「何してんだよ、少年」
「うっせぇな、エロじじい」
「あのな、俺はエロでもジジイでもねぇっての」
「名前で呼んでほしいなら、お前も名前で呼びやがれ」
開店と同時に現れて、カウンターの端っこに陣取った松本さんが、二宮さんにあーでもないこーでもないって言われながらカクテルを作る俺を見て、楽しそうに笑う。
「それ、飲めんの?」
「飲めんだろ!変なもん入ってねぇし」
「くっそ不味そうだけど」
「うっせぇな。安心しろ、お前のじゃねぇから」
「なぁ、かずー。もう店閉めちゃおうよー。どうせもうそんなにお客さん来そうにないじゃん」
松本さんの隣にだらしなく腰掛けて、智くんが二宮さんに話しかける。
「智!俺は『かず』じゃなくて、『店長』な!それか、翔ちゃんみたく『二宮さん』って呼べ」
「いいじゃん、そんなのどうでも。かずはかずだろ」
「さーとーしー!」
「なぁ、閉めちゃおうよー。全然来ないじゃん、誰も」
口を尖らせてカウンターのテーブルを叩きながら言う智くんの鼻を二宮さんがつまんで、智くんが『痛え!』って飛び上がった。
「うるさいなぁ、智は。まだ、大事な客が来てないんだよ」
二宮さんの言葉に、全員が店のドアへ視線を動かす。
そういえば、今日は相葉さんからなんの連絡もなかったな……なんて思って一瞬目を離したら、グラスに移すはずのカクテルが、グラスの外を伝っていた。
「わ、やべ!」
「あ!ちょっと翔ちゃん、なにしてんのよ!」
もー、本当に不器用なんだから!って、怒りながら笑って、二宮さんがダスターをぽいって投げてよこした。
「……すんません……」
ダスターでカウンターを拭いていたら、ドアの開く音がして、外の冷たい空気が入り込む。
「いらっしゃいませぇ~」
「智!もっと元気よく言え!てか、立て!」
「やっと来たな」
「あれ、遅かった?」
その声だけで、俺の心臓が脈を打つペースを上げる。
近づいてくる足音を耳だけで聞いて、綺麗な青い色になったグラスの中を見つめていた。
「櫻井くんも、カウンターに立つようになったの?」
「……今日から」
ぽつりと呟いてからちらりと見上げれば、俺を見てふわりと笑うから、今度はグラスをひっくり返しそうになって慌てて両手でグラスを押さえた。
「へぇ。じゃあ、何か作ってもらおうかな」
「やめとけって、すげーの出てくんぞ」
「うっせぇ、エロじじい」
じろりと松本さんを睨んだのに、その隣で笑う相葉さんの笑顔に目を奪われる。
「よし、今日はもう閉めよ!」
勢いよく智くんが立ち上がって、二宮さんが『しょうがねぇな』って笑いながら、智くんの頭をぺちんと叩いて立ち上がった。
「どうせ大晦日は開店休業状態だもんな、毎年」
そういった松本さんをドアのところで振り返って、睨みつけながら二宮さんが叫ぶ。
「もう店閉めちゃったから、俺は働かねぇぞ!お前らも時給なし!んで、メシは各自な!」
「「ええええぇーーーー!!!!!」」
俺と智くんの声がハモる。
時給は仕方ないけど、メシは困る!
そんな俺たちを見て、二宮さんと松本さんと相葉さんが、楽しそうに声を上げて笑った。