さくらんぼとふたりんぼ 16~あもん史 妄想編~ | あもん ザ・ワールド

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君へと届け 元気玉

この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1995年から1996年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします


あもんは一気に道北から道東へ走った
どこにも寄ることなくひたすら走った
“もう来て待っているかもしれない”
そう考えるとスロットルを開けるしかない
瞬く間に日が暮れ始めあもんはナイタイ高原牧場に着いた
ナイタイ高原牧場はその名の通り高原に牧場がある
高原牧場の急なわき道をひたすら登る
牧場には牛が放牧され自由に寝そべっている
もう少しで暗くなるのであもんは急いでキャンプ場でテントを張った
少し期待して来たのだがこのキャンプ場には誰もいなかった
もう季節は秋である
多くの学生ライダーは帰路へと就いていた
多くの放浪旅人は暖かい所へ向かっていた
これから北海道は寒くなるばかりである
だが、あもんはここでチェリーを待つことにした
何日にここに来ると約束はしていない
もう、来ないかもしれない
だけどあもんは待つことにしたのだ



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それから2日間が経った
あもんはひとり、チェリーを待っていた
改めて見るとこの牧場は雄大である
ようやく秋晴れが続くようになった
こんなに優しい景色を見ているとなんだか涙は枯れそうだ
今なら多くの悲しみを思い出してもいい
思い出して思いっきり悲しんでサッ忘れればいいさ
遠くで泣いている牛がそう言っているように思えた



『あっ、』
あもんは思わず言ってしまった
遠くにバイクが見えたからである
『やっと、来たか…』
あもんはやっぱり来ると思っていた
半分、もう来ないかな?と期待していたのだが
やっぱり彼は来たのである
そう、ハカセは必ずここにやってくると思っていたのだ
『あれ~?あもんじゃないか!』と驚いたのはハカセの方だった
『お前、道北に行ったんじゃねぇの?』
『ああ、ナットウを見送って会う人がいるから引き返した』
『え、それってチェリーのことか?』
『ああ、そうじゃ~』

ハカセはあもんのいつもと違う表情にも驚いていた
『チェリーってどんだけやねん!』ハカセが慣れない関西弁で言うと
『さぁな、わからへん!』とあもんも慣れない関西弁で返した
『あはははは』
『まっ、その内、来るじゃろ~』
と二人は笑った
あもんとしてハカセの登場は予想通りであり期待通りであった
チェリーにハカセが必要であったようにあもんにもハカセが必要だと思いだしたからだ
博学なハカセの存在感はあもん達にいつも新鮮さを与えてくれており
独自な観察力は尊敬にもあたる
加えてジワリジワリと感じる安心感が彼の一番の魅力であろう
“頭の良い馬鹿”“熱過ぎない羽毛布団”そんな例えができる味がある男だった


この日も結局、チェリーはやってこなかった
あもんとハカセは久しぶりにふたりぼっちで酒を飲んだ
あもんはハカセに聞いてみた
『なぁ、ハカセはチェリーのことどう思ってるんだ?』
ハカセはいきなりの質問に少し考えて言った
『ん、あいつはまだ処女だと思う…』
『はい?』

想像もできなかった答えにあもんは拍子をぬかした
『いや、そうじゃなくて…』
『あいつは小学生のまま…なんだ…』
『だけど、それが一番あいつらしいんだ』

ハカセは意味深な事を言った
『なんだよ、それじゃ、よう分からん、どういう意味なんじゃ?』
『チェリーに昔、何かあったんか?』

あもんはチェリーのことを多く知りたかった
『まっ、それは自分で聞いたほうがええで』
あもんはこの時、ハカセは話題を変えたくなったら関西弁を使う癖があることに気付いた


あもんは話題を変えた
『ハカセって人を好きになったことある?』
『ああ、今だって好きな人はいっぱいいるぜ』
『それはチェリーも?』
『ああ、好きだぜ、チェリーも好きだぜ』
『チェリーもってどういう意味だ?』

