さくらんぼとふたりんぼ 14~あもん史 妄想編~ | あもん ザ・ワールド

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君へと届け 元気玉

この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1995年から1996年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします





『羅臼岳に登ってみない?』
あもんは昨晩シンさんにこう誘われた
『えっ、登山ですか!僕、経験ないけど連れて行って下さい!』
シンさんは今回の旅は登山が目的だという
この羅臼岳も一度登ったことあるがもう一度登りたいみたいだった
『結構きついし危険だからこの山はひとりでは登らない方がいいんだ』
そう思ったシンさんはパートナーとしてあもんを選んでくれた
シンさんの山話しに以前からあもんが食いついていたからである
山話しだけではない
シンさんの人生観を含む旅の話はあもんにとって授業を受けているように感じた
静かに短めに話すシンさんの口調はあもんを何度も頷かせたのであった


次の朝は珍しく早く起きて準備をする
先日、摩周岳に登ったがあれはハイキングのようであり
本格的な山に登るのは初めてであった
あもんと同じ年のニョウイもこの登山に参加することになった
ニョウイもあもんと同じく登山初体験である
羅臼岳は日本百名山のひとつであり知床連山の最高峰でもある
標高は1660mとあまり高くないが
その気候条件と山深さから日本アルプス級の山と意識した方がいいとシンさんは言っていた
更にヒグマの出没が多い山であるからひとり歩きは危険だとも言った
あもんはそんな山に初めて登るのでドキドキしていた
この羅臼国設キャンプ場は羅臼岳登山の拠点にもなっており
あもん達旅人の他に多くの登山家もキャンプをしていた
よってこの朝も羅臼岳に登る者は早くから準備をしていた


シンさんはあもん達の事を考えて歩きやすい岩尾別側のルートを選んだ
シンさんについてあもんとニョウイは歩き始めた
『休憩のタイミングとしっかり休むことがポイントなんだ』
とシンさんは登山の歩き方を教えてくれた
登山の登り始めは気持ちが高揚し歩幅がどうしても大きくなる
初めは体力があるのでドンドン登れるが次第にペースが大きく落ちることになる
シンさんの歩き方は最後まで同じ歩幅で歩くことが大切だという
初めの休憩は登山後30分で疲れていなくても必ず取る
そこからは1時間に1回は必ず休んでしっかり水分をとる
楽しいからと言って焦ってはいけない
その理由として登山の一番きついのは下山だという
下山は体力の消耗が激しいからその時まで体力を残していなければいけない
4割の力で登山し残りの6割を下山に使えば快適な登山が楽しめると言う



『じっくり歩かないと損だよね~』
シンさんはそう言った
あもんもその通りだと思った
摩周岳と比べて本格的な登山道はやはりきつかったが
シンさんペースで歩けば興味がなかった花や草などが綺麗だと思うし
山に溢れている美味しい空気に味があると知った
この登山道には幾つかの湧水ポイントがあり岩から流れ出る水を飲むと
冷たくて甘いジュースを飲んでいるみたいだった
あもんとニョウイは慣れない登山で時にハァハァ言っていたが
シンさんの優しい案内によりあもん達は疲れることを忘れていた
快晴の光に反射する雪渓を横目に長く歩いて羅臼平に着いた
見上げると“どんなもんだい!”と言わんばかりの羅臼岳が見下ろしていた




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ここからが羅臼岳のきつい所であり岩場を両手両足を使って登る
大抵の山はそうであるが頂上までの500mがキツイ
それはいろんな目標にも同じことがいえた
最後の踏ん張り時というのはどんな目標にもあるものである
しかし、その最後の苦しみを乗り越えた時の達成感が気持ちいいのである
見えそうで見えない頂上に焦る気持ちが出てくるが
ここもやはりシンさんペースで登る
ゆっくりと確実に一歩を残していくのである
ようやく頂上に着いたあもんとニョウイは感無量であった
多くの絶景を見てきたけれどここの絶景が一番だとも思った
ラウス湖,知床連山,オホーツク海,遠くに根室半島とその先に国後島
あもんはまるで宙に浮いている気分がした
小さな小さな頂きから大きな大きな地球を見ていると思った



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頂上で知床連山を見ながらシンさんが言った
『この知床連山を縦走して知床岬に行けるんだ』
『いつか行ってやるんだから!』

