「潤くん、久しぶり。元気?」
『うん、元気!ご飯もたくさん食べてるよ!』
「今日はカレーライスでしょ?」
『うん!にぃがね、昼もカレーだったのに!って言ってたけど、僕はお昼も夜もカレーでいいの。カレー大好きなの。雅紀せんせーは?カレー好き?』
「うん。僕もカレー好きだよ」
『さっきね、にぃが僕のトマト食べちゃったんだよ。僕ね、赤いのと黄色いの両方好きなの。にぃはね、トマトだぁーい好きなんだって。雅紀せんせーはトマトも好き?』
「……うん、そうだね……トマトも好き、だよ」
潤くんの後ろで、トマト大好きだぞーって言ってる櫻井くんの声が聞こえて、またココロがぎゅうってした。
『雅紀せんせーはさ、ご飯作れる?』
突然、小さな声で言われて、電話を当てていない方の耳を手で塞いだ。
「え?」
『にぃはさ、ご飯作れないんだよ。チンするのとか、お湯入れるのはできるんだけどね?
だからさ、にぃのお嫁さんになる人はちゃんとご飯が作れる人じゃないとさ……にぃ、ご飯食べられなくて困っちゃうからさ……』
潤くんの言葉が、次々とココロの柔らかいところにぶつかって、その度にちくちくと痛む。
だって、僕は……
『ねぇねぇ、今度のおはなし会、いつ?』
「え?あぁ、えっとね……1月27日かな」
『わかった!にぃのお誕生日のちょっとあとだ!じゃあね、雅紀せんせー!ばいばーい!』
「あ、うん……またね」
コロコロと変わる話題に驚いていたら、満足したらしい潤くんが電話口からいなくなった。
今日は、僕もカレーにしよう。
めんどくさいから、レトルトのでいいや。
カートを押して歩き出す。
無音になったスマホをまだ耳に当てたままでいたら、ガサガサと音がして、少し慌てた櫻井くんの声が聞こえた。
『もしもし?あ!潤!ちゃんと噛めよ!』
「もしもし?櫻井くん?」
『あいつ、なんか変な事言ってなかった?』
「え?」
『話題もあっちこっち飛ぶしさ……付き合ってくれて、ありがとう』
「にぃはご飯作れないって言ってたよ」
『あー、うん。何回かチャレンジは、した』
「チャレンジはしたんだ?」
『諸々の状況を分析した結果、危険だと判断致しました』
突然、真面目な口調になる櫻井くんに吹き出した。
『あ、やばい。潤が寝そう。おーい、潤!まだ飯終わってねぇぞ』
「櫻井くん、潤くんのことしてあげて」
『うん、ありがとう。それじゃ、また明日』
「うん。また明日」
『また』って、自然に言える自分に口元が緩んで、スマホをポケットに突っ込んでから、くるりとカートの向きを変えた。
「これも、買おう」
さっき入れた赤いミニトマトのパックの横に、黄色いミニトマトのパックをそっと置いた。