この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1995年から1996年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします
人が生きていく上で毎日起こりうること
それは出逢い
その出逢いを明日に導くのは自分自身である
この人に近づきたい
そんな感情が芽生えた時、人は人を好きになる
だがしかし、その行為が時に悲しみを生むこともある
それが何処で迷ってしまったかは分からない
そんな時人は友に尋ねる
新しい街に住み始めたあもんには友ができた
自分だけでは答えが分からなかった時
あもんもまた、友に答えを尋ねたのだ
あもんの友は一緒にその答えを考えてくれたのだ
あもんはこの日ツーリングに出かけていた
無性に日本海が見たくなり中国山地を越え島根県の海を見に行っていた
往復で400Kmを越えるこの工程では帰宅は夜になった
あもんが魚谷アパートに着くとそこには京ちゃんが車で待っていた
京ちゃんはあもんに気付くとすぐさま車から降りて言った
『お前!いいかげん、ベルぐらい持てや!』
『どしたんや?何かあったんか?』
いきなり怒鳴られたあもんは意味が分からなかった
『スミ子が今日、事故ったで!』
『ええ!マジか!それで今どうしとるんや!!』
あもんは急いで京ちゃんの車に乗り病院に向った
『今な、コージが病院に連れていっとるんじゃ』
京ちゃんはアクセルを全開しながら言った
『なんでや?スミ子とコージは一緒に事故ったんか?』
『なんで、スミ子とコージが一緒にいるんや?』
あもんは少し興奮気味に京ちゃんに尋ねた
『いや、コージの車とスミ子の車がぶつかったんじゃ』
『場所はグリーンラインじゃ』
『グリーライン?』
グリーンラインはコージがいつも攻めている峠であり
スミ子がそこを走っていたなんて想像もできなかった
『なんでスミ子はグリーンラインを走っとんたんじゃろ、よりによって事故るとは…』
『あっくん、驚かんと聞いてな、』
『何じゃ?』
『コージはいつも通りに峠を攻めていたんじゃ』
『そこに一台の車がコージを煽ってきた』
『ほら、いつもコージに挑む赤いRX-7じゃ』
『そのRX-7を運転していたのはスミ子じゃったんじゃ』
『なんじゃと!』
あもんは驚かずには居られなかった
京ちゃんは続けた
『いつもよりかエキサイティングした二人は無茶してのう…』
『2台ともカーブでスピンして終わったらしいんじゃ』
『まっ、まさか…あのRX-7がスミ子じゃったとはのう…』
あもんは訳が分からなくなり無言になった
“何故?”と“どうして?”が頭を混乱させていた
真夏の気持ち良い風に当ってみたが
徐々に手が震え始めた
そしてカーラジオからの曲がやたらと気になった
『京ちゃん!ラジオ消してや!』
あもんは嫌な予感がした…
あもんと京ちゃんはようやく、病院に着いた
病院の待合室ではコージが待っていた
『おい!コージ!スミ子はどうなんや!』
あもんは興奮を抑えきれずコージに迫った
『落ち着けや!命に別状はないけん、心配するなや』
肩をなでおろしたあもんはコージの隣に座った
コージは目を伏せたまま深い声で言った
『あもん、表、出ろや』
あもんはコージを睨み答えた
『おう、ワシもそう思いよった』
『京ちゃんはここで待っといてくれ』
あもんとコージは病院の駐車場で対峙した
しばらく睨みあった後コージが口を開いた
『お前!なんでスミ子の傍にいてやらんのんや!』
あもんはコージの質問に質問で返した
『はぁ、お前こそ、まだスミ子に惚れとんじゃないんか?』
お互いの質問に二人は返答をしなかった
そして二人は会話を交わすことは無かった
二人が交わしたのは“拳”であった
二人が表に出たのは拳を交わす為だったからだ
二人の拳が二人の身体に沈んでいった
意気込むことなく怒鳴ることなくそれが続いていった
さすがに元暴走族のリーダーであるコージの拳は重く痛かった
だけどあもんはその痛みが欲しかった
多分、コージもあもんと同じ心境だったであろう
二人はその痛みで自分の犯した罪を償いたかったのだ
不器用な男であるあもんとコージはそうするしかなった
全てを知った二人が行わなければならないこと
それは“殴られる痛み”によって償うことだった
そうすることによってスミ子が幸せになる訳ではないであろう
でも、スミ子を幸せにする前に
自分の犯した罪を償うのが
あもんとコージの出した答えだったのだ
コージの拳は容赦なくあもんの身体に埋まっていった
応援団で空手の型を習ったあもんであったが
それは所詮、型のみであった
コージは拳で暴走族の天辺に上がった男である
間違いなくコージの拳はあもんを勝る
容赦なくコージの拳は続いた
あもんは倒れて立ちあがり、倒れて立ちあがった
でも、あもんにはまだまだ足りない
スミ子に対する償いはこれぐらいの痛さではモノ足りない
あおんはもっともっと痛みが欲しかったのだ
やがてあもんは
立ちあがるサウンドバックのようになっていった…
先に動けなくなったのはやはり、あもんだった
拳をおさめたコージは何も言わずその場を去った
あもんは曇る夜空を見上げた
悔しさのあまり涙を流し
『オレってろくなもんじゃねぇな』
『なぁ、スミ子…』
と呟いた
続く