「やっぱり、引っ越そう、かな……」
ドアを開けた瞬間、フラッシュバックする記憶に泣きたくなる。
しょーちゃんの記憶なんて、要らないのに……
俺の身体の奥底に沈められた帝王の牙。
罠にかけたつもりで罠にかかったのは、間違いなく、俺。
あそこにも、ここにも。
あの日の記憶が染み付いてる。
こんな部屋にいられない。
「掃除……しなきゃ」
夜だから、掃除機はやめておこう。
リビングにも寝室にも、しょーちゃんのにおいがするような気がして……
窓を開けて床も壁も拭けるところは全部、ゴシゴシ拭いた。
ここで、キスした。
ここで、受け入れた。
そんな記憶、いらないのに。
「……っ……」
ぽたり、手の上に滴がこぼれる。
ぽたり、床の上にも。
それでも、ひたすらゴシゴシ、床をこすった。
「……ひどい顔……」
鏡に写った自分に苦笑する。
あぁ……ここも、ダメだ……
紅い帝王が後ろで笑っている気がする。
ごしごし、鏡を拭く。
汗だくになった服を洗濯機に放り込んで、熱いシャワーを浴びようとしてまた、しょーちゃんの残像に動けなくなる。
ブラシを取って、ゴシゴシ、洗う。
床も鏡も浴槽も……
ぽたぽた、涙がこぼれる。
なんで俺、泣いてんの?
なんで、俺、こんなことしてんの?
ばかみたい。
ばかみたい……
熱いシャワーを浴びて、ビールを持ってベランダに出た。
しょーちゃん、まだ走り回ってるのかな……
やっぱり想うのはしょーちゃんのことばっかりで…
「話したいことって、なんだろ……」
手すりにもたれて空を見上げた。