「嫌なこと思い出させてごめん」
「うううん。その時は怖かったけど、もう平気」
雅紀の手が俺のTシャツの裾を掴んだ。
まだ少し、震えている手。
男にも女にも、いい思い出はないのか……そりゃ、恋愛が出来ないってなってもおかしくはないか。
そんな雅紀を護ってやりたいって思うのは、取り立てて変な感情って訳じゃねぇよな?
大野くんだって、きっとそうだ。
父親みたいな、兄貴みたいな、そんな気持ち……だろ?
「散歩、行くんだろ?」
「……うん」
こつんって、おでこを俺の肩にくっつけた雅紀の髪の毛をそっと撫でる。
雅紀の手がTシャツの裾から離れて、俺の背中に移動した。
「俺、やっぱり……しょーちゃんがいい」
「そう言ってもらえるのは嬉しいけどさ……焦っても仕方ないからさ……」
いろんなことをゆっくり考えていこうって俺の言葉に、おでこをくっつけたまま、くふふふふふって笑う。
「しょーちゃん、マジメ!」
この状況って『すえぜん』じゃないの?って、俺を見上げて笑う。
「馬鹿だろ!おまえ!」
ぺちって頭を叩いたら、あひゃひゃ!って笑って、ベッドから飛び降りた。
「しょーちゃん!早くお散歩行こ!」
パジャマがわりのTシャツと短パンの上に、パーカーを羽織って雅紀が笑う。
「おう」
俺もベッドから降りて、パーカーを羽織る。
俺のさっきのドキドキは何だったんだ!って思いながらも、楽しそうな笑顔にちょっとほっとした。
「わ、涼しいな!」
ドアを開けたら、思いの外、気温が低くて驚いた。
「すぐ暑くなっちゃうけどね」
いこいこ!って歩き出した地面の草に、朝露が光る。
「足元、滑るぞ」
「うん……?」
差し出した俺の手を見て、首をかしげてから、ふわっと笑う。
無言のまま、そっと重ねられた手をぎゅって握って、雅紀が指さす方に並んで歩き始めた。