渓にあるもの | あもん ザ・ワールド

あもん ザ・ワールド

君へと届け 元気玉

1995年夏に北海道で羅臼岳による登山デビューをしたあもんはウズウズしていた

「また、山に登りたい」

山には魔物が棲んでいる

人を虜にする魔物が棲んでいる

まんまと山に魅了されたあもんは西日本第二の高峰である「剣山」を目指す

剣山は人によって「つるぎさん」とか「けんざん」とか言われている

別名は太郎岌(たろうぎゅう)とも呼ばれ、徳島県に位置する標高1955mの山だ

北海道から帰ってきたあもんはこう悟った

「バイクはオフ車がいい」

まんまとバイク屋の作戦に引っかかったようにTS125Rを乗り始めた

初であるこの新しい相棒との長旅

これで四国を快適に走られると思った

「四国の三桁国道は手ごわい!特に400番台がヤバい」

そんなバイク仲間での教訓のとおり四国の400番台はヤバい

二年前に体験した400ccネーキッドでの走行は恐怖体験だった

しかし、今回は国道438号線を快適に走る

さすがオフ車 軽い軽い軽い

道はドンドン狭くなりクネクネに標高を上げる

気温が下ってきた もう11月だったから

そんな寒さは若者には関係ねぇ

時折現れる紅葉に感激しつつ剣山登山口付近にあるキャンプ場に向かった

日も暮れ始めようやくキャンプ場に近づいた

そしてクネクネカーブの影に差し掛かった時

僕はスローモーションを体験した

道路の影の部分だけが凍結しており

コケたのだ…

バイクという乗り物はたとえオフ車であろうと

凍結道路にはなす術も無い

自然に逆らわず、ただ滑っていくだけだった

しかしバイクという乗り物は雨や氷の道路でコケた時は意外とダメージは少ない

バイクは無傷だった

この新しい相棒との初である転倒劇に趣を感じたあもんは記念撮影

あまり経験することの無い転倒劇は貴重な経験だ

多分、体のどこかを打っているだろう しかし

そんな痛さは若者には関係ねぇ

興奮冷め止まぬうちにキャンプイン

寒さを倍増させる雨が降ってきたので早めに就寝

次の日も天気さんはご機嫌ナナメ

バイクに滴る雫のつらら化にちょっと感動

この日は天気さんには逆らわず、三角テントの屋根裏ばかり見ていた

次の日、運は我に味方した

迷わず登山開始

平日のため他の登山客はまばらだった

「きつかった」としか記憶がない登山道を登り、いざ頂上へ

草原が広がる頂上の眺めは感無量で

青色と緑色しかない世界が広がっていた

あまりにも気分がいいので剣山と隣接する次郎岌(じろうぎゅう)まで縦走

せっかく天気さんが機嫌がいいのなら

思いっきり天気さんと遊んでもらおう

頂上での天気さんとの遊びの休憩中

山と山との間にある細く窪んだところ「渓」がやたらと気になった

そしてここに来る途中にあった「一宇渓」のことを思い出した

 

『島国からの贈物』

「渓にあるもの」

1995日 1211徳島県一宇村一宇渓にて

 

季節を感じない静かな風があり

 

涼を求める人間を黙らせる空気が匂っている

 

ただでは行かせないぞとういような蛇道が続くから

 

到達した時の歓喜がさらに黙らせる

 

その行く末にはいつも家族があり

 

和みの音色がささやかで心地好い

 

人は皆 人ごみの暑さと臭さとうるささに耐え切れなくなった時

自然と渓に向かっているのである

 

 

静・涼・歓・和 

此処ニ有リ