ひとつの頂きを制覇するとそこから見えるのは次なる目標である
シンさんはそうして旅を続けているらしい
『あっ、太陽の周りに傘みたいな円があるでしょ』
『これ、これから天気が悪くなる前兆なんだ』
『雨が降る前に降りよっか』

シンさんはあもん達にそう言って下山をし始めた


シンさんは仕事を辞めて旅に出るきっかけは“ある別れ”であったらしい
それは親友との別れであった
同じ仕事をしていた親友の自殺
それがシンさんの死生観を意識させ何かを見つけようと旅をしている
何を見つけたかはまだ見つけていなかったから多くは語らなかったけど
今のシンさんは“宇宙の中の地球”を解読することによって見られるのではと気付いているらしい
生命が宿る地球という星の本質が分かれば自分自身の生きる意味が導けるのではとも言った
あまりにもレベルが高くなったのであもんはそれ以上は尋ねなかった
シンさんもまだ解読途中であるためこの話題を止めた
でもあもんは直感的にシンさんの生き方がカッコイイと思った




登山から帰ると流石に疲れがどっと出てきて
あもんとニョウイはご飯を食べた後にすぐに寝てしまった
シンさんの予言通り深夜から雨が降り始めた


次の日、あもんはニョウイと納豆と誘ってラウス湖に行った
朝から雨が降っていたが雨の合間を見てあもん達は出発した
片道3時間かかった羅臼岳登山に比べて楽であった
1時間弱かかってラウス湖に着いた
昨日頂上から見下ろした雄大な湖が目の前にあった
昨日とは違う情景ではあるがどちらも同じラウス湖である
『なぁ、あもん、チェリーって今どこにいるの?』ニョウイが聞いてきた
『ああ、富良野まで一緒にいたんだけど札幌に行ったよ』
『高校の時の友達に会うんだって』あもんはニョウイに教えた






『あ、そうなの、てっきりもうタイへ旅出ったのかと思った』
そんなニョウイの答えにあもんは驚いた
『えっ、あいつ、タイに行くの?』
『うん、言っていたよ、北海道の次はタイだって』
『ハカセも一緒に行くとか言っていたけど…いつ行くのかな?』

あもんの知らない事実がそこにはあった
あもんは数日後チェリーとナイタイ高原牧場で再会をしようと約束をしている
あもんもそろそろこの羅臼を出ようと思っていた
しかしチェリーはハカセとタイに旅立つという
『なぁ、ニョウイ、ハカセとチェリーって付き合ってるの?』
『さぁ、どうなのかね~オレも初めて会った時は二人一緒だったから』
『そういえば、あいつらいつも一緒にいるな…』
『ハカセがひとり旅の時もあるけど』
『チェリーがひとり旅って聞いたこと無いや』
『ん~幼なじみだと言っていたけどつき合っているのかもね』





あもんは少し悔しかった
悔しがっている自分を改めて見て
自分はチェリーとつき合いたいのか?とも思った
しかしその答えはよく分からなかった
あもんはもうじき広島に帰る
チェリーはタイへ旅立っていく
『好きだ』とは告白をしたが『つき合ってくれ』とは言っていない
でも、つき合ったとしても二人には何ができるのだろう?
あもんも一緒にタイに行けばいいのか?
それは現実的には無理な話だ
そう考え込んでいるとあもんは無性にチェリーに会いたくなった



キャンプ場に帰るとザワザワしていた
今日は隣のサイトの仲間と鍋をするそうだ
三平鍋と言い、塩こしょうの味がする鍋で
マス、マス子、野菜などがたくさん入っている
他の肴はヒラメ、ワカメ、オショロコマ
一人50円の会費を払い20人が参加した宴は始まった
例によってシンさんがまたファイヤーヌンチャクを披露した
みんなは大いに笑い歌った
9時を過ぎたごろに福さんとかよさくさんが帰って来た
帰って来た福さんは三平鍋に見向きもせずに深刻な顔であもん達に告げた




















『親父が死んだんだ…』
『えっ』と一同は静まり返った
福さんはヘルメットを地面に投げ捨て
『くそっ!!』と言った
その後
『ごめんな…』
とひと言言って
テントに帰っていった



続く