さくらんぼとふたりんぼ 15~あもん史 妄想編~ | あもん ザ・ワールド

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君へと届け 元気玉

この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1995年から1996年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします




翌朝も天気は悪く霧雨が降っていた
もうこの時期の雨は寒い
9月が近付くと北海道は秋へとなっていくからだ
福さんは今日、大阪に帰ることになった
ここから大阪へは中標津から飛行機に乗るのが最短である
取りあえずはバイクをここに置き福さん一人大阪へ帰る
かよ作さんとシンさんが空港まで送っていった


聞くとこの訃報を知ったのは偶然であったらしい
福さんの彼女であるかよ作さんが実家に電話をかけたのがきっかけである
家族ぐるみでお付き合いをしていた二人であるため訃報は直ぐにかよ作家に伝わった
しかし、二人とも北海道を旅していて連絡が取れない
携帯どころかポケットベルさえ持っていない二人
いや、当時の旅人はほとんどがそうであった
放浪の旅をしているため連絡が取れるのは旅人から電話をかけるしかない
公衆電話からの電話は遠ければ遠いほど話す時間は短くなる
時折送られてくるハガキには安心をするが
その家族たちは“連絡がないのが無事な証拠”という格言を信じ
旅人が家に帰ってくるのをただ待つしかなかったのだ
もし、旅人が電話をかけるお金も使い果たしたり
公衆電話も無いような離島を旅していたりすると
家族の安否を知る由もないであろう
すると家族の死に目に会えない確率は高くなるであろう
長く放浪する旅人にはそのような覚悟も必要なのである
福さんが羅臼でガハハと笑っている時に
親父さんは福さんに会いたいと思ったのかもしれない


あもんは雨音が流れるテントの中で深く考えた
今日は他の旅人もテントの外から出ていなかった
静かに流れる羅臼の時間
あもんは無性に寒さを感じ始めた
服を着ても心の底から寒さを感じているのだ
そしてあもんは広島に帰りたいと思った


夕方になって朝から何も食べていないことに気付き
あもんは羅臼町のセイコーマートに行った
セイコーマートとは北海道でシェアが高いコンビニである
コンビニというか遅くまで空いているスーパーと言う感覚で
酒と生鮮食品が充実しているため旅人が多く通っていた
北海道ではセブンイレブンを見つけるよりセイコーマートを見つけるほうが早いという
調べると1971年が最初の店舗でセブンイレブンより老舗であった
あもんはセイコーマートで食料を買い公衆電話を手に取った
電話をかけるところは実家である
あもんは大学に入った時点から実家には連絡しないたちであり
実家に電話するのは家を出てから数回しかなかった
そして旅先から実家に電話するのは初めてだったのだ
実家の電話にはあもん母がでた
『あ、もしもし、母さん?』
『ああ~あっくん、元気しとるん』

あもん母が淡々と答えた
『今、北海道におるんじゃろ、そっちどうなん?』
『もう寒いんじゃない?ちゃんと食べよるん?』

あもん母は淡々と話しながら少し嬉しそうだった
久しぶりに聞いた広島弁にあもんは懐かしさを感じた
『うん、大丈夫じゃ、それよりみんなは元気なん?』
『うん、姉ちゃん今年社会人1年生じゃけん、色々しんどいらしいけど、元気にしとるよ』
『父さんも相変わらず仕事ばっかりじゃけど、元気しとるよ』
『で、あっくん、なんかあったん?』
『いや、別に…ただ、みんなどうしとるかな?と思うて…』
『そうね~もう夏休みは終わりじゃろ~そろそろ帰ってくるんじゃろ』
『旅行は今しかできんけん、楽しむのはいい事じゃけど』
『あっくんは学生なんじゃけん、ちょっとは勉強せんにゃ~いけんよ

親らしい意見にあもんはいつもなら嫌気がさしているのだが
この時だけは何故か素直に聞いてしまった
『うん、もうちょっとしたら帰るけん』
『うん、気をつけて帰ってきんちゃいよ』
『それと…絶対に事故だけはしちゃ~いけんよ』

あもんはその言葉を聞いた時、ふとスミ子のことを思い出した
スミ子とはその言葉を最後に別れたからだった
『うん、分かった、もうちょっとで帰るけん、福山着いたらまた電話するけん』
『分かった、じゃあね、はい』

そい言って母は電話を切った


キャンプ場に戻るとハカセがあもんに教えてくれた
『おい、今晩あたり、羅臼おろしが来るかもしれねぇぞ、気をつけろよ』
羅臼おろしとは秋口に吹く突風であり知床連山から羅臼に向って吹き下りてくる
テントが吹っ飛ぶぐらいの突風であり
毎年このキャンプ場での被害者は多い
あもんはテントを今一度よく固定し眠ることにした
風の音が不気味に流れている
『明日、羅臼を出よう』
あもんはそう思った


あもんは次の朝、羅臼を出発するとみんなに告げた
あもんの出発にはナットウが同行することになった
他のみんなは福さんを待つと言っていた
小雨が降る中あもんとナットウは知床峠を越えて斜里に出た
そこからは一気にオホーツク海沿岸を北上する
網走を抜け紋別を抜け、ただ単調な道のりを走る
この辺りは年中強風が吹く為、高木は少ない
海風に耐えている低木は決まって陸側に顔を向けていた
あもんも何度も風に流されそうになった
夕方に宗谷岬手前の猿払にキャンプ場を見つけたので走るのを止めた


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あもんとナットウは同じ大学であり夏休み期間は同じである
ナットウはもう小樽からの帰りのフェリーを予約しているらしく
まっすぐ広島に帰るらしい
あもんはフェリーの予約を取っていなかった
『あもんちゃんも一緒に帰るの?』
キャンプ場でふたりきりになった二人は話し始めた
『いや、もうちょっと北海道を旅しようと思うとる』
『どこに行くの?』

ナットウは時折、何故だかお姉キャラになる
『また、道東に行こうと思うとるんじゃ』
『じゃぁ、羅臼からすぐじゃん、なんで道北に来たん?』
『ん、まぁ、ナットウとふたりきりになりたかったんじゃ』
『えっ w』

そのあもんの答えにナットウは少し照れ笑いをした
ナットウは時折、何故だかあもんに寄り添ってくる
あもんはそういうことにしたかった



あもんが今から行くのはチェリーと約束したナイタイ高原牧場である
どう考えても羅臼から行く方が断然近い
しかしあもんは敢えて“そういうこと”にした
あもんがナイタイ高原牧場に行くのを話したのはナットウだけであり
ハカセには知らせなかった
あもんは密かにカケをしてみた
それは“チェリーはナイタイ高原牧場に来るかどうか”だ
チェリーはハカセとタイに旅立とうとしている
そんなチェリーはあもんに会いに来てくれるのだろうか?
その上、あもんにはあまり時間がない
先日のあもん母との電話で夏休みが終わったら必ず授業を受けに行くと決めたからだ
あもんが北海道に滞在できるのはあと一週間となっていたのである


次の日、せっかくだから宗谷岬までナットウと走った
日本最北端で納豆と記念写真を撮り流氷記念館で寒さを体感した


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ナットウは大はしゃぎだったがあもんはチェリーが気になっていた
そしてここでナットウと別れあもんはナイタイ高原牧場に向った
あもんは堪らなくチェリーに会いたくなっていた
たった数週間前の富良野の思い出が愛おしく思えたからだ
“チェリーの笑顔がまた見たい”
ただその感情だけがあもんに満ち溢れていた





続く