「はー、うまかった」
『しょーちゃん、もうちょっと栄養バランスとかちゃんと考えた方がいいよ』
可愛い顔して言うことはきっちり言うアイツが、教えてくれたオススメの店。
美味かったよって、ちゃんと行ったよって話したら、きっと笑ってくれる。
そう思うと、アイツが待つスタジオに向かう足取りも自然と軽くなるんだ。
今日は、5人が久々に揃う、から……
アイツがあの人を見る柔らかい眼差しは、嫌いじゃない。
その眼差しを向けられるのが、俺だったら……と思わずにはいられないけれど。
「あ!しょーちゃん!おはよ!今日もしょーちゃんが一番乗りだね!」
「はよ」
満開の笑顔に迎えられて、それだけで心が弾む。
相葉くんの足元にいたワンコが、俺を見てふい、と向きを変えてスタジオの奥に消えていった。
「もー、リンはいつまで経っても皆に懐かないよね」
「またおやつ持ってきたんだけどなぁ」
「ほんと?喜ぶよ、あいつ。貰うものだけはしっかり貰ってんのにね。ちゃっかりしててごめんね?」
くふふふふって笑う君に、そうだなって返して笑い合う。
ま、いいんだ。邪魔者はいない方がいいから。
「教えて貰った飯屋、行ってきた。超美味かったよ」
「あ、ほんと?よかった」
くふふって笑う細く見える腕を掴んで、抱きしめる。
「……しょ……」
途端に変わる色。
君の気持ちを知っていて、君の優しさを利用している俺は、狡い。
「今日、待ってる」
彼に会った日は、君の心が揺れるのを知ってるから。
君が断れないって知ってるから。
「……うん……」
腕の中で身を竦めて、小さくそう返事をした君に素早くキスをしてから腕を離した。
「しょーちゃん……」
「続きは夜のお楽しみ~」
「もう!エロいよ!」
嫌いじゃないんだ。
このどっちつかずな関係も。
その時だけでも、君が俺のモノになってくれるなら。
その時だけでも、君が満ち足りた笑顔を見せてくれるなら。
「おはよー」
「あ!おーちゃん、今日は早いじゃん!」
君の声が半オクターブ、上がる。
「今日は早く目が覚めちゃったんだよ。おぉー、翔くんもう来てんのか」
「智くん、おはよ」
ふにゃんと笑う彼は、俺の尊敬する仲間で。
だけど、彼の想いが相葉くんにないことも知っているから……
相葉くんが智くんに見せる笑顔をぼんやりと眺めながら、いつの間にか足元に来て俺を見上げるワンコにおやつをあげて、わしわしと頭を撫でた。
「お前が懐いたら、お前のご主人も懐いてくれんのかな?」
ワンコは、なに馬鹿な事言ってんの?とでも言いたそうな顔で首を傾げて俺を見てから、くるりと向きを変えて相葉くんの足元へ走っていく。
「わぁ!ちょっと!リン!危ないよ!」
ワンコに驚いた相葉くんが、手に持っていた楽譜を飛ばした。
彼の腕に抱きとめられて、顔を赤らめる君に、俺の中で一瞬だけ黒い炎が揺らめくけれど。
「手伝うよ」
「ありがと、しょーちゃん」
床の上に散らばる楽譜の真ん中に立つ、意外と男らしい背中にそっと触れてから顔を覗き込む。
そうしたら、困ったような笑顔で君は俺に笑うんだ。
相葉くん、俺さ……
なんて思われたっていいんだ。
君が笑顔で俺を見てくれるなら。
一瞬だけでも、俺の腕の中に居てくれるんなら。
俺はいつまでもここで待ってるよ。
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