電車を降りて、雪の積もった歩道をゆっくり歩いて図書館に向かう。
向こうから、見慣れた赤いコートが近づいてくるのに気がついて、足を止めた。
「あ!」
寒さのせいか、眠いのか……しかめっ面だったのに、僕を見つけた瞬間に笑顔になって手を振るキミに、僕もつられて笑顔になる。
「相葉さ……っ」
突然、視界からその笑顔が消えて、ゴンって鈍い音が響く。
「おはよう。大丈夫?」
「大丈夫……けど、冷てぇ」
差し出した手につかまって、いってぇーって呟きながら立ち上がったキミの服についた雪を払い落として、顔を覗き込んだ。
恥ずかしそうに笑うその顔に、思わず触れたくなって、慌てて手を引っ込めた。
「早く暖房入れようね。ストーブもつけてあげるね。とりあえず、早くそれ乾かさないと風邪ひいちゃう……」
図書館のドアを開けて暖房のスイッチを入れて、ロッカールームのストーブのスイッチも入れて、もう一度外へ戻る。
足を痛そうに引きずってゆっくりと歩いてくる櫻井くんの腕を掴んで、ストーブの前に座らせた。
「怪我、してない?」
「あー、たぶん打撲」
裾も膝もびっしょりな櫻井くんが、裾をまくろうとして手を止めた。
「ダメだ。まくれない」
「脱ぐしかないね」
情けない声と顔がなんだか可愛くて、もっと困らせたくなって、そう言った。
「だ、だいじょぶ!そんな痛くねぇし」
僕の言葉に弾かれるように顔を上げて、両手をぶんぶん顔の前で振りながら、慌ててるキミが本当に可愛くて。
もっとそんな顔が見たいとか、そう言ったらキミはどう思うんだろう。
「すごい音したよ?さっき。ほら、早く見せて。
なんなら、脱がせてあげようか?」
「はぁっ?!ばっ……ばっかじゃねえのっ?!」
「早くしないと誰か来ちゃうよ」
「……自分で出来るし」
「そう?じゃあ、僕は向こうに行ってるね」
ねぇ、櫻井くん
キミが初めてなんだよ
僕に思いっきりぶつかってきた人
僕に思いっきり笑ってくれる人
「……あのさ……」
カチャリとベルトを外す音がして、動きが止まる。
こんな時だけど
こんな時だから
今じゃなきゃ、言えないから
「ありがと」
「お……おぅ……」
振り返った僕を見て、驚いた顔でそう言ってから、櫻井くんは、ふにゃって眉毛を下げて笑った。