続『1週間』 木曜日 | 櫻葉で相櫻な虹のブログ

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『…………魚、かな』




答える必要なんてなかったのかもしれない。むしろ誤魔化すべきだったんだと思う。このまま話を続ければそれだけ周りから詮索される事が増えるのは分かっていたのに。




『うん!魚ね!!焼き魚?それかお刺身もいいよね!』




それでも周りに聞かれてしまったこの相葉との会話を否定したくなかった。この男が俺に夕飯の準備をするような関係にあるんだと言うことを知られてしまっても別にいいとすら思った。




『刺身、良いな。貝も好きなんだよ、俺』



『そうなんだ!なら貝も買わなくちゃだね』



『マジ?やった』




大っぴらにそんな会話をしたつもりじゃない。ふたりだけが聞こえていれば良い程度の音量で話をしていたと思う。




『じゃ、後でね』




だけど彼女たちに限らず、恐らく聞き耳を立てられていたんだろう。普段ならこんなにも静まり返ってはいない。俺たちの声だけが聞こえるなんてことは通常なら考えられない。大っぴらにはしていないつもりではあったけど特別に小声なわけでもなかった俺たちの会話は、聞く気さえあれば誰にでも聞こえたんだと思う。





『櫻井さんっ!今のどーゆーことですか??相葉さんがご飯作るって、何でですかっっっ?』




普段こんな絡み方してこない女子達が相葉が去ってから速攻で問いただしてきたから、その後の言い訳がものすごく大変だったけど




『いや、それは……』




何事もなかったかのようにスルーされるよりはまだマシだったのかもしれない、と思うことにした。









明日で約束の1週間が終わる。告白の返事を待ってもらっていた先週の1週間から見れば信じられない関係になったと思う。そもそもで同性と付き合うという発想が無かった俺が彼氏と呼んでいいのか分からないけれど男との生活を楽しんでいる。




仕事が終わればどちらかの家で相葉が作ってくれる料理を食い少しだけ酒を飲む。それからバカみたいにキスをしまくって、狭いベッドで抱きしめられながら眠る。




「……おい」




ただ、これだけは良くない。


 

「んーー?」




ベッドに入り今日こそはちゃんと眠ろうと思うのに




「……ボタン、外すなよ」




器用なのか慣れなのか、片方の腕はしっかりと俺の事を抱きしめているくせにもう片方の手はパジャマのボタンを外しながら首筋まで吸うから堪らなくなる。




「だからさ、首はやめろって」



「なんで?」



「いや、なんでってわかんだろ?噂されまくってんだよ、コレ」




昨日の女子達の、一応俺に聞こえないようにしていたであろう会話は丸聞こえだった。聞こえる声に恥ずかしさだったりはあったけど、相手が相葉だからなのか正直そんな噂話も嫌な気持ちは全くしなかった。




「それは櫻井さんが悪いんじゃない?首筋に絆創膏なんて、キスマーク付いてますって宣言してるようなんなんだから。女の子のせいにしちゃダメだよ?」




そう言って、その痕がある場所を相葉の舌がいやらしく濡らす。




「やばい色してる」




昨日よりも色濃くなったその痕を見て不快な思いをする人はおそらく沢山いると思う。いい歳をした大人が付けられて喜んでいいものではない事も分かっている。人様に晒すなんて以ての外。少なくともそれくらいの常識はある。




「もう付けるなよ?」




だけど、分かっているけど、この俺の言葉を相葉はどう捉えるだろう。牽制に聞こえるだろうか。それともちゃんと煽りだと受け取ってくれるのだろうか。




「そうだね。絆創膏が少なくて済むようにはするよ」




首筋に絆創膏が沢山じゃさすがにね、と舌をずらし今度は鎖骨を吸う相葉が俺の意図を正確に汲み取ったと思ったのに。






「どこまで良い?」



「どこまで、とは?」



「キスもキスマークも嫌じゃないよね?」





この問いに真摯に答えるべきか、それとも誤魔化すべきか。相葉が言う「どこまで」というのが俺達のその先のことだということは分かっている。キスもキスマークも全く嫌ではない。その先の事を頭によぎった事だって正直ある。だけど、どこまで?と聞かれて何と答えたら良いか。




「嫌ならしない。だけどオレは櫻井さんとそういう事をしたいって思ってる」




体に触れながら言うのは反則。もしかしたら彼の手の内にまんまとやられているのではないかとすら思う。鎖骨を吸われ腰を抱かれる相手からのこの問いに拒否をする事のできる人間がいるなら会ってみたい。




「……俺だって考えないわけじゃねーよ」




体に触れられているからと言うのは言い訳になるのかな。今みたいに触れられれば嘘みたいに体は熱を持ちこの男の事が欲しくなる。唇を重ね舌を絡めれば、もっともっとと強請りたくなる。




「ホントに?」




この甘い声が自分だけのものなら良いのにと心の底から思う。




「……ん。まぁ」



「……やば、超嬉しい」




鎖骨を吸う事をやめ、俺の胸に顔を埋める相葉の事をめちゃくちゃ愛おしいと思うのは




「好きだよ」




相葉の事がちゃんと好きだから。1週間、ものすごく考えて出した相葉への返事が自分にとっても決して間違えではなく、心からこの男と一緒にいたいと思うから。




「泣きそう、オレ」




胸元で、聞こえるギリギリの声でそう言った相葉が顔を上げ俺を見た時の目もそのまましてきたキスもものすごく甘くて




「このままやっちゃう?」




どうしても今、この男の事が欲しくなった。