『ぶるるるるる』
ぐいぐい、と首を押されて目が覚める。
ストームの鼻先がショウの首のあたりを押していた。
「あれ……」
むくりと起き上がって周りを見渡せば、焚き火はとうに消えて、鳥たちが朝の支度を始めている。
何か、大事なことを忘れているような気がして、ショウは首を掻いた。
「あぁ、やばい!薬!」
焚き火のあとをきちんと始末して、慌ててストームに飛び乗った。
「急げ、ストーム!」
脚を入れて、ストームを走らせる。
静かな森の中に蹄の音だけがこだまして、風がショウの肩にかけたケープを揺らした。
少し休むつもりが、しっかり寝てしまったらしい。
夜の森には入るなと言われていたけれど、何事もなかったじゃないか、とショウは口元を緩めた。
大体、大ばぁばは過保護すぎるんだ。
あっという間に森を抜けて、目的の家にたどり着く。
「あぁ、ショウ!待ってたよ」
水桶を持った小柄な男が、ショウを見つけて笑顔になる。
「久しぶり、サトシ。これ、じぃ様の薬な」
ショウから薬の入った小袋を大切そうに受けとると、サトシはショウを家の中に招き入れた。
焼きたてのパンのいい匂いに、ショウの腹の虫がぐぅ、と音を立てて、サトシが『早く食べなよ』と笑顔でパンの皿をショウに渡した。
「一晩中駆けてきたの?大雨のせいで、だいぶ遠回りしなきゃならなかったんじゃない?」
「あぁ……森を抜けてきた」
「……え……」
サトシが驚いた顔でショウを見つめる。
「なんもなかったぜ?」
「本当に?」
眉根を寄せて睨むようにこちらを伺うサトシに、おどけた顔をしてみせてからパンにかぶりつく。
「……あれ……」
……なにも、なかった?
なにか、忘れているような気がする。
「あの森にはニュンペーがいるって……ショウ、精気を吸い取られてるんじゃないの?」
「やめろよ、変な事言うの」
そう言えば、誰かに会ったような気がする。
サトシの青い瞳が、心配そうにショウの瞳を覗き込む。
「なんもないって、ホントに。狼にすら会わなかったんだから」
「ホントに、気をつけないとダメだよ?」
一瞬、サトシの青い瞳が緑色に見えて、心臓がドクリと嫌な音を立てる。
緑色の瞳。
どこかで会った?
……どこで……?
唇を触りながら黙り込んだショウを 少し離れたところから、サトシが不安そうに見つめていた。