あもんの質問にハカセははあっさりと返す
『え、好きな人っていっぱいいたら、いけね~の?』
『だから、その好きじゃなくて、なんて言うのかな~』
『独占したいって気持ちと言うか、離したくないっていうか…』

あもんは前に同じことを言っていたチェリーの事を思い出し
どうやらあもんとこの二人とは好きの意味合いが違うように思えてきた
『離したくない!ってのはあるかな~』
『でも独占したいって気持ちはまた違うだろ~』

あもんはハカセとの恋愛観の違いに少し戸惑い始めた
それに気付いたハカセはあもんに言った


『あもんって、今までどんな恋愛してきたの?』
それを聞いたあもんはハカセにアミとスミ子の事を全て話した
ハカセなら全てを話してもいいと思ったからだ
自分がしてきた恋愛をハカセがどう解釈してくれるのかが気になったこともある
ハカセはあもんの長い恋愛話を何も言わずに聞いてくれた
そしてそれを聞き終わったハカセが解釈をし始めた
『重え~話だな、オレはそんな恋愛したくねぇな』
『だいたい、あもんな~もっと恋愛を楽しくしなきゃな』
『その、スミ子と別れる必要性ってなかったんじゃねぇの?』

ハカセはあもんを否定し始めた
でもあもんはそれに怒ることなくその真意を聞いてみたくなった








『それがケジメだと思ったんじゃ、じゃけど正直、むず痒かった、オレは間違っとったんかの』
『あもんは深く考え過ぎなんだ、あもんとスミ子とコージの3人でいる時間を作った方がよかったんじゃね?』
『でも、ちょっぴりカッコイイな』
『そうか、あもんは悲しみを背負って格好をつけたかったんだ』
『それか、あれだ、あもんは実はスミ子を好きではなかったとか』
『あはははゴメン、ゴメン、言い過ぎた!!』

ハカセは思わず言った失言であもんに謝ってきたがあもんは怒ることはなかった
“そうかもしれない”と自分でも思っていたからだ
あもんはスミ子達の過去を聞いた時に自分が去るしかないと思っていた
しかしそれはあもんが恋愛から逃げたのかもしれない
過去を知ってしまった後に考えたのはネガティブなことばかりであった
一瞬、あもんはふたりに利用されたのだとも思った
だから、直ぐにでも広島から逃げたかったのだ
スミ子とコージを素直にさせたという意識はあったが
そこから逃げることはないであろう
二人を認め眺めることが辛いと思った自分の弱さがそこにはあった
『ハカセだったらどうした?』
あもんはハカセの恋愛観がどうなのか知りたかった
『あっ、オレならコージと殴り合いもしないし、スミ子とも別れようとはしないな』
『むしろ、3人で遊ぶようにセッティングするかも』
『そしてスミ子とコージが自分で本当の気持ちを伝い合うことができたら…』
『オレはその場を去って旅に出るかな』

あもんはハカセが大人だと思った
しかしハカセはそれも否定をした
『だって、オレ達まだまだガキだぜ!もっと単純でいいんじゃねえの』
『オレ達ガキなんだから好きになる人もいっぱいいるって!』
『そんなのでいちいち悩んでたら楽しくないじゃん』
『なぁ、あもん、恋愛って楽しいもんだぜ、なぁそうじゃないか?』

あもんはこの“頭の良い馬鹿”ハカセの考えに感化されてしまった







『そうじゃな~好きなもんは好きなんじゃけん』
『カッコ悪くても好きなんじゃけん、嫌いになることなんかない!』
『あははは!そうそう、で、あもんはチェリーの事が好きか?』
『おう!好きじゃ!今すぐ会いたい!』
『そして、ハカセのことも好きじゃ!』
『おいおい、オレはあもんには身体は許さんぞ!』
『あはははっは!あははははは』



あもんとハカセは満天の星空の下で声高高に笑った
その笑い声が高原牧場にこだまし
寝ていた牛が目を覚まし迷惑そうに鳴いていた
あもんは明日もハカセとチェリーを待つことにした
それがなんだか楽しくなってきた






続く