「...あれ...」
相葉さんの診察を終えて、研究室に戻ると、誰もいなかった。
インカムのスイッチを入れても、反応がない。
なんだろ、なんなんだろ...
胸の奥がざわざわ、した。
自分のデスクに座って、相葉さんのデータを確認する。
「あれ、智くんは、まだ?」
臓器培養スペースから出てきた櫻井さんが、俺に声をかけた。
「あ、俺...今、相葉さんの診察終わって帰ってきたところなんですけど...おーのさん、どっかに出かけてるんですか?」
「あぁ...所長のところに行くって、言ってた、けど...」
「...なにか…ありました?」
そう言えば、さっきのおーのさんの様子がいつもと違ったけど…
「雅紀が...相葉くんが、マサキのことを覚えているかって、聞かれたんだけど、二宮は何か知ってるか?」
「...いえ...」
相葉さんがマサキを覚えてるかって...それが何か問題なんだろうか...
首をかしげた俺に、脳外のヘルプに呼ばれたから行ってくるって、言い残して、櫻井さんは出ていった。
画面に広がる数字を見つめながら、考える。
もし、問題があるとすれば、マサキの方、だ。
今のまま、相葉さんの記憶を無くしたままだとしても...この、閉鎖された研究所の中で、一生を過ごさせるのか?
もし、もしも、世間がクローンの存在に気がついたら...?
新しく立ち上がったウインドウに、近々、移植のオペをするという通知が表示された。
「...まさか、ね...」
『心臓を摘出後、廃棄』
画面に浮かぶ字を指でなぞった。