例えば、相葉君と俺の最近の様子を誰かが見ていたとして
「この二人の関係はどう見える?」
と問われたら
「付き合ってんでしょ?」
くらいには思ってもらえるんじゃないかなと思っている。ただ、あくまでも他者が見た場合のみ。自分達の中でこの関係について話した事は一度もない。抱きしめられキスをし、放課後の部活を毎日待ち共に下校しようと言われても。
「櫻井くんは嫌?」
質問に質問で返されて少しだけ戸惑った。嫌かと聞かれればそれは全く嫌ではなく、むしろ有難いというか。相葉君の部活が終わるまでの時間、静かな学校の図書室で過ごすのだって悪くない。
「俺は別に。だけど相葉君は部活の奴らと帰ったりとかあるんじゃないかなって」
今言わなくても相葉君がそうしたいと思った時にそうすれば良いだけの話なんだろうけど、自分を選んで欲しいという思いが心のどこかにあったんだと思う。
「でも一緒に帰りたいな」
「だからそれ俺でいいの?って話なんだけど」
「なんで?オレは櫻井くんがいいんだよ?」
だから何故?何故俺がいい?その理由を聞きたいのに、自分が望む答えが返ってこないことが怖くて聞けない俺は意気地が悪いんだと思った。
「だって好きな人とずっと一緒にいたいって思うのって普通じゃない?オレはそうみたい。できる限り櫻井くんと一緒にいたいって思うし、それこそ四六時中チューしてたいって思うんだけどな」
言ったそばからキスをしてくる相葉君は、自分が何を言っているのか分かっているんだろうか。
「……えっと……、ちょっとごめん」
「なに?」
「あ、あのさ。確認なんだけど……相葉君の好きな人って……俺だったりする?」
今のこの会話の流れでキスをされ、それで違うと言われたら立ち直ることはしばらく出来ないだろう。だってどんな角度から見てもその言葉も態度もその全部が相葉君の好きな人は俺なんだと言っている。
「えっ?」
「あ、え?いや、嘘嘘!ごめん、違う……よな」
「いや、そうじゃなくて。あー、まじか。びっくりした……」
驚く相葉君を見て、自分がどれだけ思い上がっていたのかとものすごく恥ずかしくなったのと同時に落ち込みが半端じゃない。今すぐにここから消えてしまいたい。だけど相葉君だって悪い。こんなのは思わせぶりだと、泣きたくなった。
「まさかとは思うけど、いま気付いた訳じゃないよね?」
「……え?」
「うわ……。嘘でしょ?」
「……は?」
「だってオレめちゃくちゃ出してたよね?ってチューとかしてんじゃん。そんなの恋人同士だからするんだよ?わかる?好きでもない人とそーゆー事したらダメだよってお母さんに教えてもらわなかった?!」
なんか俺説教されてるのかも。仕舞いには母親に教えてもらわなかったか?ときた。生憎母親とそんな会話をしたことは無い。だけど好きな人とだからするという極一般的常識はむしろ俺が君に言いたかった事なのに。
「……すいません、分かります」
だけど、惚れた弱みと言われ方はどうであれ相葉君の好きな人が自分であると知り一気に浮上した気持ちは浮かれまくっている。それをどうにか押さえ込もうと必死な俺は謎に謝罪の言葉を口にした。もはや何のことを謝っているのかも分からずに。
「だからね、部活の後も一緒に帰りたいんだよ?わかる?」
「はい、分かります。ご最も」
「でしょ?櫻井くんだって好きでもない人からのチューをあんなに何回も許さないでしょ?嫌だったら一回目の時にぶん殴るくらいの人だよね?」
ずっと見てきたんだから分かるんだよ?と相葉君は言うけれど、それはマジでこっちのセリフ。だけど、あんなにも見ていたのに相葉君が自分に好意を持ってくれているとは少しも気付かなかった。
「確かにそうだな。好きでもねぇ奴にされたらぶん殴ってるわ」
「そうでしょ?」
「はは!確かに違いねぇわ」
「そうだよ?櫻井くんって実はハッキリしてるんだから。好きな人とか苦手な人とかもわかりやすいし楽しい時とそうでも無い時だって分かるよ。上手にやり過ごす事も知ってる。だから直ぐにわかったんだよ、オレとのキスが嫌じゃないんだなって」
合ってる?と俺に向かって言う相葉君は、自分の発言が決して間違いでは無いことを分かって言っているんだと思った。
「素晴らしい観察力」
「当然。舐めないでよね、いつから好きだと思ってんの?」
「聞きたいな、それ。いつから?」
「あー、ごめん。いつからかっていうのは難しいけど、初恋ってやつなのは間違いないよ」
気付いた時には好きだったから明確には答えられない、と言う相葉君の言葉を疑うことだってできるのに。嘘みたいに心に入り込んで来るのは、この男のことを全面的に信頼しているから。
「なぁ」
「ん?」
「そんなに俺の事好きなの?」
今すぐに大声で叫びたいほどに興奮している。この寮に来た初日、この部屋の戸を開けることすら出来ずにいたのにこの展開を誰が想像できただろう。
「好きだよ」
改めて言うと照れるね、と言うけれどそれは俺のセリフ。そのくせに離れる事をせず俺の腰を抱く腕は照れている人の態度には思えないんだけど。
「なぁ」
「なに?何でも答えるよ?」
「お兄ちゃんだから、って相葉君よく言ってたけどアレは?」
聞きたいことは沢山ある。これはその中のひとつ。弟への延長線での行動だと思った事もひとつやふたつではなかった。それなら甘んじても良いのかもしれないとされるがままに甘えた俺もずるかったけど。
「だってそれなら何しても許されそうだったからね。好きな人には激甘でしょ?櫻井くんって」
それもお見通しだったとは。そして相葉君の言う通り。好きな人、特に相葉君にはここに来てからずっとそんな態度だったんだろう。
「つーか、俺もお兄ちゃんなんだけど……」
「ふふ、知ってる。だからこそ、甘えて欲しいオレの気持ち分かってくれたんでしょ?」
「マジか。すげぇな。全部合ってる」
必死に隠していたつもりだったことの全ては相葉君にはお見通しだったなんて本来なら悔しいはずなのに嘘みたいに全然。
「もうひとつ聞いてもいい?」
「何でもどうぞ?」
次に俺がする質問に、優しく耳元で話す柔らかな彼の声が驚く声になればいいなと思った。
「キスしていい?」
「……え?」
「それから、その先の事もしたいと思ってんだけど?」
初めて俺からキスをした。驚いて息を飲む相葉君の唇に。
「その先って……マジ?今?今していいの?」
「ばーか、学校だろこれから」
「いい!休む!櫻井くんとエッチなことする!」
「ははっ!夜に、だな」
きっと夜は長くなる。今までの俺の人生の中で一番。
「やだ!!休む!櫻井くんの気持ち変わったら困るもん!!」
「ばーか、変わんねぇよ。いつから好きだと思ってんだよ」
この学生寮と言う絶対にバレてはいけない場所で好きな人とやる興奮は、他のなによりも魅力的なものに思えた。
学生寮にて
終わり