『好きだよ』という言葉が自分でも信じられない程に自然に出た。言って欲しいとせがまれて言うことは過去にはあったけど、自分から想いを伝えたいと思ったのは初めてだった。
その感情の先に体の関係があって当然だと思う。好きな者同士が一緒にいてそうなることは極自然。そしてそれは俺たちだって例外ではない。
「朝まで寝かせてあげられないかもしれないけど、いい?」
『やっちゃう?』とあえて軽めに言った俺に、相葉がそう言った時にふたりで見た時刻は日を跨いでいて
「オッケ」
お試しの1週間の最後の日になっていた。
性欲と言う意味だけではなく、相手の体をこれ程までに欲しいと思った事も初めてだった。
「櫻井さん、好きです」
何度も何度も好きという言葉を繰り返し言い、その度にキスをする。段々と深くなるキスは口端からお互いの混ざった唾液が零れ、離れる瞬間には糸を引いた。
「好きすぎてやばいのわかる?」
その言葉だけでイケるんじゃないかと本気で思った。それくらいに甘い声が何度も何度も耳を擽り体を熱くする。
「俺も好きだよ」
これから俺たちが抱き合い体を繋げるという事はとても自然な事で何の問題もない。今までの経験と違うのは相手が男だと言うことと、おそらくだけど自分が抱かれる立場にあるんだと言うことだけ。
「めちゃくちゃ幸せすぎるよね、オレ」
甘すぎる声を彼の聞いた俺は、告白された2週間前には想像すらしたことのなかった同性同士の行為に何の疑問も持たなくなっていた。
「肌もやばいよね。すげぇ綺麗」
痕を付ける時にだって散々触れているのに何を今更。それにしても俺に触れる相葉の手が気持ちいい。相葉が言う様に自分の肌が綺麗なのかどうなのかは分からないけれど、滑るように触ってくる相葉の手の方が綺麗だと思った。
「……あのさ」
その綺麗すぎる相葉の手が俺のもっと深いところに触れるのはきっとすぐ。その時が近いんだと思うと興奮するのは、自分自身もうその気になっているから。
「んー?」
なんだけど、ただただ甘く出来なくてごめん。やる前にどうしても確認せずにはいられない俺はきっと理性ってやつがまだ幅を利かせている。
「こんな時に申し訳ないんだけど」
「なに?」
「やり方分かってんの?」
正直俺は詳しくは知らない。いや、なんつーの?どこに何を突っ込むとかそーゆー事は分かってる。人並みには多分大丈夫。だからと言ってもしかしたら自分がそっちの立場になるのかもしれないと考えたのはほんの数分前。相葉と付き合う事を決めてから今日まで、そんな関係になっても良いなとは思ってはいたけれど俺がどっち側とかまでは考えていなかった。
「だいたい?」
男同士のそれを積極的に調べたりとかもしていない。本来ならリサーチ案件なのに。言い訳をするならばそんな時間は俺には1秒も無かった。だってこの1週間、仕事以外の時間の全てを相葉と一緒にいたわけだから。
「だいたい……?」
「うん、だいたい」
「まじか。……あー、あのさ、一応聞くけど……俺ってどっち側?」
何となくだけど分かってる。相葉は俺を抱くつもりでいるんだと思う。キスをする時は抱きしめられ体中に痕を付けられる時の相葉のオス感だって正直言ってやばい。相葉を見て、彼が抱かれる側とは全く思えないあたり自分でも自分の立場を理解しているつもりではあるけれど、それでも一応と思って聞いてみただけだったのに。
「櫻井さん」
「ん?」
「オレに……オレに抱かれてくれませんか?」
あー、ダメじゃん。断るという選択肢が無くなる言い方するなよ。もし、彼の誘い方が強引だったならば今日のところは断るといった選択肢があったかもしれないのに。覚悟決まるまで待って欲しいと。
だけど相葉にそう言われて断るという選択肢は秒で消えた。全くもって微塵も。数秒前まであった少しの恐怖心も簡単にどこかへ行ってしまった。
「抱かれんのは良いけど、優しくしろよ」
だけど笑えるくらいにベタな言葉が馬鹿みたいに自然と出た。酸いも甘いも知らない若い女の子だけが似合う言葉をいい歳をした男が言うなんて傍から見ればもしかしたら醜いと思われるかもしれないのに。
「約束する」
だけど少しだけ調子に乗ってもいい?と、少しも笑わずに相葉は言った。俺の言葉にベタ過ぎるとバカにすることも、そんなセリフ気持ち悪いと言うことも無く。それどころか泣くのを我慢しているかのような顔をして、俺の事を苦しいくらいに強く抱きしめた。
「おはようございます」
「あぁ、おはよ」
一睡もしていないのに頭は妙に晴れ冴えている。体だって本当はかなり酷い。疲れていると言う表現が正しい訳ではなく、そうだな、酷使したというのが合っている気がする。
「ちょっと!見た?」
「見たっ!見た見た見た!って、え?なんで増えてんの?だって昨日は」
「しーー!!声大きいって!」
覚悟の上というか想定内というか。増えた絆創膏がまた噂になるだろうとは思っていたけどそれにしても速攻だったなと可笑しくなる。さらに彼女達の会話の「だって昨日は」の続きが安易に想像出来てしまう俺は、噂になる事を最早諦めている。
「おはようございます、櫻井さんいますか?」
だからタイミングが良すぎるんだよ、全く。聞こえたその声に彼女達がざわめくのは「だって昨日は」の続きが「相葉さんが櫻井さんのご飯作るって言ってなかった?」という内容だからだと断定できる。その後で俺が女と会う可能性が無いわけじゃない事も分かっていると思うけど彼女たちの頭の中はもう一択なんだろう。
「どうした?」
「これ、見てもらっていい?」
相葉から手渡された書類に彼女たちの視線を無視して目を通せば怖いくらい自然に腰を抱いてくるからさすがに制する。いくらなんでもここでは、と思っっても時すでに遅し、ってやつでしかないのが分かっていても。
「ぎゃーーー!!!」
少し離れたところから彼女達の悲鳴にも似た声が響き渡る。何事かと何も知らない男性社員までもが彼女達の視線の先にいる俺たちを見る。その事の大きさにさすがにやばいと思ったのに。
「だから、絆創膏はダメだって。あ、それともバレたかった?」
小声だから周りに聞こえないと思ったら大間違い。昨日からの俺の注目度をナメたらいけない。
「ふざけんな、お前のせいだろ」
「ふふ、オレなの?」
そんな会話を彼女たちが放っておくとは思えない。例えば自分達的には小声だとしても、どうしたって見られているし聞かれているのが分かっているのに俺も。
「付けるなら見えないところにしろ。あと、やり過ぎなんだよ、お前は。サルか。腰超いてぇわ」
俺たちがそういう関係なんだと言うこと以外他に考えようの無いギリギリのワードを出したのはわざと。
「ぎゃぁぁぁぁーーー!!!!聞いた?聞いた??ちょっとあのふたり!!!」
また聞こえてくる女子達の叫び声に満足した俺は、だけどそのまま何も無かったかのように
「とりあえずあの約束は今日までだけど、明日からの1週間はどうする?一緒に住む?……なんてな」
次の1週間の提案を言うべく、相葉の耳元に唇を近付けた。
続『1週間』
終わり