セブンの女 14 | あもん ザ・ワールド

あもん ザ・ワールド

君へと届け 元気玉

この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1994年から1995年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします


『京ちゃん!それどしたん?』
キグナス石油に着いたあもんは驚きながら言った
『えへへ~買うたんじゃ、あっくん見てたらワシも欲しうなったんじゃ』
『車は飽きるけん、やっぱバイクじゃの~』
『じゃけど、NSRって京ちゃんらしいわ』

あもんが九州ソロツーリングに行っている間
京ちゃんはバイクの免許を取りに行っていた
あもんを驚かす為にあもんには言わなかったらしい
元暴走族で現在50ccのレースをしている京ちゃんは
流石にバイクの扱いは慣れており
すんなりと免許を取ることができた
『本当にバイク乗るの初めてですか?』と聞かれたらしいが
もちろん、初めてでは無い
無免許で乗っていたのだから…

『あっくん、このバイクぶち速いで!昨日バイパスでメーター振り切ったわ』
何事にも“速さ”を求めてしまう京ちゃんが選んだのはHONDA NSR250
純粋なレーサーレプリカでヤマハのTZRとスズキのRGVと同じく
2ストローク技術開発の最先端のバイクであった
この時、時代はあもんのXJRのようなネーキッドブームであり
レーサーレプリカの人気は下火となっていた
しかしレースに興味がある京ちゃんは迷わずこのバイクに決めた
このバイクで“園芸”に攻めに行っているみたいだった
“園芸”とは松永にある峠でありバイクの走り屋が多く通っている所である
車で攻めるならグリーンライン、バイクで攻めるなら園芸と福山では走り屋のメッカとなっていた
京ちゃんはレーサーレプリカの皮スーツを纏い膝を擦りながら園芸のコーナーを攻めていた


『でも、よう金があったの~』
あもんは京ちゃんに言った
“速さ”を求める京ちゃんは若干19歳で子供を作り結婚をした
今は松永の隣の尾道にコーポを借り新婚生活もしていた
高卒である京ちゃんの稼ぐ金は多い方では無かったのである
『いや~奥さんの親父が尾道で事業しよる人での~』
『結婚祝いに生活道具一式くれたし、コーポも親父さんのモノで安くしてくれたんじゃ』
『二人とも若いけん、親がようしてくれるんじゃ』
『結婚してもやっぱ、楽しみはなきゃいけん、のう!あっくん』

京ちゃんの奥さんであるルミ子も同意見だったらしい
あもんは本性は分からないがルミ子は結婚をして子供が二人できた気分なのであろう
多分、ルミ子は母性本能が強い女性だったのだと思う

あもんがつき合っているスミ子も同じであった
あもんがツーリングに行くと言えば一度も止めたことも無かったし
10日間ものロングツーリングも『事故だけはしちゃいけんよ』としか言わなかった
あもんはそんなスミ子が好きだった
自分の思うことは自由にさせてくれたし
あもんが寂しい時はふくよかな胸で包んでくれた
唯一ワガママを言うのはスミ子が寂しくなった時だ
何処かに連れて行けと言う訳ではなく
そっと抱きしめてあげればスミ子は満足であった
あもんは元来、無口で不器用な男だったので
女性が喜ぶ為にアレよコレよと演出するのは苦手であった
スミ子はクリスマスや誕生日やましてや付き合って何カ月記念日なんかの行事には一切関心が無く
あもんにとって重荷にならずとても心地よい付き合いをしていたのだ


あもん ザ・ワールド


あもん ザ・ワールド





『あっくん!ツーリングに行こうで!』
『おうッ』

あもんと京ちゃんはツーリングに出かけた
ツーリングと言ってもすぐ近くにある園芸である
園芸に着くや否や京ちゃんはかっ飛び始めた
NSRに乗った京ちゃんは水を得た魚のように走っていた
あもんのXJRは400ccでNSRより排気量は大きかったが
この様な峠では排気量の大きさは関係が無かった
排気量よりかトルクが重要であり
コーナー立ち上がりで時間を短縮する
そのバイクのパワーバンドを有効に使うのが峠を攻める鍵となって
トルクの谷に落ちないスロットルテクが必要である
コーナーに差し掛かる直前のブレーキングとシフトダウン
コーナーリングでの遠心力の有効活用
そしてコーナーの先が見えたら一気にフルスロットル
上りに下り、タイトコーナーにヘアピン
それらの動作をコーナーごとで展開させていく
未知への期待なのか先への恐怖なのか分からないが全身がピリピリしてきた
次々に襲ってくるコーナーに鼓動が激しく騒ぎ始める
この感触が堪らなく気持ちいい


あもんは瞬く間に京ちゃんに置いていかれた
コーナーリング毎に他の走り屋に抜かれまくった
慣れない峠攻めにあもんは疲れを感じバイクを止めた
それからは他の走り屋を傍観することに徹したのだ
すると重低音のマフラー音が峠に響いた
この音はバイクではない車である
やがてタイヤを鳴らしながら走り去ったのはRX-7 であった
そう、あの赤いRX-7
不意にあもんはRX-7が目の前を去る時に運転席を見た
運転者もふと振り返りあもんと目があった
あもんが見た運転者は長い髪にサングラスをかけていた
そう、RX-7の運転者は女性だったのだ
その時あもんはまばたきをするのを忘れていた
微かにその女性はあもんを振り向き微笑んだような気がした


あもんがRX-7を見終わった後、再び車のマフラー音が響き始めた
近づいたマフラー音はAE86であった
『お~い!コージ!』あもんは手を振った
あもんに気付いたコージは急ブレーキでAE86を止めた
『おお!あっくん!今、セブン見んかったか?』
『見た見た!あの時のセブンじゃわ!』
『コージ!セブンを運転してたの女だったで』
『そうなんじゃ!ワシもさっき偶然セブンに乗りこむ女を見つけての~』
『向こうもワシに気付いて逃げるように去っていったんじゃ』
『ワシも焦って思わず追いかけてしもうた』
『アイツもやけに逃げ回るけん、ワシもおもしろうなって』
『普段は通らん園芸に辿り着いたわけじゃ』
『しっかし、アイツはこの街に詳しいで!道をよう知っとる!』
『ワシはこの街のモン、ようけ知っとるけど誰なんじゃろうか?』
『あっくん、顔見たか?』
『あぁ~よう見えんかったけど、長い髪にサングラスかけとった』
『ふ~ん、福大生じゃろうか?』



そこにNSRに乗った京ちゃんが帰って来た
『お~コージ!さっきあのRX-7とすれ違ったで!』
『運転しとったのは女じゃった!』
『しかもあの女、ワシに微笑んでピースサインしよったわ!』
『なに!京ちゃん、あの女知っとるんか!』
『いや、よう知らん』
『でも、ワシを知っとるいうたらこの街のもんじゃの~』



この街ではこのRX-7が噂になり始めていた
この街で見かけたという情報が多く
どうやらRX-7を運転しているのはこの街の住民であるらしい
しかし誰もそれが誰なのかは知らなかった
RX-7は峠を攻めるのみで他の走り屋との交流を持たなかったからだ
昼夜問わず突如現れては峠を荒らし去っていく
そんな理由からRX-7は地元では伝説に扱う若者も出始めたのだ
峠では多くの伝説が生まれ次世代に語り継がれていく







続く