮の前でアミミは傘を持って待っていた
バイクを降りて走ってきたあもんにアミミは傘を差しだした
『ごめんね、寒くない?』アミミは心配そうにあもんに尋ねた
『あははは、大丈夫じゃけん、ありがとう』
『それより、アミミも髪が濡れとるじゃん!』
『ううん、雨じゃないんよ、あれからお風呂の時間だったけん、急いで上がったんよ』

夜目が慣れてきたあもんの目に映ったのはパジャマ姿のアミミであった
パジャマ上下の上に厚いカーデガンを羽織っていた
ほのかにシャンプーの良い匂いがした
この前のアミミの姿はGパンにシャツ姿であったが2度目に見たアミミはパジャマ姿である
あもんはしばらくアミミを見つめてしまった
それに気付いたアミミは『もう、そんなに見んといて』と言って照れた
その言葉にあもんも恥ずかしくなって本題に入った
『で、相談って何なん?』
『うん、私ね、……』
『うん』
















『つき合っている人がいるの』
『えっ、!!』


あもんは予想だにしないアミミの言葉に一瞬目の前が真っ白になった
それに気付かないアミミは続けた
『彼は地元に住んでいて、遠距離なんじゃけど…』
『この前電話した時、彼の所に行こうかどうか迷ってて…』
『男の人の気持が知りたくて、あもん君に電話したんよ』
『そ、そう、そ、そうなんじゃ』

明らかにあもんは動揺をしていた
『ごめんね、変な相談しようとして…』
『いや、いや、いいんじゃ、男の気持ちは男しか分からんけんの~』
『で、結局、アミミは地元の彼の所に行ったんか?』
『うん、実家に帰るって嘘ついて、外泊届け出して…』
『…………』

あの福短お嬢が言っていた外泊届けの件である
『ん、ん?それで彼の所に行ったんなら、もう相談せんでもイイことなんじゃない?』
あもんはクエスチョンマークがつきアミミの言っていることが分からなかった




『ほいじゃけ~もういいよって言ったじゃん…』
『じゃけど、あもん君が来るっていうけん…』
『じゃぁ、何で今日、電話してくれたん?』
『アレは今日電話してくれたこと知ったけん、謝ろうと思うて…』

あもんはしばらく無口になり冷静に考えてみた
良く考えるとアミミの言っていることは何も間違っていない
ただ単にあもんが勝手に妄想し興奮していたことだけであったのだ
『あははははは!アミミの言う通りじゃ』
あもんはもう笑うしかなかった
『あもん君、ごめんね、』
『何?』
『もうそろそろ、消灯の時間じゃけん…』
『あっ、そうか、ここは寮じゃったね~もうそんな時間なんじゃ』




時間はもう11時前であった
『ほんじゃ、オレ帰るわ~じゃぁの~』
『うん、来てくれてありがとう、風邪引かんといてね』
『オッケー』

あもんは極力明るく振る舞ってアミミと別れた
帰る時の雨は堪らなく冷たかった


そしてあもんは次の日
見事に風邪をひいたのであった





続く