相葉が熱を出してから今日で丸1週間。それしか経っていないのに随分と進展があったと思う。告白の返事をしてから勢いで共に生活を送ることになり、ついには自分の家にまで誘ってしまった。
そして俺の家を相葉は気に入ったらしい。理由を聞けば自分の家だと俺のガードが緩いからだと答えた。
「こら……」
今朝も俺の体に痕を付けようとする相葉の体を押し返そうとはするけれど本気で嫌な訳では無いから弱い。相葉が言うように多分そうなんだ。ガードはゆるゆるで俺を抱きしめる相葉の腕の中の居心地の良さは日に日に増す。
「やだ。やめない」
俺の抵抗する力が少ないことを相葉は分かっていて、だからTシャツの中に頭を入れてくるんだと思う。少しだけ擽ったい相葉の髪はサラサラで気持ちが良くて、だから思わず抱き締め返してしまう俺はやっぱり緩い。
「全く……お前は」
「ふふ、櫻井さんの肌超気持ちいい」
「その発言、微妙じゃね?」
「微妙?なんで?」
「だって何か、エロい」
そう言った俺に「嬉しい」と相葉が言うから、「意味わかんねぇよ」と返せば
「だって、超エロい体してるし、櫻井さん」
と、頭をまだシャツに突っ込んだまま吸われる肌にはまた新しく痕が付いた。
「見た?」
「見た見た」
「やっぱりそういう事?」
「そりゃそうでしょ。だって……ねぇ?」
酷く注目されている自覚はある。特に若い女の子達から。そしてその理由も分かっているつもりでいる。だってそりゃそうだ、首筋に絆創膏が貼っていれば目立つ。
「でも櫻井さんに限ってそれは無くない?あんなに真面目で潔癖そうなのに」
「わかるわかる。キスマークを付けられる程緩くない気もするよね。だって櫻井さんだし」
そんな女の子達の会話に思わず頷きそうになる。そう、今迄の俺なら体に痕を残させたりはしなかった。最低でも見えるところには絶対。
「でもショック。櫻井さんがそういう事を許す女がいるってことでしょ」
「それそれ。そーゆー事してるってだけでもショックなのに、首にキスマーク付けさせるとか」
ほんとにショック!!
と、その女の子たちが口を揃えて言うからおかしくなる。自分の事を言われているし、しかも内容も内容だ。そもそもで首筋に絆創膏を貼った自分が悪いことは重々承知で、だけど後悔を全くしていない自分にも驚いている。
「でも、ほんとに虫刺されとかだったりして」
「えぇ、違うでしょ。絶対キスマークだって。虫刺されで絆創膏わざわざ貼る?首筋に?逆に目立つって」
今迄の自分なら、こんな内容の噂の的になる事は御免だった。例えばそれが事実だったとしても不快に思っていた。若い頃の話だけど、女と腕を組んで歩いていたとか、その女が可愛いだの可愛くないだのと聞こえてきた声にそんなことはどうでもいいだろうと本気で思っていたのに。
「どんな人だと思う?」
「えーー、どうだろ。うーん、想像出来ない。でも綺麗系じゃない?スタイル抜群で顔も良くて」
「あー、わかるわかる!」
「しー!!声!大きいから!」
既に丸聞こえだから。なんて思うけど、全く嫌な気がしない。むしろ正解だよ、と教えたいくらいだ。嫌どころかその女たちが俺の相手として相葉に行き着くことはあるんだろうかと楽しくすらなってすらくる。
「あ……」
散々人の噂をしておきながら急に何かを見つけたかのように彼女たちが息を飲むがわかったのは、それくらいに自分が彼女たちの言葉をかなり集中して聞いていたから。噂をされた事が気になるのかと思っていたけれど、相手が相葉だと何となく面白く感じた。
「櫻井さん、いますか?」
全くタイミングが良い。彼女たちが息を飲んだのは相葉が来たかららしい。どう見てもテンションが上がって見えるという事は、そういう事。相葉はモテる。
「あ、いたいた」
で、誰も気づいてはないだろうけど俺の相手はこいつ。彼女たちが俺の彼女象を想像した通りに、相葉はスタイル抜群で顔も良い。付け加えるなら性格も言うことなし。俺の首筋どころか体中に痕をつけたのはこの男なんだと言ったらここにいる人達はどんな顔をするんだろう。
「どうした?」
「あのね、この件なんだけど」
「あぁ、コレね」
「ん。多分これで合ってると思うんだけど」
言葉遣いが今迄と少し違う。丁寧ではあるけれどフランクさは隠しきれていない。それくらい俺たちの距離は近くなっている。それを周りが気づくのかは別として。
「そのまま進めちゃって大丈夫」
「ほんと?良かった」
相葉が油断してると思ったのは物理的に俺たちの距離が近いと感じたから。肩が触れ合う事ぐらいは許容範囲と言ってもいい。だから今更焦ったりはしない。だけどこのままだと腰でも抱いてくるのではないかと思うと。
「あー、そういうことだからよろしく」
多分気の所為だけではない。だからこちらから離れないと危ないだろう。ただでさえ今日の俺は注目度が高いわけだから相葉が少しでも下手なことをすれば簡単に煙が立つ。それはやばいと、そう思って警戒のために強制的に話を終わらせようとしたんだけど。
「あ、そうだ。今日はどうする?夕飯、何食べたい?」
その一言は、さっきまで一応静かに話していたつもりのだったであろう女の子たちの声のボリュームを一気に上げた。