「今日からお世話になります。二宮と申します。よろしくお願い致します」
「担当の大野です。よろしくね、二宮くん」
慣れないスーツに落ち着かない気分で頭を下げて、ふにゃりと笑った『大野さん』が差し出した手をそっと握る。
「二宮くんは、なんでここでバイトしようと思ったの?」
食器やカトラリーの在庫はここねって、いろんな引き出しを開けたり閉めたりしながら、大野さんが言う。
「えっと……人間観察のため、ですかね」
そう答えた俺を、きょとんとした顔で見つめる。
「……え?」
いやいや、反応遅ぇだろって心の中でツッコミながらニッコリと笑う。
「人間観察したいな、と思ったからです」
時給も魅力だけど、バンケットのバイトはいろんな人が来るだろうから、面白そうだなって思って応募した。
演出家を目指すためには、いろんな人間を観察した方がいいって思ってたから。
「……人間観察……」
俺の言葉を繰り返して、んははははって笑う。
「それ、面接の時に言ってないよね?」
「言うわけないじゃないですか」
「キミ、面白いね」
そう言って笑った顔が、歳上のくせに可愛いなぁって思ったのが大野さんを意識した最初。
正直、このバイトはすぐやめようと思ってた。
だって、華やかな場所なんて好きじゃないし。
料理の説明を覚えたり、オジサンたちを適当にあしらうのは大して苦でもないけど、飲み物がたくさん乗ったトレイは重すぎるし、数時間立ちっぱなしなんて、足が疲れちゃうもん。
なのに、ミーテイングが始まった瞬間に大野さんの纏う空気が変わって……
その姿に、立ち居振る舞いに、俺はあっという間に魅了されたんだ。
もっと、見ていたい。
この人をもっと、近くで。
まさか自分が、自分以外の誰かにこんなに固執するなんて思ってもみなかった。
「ふふっ」
「……なんだよ」
「なんでもない」
口を尖らせたアナタが、綺麗な指でグラスを撫でる。
「10年前を思い出してただけ」
グラスをテーブルに置いたら、氷がカラン、と音を立てた。